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なぜ個人と組織は自己防御するのか ~ defensive behavior ~ 個人編

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2024年4月22日
  • Reading time:8 mins read

人は不安や批判されていると感じると防御機能が働き、自分を守る行動を取ります。防御的な行動は人間の本能ですが、過度な防御は人間関係の構築と自己成長を妨げます。今回は、①防御行動の原因と症状、②自分が防御的になるのを防ぐ方法、③相手が防御的になるのを防ぐ方法、④防御的な相手への対応方法を紹介します。

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防御的な行動

人間は身の危険を回避したり予防するために、防御的な行動を取ります。
車の運転で言えば、事故を防ぐためにスピードを抑えたり車間距離を取ります。安全運転は防御的な行動です。危険な場所には近寄らない、これも防御的な行動ですね。

防御的な行動は人間だけが取るわけではなく、多くの動物も取ります。例えば猫は、脅威や危険を感じると「シャー」とか「ウー」と唸ったり、背中を丸めたり、毛を逆立てます。これも自分の命を守る行動です(1)

しかし、私たち人間には、身体を危険から守るだけでなく、自分の人格やプライドを守ろうとする心理的な防御もあります。他人から能力がないと思われたり、自尊心を傷つけられるような場面では、心理的な防御機能が働き、その矛先をかわすような行動や自分のアイデンティティを守る行動を取ります。
心理的な防御には「感情」と「行動」の両方の側面があります。 誰かが自分を批判していると感じる時、怒りや恥などの感情が生まれ、それに対して、皮肉を言う、無視するなどの行動を取ります(2)。または、そのような感情を隠すための防御的行動を取ります。

図:防御は自分の身を守るための行動~ ~ ~ ~ ~

防御的な行動は人間の本能

まずはじめに理解すべきなのは、心理的な防御行動を取る人たちは、必ずしも悪意があってそうしているわけではないということです。自分を守ることは、私たち人間にとって最も重要な関心事です。心理的な防御機能は、人間の本能で、本質的には悪いことではありません。傷つくのを避け、気をそらし、一時的に気持ちを持ち直すことができます。しかし、防御がもたらす心地よさの効果は短く、長期的にはむしろ大きなストレスをもたらします。防御は、幻想の自信と短期的な自尊心をもたらすだけです(3)

多くの場合、防御的な行動は非生産的で、考え方を硬直させます。また、相手を批判したり、他人の欠点に関心を移して攻撃したり、他人に問題を転嫁するなど、不適切に使われることも多く、良好なコミュニケーションや健全な人間関係を築く大きな障害になります。過剰な防御は、自分に過保護なのと同じです。自己防御が習慣付くと、生産的な対話や課題解決、新しい知識の吸収ができないため、周囲の人たちに有害な存在となる上に、自分を成長させることもできません。

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防御的な行動の原因

防御は恐れや不安からの回避です。心理的な防御機能はすべての人にありますが、人によって程度が違ったり、上手くコントロール出来たり出来なかったりするのは、両親の影響や、生まれてから今に至るまでの周囲環境、幼少期の育たれ方やトラウマが影響している場合もあり、それを取り除くのは容易ではありません。
過去の経験によって、例えば、特定の人、特定の状況で、最初から防御の盾を構えてしまうことがあります。また過去の失敗と同じような場面で、羞恥心や罪悪感、無力感を呼び起こし、防御の姿勢を取ってしまうことがあります。

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防御的な行動の症状

心理的な防御には以下のような症状があります。実は防御的な行動は「防御」と「攻撃」の組み合わせの行動です(4)。攻撃とは、怒り・敵意・憎悪・不安などの自分自身にとって受け入れがたい感情を他者への投影した結果生じる行動です。

  • 感情的になって威圧的な態度を取る。
  • 他人の話を聞かなくなる。他人の話にかぶせて話す。
  • 失敗を他人のせいにする。指示した人、助言した人、自分が参考にした人の責任にする。
  • 想定外のことが起きたなど、言い訳をする。
  • 議論の土俵に乗らず、自分に都合の良い独自の理論で自分の行動を正当化する。
  • 他人の過去の失敗や欠点など持ち出して矛先を変えようとする。
  • 自分が成功した過去の事例を持ち出して目先を変えようとする。
  • 自分を批判したことの報復として無視したり、嫌がらせする。
  • 嘘をつく。事実を見ることを拒む。嘘を事実に織り交ぜて議論に使う。
  • 過剰に自分自身を責める姿を見せることで、それ以上の非難を受けないようにする。

