You are currently viewing 変革の書籍紹介「謙虚なコンサルティング」:今後求められるコンサルタントとは?

変革の書籍紹介「謙虚なコンサルティング」:今後求められるコンサルタントとは?

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年11月23日
  • Reading time:7 mins read

社会や組織の問題はマニュアルやツールで解決できるものではなくなってきました。従来型の「診断型・問題解決型コンサルティング」は機能しなくなってきています。問題が複雑になるにつれて必要になるのは、好奇心、思いやり、コミットメントを前提とする「関係構築型の謙虚なコンサルティング」です。

~ ~ ~ ~ ~

はじめに

私は一企業人として、かつて勤務先の会社が契約する経営コンサルタント(世界的に有名な大手コンサルタントです)の方々と接してきました。
そして常にもやもやしていました。何故この人たちは問題を解決しないのにこんなに高額な料金を取るのだろう?なぜ会社は重箱の隅をつつくような経費の精査をする一方で、この人たちに支払い続ける数千万から数億円というお金を議論しないのだろう?なぜ成果に結びつかないのにずっと使い続けるのだろう。。。

今回紹介するエドガー・シャイン著「Humble Consulting(邦題)謙虚なコンサルティング)」は、その疑問に答えるものです。

~ ~ ~ ~ ~

Humble Consulting(謙虚なコンサルティング)

エドガー・シャインは、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院名誉教授で、組織文化、組織開発、キャリア開発、プロセス・コンサルテーション、組織の学習と変化等に関する著名な研究者です。

本書の英語版原書は2016年に、日本語版は2017年に発刊されています。私は他の書籍と同様に本書も英語版の原書を読んでいますので、日本語版との言葉の定義の違いなどについてはご了承願います。

~ ~ ~ ~ ~

コンサルタントとは?

まず始めにコンサルタントの言葉の意味を確認しておきましょう。グーグル検索すると、次のような意味が出てきます。

  • 企業の経営課題を抽出し、業務プロセスや戦略を見直し、改善のための提案やアドバイスをする仕事
  • 改善点を経営者に指摘または指導し、業績を上げるための改善を手伝う、経営者にアドバイスする人もしくは法人
  • ある特定分野において専門的知識と経験を有し、顧客の持込む問題に対して相談に応じたり、助言を提供したりすること

つまり、コンサルティングという言葉、職業、業態には、専門家としての情報提供、診断、処方などを通して「推奨、アドバイス、提案」という形でサービスを提供する「専門家の立場で助言する」という意味が込められています。

エドガー・シャイン曰く、このような定義のコンサルタントは「従来型のコンサルタント」、彼の言う「レベル1のコンサルタント」です。私たちが今後必要とするのは、それとは異なる「レベル2のコンサルタント」です。

~ ~ ~ ~ ~

レベル1とレベル2のコンサルタントの違い

レベル1(従来の診断型・問題解決型コンサルタント)

クライアントから与えられた相談や内容に基づいて仕事を引き受け、専門家としての立場と取引上の距離を保ち、ツールを使って診断し、推奨を提示します。このような手順を踏むため、クライアントが受け取るものは、コンサルタントへの仕事の依頼の仕方と、コンサルタントの診断プロセスに依存します。

レベル2(関係構築型の謙虚なコンサルタント)

レベル2では、クライアントとの関わり方がレベル1と根本的に異なります。クライアントに対してどのような方針をとるか、事前に計画しません。クライアントの依頼内容ではなく、その言葉の根底にある、本当の思い、悩み、課題を浮き上がらせ、可能な限りクライアント自ら解決方法に気づくための手助けに注力します。
そのために、クライアントとの最初の接触では、オープンで信頼できる関係を築くつもりで臨みます。「3つのC:コミットメント、好奇心、ケア(Ccommitment、Curiosity、Caring)」が前提で、以下の感情的な準備が出来ている必要があります。

【Curiosity】:正直でクライアントに好奇心を持っていること
【Caring】:相手を大事に思う、正しい思いやりのある態度
【Commitment】:クライアントの心の中にある本当の思いを見つけ出し、手助けすることへの意欲

