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なぜ上司は部下の仕事を妨害するのか? – その個人的、組織的、社会的要因

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2026年7月26日
  • 読むのにかかる時間:10 mins read

皆さんには上司が自分の仕事を邪魔してきた経験はありませんか?多くの人にその経験があるでしょう。上司の管理者としての単なる能力不足によることもあります。自尊心が脅かされることへの恐れを解消するための心理的動機によることもあります。しかし、そこには組織的、社会的要因が深く絡み合っています。

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はじめに

皆さんには、上司が自分の仕事を邪魔してきた経験はありませんか?

おそらくその経験がない人がいないほど、たくさんの会社員が上司から何らかの妨害を受けた経験があるでしょう。

でも変ですよね?マネージャーは会社の業績を伸ばすために高い報酬を得てそのポジションについているはずです。なぜ、業績を伸ばすどころか、それに反することを行うのでしょうか?

上司が部下の仕事を妨害する行動の背景にはさまざまな要因があります。もちろん、上司の個人的資質や能力不足に関わるものもあります。マイクロマネジメントが妨害行為のように感じられることもあるでしょう。しかし、根本的な問題は組織や社会に起因しています。

今回は、上司が部下の仕事を邪魔する個人的要因、組織的要因、社会的要因に迫っていきます。

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上司が部下の仕事を妨害する

ハーバード大学イノベーション科学研究所(LISH)の研究員であるハシム・ザマンと、LISHの創設者兼共同所長でハーバード・ビジネス・スクール経営学教授のカリム・R・ラカニによる研究『トップダウンによるサボタージュ(妨害行為)の決定要因』があります。(1)

この研究でおこなった様々な業界や規模の企業の幹部335名を対象とした調査で、管理職による妨害行為が蔓延しているという現実が浮き彫りになりました。

本調査によると、経営幹部の70%以上がキャリアの中でそのような妨害行為を目撃しており、約3分の1が社内で直接妨害行為を目撃しています。
さらに、60%がキャリアの中で妨害行為の影響を受けた経験があると回答し、約28%が今働いている組織内で被害者になったと回答しています。

一方で、職場での部下への妨害行為を後悔していると認めた上級管理職はわずか5%でした。

ザマンとラカニは、さらに、従業員の成績を相対的に比較して報酬や昇進の決定に利用する「相対的業績評価」を採用している企業における、トップダウンによる妨害行為について調査しました。

その結果、部下に対する評価プロセスで主観的な裁量権を持つほど、トップダウンによる妨害行為が増加することが分かりました。従業員評価や昇進判定において、管理者が主観的な裁量権を持たない企業では妨害行為が27%だった一方で、管理者の裁量が大きい企業での妨害行為は47%にも上ったのです。

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妨害行為の個人的な要因

この問題の原因が部下だけにあることはほとんどありません。さまざまな要因がありますが、まず、管理職の個人的な要因にフォーカスしていくつか説明しましょう。

1. 不安、脅威

ザマンとラカニの研究は、管理職による部下への妨害行為の根本原因を、管理者が感じる「恐怖」と特定しています。

なぜ管理者は「恐怖」を感じるのでしょうか?

それは、特に階層的な組織において、有能な部下は、管理者の地位や自尊心を脅かす存在だからです。

会社は競争を原則とした階層組織です。そのピラミッドの階段を上り詰めるには、傲慢さやエゴを持ち合わせ、支配欲、自己顕示欲にかられている必要があります。

トップに上り詰めた人間の多くが望むのは、その地位にできるだけ長く君臨することであり、反対に恐れるのは、優秀な部下が自分の支配を脅かすことです。

部下が成績を上げることを、快く思わない上司は少なくありません。自分より優れた専門性や洞察を発揮されるのは癪に障る上に、会社の中で築き上げてきた自分の立場を危うくします。組織の頂点に立つ経営者や上級管理職は、特に以下のような従業員に脅威を感じます。

  • 他の従業員から信頼を得ている従業員
  • 自律的に考え、仕事を先回りする従業員
  • グループをまとめ、部下の成長を助ける従業員
  • 本気で会社を変えるポテンシャルがある従業員
  • 社会意識や貢献意欲が高い従業員

