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個人や組織が不安や脅威から身を守る防衛機制:Defense mechanism

  • 投稿カテゴリー:Change Management
  • 投稿の最終変更日:2022年9月6日
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防衛機制は、自分では対処できない問題への脅威や、未知なるものへの不安など、受け入れがたい思いや感情から身を守るための心理操作です。防衛機制は、個人が心理的脅威から身を守ろうとする際にも見られますし、組織が外的環境の変化に抵抗する際にも見られます。

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はじめに

以前、本サイトで、なぜ個人と組織は自己防御するのか(defensive behavior)、「個人編」と「組織編」を紹介しました。多くの場合、その自己防御には心理的なメカニズムが作用しています。今回は、どのような心理が働いて個人や組織が自己防御するのか、その防御のメカニズムに焦点をあてて紹介していきます。

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防衛機制(Defence mechanisms:ディフェンス・メカニズム)

防衛機制(Defence mechanisms:ディフェンス・メカニズム)とは、自分では対処できない問題への脅威や心配、未知なるものへの不安など、受け入れがたい思いや感情など心理的脅威から身を守るために、現実を否定したり歪曲する心理操作です。私たちは、時に意識的に、多くの場合は無意識に、場面に応じて様々な防衛機制を使い分けます。そしてその結果は、健全なものにも不健全なものにもなります。

防衛機制そのものは本来悪いものではありません。防衛機制によって、人はつらい経験を乗り越えたり、エネルギーの消耗を避け、より効率的・生産的に使うことができます。不快な感情を避け、有害な影響を回避する手助けをしてくれます。防衛機制によって、私たちは、少なくとも短期的には良い状態を保つことができます。

しかし、その場ではうまく機能して、その瞬間は安全だと感じても、長い目で見ると対応が不健全だったり問題の先送りだったりして、後になって大きな問題を引き起こすことがあります。多くの場合、防衛機制は、自信やスキルを育むのではなく、偽りの安心感を生むだけだからです。その機能を繰り返し使って長く問題の本質から避けていると、次第に動けなくなっていき、問題に対峙することも、成長することもできなくなります。また、過度な防衛機制によって、恐怖症、強迫観念、ヒステリーなどの神経症が発症するさえあります。

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フロイト親子

防衛機制は、精神分析学の創始者として有名なジークムント・フロイト(Sigmund Freud)が概念を導入し、娘のアンナ・フロイト(Anna Freud)がさらに発展させました。彼女は、防衛機制に関する最初の著書である『The Ego and the Mechanisms of Defence(自我と防衛のメカニズム)』(1936年)の中で、父であるジークムント・フロイトの著作に登場する10の防衛機制を紹介しました。アンナ・フロイトはその後も研究を重ね、また、その他の研究者たちも、様々な防衛機制を追加したり、防御機制の分類化をおこなってきました。

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様々な防衛のメカニズム(1)(2)(3)

防衛機制に置き換わる健全な代替手段を学ぶにはどうすればよいのでしょうか?
まずは、様々な防衛のメカニズムを知ることです。多くの場合、防衛機制は自分が気が付かないうちに発動しています。そのメカニズムを知ることは、あなたやあなたが属する組織が日常的に使っているかもしれない防衛機制に気付くのを助け、自滅的な習慣を断ち切るための第一歩となります。

以下、様々な防衛機制の中からいくつか分かりやすいものをピックアップして見ていきましょう。

1.否定する、歪める(Deny, Distortion)

私たちは現実を現実として受け入れられないことがあります。起こったことを起きていないと否定したり、起こった事実を歪めて受けとめたりします。
自分に都合が悪いことが起きると「それは間違っている」とか「そんなの嘘だ!」とか「過剰に反応し過ぎだ」とか「今回たまたま悪い結果になっただけだ」など根拠のない否定をしたり、事実を歪曲することがあります。事実を事実として受け入れる心の準備ができておらず、問題を無いことにしたり、実際より小さくして見ることで安心感を得ようとするのですが、それによって、問題そのものが改善したり解決されることはありません。
個人レベルでは、健康へのたばこの影響を否定したり軽視する喫煙者がその一例となります。組織レベルでは、今年赤字になったのは「会計の仕組みが変わったためだ」とか「大きな事故がたまたま起きたから」とか「他社もそんなに利益を伸ばしていない」などと事実を歪めたり、過小評価したりします。

