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社会的比較理論 Social Comparison Theory :人と比べることの良い面と悪い面

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年8月27日
  • Reading time:8 mins read

人はよく自分と他人を比べます。私たちの思考の10%は、他人との比較で成り立っています。他人と比べて自分を評価したり、成長の目標にするなど前向きな比較をすることもありますが、自分より見劣りする人と比べて自分の自尊心やプライドを保つ人もいます。

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はじめに

製造販売会社A社は、創業75年を迎えた業界では老舗の会社です。A社とB社はかねてから業界を代表する大手2社で、業界をけん引してきました。しかし、近年、新規事業を次々軌道にのせ業績を大きく伸ばすB社に比べ、A社は右肩下がりです。

佐藤社長  「B社はあんなに業績を伸ばしているぞ!当社業界1位の座はもはや危ういのではないか!!」
田中営業部長「社長、恐れ入りますが、もうB社の業績は当社の3倍近くまで拡大しています。」
鈴木事業部長「しかし、B社の事業は多角化してきているので、もはや単純に比較するのが難しいですよ。」
佐藤社長  「なるほど。つまり、残りの専業者の中では当社はいまだ1位の座を維持しているということだな。」
田中部長  「専業者という括りでいえば、当社の次に来るC社、D社も、当社と同じように苦戦していますね。」
鈴木部長  「専業者の中では当社はまだ大分まともな方ですよ。」
佐藤社長  「よし!それなら、これからも堂々と業界1位の旗印を掲げていられそうだなっ!」
田中部長  「そうですね、そういうことなら、つじつまも合います。」
鈴木部長  「ずっと業界1位とうたってきましたから、今さら顔が立ちませんしね。」

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社会的比較理論(Social Comparison Theory)

A社の幹部の方々の考え方は何かがおかしい気がしますが、みなさんお気づきでしょうか?

さて、上の例では、A社の方々が、同業他社のB社やC社と自社を比較していますが、会社に限らず個人でも、私たちはよく自分と他人を比べます。例えば次のような比較です。

  • 学校の成績、競争の順位、給料の額などの能力や成果の比較
  • 働いている業界や会社、卒業した大学、住んでいる地域など所属しているグループの比較
  • 住んでいる家、持っている車やスマホなど所有物の比較
  • 背の高さや容姿などの外見の比較
  • 人生の成功度の比較
  • 意見や考え方の比較                  などなど

ある研究によると、私たちの思考の10%に、このような他人との比較が関わっています。(1)(2)

人はなぜ自分と他人を比較するのでしょうか?

1954年に社会心理学者レオン・フェスティンガー(Leon Festinger, 1919 – 1989)が提唱した社会的比較理論(Social Comparison Theory)があります。この理論はその後多くの研究者によって、発展拡大してきました。

今回、この社会的比較理論をベースに、私たちが社会的な比較(つまり、他人との比較)をする理由と、その比較のプロセスがもたらす結果を見ていきます。

なお、他人との比較には大きく、①考え方や価値観の比較と、②能力や状況の比較の2つのケースがあります。

①考え方や価値観を比較する例としては、社会的問題などに対して自分の立場が定まっていないときや、自分の意見が正しいのか、あるいは多くの人はどう考えているのか確かめようとする場合です。
また、初めて訪問した国でその国の人たちがどのような考え方や行動をしているのか、社会のルールや一般的な考えを知るために、自分と周囲の人たちを比較することもあります。
この考え方や価値観の比較だけでも様々な要因が背景にありますが、今回は割愛し、能力や状況の比較に的を絞って見ていきます。

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なぜ自分と他人を比較するのか?他人と比較する理由

自分と他人を比較する理由はいくつかあります。
最近の理論では、社会的比較は、大きく次の3つの原動力に突き動かされていると考えられています。(3)

1.自己評価(Self-evaluation)
自分がおかれた状況や環境の良し悪しを判断したり、自分の能力が十分なのか判断するために、自分と他人を比較します。そうすることで、自分の能力、性格、成功の度合など自分自身をもっと知ることができます。

