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Moral Disengagement:私たちが平然と道徳から逸脱できる仕組み

  • 投稿カテゴリー:マネジメント
  • 投稿の最終変更日:2022年7月11日
  • Reading time:9 mins read

一般的には道徳的な基準に沿った人たちでさえ、道徳に反する行動をとっているのにもかかわらず、罪の意識も感じず、平然と自己意識を保てる場合があります。それを「道徳からの逸脱(Moral Disengagement、道徳不活性)」と言いますが、その8つのメカニズムを紹介します。

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はじめに

モラル(道徳)に関する理論の多くは、道徳的な価値観や基準、その理由付けにフォーカスしますが、そのような道徳的な基準設定だけでは、物事の半分しか見ていません(1)
モラル(道徳)には、そのような積極的側面と反対の抑制的側面もあるからです。つまり、他人の窮状を思いやったり、犠牲を払ってでも他人を助けようとするのが積極的側面の例である一方で、道徳に反する行動をいかに抑えるかという能力として現れる抑制的側面があるのです(2)

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Moral Disengagement(道徳からの逸脱、道徳不活性)(1)

道徳の抑制的側面のためには自己統制(セルフレギュレーション:Self-regulation)が必要です。以前本サイトでも紹介した社会的認知理論(Social Cognitive Theory)で、セルフレギュレーションを「行動の短期的な不利益や、代替行動の短期的な利益を割り引いて、遠い目標を可視化し、それに向かって努力することを可能にする能力。自らの動機、思考、感情、行動パターンをコントロールする能力」と説明しました。私たちは、自分の行動を統制し、モニタリングし、その良し悪しを評価するプロセスを繰り返して、道徳的基準を道徳的な行動に結び付けられます。

一方で、時に私たちは、自分に利益はもたらすが、道徳的基準には反してしまうような行動へのプレッシャーに直面します。そして、道徳に反する行動をとっているのにもかかわらず、罪の意識も感じず、平然と自己意識を保てる場合さえあるのです。

社会的認知理論を広めたアルバート・バンデューラ(Albert Bandura)は、そのような私たちが道徳から逸脱する8つのメカニズムを挙げています。以下にそのメカニズムを紹介していきます。
なお、下のYoutubeで、バンデューラ自身がその8つのメカニズムをとても簡潔に説明しています。英語ですが、日本語訳を付けることもできますのでご覧下さい。

Moral Disengagement(道徳からの逸脱、道徳不活性)を発生させる8つのメカニズム
1.Moral Justification:道徳の正当化
2.Euphemistic Language (Sanitized languages, Convoluted language):婉曲的な言葉(無害化された言葉、複雑な言葉)の利用
3.Advantageous Comparison:都合の良い比較
4.Displacement of Responsibility:責任転嫁
5.Diffusion of Responsibility:責任の分散
6.Disregard, Distortion, Denial of Harmful Effects:有害な影響の無視、歪曲、否定
7.Attribution Blame to Victim:被害者のせいにする
8.Dehumanize Victim:被害者の非人間化

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1.Moral Justification:道徳の正当化

「道徳の正当化」とは、正しくて価値ある目的を達成するための手段であれば、例えそれが有害な行為であっても正当化してしまうことです。特に目的が強く高尚で神聖であるほど、罪の意識を持つことなく、自己価値のバランスを維持したまま、不正を犯したり、他人に危害を加えることができます。テロリズムや戦争などはその典型的な例ですが、私たちの身の回りでも目にしたり、私たち自身が道徳の正当化を犯すことさえ珍しくありません。

本サイトでも以前「ゴール設定の落とし穴。ゴールを設定するメリットとデメリット」の中で、具体的な目標を持っている人は、持っていない人に比べて、自分の業績を誇張する、つまり自分の業績について嘘をつく可能性が4倍高いと紹介しました(3)。ゴールを設定することにはもちろん有益な側面が多くありますが、一方で、ゴールにフォーカスし過ぎてそれ以外のことが見えなくなるトンネル・ビジョンで視野が狭くなり、非倫理的な行為を誘発してしまう危険性もあるのです。

「道徳の正当化」は、今回紹介する道徳からの逸脱をもたらす8つのメカニズムの中で最も強力で危険なメカニズムです。それは、他のメカニズムにあるような自己統制意識の低減やすり替えといったものではなく、ミッション達成のため有害な行動を実施することこそが自己意識を強めるという効果があり、それによって多くの人の命を奪うことさえできるからです。