2.目をそらす、気をそらす(Distraction)

私たちは、自分を苦しめるものから気をそらし、ストレスの少ないものへと意識を移します。
例えば、嫌なことがあったときに、バラエティー番組を見て笑って気を紛らわしたり、お酒を飲んだり甘いものを食べて悩みの種から解放されようとします。厳しい外部環境の変化から目をそらし、本来すべきことを避け、社内で取るに足らない仕事を作り上げてそれに忙しく従事する内向きな組織などもその例です。
ネガティブに捉えると「現実逃避」に通じますが、一方で、貧困国や紛争の絶えない地域では、自分では如何ともしがたい生活の苦しみを笑って吹き飛ばすなどポジティブな側面もあります(反動形成と言います)。

3.抑圧する(Repression)

ある種の記憶は、トラウマとなって私たちに不安や悲しみや苦痛を引き起こすため、無意識のうちにその記憶を心の奥底に押し込めてしまうことがあります。ネガティブな感情に蓋をすることで、心の平静さを守り、通常通り機能できるようにするのです。幼少期に虐待された思い出や、戦時中のおぞましい体験を抑圧するなど、特に過去につらい体験に苦しめられた場合によく見られます。

ある意味、この「抑圧する(Repression)」は、先ほどの「目をそらす、気をそらす(Distraction)」と同じと捉えることができますが、抑圧は短期的な効果はあるものの、最終的にその体験に向き合って対処しなければ、後々心身に深い影響を及ぼす可能性があります。また、抑圧を頻繁に繰り返すと、恐れの感情やストレスが高まり、その結果、記憶力が落ちたり、人との関係の構築を阻害することが報告されています。

4.行動に表す(Acting out)

今紹介した「抑圧(Repression)」が問題行動として表出することです。具体的には性的逸脱行動、自傷行為、暴言、暴力、過食、拒食、浪費、万引き、薬物依存、アルコール依存などが挙げられます。

5.転嫁する(Displacement)

転嫁とは、自分の問題や責任、フラストレーションを、直接それとは関係のない人に振り向けることです。自分の感情と向き合うことを避け、それを他人に振り向けて自分の身を守ります。簡単に言うと「八つ当たり」です。
自分より弱い立場の人や、自分に無害な人がその転嫁先になりやすく、そのようなターゲットを見つけて感情の捌け口に使い、感情をその人に移して、自分自身は気持ちをすっきりさせるのです。なお、自分より力が大きい人や危険な人物をターゲットにすることはありません。
けんかで負けたこどもが、そのけんか相手ではなく自分より年下の子供相手に負けたうっぷんを晴らすことや、株主や顧客、世間からプレッシャーを受けた経営者が、従業員をストレスのはけ口として使うことなどが例に挙げられます。

ただし、大切な相手に対して転嫁を繰り返すと、フラストレーションを転嫁された相手の人は、次第にあなたを避けるようになるでしょう。仕事がうまくいかないストレスを家庭に持ち帰って妻や子供にぶつけ続けると、家族から避けられるようになって家族関係は冷えあがっていきます。組織でも同様で、従業員に責任転嫁し続けることで経営者は従業員に避けられるようになり、従業員としてはお茶を濁して給与をもらうだけの雇用関係が強化されていきます。

6.投影する(Projection)

この対処法では、自分の問題を他の人に移し、その人を自分の悪い部分や失敗を映す鏡のように扱います。自分の欠点を他人に投影して、他人を責めるのです。「逆ギレ」はその一例でしょうか?例えば、ある状況に対して不合理に怒ってしまったことに対して、「俺を刺激したお前が悪い」などと非難します。また、自分の不倫を追求された夫が、罪悪感に直面する代わりに、妻の浮気を非難することもあります。会社の舵取りができない経営者が、自分の能力不足を棚上げして、従業員に能力不足を投影することもその一例でしょう。

