You are currently viewing ソーシャルノーム(社会規範)と幼すぎる花嫁たち(児童婚の問題)

ソーシャルノーム(社会規範)と幼すぎる花嫁たち(児童婚の問題)

  • 投稿カテゴリー:Social Change
  • 投稿の最終変更日:2021年10月2日
  • Reading time:8 mins read

世界では毎年1,200万人もの少女が18際未満で結婚しており、それは1分間に23人もの割合です。ソーシャルノーム(社会規範)が社会問題に及ぼす影響、様々な要素がいかに深く絡み合っているかを、児童婚(Child Marriage)の問題を通してみていきます。

~ ~ ~ ~ ~

はじめに

前回、ソーシャルノーム(社会規範)について説明しました。
世界の様々な社会的課題を解決するには、ソーシャルノーム(社会規範)が変わっていく必要があります。今回は、アフリカやアジアなどの途上国にまだ多く見られる児童婚(18歳未満の幼過ぎる年齢での結婚:Child Marriage)の問題を通して、その背景にあるソーシャルノーム(社会規範)や様々な課題を見ていきましょう。

Girls Not Brides(少女たちは花嫁ではない)」は、児童婚の撲滅と、少女たちが潜在能力を発揮できる社会を目指す、1,500以上の市民社会組織のグローバルパートナーシップですが、そのホームページによると、世界では毎年1,200万人もの少女が18際未満で結婚しており、それは1分間に23人もの割合です。

~ ~ ~ ~ ~

児童婚(Child Marriage)の問題の背景(1)(2)(3)(4)

児童婚の要因は、他の多くの社会的課題と同様、単純ではありません。娘を幼いうちに花嫁に出す問題と一言で言っても、背景にある環境や動機は同じではありません。

まず、子供を幼いうちに花嫁に出す家族は貧しい場合があり、特に女性が経済的に活躍できる機会が少ない地域では、娘の結婚を経済的な理由に利用することがあります。家族のための経済的な理由である場合と、娘のための経済的な理由、安全、将来のためにそうする場合もあります。
一部のアフリカの国々では、嫁ぎ先から花嫁は貴重な労働者とみなされ金銭や家畜などと交換される一方、逆に負担とみなされる地域もあります。南アジアや中東ではいまだ結婚持参金の習慣が残る国も多く、花嫁の年齢が低いほど結婚持参金が安くすむ場合は、早く花嫁に出すインセンティブが発生します。

結婚式の費用を抑えるために、娘たちを一斉に結婚させる事もあります。ある地域では、家族を支えるため、早く結婚してこどもをたくさん産むことが期待されます。

この問題の解決のために、女の子たちに教育の権利や機会を与える取り組みが行われています。
しかし、教育がもろ手を挙げて現地で歓迎されるわけでもありません。 両親が教育を受けなかった場合、両親にとって学校は未知なる場所です。女の子が教育を受けると、費用や時間が取られる上に、妻や母としての伝統的な役割を果たそうとしなくなり、夫を見つけるのが難しくなるのではないかと恐れる両親もいますし、高度な教育を受け成功した女性はほとんど村には残らない前例から、そもそも教育自体不要という考えもあります。
また、学校に行く事で悪い影響を受けたり、暴力に巻き込まれたり、異性と接する機会ができる事でむしろ妊娠や結婚が早まったり、更には登下校時に誘拐されるリスクさえあります。
ただ単に女の子たちに教育の機会を与えるのだけでなく、どのような教育をどうやって与えるのか、また、両親や家族、部族など、地域の人たちにも、児童婚の有害性や、教育がもたらす経済的機会などを理解してもらうだけでなく、悪影響を防ぐための地域の人を巻き込んだ対応が必要になります。

根底にあるソーシャルノーム(社会規範)も問題の大きな要因です。
自分たちの宗教や伝統が早期結婚を求めていて、宗教上の決まりや地域のしきたりに背くことは、家族や部族全体の不名誉につながると考えます。
また、結婚は家族と家族がつながる事であり、お見合いも含め、コミュニティにおける関係の構築に使われる事もあります。さらには、万が一、娘が結婚前に妊娠してしまったら結婚が困難になるだけでなく、もし婚約後に発覚したら嫁ぎ先にも大きな迷惑をかけてしまいます。社会の貞操観念や社会規範から逸脱することの恐れ、周囲からの冷たい目への不安もあります。
つまり、社会や周囲との関係も大きく問題に影響しています。