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自分の防御行動を弱める・防ぐ方法

では、自分の防御行動を防ぐにはどうすればよいでしょうか?
以下は、過剰な防御行動を弱めるためのいくつかの方法です。防御的な行動を、健全な対処行動に置き換えるためのステップです。

1.自分の防御的な感情や行動を受けとめる

防御行動を抑えるための最初のステップは、防御を取っている自分を認識することです。
防御を示すシグナルには、かっとする、攻撃的になる、相手を責める、嫌味を言う、声が大きくなる、逆に無口になる、話を誇張したり、逆に過小評価する、ある話に固執したり、不安や恥ずかしさを感じるなどがあります。
そのような防御の感情と行動を認めるという単純な行為は、防御を和らげるのに役立ちます。その防御の感情や行動を抑えようとするのではなく、まずは
、その存在を認めるだけです。
防御している自分を認識できれば、自分をより客観的に見ることができ、強い感情を伴う防御から、それ程でもない些細なものまで、幅広い防御があるのに気づくでしょう。小さな防御から認識して受け入れられれば、一呼吸置いたり、相手に質問したり、その感情を共有したり、少しづつ許容範囲を広げることができます。

2.防御的な感情や行動は条件反射と受けとめ、感情のままに行動するのを避ける

防御は、多くの場合、腰に携えた銃を反射的に引き抜いてしまうような、反発的で衝動的な反応です。無意識のうちに条件反射で取ってしまう行動と理解して事前に警戒できれば、いざという時に時間や距離を取ることができます。防御的になりそうと気づいたら、銃を抜かず、一息おいて気持ちを和らげます。一度深呼吸でもしてみれば、カッとなって相手の話を遮ることなく、聞き続けることができるかもしれません。

3.どのような時に防御的になるか振り返る

自分がいつ防御的になるのか、振り返ったり、出来れば書き留めたりリスト化したりします。繰り返し記録を見返してみると、特定の人や状況で防御的になる、いつも同じようなことで傷ついたり怒ったりすると気が付くかもしれません。 
自分が防御的になる状況やトリガーとなる出来事が予め分かれば、その時どう対応したいか、あらかじめ考えておくことができ、その注意に従って落ち着いて対処できます。

4.自分の価値観と一致するか

あなたの目標は解決策を見つけることでしょうか?相手を打ち負かすことでしょうか?
防御的に行動する自分は、あなたが人としてありたい自分と一致しているでしょうか?
もし一致していないのであれば、あなたがどのように行動したいかをはっきりさせる時が来ました。理想とする自分は、その時どのように対処したいですか?自分が何者かを受け入れ、自分のありたい姿や人生の目的を明らかにすることで、他人からの影響に振り回されなくなります。

5.自分に責任を取る

他人から傷つけられたり非難されているように感じる時、自分自身がその状況をもたらしていないか疑ってみます。自分が少しでも問題に加担していないか、自分自身が問題の原因の一部だと気が付けば、人と協力して問題解決に方向転換できるかもしれません。

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どうやって相手が防御的になるのを防ぐことができるか

ここまで「自分」の防御行動を弱める・防ぐ方法を説明しました。今度は「相手」が防御的になるのをあなたがどう防ぐことができるかを見ていきましょう。

1.相手をコントロールしようとするのをやめる

防御は攻撃から自分を守るための手段です。そのため、相手を防御させないためには、相手を攻撃しないこと、または攻撃と受けとめられる言動をしないことです。自分は攻撃と思っていなくても、相手から、利用しようとしているとか、何か隠している、ある方向に誘導しようとしていると思われるだけで、相手は防御的になります。
つまり、相手をコントロールしようとする意図を無くすのです。相手が相手の行動に選択権と責任があるように、あなたもあなた自身の行動に責任があります。相手は、あなたを満足させるために存在しているわけではありません。

純粋に相手のためを思い、相手を助けようとしているのに、なぜ防御的になるのか理解できない場合もあるでしょう。もちろん、アドバイスや手を差し伸べることは悪いことではありませんが、最終的な選択は、相手が自由にできるようにします。

2.相手を驚かせるのを避ける

私たちは、誰かに不意を突かれたり、驚かされると、反射的に防御の姿勢を取ります。相手に腰に携えた銃を引き抜かせないために、言葉の選び方や、事情を説明する前に前置きするなど、コミュニケーションの取り方を気を付けなければなりません。

