何か間違ったことや、都合が悪いことが起きた時、私たちは誰か他人のせいにします。なぜ他人のせいにするかというと、それがとても簡単で楽だからです。他人のせいにすることで、問題の責任をその人に負わせ、自分自身は責任から逃れ、文句を言っているだけで何もしない自分を正当化できるからです。
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はじめに
何か間違ったことが起きたり、都合の良くないことが起きた時、私たちはどう対応するでしょうか?
。。。誰か他の人のせいにします。
なぜ他の人のせいにするかというと、それが無茶苦茶簡単で超楽ちんだからです。人のせいにすることで、問題の責任をその人に負わせ、自分自身は責任から逃れることができます。たとえ、自分に多少なりとも非があったとしてもです。
「他人のせいにすること」、これは、政治、仕事、学校、家族、テレビの報道やワイドショー、ソーシャルメディアに至るまで、私たちの身の回りのありとあらゆる場面で文字通り毎日見られる現象です。逆に目にすることなく生活する方が困難なくらいです。
この記事を書いているのは2021年ですが、コロナウイルスに関しても様々な「他人のせいにする」現象が見られました。
コロナウイルスに限らず、インフルエンザ、天然痘、ペスト、コレラ、スペイン風邪など、歴史を振り返れば、感染症の大流行は繰り返し起きています。コロナウイルスの発生に人間が加担した可能性はあるものの、このような感染症の被害から私たちは逃れることができません。
私たち国民は政府の対応が悪いと非難します。しかし、感染症の発生は地球の生態系の仕組みによるものですから、すべての責任を政府に押し付けるのもおかしな話です。本来地球のエコシステムを責めるべきでしょう。地球のせいなので地球から出ていけばいいのですが、そうもいきません。誰のせいにしようが、何のせいにしようが問題がなくなるわけではありません。
ある種の出来事は、残念ながら私たちに多くの不利益をもたらします。時にそれは誰のせいでもなく、起きる時に起きてしまい、私たちはそれを避けることができません。しかし、そのような事でも私たちは誰かのせいにしたがります。ひょっとすると、実は自分自身もその問題に加担しているかもしれないのにです。
私たちは他にも様々な理由で、他人に責任を押し付けようとします。例えば、
- 納期に間に合わなかったのは、変更が多いクライアントのせい
- 納期に間に合わなかったのは、ミスした下請けのせい
- プロジェクトが失敗したのは、余計な口を挟んでくるだけの部長のせい
- プロジェクトが失敗したのは、全然口を挟んでこなかった部長のせい
- 会社をやめるのはその上司のせい
- 地域が洪水被害を受けたのは十分な予防策を講じなかった○○党のせい
- 今日遅刻したのは、アラーム設定し忘れ防止装置を付けなかった時計メーカーのせい
- 私がこう育ったのは、両親のせい
- 子供がこう育ったのは、きちんとしつけなかった妻のせい
- 子供がこう育ったのは、きちんと教育しなかった学校のせい
- 人生がつまらなかったのは、生まれた場所のせい
- あきと君が先に叩いたから、あきと君がいけないんだよ!
- 私がこうなってしまったのはすべて社会のせいなんです
- 私がいっぱい食べるのは、自分の体質のせい
- 私がいつも人の話を遮って話してしまうのは、この口のせい
もうやめましょうか(汗)。「体質」や「口」は、もはや他人ではありませんし(笑)。
成功は自分の成果とみなし、失敗など都合の悪いことは外的要因のせいにすることを「自己奉仕バイアス」と言います。他人を責める心理メカニズムです。
たしかに他人が原因の一部ということはあるかもしれません。部長も両親も悪かったかもしれませんし、〇〇党も悪かったのでしょう。でも、よく振り返ってみてください。実際はその人たちのせいだけでなく、その他さまざまな要因が絡まっていたり、更にはあなた自身もその原因の一部だったということはないでしょうか?また、誰のせいでもなく単に運が悪かっただけということはないでしょうか?