~ ~ ~ ~ ~

集団的行動と児童婚

前回、下図のように「グループの集団的行動」を4つに分類しました。

1.習慣:自分のニーズを満たすために取る行動
2.道徳的規範:道徳的に正しいと思うから取る行動
3.記述的規範:他の多くの人たちがやっているから取る行動
4.社会的規範:更に他の人たちが自分にそう期待するから取る行動(=ソーシャルノーム)

図:集団的行動の分類
adapted from (2), Bicchieri and Penn Social Norms Training and Consulting Group

父親の立場から見た、娘を早く嫁に出すというグループ(部族、地域等)の集団的行動は、以下のように分解できます。

1.習慣:自分のニーズを満たすために取る行動
– 誰も疑う事のないしきたりだから
– 子供(娘)に教育は要らない
– 自分(家族)の経済的動機
– 幼いうちに花嫁に出す方が面倒が少ない
– 娘はどうせ嫁に出るので、将来面倒を見てくれない
– 女性が主張し活躍する社会は、男性にとって既得権の侵害、雇用を奪われる事を意味する

2.道徳的規範:道徳的に正しいと思うから取る行動
– 花嫁になるまで、貞操を守り、純潔でなければならない
– よって、問題につながるリスクは避けたいし、問題になる前にはやく結婚させたい

3.記述的規範:他の多くの人たちがやっているから取る行動
– 周りの父親も同じように、若いうちに娘を嫁に出している

4.社会的規範:他の人たちが自分にそう期待するから取る行動(=ソーシャルノーム)
– 周りから、娘を若いうちに嫁に出すことを求められているように感じる
– 周りから、娘を学校に通わせるのは良くない前例になると思われる

~ ~ ~ ~ ~

ソーシャルノームと児童婚

問題のもっと深い所を見れば、児童婚に出される子供たちの多くは女の子で、その女の子たちは嫁いだ先で家事を期待され、さらには一夫多妻が残る地域もあり、児童婚のソーシャルノームの背景には、より大きな、男女に関するソーシャルノームがそもそもあります。

例えば、ネパールでキッチンに立ったことがない男の子たちに料理を体験させたり、バングラデシュで女の子がサッカーの大会に参加したり(下の写真)(5)(6)、このような取り組みは、男女の固定観念を解き放ち、ソーシャルノームを塗り替えていく効果があり、長い目で見れば、児童婚のソーシャルノームの変化にも寄与するものです。

写真:EVERYONE CAN PLAY FOOTBALL, CARE Tipping Point Projectより(6)

~ ~ ~ ~ ~

児童婚の要因まとめ

他にも児童婚を支持する要因、つまり変化に抵抗する要因は様々ありますが、以下考えられる要因をリストアップしました。

  • 伝統、宗教、文化、しきたり、歴史的背景、疑うことなく受け継がれてきた考え
  • コミュニティ、部族、地域からの期待、同調性の維持、支配的なグループからの圧力
  • 社会の一員としてきまりを遵守する事で、社会における立場や評判を維持する
  • 制裁回避(逸脱する事によって、恥、ゴシップの対象となり、仲間外れされる)
  • 個人的な信条、価値観
  • 家族や個人の経済的な理由
  • 花嫁持参金
  • 花嫁に出す以外、娘を抱えておく事の経済的動機がない
  • 貧困、経済格差、貧富の格差、グローバリゼーション、都市化、資本主義化
  • 娘の貞操の保護(間違ったことにならないように早く嫁に出す)
  • 情報不足(児童婚や早期妊娠に関わるリスクを認知していない)
  • 両親の教育に対する抵抗(特に女の子に対して)
  • 学校に行く事による負の側面
  • ステレオタイプ、固定観念
  • 家族を持つ事で社会的に一人前と認められる文化
  • 花嫁は花婿より若くなければならない
  • 性別による差別。女の子より男の子を期待する。男女や夫婦に関するソーシャルノーム
  • 法律と実状の乖離(児童婚を禁止する法律があっても機能していない。結婚でなく同棲の形を取り、問題が更に深刻になる)
  • 家族(両親)の不和
  • 社会的不安、戦争

~ ~ ~ ~ ~

児童婚の解決策

こんなに多くの問題が絡み合っていますから、当然、一面的な方法では、根本的な解決はできません。ソーシャルノームを変えるため、家族や地域の目線で、社会の枠組みやコンフリクトに対応していく、多面的な対応が必要になります。以下のような対応の組み合わせになるでしょう。