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2.Euphemistic Language (Sanitized languages, Convoluted language):婉曲的な言葉(無害化された言葉、複雑な言葉)の利用

私たちは、言葉によって物事を認識します。そして、言葉によって、私たちの行動の基礎となる思考パターンが形成されます。したがって、ある行動がどのような言葉で呼ばれるかによって、その個人的、社会的な受けとめ方が大きく異なることがあります。残忍な行為でさえ、それを比較的無害な言葉で呼ぶことによって、私たちは、自分と、自分が行う行為の残忍性を切り離すことができます(4)たとえば、攻撃的な行為を「攻撃」と呼ぶよりも、攻撃性のない言葉で表現する方が、より残酷な振る舞いができるのです。

2022年2月ロシアがウクライナに侵攻し始めましたが、ロシア側がウクライナ人を「ナチス」、ウクライナへの侵攻を「ウクライナの非ナチ化」と表現するのも、自らの行為を無害化、正当化するためです。
私たちの身の回りでも、例えば、企業による「大量解雇」と「リストラクチャリング」ではイメージが大分違いますね。

また、不必要に複雑な言葉や表現を使うことも、無害化された言葉と同様の効果があります。元ジャーナリズムの教授であり、漫画家、写真家のジェラルド・グロウ(Gerald Grow)は、いかに曖昧で間違った情報を相手に伝えるか、優れた?婉曲的な文章の書き方の以下の10のガイドラインを紹介しています(5)

  1. 簡単な文章から始める。
  2. 受動態にして、行為の主体を削除し責任の所在を薄める。
  3. 特に意味を持たない用語で文章を膨らませる。
  4. 名詞で説明する。
  5. 関係が不明確な修飾語を追加する。
  6. 修飾語に名詞と専門用語を追加する。
  7. 関連する言葉を分離する。
  8. より曖昧にする。
  9. より難読化する
  10. 痕跡を消して、自分を良く見せる。

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3.Advantageous Comparison:都合の良い比較

よりひどいものと比較して、自分の良くない行為を正当化する行為です。これも身近なところに多くの例が存在します。

先生「あきとくん!なんで〇〇君をぶったの!」
あきと「え、でも〇〇君の方がもっとひどいよ!〇〇君は蹴ってきたんだよ!」

事務員「あきとさん、事務用品の私物化はだめですよ」
あきと「え、でも〇〇部長は会社のパソコンを私物化してるよ!」

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4.Displacement of Responsibility:責任転嫁

責任転嫁は説明するまでもないでしょう。自分の行為の結果の責任を別の誰かに転嫁することです。時に責任の転嫁先は、他人ではなく、社会や政府や学校や会社だったりします。

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5.Diffusion of Responsibility:責任の分散

自分一人が何かしても地球環境は変わらないから。。。自分の一票では何も変わらないから。。。集団の母数が多くなればなるほど責任の度合いは分散され薄まっていきます。責任の分散は、意思決定すべき人が、だれか他の人が代わりに決定してくれるのを待つことです。関係者が多ければ多いほど、一人一人は何もせず、グループの誰かがきっと何かしてくれるだろうと信じて、結果誰も何もしない可能性が高くなります。

以前本サイトでも紹介した「グループシンク」は、集団への適合心理によって、例え不合理であってもグループに同調するような意思が形成されることですが、グループシンクでも集団の責任の希釈が起こり、責任よりもグループから孤立したり除外される恐怖が勝るため、道徳的に非難されるべき行為さえ受け入れるのです。

心理学者のジョン・ダーリーとビブ・ラタネ(John Darley, Bibb Latané)は、「近くにいる誰かが怪我をして叫ぶ」という実験を行いました(6)
その叫び声を聞いた被験者が「周囲にいるのは自分だけだ」と思った場合、85%が助けました。
しかし、その叫び声を聞いた人が「近くに他にもう1人いる」と思った場合は、62%しか助けませんでした。
さらに、その叫び声を聞いた人が「
近くに他に4人いる」と思った場合、行動を起こした人はわずか31%でした。
これは傍観者効果(Bystander Effect)とも呼ばれます。

また、集団作用や傍観者効果の他に、大勢が多くの作業を分業するような場合も、その行為が非道徳的な作用につながるとしても、一人一人は目の前の作業しか見えず全体像は見えていないため、罪の意識を感じることなく非道徳的な行為に加担することができます。