~ ~ ~ ~ ~

レベル1とレベル2のコンサルタントの違い:具体例

例えば、クライアントからコンサルタントに「従業員にエンゲージメントの問題があるので、カルチャー・サーベイ(組織文化評価)をやってくれないか?」という依頼があったとします。

レベル1コンサルタントは、
「もちろんです、どのような内容をお考えですか?」と、依頼された専門的なサービスを提供する用意があることを伝えます。

レベル2コンサルタントは、依頼に対してまず以下のように答えるでしょう。
 「もう少し詳しくお話をお伺いできますか?」
 「どうして組織文化評価が必要なのですか?」
 「どういう意味でエンゲージメントをお考えですか?」
 「なぜエンゲージメントの不足に対して、企業文化評価が必要だとお考えですか?」
 「何か思う所があるのですか?」
 「このタイミングで電話をかけてきた特別な理由はありますか?」
 「文化を評価することが最終目的でしょうか?」

レベル2コンサルタントは、さらに自分自身について個人的なことを明らかにすることで、関係をパーソナライズしようとするかもしれません。クライアントの心の中にある本当のことをより早く知るためです。

その結果、クライアントの依頼内容と組織の真の課題が合致し、ビジネス上の問題と依頼内容が明確にリンクしていることが判明すれば、レベル1の問題解決型コンサルティングを提供することもあり得るでしょう。

しかしそうではない場合は、人と人として対峙し、個人的な信頼関係を築き、心の中にある心配や悩みを打ち明けることができる安心感と信頼感、正直で嘘のない関係、決して意見を押し付けず、問題がなんであるか共に取り組む関係構築が必要になります。
レベル2のコンサルタントに必要なのは、「自分は知らないという前提」であり、「観察ではなく洞察」であり、
クライアントの思考プロセスを変えることで、以下の点を常に意識する必要があります。

  • クライアントが想定している問題の捉え方を変え、問題を定義しなおすのを助ける
  • クライアントとの対話や交流にフォーカスする
  • コンサルタントがいかにあるべきかを見直し、クライアントがコンサルタントに期待すること、お互いの関係を変える

関係構築のプロセスそのものが、クライアントがすぐに役立つと思うような行動につながることを発見するでしょう。そして、その結果、何をするか、どのように反応するかは、大きな診断や介入ではなく、小さな適応的な動き(Adaptive Moves)となります。

~ ~ ~ ~ ~

冒頭に紹介した私の勤め先での事例に戻ると、会社が抱える問題はレベル2である一方で、コンサルタントはレベル1のサービスを提供していたのです。

会社がコンサルタントに依頼するためには、何らかの「形」にする必要があるため、問題と思われるものをまとめます。依頼されたコンサルタントは依頼された内容に基づき、調査、分析し、提案書をまとめます。

問題なのは、「会社が問題と思われるものをまとめる」段階ですでに間違いを犯していることです。表面的に「見える」問題を取り上げて、その奥に潜む根本的な問題に気が付いていません(そもそも根本的な問題に気が付いていればコンサルタントは必要ないかもしれません)。そして、レベル1のコンサルタントではこの間違いに対処できないのです。

肝心の第一ボタンがかけ違えられて、そのまま物事が進んでしまうので、多額の費用をかけても的外れの結果しか出て来ないのです。

本当の根本的な問題は最後になっても表面化しないため、報告と提案を受けて、「とても興味深く、掘り下げたレポートを大変ありがとうございました」と感謝するものの、「心の中に何か引っかかる」、「提案をどう利用すればいいのか分からない」、「これからどうすれば良いのか分からない」などの思いが残ります。しかしそれが何か分からないまま、うやむやにされたり、放置されるのです。そして、また同様の問題が表面化してきたときには「またよろしくお願いします」と、同じコンサルタントに依頼するという生産性のないループを繰り返し続けるのです。

