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会社のパーパスと個人のパーパス:「仕事ではなく世界を変えよう」発刊記念

  • 投稿カテゴリー:Social Change
  • 投稿の最終変更日:2022年8月27日
  • Reading time:8 mins read

私が翻訳を担当した「仕事ではなく世界を変えよう ~「パーパスの神話」に騙されないために 」の発刊を記念して「会社のパーパス」とは異なる「個人のパーパス」について紹介します。会社のパーパスが「社会における会社の存在意義」である一方、個人のパーパスは「喜びや幸せ、満足感をもたらす、自分が人生において大切に思っているものを満たす事」です。

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はじめに

以前、本サイトでシャーロット・クレイマー著の「The Purpose Myth(パーパスの神話)」を紹介しましたが、その後出版社のすばる舎さんよりその翻訳の機会を頂き、先日無事に日本語版が「仕事ではなく世界を変えよう ~「パーパスの神話」に騙されないために 」として発刊されました!(パチパチ)
その書籍紹介はこちらの以前の記事に譲り、今回は、本書のメインテーマである「個人のパーパス」について、私なりの視点で紹介したいと思います。

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会社のパーパス

昨今、世の中では会社のパーパスを定義する重要性が訴えられてきています。また、パーパス経営などの言葉を目にする機会も増えてきました。会社のパーパスは「社会の中での会社の存在意義」であり、それを明らかにして会社の理念の中心に据え、強い信念と意志を持って正面から取り組むことです。

しかし一方で、「ミッションやビジョンはもう古い。次世代型組織に必要なのはパーパス・・・」などの少しずれた紹介があったり(ミッションやビジョンは「古い・古くない」の問題ではありません)、パーパスがトレンド化してしまうのが気がかりです。トレンド化すると、過去に流行ったビジネスバズワードと同様に、本来の「社会の中での会社の存在意義」という意味ではなく、イメージ戦略や、優秀な人材獲得の目的のためにパーパスを「利用」する会社も増えてきます。

パーパスを「利用」する会社が増える背景には、「会社が提供する商品やサービスの利用、そして会社での仕事を通して自分のパーパスを満たそうとする」私たち個人が持つ裏返しの潜在意識があります。

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個人のパーパス

本書は個人が目的(パーパス)を満たすためには、次の3つの要素が必要だと述べます。

生活ニーズ:衣食住や安全などの物質的なニーズ
貢献ニーズ:より良い世界に貢献したいという精神的、感情的なニーズ
成長ニーズ:学び、好奇心を満たし自己を成長させる、知的なニーズ

運が良ければ、1つの仕事でこれらの3つのニーズを満たすことも可能ですが、そのような恵まれた仕事環境にある人は全体から見ればごくわずかです。
そのため、私たちはもっと現実的になって、自分のパーパスと会社のパーパスを切り離し、生活ニーズは本業の会社からもらう給料で満たし、貢献ニーズと成長ニーズは自らの取り組みで満たして、トータルでこれらの3つのニーズを満たしましょう、というのが本書の趣旨になります。

会社のパーパスと個人のパーパスは同じではなく、会社のパーパスが「社会における会社の存在意義」である一方、個人のパーパスは「喜びや幸せ、満足感をもたらす、自分が人生において大切に思っているものを満たすこと」とも言えるでしょう。そのため、個人のパーパスは、自分以外の誰も定義できません。
もちろん勤め先の会社もその従業員の人生のパーパスを定義できないはずですが、会社は「個人のパーパスを会社の仕事で満たしましょう」、「一緒にパーパスを実現しましょう」と、従業員から共感されるようなパーパスを掲げ(それが組織のパーパスの実体であるかどうかは別にして)、従業員の目的意識を満たそうとします。
そして、私たちもその提案に乗っかり、自らパーパスを考えなければならない面倒と手間を省き、人生の時間とエネルギーの大半を仕事に捧げ、下図のように仕事の枠組みの中で人生の意味を追い求めるのです。

しかし、本来、会社で働く一社員の立場から見れば、会社は人生の一部分に過ぎません。私たちは自分の人生を会社に依存するのではなく、自分自身で導いて行かなければなりません。それができれば、会社から与えられた役割に捉われず、共感できるパーパスがない会社の仕事の場でも個人のパーパスを実践できるようになります。

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個人のパーパス:4つの要素、4つのエリア

ハーバードビジネススクールのローラ・ナッシュ(Laura Nash)とハワード・スティーブンソン(Howard Stevenson)は、個人の長続きする成功には次の4つの要素が欠かせないと言います(1)(2)(3)(4)

1.幸福(Happiness):人生に対する喜びや満足感
2.達成(Achievement):自分が設定した目的の達成感
3.重要(Significance):自分が大切に思っていることに良い影響を与えている感覚
4.貢献(Legacy):人の未来への手助け

そして、この4つの要素を「自分」「家族」「仕事」「社会」の4つのエリアで満たすことだと紹介しています。
多くの人はこのバランスがとれておらず、また「仕事」のエリアが突出している人も多いのではないでしょうか?そのような人は会社の組織図の中で自分と会社の関係を捉えてしまいがちですが、個人としては下図のようなフレームであるべきです。

図:長続きする成功に必要な4つの要素と4つのエリア
adapted from “My Personal Kaleidoscope” (1)

個人のパーパスの中心にあるのは、上の図のように核となる「ありたい自分」です。
それは「信念(Belief)」「価値観(Values)」「特性(Character / Trait)」などと呼ばれる場合もあります。
その「ありたい自分」を体現するのが、「自分」「家族」「仕事」「社会」の4つのエリアです。