図:傍観者効果(Bystander Effect)イメージ

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6.Disregard, Distortion, Denial of Harmful Effects:有害な影響の無視、歪曲、否定

道徳からの逸脱を正当化する他の方法は、自分の行為の有害な影響を小さく解釈したり、無視したり、あるいは異議を唱えたりすることです。
特に、自分1人の行動を正当化するときには、先に紹介した「責任転嫁」が難しいため、自分が引き起こす危害を小さく解釈する傾向があります(7)。それがうまくいかない場合は、危害の証拠の信憑性に疑いをかけたりします。自分の行為の有害な結果を無視したり、最小化して、その妥当性を認めない限り、自分を責める理由はほとんどないのです。

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7.Attribution blame to victim:被害者のせいにする

これも私たちの回りで見られますね。「被害に遭う方が悪い」「いじめらる方が悪い」「コロナにかかる奴が悪い」「自業自得だ」、さらには「君のおかげで僕が〇〇しなければならないはめになったじゃないか」などと被害者を責めたり、原因そのものにしたりすることです。

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8.Dehumanize Victim:被害者の非人間化

被害者を非人間的存在だとみなすことです。例えば「ケダモノめ!」とか「悪の権化」などと相手を「人間以下」とみなすことです。そこまで極端でなくても、被害者を「アル中だから」とか「中毒だから」とか「少しおかしいから」とか差別的な言葉でさげすむことで、自分を正当化します。また、SNSのプラットフォーム上では、私たちは簡単にメッセージの送り先を非人間化できてしまいます。

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最後に(8)

2001年に米国で行われた全国調査の分析によると、9.11のテロ以降、米国では、道徳からの逸脱のレベルが上昇し、つまり、外敵に関する非人間的な発言を支持し、先制的な軍事力行使が正当化されると考える回答者の割合が増加しました(9)
また、公衆衛生の分野でも、道徳からの逸脱のメカニズムは、消費者や公衆を危険にさらす企業の違反行為に見られ、その分析にも用いられてきています(1)

このように私たちの身の回りに既に浸透している道徳からの逸脱ですが、私たちは他人を引きずり下ろすことではなく、他人を引き上げること、他者へのコンパッションを高めることが大切です。また、権威や権力を持てば持つほど、道徳から逸脱の力は強力になるため、他人を批判する際には自分を見つめてみることが必要です。

モラル(道徳)に関しては、様々な視点から捉えた理論や研究がありますので、また機会を見て本サイトで取り上げたいと思います。

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参考文献
(1) Albert Bandura, “Moral Disengagement : How People Do Harm and Live With Themselves“, Worth Publishers, Macmillan Learning, New York, 2016.
(2) Amélie Oksenberg Rorty, “What it takes to be good”, in “The Moral Self” edited by Gil G. Noam & Thomas E. Wren (pp. 28–55),  Cambridge, MIT Press, 1993.
(3) Maurice E. Schweitzer, Lisa Ordóñez and Bambi Douma, “Goal Setting as a Motivator of Unethical Behavior“, Academy of Management Journal Vol. 47, No. 3, 2017/11.
(4) William D. Lutz, “Language, appearance, and reality: Doublespeak in 1984” in “ETC: A Review of General Semantics, Vol. 44, No. 4, (pp. 382-391), Institute of General Semantics, 1987.
(5) Gerald Grow, “How to Write Badly“, geraldgrow.medium.com, 2020/9.
(6) Praxent, “Diffusion of Responsibility“, Ethics Unwrapped – McCombs School of Business – The University of Texas at Austin.
(7) Mynatt, C., & Herman, S. J., “Responsibility attribution in groups and individuals : A direct test of the diffusion of responsibility hypothesis“, Journal of Personality and Social Psychology, 32, 1111–1118. 1975.
(8) Karen Glanz, Barbara K. Rimer, K. Viswanath, “Health behavior and health education: theory, research, and practice (4th edition)”, Jossey-Bass ISBN 978-0787996147., 2008.
(9) McAlister, A. L., Bandura, A., and Owen, S. V.,  “Mechanisms of Moral Disengagement in Support of Military Force: The Impact of September 11.”, Journal of Social and Clinical Psychology, 2006, 25(2), 141–165.

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