3.批判や評価せずに、話し合いたい事を言い表す

相手を批判したり評価せず、あなたの意見を伝えます。批判は相手の過去を見ています。過去の言動に対する評価です。しかし、どんな人も過去は変えられません。過去を見るのではなく、今どうするかこの先何が必要かを前向きに中立的な方法で話し合いましょう(5)

4.自分自身の失敗を認める、自分が正しいという意識を捨てる

あなたは相手が防御的と思っているかもしれませんが、ひょっとしてあなた自身が防御的になっていないでしょうか?
自分の方が優れているかのように行動するなら、周りの人たちから防御的なコミュニケーションを引き出してしまうかもしれません。
自分の失敗や欠点を認識し、認めることが大事です。どう考えても自分の論理が正しいという場合でも、それを主張する事もやめましょう。これはあなたを謙虚に見せるだけでなく、周囲の人たちから警戒心を取り除きます。

5.懸念と共感を表明する

防御的な相手に、さらなる批判で攻撃することは解決策にはなりません。相手の立場になって 相手への共感と懸念を示すことは、相手の「武装解除」に繋がります。誰もが問題を抱えていることを認め、より良いコミュニケーションに繋げます。

6.問題解決を目指す

問題解決のアプローチは、自分と相手が同じ目線で物事を見ることができるようになるアプローチでもあります。自分の考えを押し付けず、相手の見方を理解するよう努め、共に問題を解決するように心掛けて下さい。純粋に問題の解決に集中すればするほど、お互いの緊張を和らげ、お互いを攻撃しようとする意図は弱まります。攻撃と防御の構図から、対等で協力的な関係に変化していきます。

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防御的な相手への対応方法

ここまで、相手が防御的になるのを防ぐ方法を見てきました。しかし、あなたの最善の努力にも関わらず、相手が塹壕に入り込み、防御の姿勢を崩さない場合、あなたはどうしたらいいでしょうか?
以下は、頑なに防御的な姿勢を崩さない人に直面した時、どう防御を和らげられるかヒントです。

  • まず見返りとしてあなたも防御的になって攻撃したいと思っても落ち着いて下さい。報復すれば、悪循環の負のスパイラルに陥るだけです。
  • もう一度、相手の防御はあなたへの攻撃ではなく、自分を守ろうとしている行為だと思い出して下さい。
  • 相手の防御が子供じみていても、それには直接反応せず無視して、落ち着いて問題解決と良好なコミュニケーションに集中しましょう。
  • 問題解決を試みる前に、共通点から始めるために、小さなことでもお互いが同意できるものを見つけて下さい。
  • 正直、塹壕に潜り込んでやみくもに撃ち散らしている人と対峙するのはとても難しく、完璧に対応できる人はいません。本当にどうしようもない状況では、これ以上続けられない限界点を設定して相手に伝えること、自分のコミュニケーション能力を鍛える良い機会と前向きに捉える事も大事でしょう。

図:防御が過剰なケース:イメージ図

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最後に

以上、防御的な行動に関して、下記の順序で見てきました。

  • 防御的な行動とは?
  • 防御的な行動の原因
  • 防御的な行動の症状
  • 自分の防御行動を弱める・抑える方法
  • 相手が防御的になるのを防ぐ方法
  • 防御的な相手への対応方法

防御的な行動は個人だけでなく、組織にもあります。次回は組織の防御的な行動について見ていきます。

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参考文献
(1) “defensive-behavior“, APA Dictionary of Psychology, American Psychological Association
(2) Arlin Cuncic, medically reviewed by David Susman, “What Is Defensiveness?”, Verywell Mind, Updated 2021/5.
(3) Nick Wignall, “Defensiveness: How It Works and What to Do About It“, 2020/8.
(4) Elizabeth Earnshaw, “You Cannot Defend Yourself Without Being Defensive – So Here’s What To Do Instead“, mbgrelationships, 2019/11.
(5)  David Woodsfellow, reviewed by Jessica Schrader, “Why Do People Get So Defensive? And what you can do about it.“, Psychology Today, 2018/5.
(6) Julia Thomas, medically reviewed by Lauren Guilbeault, “What Is Defensive Behavior and What Does It Look Like?“, BetterHelp, Updated 2020/8.
(7) Kara Cutruzzula, “The #1 block to teamwork is defensiveness. Here’s how to defuse it“, ideas.ted.com, 2020/4. 

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