  • 子供たちの教育(女の子と男の子の両方)
  • 両親の理解(10代後半まで待った方が結婚にうまく対応でき、健康的な子供を持つ事もできるという理解。経済的メリットの理解)
  • コミュニティのしきたりを重んじるグループ長や部族長など中心人物、キーパーションの理解とサポート
  • 以上の地域の人たちの腹落ち、内発的動機付け
  • その他情報へのアクセスや、地元のコミュニティ、ネットワーク、ソーシャルメディア、口コミ、対話の場の創出
  • 経済発展、雇用促進、教育を受けた女性の雇用機会の創出
  • ロールモデル(女の子の身近な成功事例)
  • 児童婚を禁止する法律をつくるだけでなく、結婚の登録制度化など、その浸透と定着を促進するプログラムや、メリットが感じられる施策の実施
  • 子供や女性の権利を高める運動
  • 全般的なソーシャルノームを変える取り組み(児童婚だけでなく、男女の格差を含めたソーシャルノーム)
  • 部外者は、歴史や背景、習慣、色々な立場からの意見を対話を通じて可能な限り理解する事に努め、安易な解決法を押し付けない

~ ~ ~ ~ ~

最後に(Wicked Problem:ウィキッド・プロブレム)

今回紹介したソーシャルノーム、つまり、家族と家族を繋ぐ結婚、貞操観念などの規範は、実は、日本でも割と最近までありました、、、と言うか今でも多少残っているでしょうか?

もちろん問題の解決に教育は重要ですが、何を目指してどういう教育をどうやって与えるのかがとても重要でしょう。既にアフリカやアジアの途上国でも高度な教育や個人主義の裏返しとして晩婚化の問題が発生していますし、それに伴う諸々のリスクや課題があります。日本でも家族や結婚にまつわるソーシャルノームは変わり続けていますが、個人主義や資本主義に走る先進国を見ると、果たして何が本当に幸せなのか分からないノームもあります。

もちろん少女たちが不当な待遇を受ける事があってはならず、また子供たちの将来が閉ざされてはならないため、この点は早く改善されなければなりませんが、その先の意味する所が、バランスの欠いた都市化や、豊かな生活を目指し若者が田舎から都市や先進国に出稼ぎする事であるならば、それに伴う挫折や不当な扱いも生じるわけで、一方で従来あった家族や地域のつながりは希薄になっていき、先進国が直面するような問題が起きてきます。
先進国はややもすると上から目線で、途上国を先進国の「正しい」モデルに近づけようとしますが、先進国のモデルもいたる所に綻びが見えている状況で、本当に私たちが望む社会は何なのか、もっと違う道が必要なのではないかと個人的には思います。

グローバル化とICT技術の発展で、私たちの社会や経済は、もはや一つの地域や国で語ることはできず、問題・課題も、世界の色々な地域の経済、社会、政治、価値観と絡み合っている上に、それらが急速に変化してきているだけでなく、より深く影響し合ってきています。「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがありますが、ある点で良かれと思ってやったことが、思わぬところで予期せぬ効果や大きな問題を引き起こしたりします。一面的な対応では決して問題は解決できず、多方面から問題を捉える事が必要になってきています。

このような様々な要素が複雑に絡み合った問題をWicked Problem(ウィキッド・プロブレム)と言い、日本語では「厄介な問題」と訳される事が多いです。Wicked Problemにどう対応できるのかについては、また改めて紹介します。

~ ~ ~ ~ ~

参考文献
(1) “Child marriage, Adolescent pregnancy and Family formation in West and Central Africa – Patterns, trends and drivers of change“, Unicef, 2015
(2) Cristina Bicchieri, Ting Jiang, Jan Willem Lindemans, “A Social Norms Perspective on Child Marriage: The General Framework”, Behavioral Ethics Lab, University of Pennsylvania, 2014/4.
(3) Cristina Bicchieri, “Diagnosing norms – In Norms in the wild”, Oxford University Press, 2016.
(4) Carol Watson, “Understanding changing social norms and practices around girls’ education and marriage”, Overseas Development Institute, 2014.
(5) Nidal Karim, “Child marriage: what do social norms have to do with it?“, Care, Tipping Point Project
(6) “EVERYONE CAN PLAY FOOTBALL“, Care, Tipping Point, originally documented by Nahida Arefin Nitu, CARE Bangladesh, 2016/8.

コメントを残す

CAPTCHA