特に日本は「一億総他責社会」と言われるように、「自分に責任がある」と考えるよりも、「他人に責任がある」、「自分は被害者である」と信じ込む人たちであふれています。
自分の手には負えないような事に対して、自ら責任感を持って対処するのはとても大変です。一方で、当事者になるのを避けて、できるだけ人のせいにしておいて、傍観者として遠くから人の悪口を並べておくのははるかに楽です。何のスキルも能力も苦労もいりません。
私たちは他人に責任を押し付け合う社会で暮らしています。つまり、他人に責任を転嫁しないと、その責任を自分に転嫁されてしまう恐れがあります。そのため、責められるより先に、相手を責めなければなりません。先手必勝です。攻撃は最大の防御です。そのため、時間をかけて根本原因や対応策を見出そうとするよりも、真っ先にスケープゴートを探し、そいつを吊るし上げるのに必死になるのです。
他人を責めることは、ストレスや不安から自分を守ったり、自尊心を保つための自己防衛のメカニズムとして、頭の中に刷り込まれてしまっていて、自分には非がないと正当化することでプライドを保ち、あるいは自分をかわいそうな被害者に仕立て上げます。意識していないと、ついついそのような行動を取り続けてしまいます。
しかし、以前「なぜ個人と組織は自己防御するのか ~ defensive behavior ~ 個人編」で紹介したように、あらゆることを他人のせいにして自己防御することがもたらす心地よさの効果は短く、長期的にはむしろ大きなストレスをもたらします。自己防御は、幻想の安心と短命な自尊心をもたらすだけです。
他人のせいにするという体に染みついた習慣を変えるためには、当事者意識をもって自分事として物事に取り組む必要があります。そのためには、自分が変わる、自分の行動を変えることが不可欠です。
以下に他人を責める要因、その負の影響、そして、どうやってこの「Blame Game」を克服していけるのかを紹介していきます。
図:相手に責任を押し付け合う激しいバトル
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他人を責める「Blame Game」の要因
なぜ私たちは何から何まで問題を他人のせいにするのか、以下にその要因をまとめましょう。
1.責任転嫁することで、自分を正当化できる。さらには自分を犠牲者、被害者にすることで周囲から同情や共感を得られる
2.他人のせいにすることで、問題から手離れできる。解決のために悩む必要もなく、仕事や面倒が増えることもない
3.自分で責任を取ると、自分で考えて、行動しなければなくなるため勇気がいる。対処できるか不安になる
4.体に染みついた自己防衛のためのメカニズム(自己奉仕バイアス)
5.生まれてから今に至るまで、周囲の人たちの影響によって、他人のせいにするメンタリティを知らず知らずのうちに引き継いでしまっている
6.他人に押し付けることで、怒りや落胆、恥、悲しみ、失望、無力感などの負の感情を解消し、自分のアイデンティティ、プライド、自尊心、感情の健全性を保つ
7.組織や社会構造。つまり、自分の非を認めると評価や給料が下がってしまう。訴訟に勝つため、負けないために他人のせいにしなければならないなど
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他人のせいにする事がもたらす負の影響
他人のせいにしておくことで、短期的には自分が楽できるメリットがあります。しかし、長期的にはさまざまな負の影響があります。それらを紹介していきましょう。
1.他人のせいにし続けることで、他人を責めるメンタリティが固定化する。他人にしか矛先が向かなくなるので、視野が狭まり、物事を正しく大局的に把握することができなくなる。その結果、正しい問題解決ができなくなる
2.人のせいにすると、自己を省みる力を養うことができない。人は反省することで成長できるので、自己を省みることができないと成長できない
3.人を責めることは、被害者意識を育て、他人に対する怒りや恨みを生む。負の感情に支配され、感情を生産的なものに変えることができない
4.いったん相手を攻撃すると、相手も感情的になって攻撃し返してきて、攻撃の応酬になる。問題解決よりも、攻撃しあうメンタリティが定着して、攻撃の応酬が泥沼化し、他人から信用されなくなったり、関係が悪化する。最悪の場合、「Lose – Lose」のお互いをつぶし合う関係に陥る
5.他人のせいにすることで、物事を自分でコントロールしたり、自分で自分の人生を導く力を失う。主体性、自律性、自由を自ら否定し、人生の様々なことをすべてを他人任せにすることになり、自分で人生を切り開くことができなくなる。残念ながら、そのような人たちは、周りから見透かされて、そのように見られてしまうようになる
図:相手に責任を押し付け合う激しいバトルの末に
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どうやって、他人を責め合う「Blame Game」から抜け出すか
人のせいにしても本当の問題解決には繋がりません。他人を非難する事で物事が前に進むわけではありません。
今まで人のせいにした結果がどうだったかを思い出してみて下さい。その結果、どれだけ自分が幸せになったか、成長できたか、問題が解決したか、自分に問いかけてみてください。
では、どうすればこの他人を責め合う「Blame Game」から抜け出すことができるのか見ていきましょう。
1.相手をコントロールしようとするのをやめる