つまり依頼する会社と依頼されるコンサルタントの双方に取り組み方の間違いがあるわけですが、クライアント側として必要なのは、レベル2のコンサルタントに、依頼内容を決める「前」に相談することです。
クライアントが往々にして間違うのはコンサルタントを巻き込むタイミング、依頼するコンサルタント、依頼の仕方です。
たいていの場合、コンサルタントに依頼する前にある程度社内で検討されますが、既に巻き戻すことができないほど間違った方向に歩みを進めたところで問題をレベル1コンサルタントに投げかけても、高級車に乗り替え快適走行に変わるだけで、間違った方向に進み続けるのは変わらないのです。

現実はさらに複雑です。
実は、経営層が「問題の本質」にあえて踏み込みたくないと思っている場合があります。
名の通ったコンサルタントに依頼しておけば、もしうまくいかなくても、「このコンサルでうまくいかなかったのだから仕方がない」という言い訳を最初から用意しておくのです。コンサルタント側も、「問題の本質」、つまり経営層の「タブー」に触れて感情を害しては次の仕事につながらないので、体裁を整えて報酬を得るためだけの関係を継続する強い動機づけがあって、なかなか事態は好転しないのです。

~ ~ ~ ~ ~

レベル1のコンサルタントでは複雑な問題に対処できない

以前紹介したように、私たちが直面する問題には、次の3つの種類の問題があります。

  • Simple Problem シンプルな問題:単純な問題
  • Complicated Problem コンプリケイテッドな問題:煩雑、面倒な問題
  • Complex Problem コンプレックスな問題:複雑に絡み合った問題

シンプルな問題とは、料理を作ることのように、手順の数が比較的少なく、レシピが分かれば、専門知識がなくても対応できるような問題です。
コンプリケイテッドな問題は、飛行機を作ったり、高層ビルを建てたり、料理を作るよりははるかに難しいものの、膨大なマニュアルになりますが、やはりレシピがあります。
コンプレックスな問題は、画一的な順序立った対応はできません。他の状況の変化に従い、問題自体も変化し続けます。完全にそれを捉えることはほぼ不可能で、曖昧さや不確実さが常に存在します。

会社経営や組織文化は、「コンプレックスな問題=複雑に入り組み相互に影響し合う問題」である場合がほとんどです。その場合、解決のためのマニュアルや公式は存在しません。つまりコンサルタントの手持ちの診断ツールだけでは解決できません。

従来のレベル1のコンサルタントは、コンプリケイテッドな問題までしか対応できません(シンプルな問題ではコンサルは要らないと思いますが)。
レベル1のコンサルタントの役割は、マニュアルに沿って対応できるような明確に定義された技術的な問題には有効ですが、問題の複雑化に伴い、「問題」をそもそも明確に定義できなくなってきているため、だんだん役に立たなくなってきています。

新しいコンサルタントの役割では、コンサルタントの第一の目的は、クライアントが本当に心配していること、本当に考えていること、言葉の奥にあるものを理解し、納得できるようにすることであり、そのためにコンサルタントは、クライアントに何が起こっているのか、何が心配なのかを最初に尋ねるときから、パートナーでありヘルパーにならなければならないのです。

~ ~ ~ ~ ~

最後に

注意点として、レベル2のコンサルタントが築く「個人的な関係」は「友だち」になることではありません。
「おいくつですか?」とか「ご家族はいかがお過ごしですか?」と尋ねる必要はありません。
会話はあくまでも仕事に関連したものであるということです。助けを求めている人と、役に立とうとしている人との出会いという基本的な前提のもとに、パーソナライゼーションが行われるのです。

最後の最後に、私たちが抱える問題はどんどん複雑なものになってきています。あなたがクライアントとして本気で「問題の本質」に対峙する覚悟があるなら、上から目線で、クライアントに「先生」と呼ばせるようなふんぞり返ったレベル1のコンサルタントでは、組織や社会が抱える複雑な問題には「決して」対応出来ませんので、皆さんもご留意下さい。。。

コメントを残す

CAPTCHA