2.自己改善(Self-improvement)
ある人を目標にしたり、または反面教師にして、自分を改善したり、能力を高めようとします。

3.自己高揚(Self-enhancement)
自己高揚とは、自分自身を高く評価することです。特に自分よりも劣った人と自分を比較することで、自尊心(self-esteem)やプライドを保つことができます。特に、脅威や失敗に際して、自尊心が脅かされる状況では、自己高揚の動機が高まります。

ただし、これらのどの理由で比較するのかは、その人が達成したい目的によって異なります。その目的は自分の意思で明確に決めることもあれば、自分では気が付かない場合もあります。
他人をロールモデルにして、自分を成長させたいという自己改善が目的の人もいます。一方で、成長する意思はないが、人より能力があると見せつけたいから、自分よりも劣った人と比較して優越感に浸る自己高揚が目的の人もいます。
つまり、他人と自分を公平に比較することや、正確な自己評価が目的ではないこともあるのです。

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誰と比較するのか?比較の対象

その人が達成したい目的によって、比較の対象も変わります。比較することの重要なポイントは、誰と比べるかです。

例えば、自己評価する時に、自分が能力的に十分だと確かめたい時は、自分と同じような環境にいる人で成功した人を比較の対象にすれば「この人でもできたんだから、自分にもできるはず」と自分の能力に自信を持つことができます。
そのように、自分と似たような人を比較対象にすることもあれば、自分より上の人を対象にすることも、下の人を対象にすることもあります。なお、自分よりも優れた人や恵まれた人との比較を上方比較(upward social comparisons)、自分よりも劣った人や恵まれない人との比較を下方比較(downward social comparisons)と言います。

比較の対象は1人の場合もあれば、複数の場合もあります。グループを対象にする場合もありますが、グループのメンバー全員が比較対象に含まれるわけではなく、グループの典型的なメンバーが選ばれます。

さらには、対象となる人のすべてを比較するのではなく、その人の特定の性質や能力のみを比較します。
例えば、オリンピックの水泳選手がいます。その水泳選手はライバル選手と能力を比較しますが、水泳以外の能力、例えば、車の運転がうまいとか、料理が上手といった能力を比較はしないでしょう。自分の目的に関連する部分のみを比較するのであり、関心のない部分は無視するのです。

私は以前、「あなたは〇さんと比べてここがだめよね」とか「□さんと比べるとこれは改善余地ありね」とか「△さんのここをみならわないと」などと、ある同じ人物から言われた時があります。なお、その人物が誰かは想像にお任せします(笑)。他の大勢の人たちの良いところだけを集めて比較されてはたまらないので、「比較するなら、誰か1人に絞って比較してくれ!」と言い返しました。
極端な例ですが、イーロン・マスクのビジネススキル、大谷翔平の身体能力、ジャスティン・ビーバーのアイドル性、すべてを兼ね備えた人は1人もいません。しかし、私たちは、優れた人たちの優れた部分だけにフォーカスして比較する傾向があります。

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比較することのメリットとデメリット、効果的な利用と悪用

比較することで、自分を正しく判断できることもありますが、否定的な考えや行動をもたらすこともあります。他人との比較は諸刃の剣で、役に立つこともあれば、間違った考えを強化することもあります。

自分の成長を測るための基準方法としたり、向上心を高める動機付けとする場合、比較は有益です。
グループの中でお互いが競い合い、切磋琢磨すると、グループ全体の成長につながります。メンバー全員が成長しようとしている集団では、お互いの比較を成長のために効果的に利用できます。

一方で、自分自身を気持ち良く感じたいだけのときは、自分より劣った人と比較しがちで、これは自分自身に好意的な幻想を抱くことには役立ちますが、成長を妨げる習慣になりかねません。また、特定のタイプとの比較を避けたり、自分に都合のよいところだけ比較したり、比較によって得られた情報を正しく捉えず、歪曲したり、無視したりして、自分自身を実際よりも肯定的に捉えて、自己高揚の目的を達成するだけの比較もあります。
さらにひどい例として、
集団思考が強い集団では、メンバーの逸脱や、一部のメンバーだけが成長することを許さないため、自分ではなく比較対象者をコントロールしようとすることさえあります。

次に、自分より優れた人や恵まれた人と自分を比較すること(上方比較)と、自分より劣った人や恵まれない人との比較(下方比較)のそれぞれについて、良い面と悪い面を詳しく見ていきましょう。