なぜならば、次のような心理反応を引き起こすからです。

  • 自分の地位が奪われることへの恐れ
  • 他者からの信頼や、社会的意識がない自分への罰の悪さ

そのため、上司は自らの権威を悪用し、部下の成長や成功を阻害しようとします。具体的には、情報を与えない、信用失墜工作をする、仕事を取り上げる、手柄を横取りする、責任を転嫁する、忠誠心を強要するなどです。

例え、大企業の社長であっても、会社の長期的将来を真剣に考える経営者や上級管理職は稀です。むしろ、多くは、自己防衛と自己満足を優先します。

多くの経営者や上級管理職にとって、会社での地位が人生のほとんどすべてです。会社の地位が個人のアイデンティティと直結しているだけでなく、それが唯一の存在価値になっています。会社の外に、自分らしさを発揮できる場所がないため、何としてでもそれを守りたいのです。

会社での地位を脅かされることは、彼らにとって、アイデンティティ喪失の脅威そのものなのです。

2. 自己愛、支配欲

多くの経営者や上級管理職は、社会の役に立つ人間になることよりも、人よりも優位に立つこと、支配を手に入れることに喜びを感じます。彼らにとって、従業員は会社の目的を達成するための同志や協力者ではなく、自尊心を満たすための道具です。

部下が活躍しすぎると、自尊心が傷つけられるため、部下を妨害しようとします。その一例として、自分の中にある直視できない欠点を相手に転嫁しようとします。これは、心的学的には「投影」と呼ばれる自己防衛機制です。具体的には、次のような投影を行うことがあります。

自身の無能さを認めることができず、逆に「お前は頼りにならない」と部下を責める。
自身の不誠実さを認めることができず、逆に「お前は信用できない」と部下を批判する。
自身の失敗を部下を身代わりにして転嫁し、内面的な恥の感情を和らげようとする。

みなさんもよく思い起こしてみてください。このように、現実を歪める理不尽な上司に心当たりはありませんか?

3. コントロールの喪失

多くの経営者は権威主義的です。リーダーシップを従業員を先導することではなく、従業員を上からコントロールすることだと勘違いしています。

従業員の主体性や自律性や創造性は、コントロールを乱すものとみなされます。部下が、許可なく自主的に仕事をしたり、決定に疑問を呈したり、革新的なアイデアを提案したり、上下関係を無視した意見を述べることを不服従とみなします。

部下が危機感を呈しても、「そんなことは今まで起きたことがない」「過剰に反応するのはやめなさい」「足並みを乱す行動は許されないぞ」などと言って、統制を乱す行為として非難します。これは、自身の立場を死守しようとする、管理者の確証バイアスでもあります。

そこに、真のリーダーシップはありません。健全な管理者は、他者を育成することで地位を高めることができますが、不健全な管理者は、他者を抑制することで身の安全を確保しようとします。

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妨害行為の組織的要因

このような個人的問題の根本には、組織的な要因があります。

本来、部下を妨害する上司は、会社にとって有害なはずです。組織は、優秀な人材を除外するような上司の行為を厳しく罰しなければなりません。

しかし、組織はそのような上司を処罰しません。

なぜならば、その他多くの経営トップが、同じ様に権力やエゴに支配されていて、同じ目的を共有するグループを形成しているからです。個人的な問題が、組織の中で解消されないだけでなく、そのような従業員の方がむしろ、同じような上司に評価され、昇格していくのです。

マネジャーは、自分と似たタイプの人材を登用します。そうして登用された部下がやがて上級管理職になります。彼らは、上司と同様の行動を取ります。そして、このサイクルが繰り返されます。この連鎖を断ち切らない限り、システム全体が変わることはありません。

個人のインセンティブと組織の本来的な利益は、必ずしも一致しません。
社会が企業に求めるのは次のような長期的な成果です。

  • 優秀な人材の維持・定着
  • 知識の共有
  • イノベーションの創出
  • 信頼関係の構築

一方、実際に求められるスキルは、次のような場合があります。

  • 不可欠な存在であると見せかけること
  • 部下に追い越されないようにすること
  • 政治的な権力を維持すること
  • 短期的な目標を達成すること
  • よくやっていると印象付けること