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成功とは自分が大切に思う「何か」に関わっていること

「人生の目的を設定しましょう!」とか「あなたの人生の目的は何ですか?」と問われると、私たちは次のようなことを思い浮かべがちです。

  • 出世する。
  • 仕事で成功を果たす。
  • お金持ちになる。
  • 自立した人間になる。
  • 幸せな家庭を持つ。

そして、多くの人が人生の目的を1つに絞ろうとします。しかし、よく考えれば、「人生の目的をひとつに絞らなければならない」と誰から指示されたのでもなく、そうする理由もありません。さらに、上に挙げた例はどれも、「自分」「家族」「仕事」「社会」の4つのエリアのうち、1つのエリアしか見ていません。

自分が大切に思うものは1つではないはずです。他を犠牲にして、1つに絞って追い求める必要はありません。むしろパーパスは、自分の「核」を中心に据えた上での、多面的な「ありたい姿」です。
また、人生の目的そのものは何かを「達成する」ことではなく、「どのような自分でありたいか」自分の核を満たしていて、本人が大切に思っている事に向き合って体現している「状態」です。
それは「夢の実現 vs 幸福の追求」といった4つのエリア間の綱引きではなく、むしろ、4つのエリアで、情熱的なパーパスプロジェクトの達成とシンプルな価値観の体現の両方をバランスを取りながら満たしていくことです。
「人生の目的を達成する」なんて言われると、とても高尚で一生懸命努力しても到達するのが難しく、とても高いハードルのように感じるかもしれませんが、ごくごく身近な所での小さな体現も個人のパーパスの一部なのです。

実業家やトップアスリートなど、世の中で成功していると広く思われている人たちでさえ、自分にとって何が大切なのか個人のパーパスを見つけられず苦しんでいる人はたくさんいます。そのような人は4つのエリア、4つの要素の中で、1つの達成度だけが恐ろしく突出していて、他の3つがおざなりになっているのです。
その様な状態でゴールを達成しても、ゴール達成後の喜びは一瞬でなくなってしまい、長年成功を目指して頑張って来たのに達成した後に空虚感さえ生んでしまいます。ゴールは達成したらその時点で完了ですが、人生における成功は持続的な状態です。永続する成功のためには、4つの要素、4つのエリアを満たしていくことが必要なのです。

また、物質的な目的は最終目的ではなく、幸せになることも最終目的ではありません。幸福感は、目的ではなく、目的を満たした副産物です。つまり、幸せになることそのものが目的ではなく、目的を満たしたから幸せになるのです。

ヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソンは、「より積極的に、より実践的に行動することで、成功を感じることができる」と成功を定義しています。それは、富や権力、更にはリーダーシップとも関係ありません。彼にとって、成功とは「自分が大切に思う何かに関わっていること」です。(5)

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最後に

繰り返しますが、今回は書籍の紹介だけではなく、「個人のパーパス」について「私なりの視点で」紹介しました。
書籍については、是非手に取って読んでいただければ、訳者としてもとても嬉しいです。そして、この書籍のメッセージが多くの人に伝わることを心から願っています。私たちは色んなことに対して見方が限られていて、より高いレベルで様々な見方があることを理解する必要があります。

特に日本人は、労働生産性が年々他国に引き離されていることが示すように、他国の人たちに比べて、仕事と自分を重ね過ぎている割には、会社を取り巻く様々なことが空回りしていて、機能しなくなっています。
私は、日本では、従業員が、むしろ一生懸命やり過ぎているから、色々抱え込んでまじめに働き過ぎているから、経営者もそれに甘えてしまって真の経営者が育たないという、負のスパイラルに陥っているように感じます。先に紹介した4つのエリアのフレームのように、従業員の立場から見れば、仕事は生活のざくっと4分の1程度の感覚で、もう少しライトに会社と付き合った方が、結果的には全体として良い方向に向かうように思います。

「何が自分を幸せにするのか」、「何が自分に喜びをもたらすのか」、「何が自分にとって大切なのか」「そのために何に限られた時間を使いたいのか」、今一度自分と向き合ってみてはどうでしょうか?

最後に、以前紹介したスポーツ心理学者であり、パフォーマンスコーチのジム・レーヤー(Jim Loehr)の、個人の目的を明らかにするために、自分に問うべき最も大切な5つの質問を紹介して(6)、今回は失礼します。

  • 大人になったらどんな人になりたかったですか?
  • 達成したら誇りに思うことで、賞味期限や失効期限のないものは何ですか?
  • それを達成したら、自分の幸福感と他人の幸福感のどちらを向上させるでしょうか?それとも両方でしょうか?
  • 自分の人生で、どのような強い特性(Character / Trait)を身につけたいですか?
  • 自分が育て身に付けたその強さで何をしたいですか?身に付けたその能力は、自分自身のためになりますか?それとも他の人のためになるものですか?

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参考文献
(1) Laura Nash, Howard Stevenson, “Success That Lasts”, Harvard Business Review 82, no. 2, 102–109., 2004/2.
(2) Laura Nash, Howard Stevenson, “Just Enough: Tools for Creating Success in Your Work and Life”, Wiley, 2008/5/2.
(3) “Secret to Success: Go for “Just Enough”, Harvard Business School, 2008/3.
(4) Martha Lagace, “Four Keys of Enduring Success: How High Achievers Win”, Business Research for Business Leaders, Harvard Business School, 2002/6/24.
(5) Jayson Demers, “Define Success: A Professional’s Guide to Finding Purpose and Motivation Everyone wants to achieve success, but what does that mean? The truth is, everyone has a different definition of success, and in order to achieve, you first need to understand exactly what success means for you.”, Inc.
(6) Jim Loehr, “The Only Way to Win: How Building Character Drives Higher Achievement and Greater Fulfilment in Business and Life“, Nicholas Brealey Publishing, 2012/5/15.

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