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自分よりも良い人との比較(上方比較)の良い面と悪い面

良い面

・自分よりも優れた人をベンチマーク(ロールモデル)にすることで、目標ができ、その達成に向けて自分の行動を改善し努力しようという意欲を持つことができます。

悪い面

・比較対象が自分よりはるかに優れている場合、自尊心が脅かされることがあります。比較しても無駄だとあきらめてしまうかもしれません。
・逆に、極端に優れている人をあえて選んでおいて「やっぱり、あの人のようにはなれなかった」と最初から言い訳を用意しておくこともあります。
・集団思考が強いグループでは、大多数と比較して突出して優れた人物は、グループから排除されたり、妨害されることがあります。
・同調圧力が強い日本のような国では、自分たちに比べて成功した人や恵まれた人をたんに妬んでしまうことがあります。

・最近の顕著な例はSNSでしょう。SNSではたいてい良いことばかり投稿するので、人の良い部分だけが目に入るようになり、毎日目にしていると、「なぜみんなこんなに楽しそうなんだろう?自分はどうしてこんなに地味なんだろう?」と劣等感や否定的な感情につながることがあります。

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自分よりも悪い人との比較(下方比較)の良い面と悪い面

良い面

・自分よりも恵まれない環境にいる人や不幸せな人と比べることで、主観的な幸福感や安心感が高まり、ポジティブな気持ちを、少なくても一時的には回復できます。
・自己肯定感が脅かされている状況では、不安を軽減し、自己評価が高まり、自尊心が高まります。

悪い面

・自分よりもさらに低い人と比較することで、状況がさらに悪化する可能性があることを思い知らされ、悲観的な気持ちになります。
・上向きの比較をすることを避け、下向きの比較ばかりつづけると、現状の自分を正当化し、成長の動機付けができなくなります。

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さいごに

さて、ここで改めて最初に紹介した製造販売会社A社を振り返ってみましょう。

A社の幹部たちも上方比較と下方比較をしていることがお分かりになるでしょうか?

A社の幹部たちは、以前は、業界で1位2位を争う最大のライバルB社を上方比較していました。しかし、B社が大きく成長し、背中さえ見えなくなると、「B社は比較対象外」と追いかけるのをやめて、格下のC社やD社と比較し始めて、成長しない自社を正当化するだけでなく、「まだまだ当社も大丈夫だな」と不当に自尊心を高めさえするのです。

以前、アメリカの著名な心理学者キャロル・ドウェック(Carol S. Dweck)のベストセラー「マインドセット」を紹介しました。その中で、世の中には「成長マインドセット」を持つ人たちと「硬直マインドセット」を持つ2種類の人たちがいると説明しました。

「成長マインドセット」を持つ人は、努力、学び、他人からの助けによって自分を伸ばしていけると考えるタイプの人で、「硬直マインドセット」を持つ人は、自分の欠点を認めたり修正することができず、チャレンジを避け、自分が優れていると証明することや自己防衛に躍起となるタイプの人です。
成長マインドセットの人は、目標に向かって、自分を変えていきますが、硬直マインドセットの人は、自分は変えず、目標を変えていきます。成長マインドセットの人は上方比較をうまく利用する人、硬直マインドセットの人は下方比較を悪用する人とも言えるでしょう。

さらに言えば、他人とのいかなる比較にもとらわれない人たちもいます。
強いビジョンやミッションを持つ人たち、つまり自分自身の目的を明確に持つ人たちです。そのような自分を強く持つ人たちは、自分と他人を比べることに過度にフォーカスしません。そのような人は、他人との比較よりも、自分との比較、つまり、ありたい自分や世界との比較、現在の自分と目標とする自分との比較にフォーカスするのです。

参考文献
(1) “Social Comparison Theory“, Psychology Today
(2) Shagun Sharma, “What is social comparison theory in Psychology?“, Medium, 2020/12/2.
(3) Frederick X. Gibbons, Bram P. Buunk, “Individual differences in social comparison: Development of a scale of social comparison orientation“, Journal of Personality and Social Psychology, 76(1), 129–142., 1999.
(4) Alicia Nortje, “Social Comparison Theory & 12 Real-Life Examples“, positivepsychology.com, 2020/4/29.

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