そのため、組織は時に次のような行動をとる人物を登用したり、昇進させることがあります。

  • 他者の仕事を自分の手柄にする
  • 印象操作(自己演出)に長けている
  • 政治的な同盟関係を築く
  • ライバルを排除・抑圧する
  • 過ちを認めない

会社が本来果たすべき社会的目的を真摯に実現しようとする従業員は、通常、組織の階段を上り詰めることはできません。なぜならば、このような資質を持ち合わせていないからです。

これは「プリンシパル=エージェント問題(Principal–agent problem」と呼ばれます。組織(プリンシパル=委任者)の利益と、個人(エージェント=代理人)の利益は完全には一致しないという問題です。

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妨害行為の社会的要因

上司の妨害行為は、組織単体の問題だけでなく、社会全体の問題でもあります。

企業の文化は、企業単体で独立して存在するものではありません。多くの企業が同じような組織文化を共有しています。なぜなら、同じ社会に属していて、価値観を共有しているからです。

もし、社会全体が次のような価値観を共有しているとしたら、その社会に属する組織もまた、自然とそうした価値観を身に付けます。

  • 自由よりも序列重視
  • 真実よりも同調性重視
  • 能力よりも役職重視
  • 問題解決よりも対立回避重視

もちろん、すべての企業が社会の文化を等しく反映しているわけではありません。同じ国にあっても、リーダーシップ、ガバナンス、インセンティブの違いによって、企業文化が社会全般と大きく異なる企業も存在します。

しかし、文化を変えるのは容易ではありません。文化とは、自己強化的なシステムだからです。

たとえ組織に属する大多数の人がその企業文化を好んでいなくても、企業文化を変えることはできません。集団思考同調主義がそうした変化を抑制するからであり、自分だけがグループから逸脱した行為を取ることを恐れるからです。管理職も含めて従業員は順応することを選択するのです。

エドガー・シャイン(Edgar Schein)のような組織行動に関する研究者は、文化は根本的な前提と報酬制度が変わったときにのみ変化すると主張しました。

例え、リーダーが従業員に異なる行動をとるように指示したとしても、口先だけでは何も変化しないのです。何人かを入れ替えるだけでも不十分で、広範なシステムを根こそぎ変える必要があります。

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さいごに ― 妨害行為から自分を守る方法

組織を変えることは容易ではありません。なぜなら、社会全体が変わらないと多くの組織は変わらないからです。私たちは、その中で、自分ができることをするしかありません。自分ができることにフォーカスするのです。

もし、あなたが上司から妨害を受けている場合は、心理的に身を守るために、相手による被害を最小限に抑えつつ、自分自身の現実認識、自己価値感、そして主体性を保つことに注力しましょう。これは相手に「勝つ」ことではなく、自分自身を健全に保つためのものです。

さいごに、そのための実践的なフレームワークをいくつか提示して、今回は失礼します。

1. 上司の妨害を真に受け止めない

ここまで述べたように、上司の妨害行為の多くは、あなたの能力不足ではなく、上司自身の問題、動機、不安、あるいは組織内での政治的な思惑や社会的な背景によって引き起こされるものです。このことを明確に認識しておくことは、自分を守る上で大切です。

「なぜこんなことが私に起きるのか?」ではなく、「上司の行動は、組織の文化の何を物語っているのだろう?」と問うのです。相手の言動はあなたの価値を示すものではなく、相手自身の心理状態を反映したものです。

健全な上司は、あなたの成長を望んでいます。妨害を行う上司は、あなたに「小さく」なること、「問題」になることを求めます。

そのような上司は、しばしば、部下の感情的な反応や、自己防衛的な態度、過剰な弁明や説明を糧にします。上司の「燃料」となる感情的な反応を与えてはいけません。感情的な話題を、業務上の具体的なタスクに関する話へと切り替えましょう。

2. 「自分」と「会社」を切り離す

自分という存在を、会社に強く結び付けてはいけません。

妨害行為を受けると、単なる業務上の指摘ではなく、自分という人間に対する攻撃や人格否定と捉えてしまいがちです。上司は組織の中ではあなたに対する力を持っていますが、それだけです。