投影は、不快な感情を取り除くためによく見られる対処法です。相手は否定的なことは何も言っていないし、何もしていないのですが、自分のネガティブな感情を相手に「投影」してしまうのです。罪のない私たちは、怖いお兄さんから「コラ!何見てるんだよ」と凄まれてしまうことさえあるのです。

「投影(Projection)」は、先ほど紹介した「転嫁(Displacement)」と似ていますが、投影が他人の動機を作為的に解釈することである一方、転嫁は自分の心理的反応を他人に帰着させることです。つまり、投影は、罪悪感や恥ずかしさ、後悔の念を避けるために、自分自身の受け入れがたい考えや感情、行動を他人に移すことで、転嫁は、ある行動の責任を、リスクの高い対象からよりリスクの低い対象に移すことです(4)

図:投影(Projection)イメージ図

7.正当化する(Rationalization)

人によって、好ましくない結果を自分なりの「事実」で説明しようとすることがあります。人は自分を正当化することによって、自分の選択に納得することができるのです。たとえば、職場で昇進されなかった人が「昇進なんて興味がないよ」と言うかもしれませんし、ある大学の入試で不合格だった学生が「本命じゃないから」と言うかもしれません。最初に紹介した事実の「歪曲(Distortion)」にも通じますね。正当化は一般的なエゴの防衛機制です。「正当化」=「言い訳」ですね。

ほとんどの場合、自分の行動を正当化することが自分に役立つことはないでしょう。それどころか、自分の過ちを認めることができない人は、自らの成長させることができません。
以前本サイトで、人には「Growth mindset(グロース・マインドセット)」を持つ人と、「Fixed mindset(フィックス・マインドセット)」を持つ人の、2種類の人がいるという、アメリカの心理学者キャロル・ドウェック(Dr Carol S. Dweck)の著書「マインドセット(mindset)」を紹介しました。「Fixed mindset(フィックス・マインドセット)」を持つ人は、自分の欠点を認めることも修正することもできず、チャレンジを避け、自分が優れていると証明すること、自己防衛に躍起となる人です。反対に、「Growth mindset(グロース・マインドセット)」を持つ人は、自分の素質は、努力、学び、他人からの助けによって伸ばしていくものと考えるタイプの人です。
どんな場面でも自分を正当化する人は、典型的な「Fixed mindset」を持つ人と言うことができるでしょう。

.昇華させる(Sublimation)

昇華とは「ある状態から、更に高い状態へ飛躍すること」です。この防衛機制は、成熟した前向きな防衛のメカニズムです。なぜなら、強い感情や気持ちを、より建設的で安全な対象や活動に振り向けることができるからです。
例えば、どうしようもない状況で、苦しさや悲しさなどの否定的な自己思考に負けるのではなく、報復するのでもなく、自己改善に取り組んだり、同じような苦しみを抱いている人たちを助ける建設的な取り組みに感情を振り向けることです。
パートナーにイライラさせられて、大声を出す代わりに、ランニングをして気持ちを落ち着かせるといったことも昇華の一例です。
社会や会社を直接攻撃するのではなく、文章にして発信することも昇華の一例ですが、そういう意味では私も昇華という防衛機制を使っているかもしれません(笑)。

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最後に

社会はテクノロジーの進化や価値観の多様化とともに急激に変化してきており、私たちはその変化についていけず無意識に防衛してしまうことがあります。しかし、残念ながら、変化は防衛する私たちを待ってはくれません。私たちは、能力不足を認めなかったり他人に押し付けるのではなく、また、チャレンジを避け、自分が優れていると証明することに躍起になるのではなく、人も組織も、変わる世の中に自らを適応させ、成長し変化していかなければなりません。

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参考文献
(1) “Defence_mechanism“, wikipedia
(2) “防衛機制“, wikipedia
(3) Kimberly Holland, medically reviewed by Karin Gepp, “10 Defense Mechanisms: What Are They and How They Help Us Cope“, healthline, 2022/6.

(4) “Displacement“, Psychology Today

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