他人があなたを変えられないように、あなたも他人を変えられません。何度でも繰り返しますが、あなたは他人を変えることができません。人をコントロールしようとするのはやめましょう。人をコントロールしようとするのは時間の無駄なだけでなく、コントロールしようとすればするほど、感情的になって問題を深刻にするだけでなく、本来あるべき問題解決からどんどんずれていったり、自分自身を有害な存在へと変えていきます。それを避けるために必要な最初のステップは、誰かをコントロールしようとしている時の自分に気が付く、自分で自分を認識できるようになることです。
2.相手を責める前に、自分が問題の一部になっていないか考える
「あいつらが悪い」と言う場合の「あいつら」の中には自分も含まれています。他人を責めることであなたは同じような思考と行動をずっと繰り返します。そこに発展や成長はありません。相手の立場になってみて自分自身を見たり、第三者の立場から問題を考えてみれば、きっと違う風景が見えてくるでしょう。
3. 何事からも学ぶべき教訓があることを信じ、それを実践する
最も重要なステップの1つです。たとえ不安に感じることがあっても、そこから教訓を得て、学びたいと心から思わなければ、前に進むことはできません。自分を成長させてくれる機会と捉えることです。以前紹介した書籍「マインドセット」を引用すれば「Growth mindset」、つまり、学びや成長に繋げるマインドセットを持つことです。人のせいにばかりする人は「Fixed mindset」、固定したマインドセットを持ち、現状維持、自己防衛に躍起になります。
4.誰が悪かったかではなく、何が悪かったかを考える
問題解決から「誰が」という要素を排除して下さい。問題を人に結び付ける習慣をやめて下さい。
問題から人の要素を排除し、心を落ち着けて冷静に、「何が悪かったのか?」と問題の解決に集中すればするほど、責任を転嫁したり、感情的になることもなくなります。そのためには、人そのものではなく、人の行動、なぜその人がそのような行動をとったのか、その仕組みや構造や手順、事実、因果関係に注目します。クリティカルシンキングを身に付け、人間の認知バイアスを理解することも、人間の癖や自分の癖を理解し、正しい対応に導くことを助けます。
5.自分がたどり着きたい目的を確認する
あなたが達成したい目的はなんですか?そもそもあなたはどんな人間でありたいですか?
そのためにどんな行動を取るのがよいですか?
その行動を取るために、あなたが持っていたい感情、持っていたくない感情はどういう感情ですか?
感情を変えるためには、どういう考えを持つべきでしょうか?
わなたの人生を変えることをできるのはあなただけです。
以上紹介した全ての項目に共通するのは、「見方を変える」という点です。自分が習慣的に行ってきたモノの見方は、無数にあるモノの見方の1つに過ぎません。正しい問題解決には、様々なモノの見方ができる必要があります。できるだけ多くの見方ができるように、日々色々な角度や立場から物事を見る事を意識したり、色んな経験を積む事も大切です。
何度も落ち込んだりするかもしれないが、努力をやめて誰かのせいにしない限り、それは失敗ではない。
~ ジョン・バローズ
You can get discouraged many times, but you are not a failure until you begin to blame somebody else and stop trying.
~ John Burroughs
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最後に
以上、問題を他人のせいにする要因、その負の影響、そしてそれをどうやって克服できるかを見てきました。
最初に紹介したコロナウイルスの例で言えば、すべて他人のせいにしたがる人がいる一方で、「自分になにか出来る事はないか?」と考え動き出す人たちもいました。それはコロナで職を失ったり生活が苦しくなった人たちを助けるという意味だけでなく、感染を回避するために自分がどう行動するか、万が一の時にどう備えておくかという個人レべルの小さな取り組みも含みます。
「他人が何をすべきか」ではなく「自分が何をすべきか」に意識を変えるだけで、自分にも社会にも大きな変化やインパクトをもたらすことができます。
以上、「なぜ人はいつも他人を責めるのか?」紹介しましたが、今回紹介した内容にもあるように、人は他人に問題を押し付けて責任から逃れようとする一方で、自分を主張することに躍起となり、他人に聞く耳を持たないということも、これまた至る所で毎日のように見られる現象です。
次回は「なぜ人は他人の言う事を聞けないのか?」を見ていきます。
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参考文献
(1) Samantha Taylor, “The Blame Game – why blaming others hurts you more than you realise“, 2020/2.
(2) Bernard Golden, reviewed by Jessica Schrader, “7 Consequences of Blaming Others for How We Manage Anger“, Psychology Today, 2018/11.
(3) Gustavo Razzetti, “How to Stop Playing the Blame Game“, Fearless Culture, 2018/3.
(4) Vaibhav Mehta, “How To Stop Blaming Others And Win At Life“, The Wandering Vegetable