上司は独特な文化を持つ会社の中でのあなたを評価しているだけで、それがあなたの人間としての価値を決定づけるわけではありません。

以前、本サイトで「デタッチメント(Detachment)」という考え方を紹介しました。 感情的に相手から距離を置き、巻き込まれないようにするのです。

3. 客観的な証拠を記録しておく

階層組織においては、事実のすり替えやガスライティング(Gaslightingがよく起こります。ガスライティングとは、巧妙に、相手に誤った情報を信じ込ませたりして「自分の記憶や判断がおかしいのではないか」と思わせる心理的操作です。

妨害行為を繰り返す上司の言動は辻褄が合っていません。ある時はこう言い、別の時はまったく違うことを言います。メールのやり取りや、指示事項を記録しておきましょう。明確な証拠があるという事実は、不安を和らげることにもつながります。

4. 上司以外との関係を築く

もし仕事だけがアイデンティティの拠り所だと、職場での問題が与える精神的なダメージは大きくなります。一人の上司に全面的に依存していると、その問題の深刻さは尚更です。

同僚や他部署の人、社外の専門家など、さまざまな人たちとの信頼関係を築きましょう。さらには、組織内だけではなく、会社から離れたネットワークに参加してみましょう。こうすることで、自分に対する評価の源泉を複数持つことができます。

家族、友人関係、学び、運動クラブ、ボランティア、趣味など、複数の要素を人生の意義として持ちましょう。

ソーシャルネットワークに関する研究でも、さまざまな人間関係を持つことが、レジリエンス(困難に立ち向かう力)を高めることが一貫して示されています。

5. コントロールできないものを認識する

自分のコントロール下にあるものに集中しましょう。社会文化、組織文化、政治的な駆け引きを変えることはできません。コントロールできないものをコントロールしようとしても、精神的に疲弊するだけです。

「この上司、信じられないんだけど。おもろ。」位の余裕を持てるために、気持ちを半分くらい会社や上司から切り離しましょう。そして、自分がコントロールできるものにフォーカスしましょう。例えば、自分の能力の向上、仕事をしっかり行うこと、常に誠実でいること、などです。

6. 批判や愚痴で終わらないようにする

ストレス発散は大事です。しかし、愚痴に終始することはよくありません。
愚痴ばかり言っているということは、「自分」と「会社」が依然として強く結びついているということです。先ほども述べたように、部署や会社以外のさまざまな関係を保つなどして、少しづつ「自分」と「会社」の距離を広げていきましょう。特に日本人は、いまだに会社と個人を重ね合わせすぎです

「自分」と「会社」を切り離していくのと並行して、自分がコントロールできるものにフォーカスしていくのです。

7. 離れるべき時を見極める

これは往々にして、最も難しい教訓です。

私は安易な転職はお勧めしません。自分の能力をもっと生かしたい、より大きなインパクトを持って社会に貢献したい、という動機での転職は意味があると思います。しかし、上司への不満、会社への不満など、不満が動機のほとんどを占める場合、転職しても同じことが繰り返される可能性が高いからです。

先ほど述べたように、同じ社会の中には、同じような文化を持つ会社が数多く存在します。また、部下は上司を選べません。例え、転職先の上司と馬が合ったとしても、その後の上司がどのような人になるかを決めることはできません。「上司と合わないから」は常に転職理由の上位を占めますが、では次の上司が嫌ならまた会社を辞めるのでしょうか?

どのような上司でも、自分を貫くことができるようにするのが理想です。しかし、そうは言っても、執拗な妨害行為がある、人事もサポートしてくれない、優秀な人材が次々と辞めていくなど、そこにいることの心身への影響や弊害が明らかであれば、そのような有害な環境から自分を切り離していかなければなりません。

それは、自身の心身の健康を守り、職業人として成長し続けるための合理的な判断です。そこに留まることは「選択」であり、逃れられない「運命」ではありません。迷っているのであれば、「必要なら、いつでも辞められる」と思えるようになるまで準備を進めておくことです。

自分の人生を傷つけてまで居続けるべき会社など存在しません。

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参考文献
(1) Zaman, Hashim and Lakhani, Karim R., “Determinants of Top-Down Sabotage“, Harvard Business School Technology & Operations Mgt. Unit Working Paper No. 25-007, Harvard Business School Working Paper No. 25-007, 2024/12/23.

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