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「Rationality:合理性」と「Irrationality:不合理性」の2冊の書籍紹介

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年8月17日
  • Reading time:9 mins read

人間の不合理性を取り上げた2冊の本を紹介します。私たちが自身の不合理性に打ち勝つためには、理性が必要で、理論的な考えを鍛えなければなりません。しかし、私たちの世の中は、ポスト真実とも言われるように、合理性や理論的な考えは逆に煙たがられ、客観的な事実よりも、個人的信条や感情を重視し、感情に基づいて世論が形成されるようになってきています。

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はじめに

以前、心理学者で行動経済学者のダン・アリエリー(Dan Ariely)が2008年に書いたベストセラー「Predictably Irrational(邦訳版:予想通りに不合理)」を紹介しました。脳の仕組みによって、私たちがしてしまう非合理な意思決定の事例を紹介する本でした。以前の記事では、特にその中でも、「予測」したり「期待」することが、いかに私たちの行動や経験、認知の仕方まで変えるかを取り上げて説明しました。

今回もまた、人間の不合理を扱うタイトルを2冊紹介します。

うち1冊は、イギリスの心理学者であり作家のスチュアート・ サザーランド(Stuart Sutherland:1927 – 1998)が1992年に著した「Irrationality(邦訳版)不合理 誰もがまぬがれない思考の罠100」です。私は2013年の発刊21周年記念版(英語版)を読んでいます。

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もう1冊は、カナダ生まれの認知心理学者であり、ベストセラー作家でもあり、ハーバード大学で心理学教授を勤めるスティーブン・ピンカー(Steven Pinker:1954 – )2021年著の「Rationality(邦訳版)人はどこまで合理的か」です。

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この2冊、タイトルが「Irrationality(不合理性)」と「Rationality(合理性)」と真逆ですが、2冊とも人の不合理性という同じ内容を扱っています。そして、それぞれが引用している文献や研究事例もだいぶ重複しています。

2人の著者のうち、著名なのはスティーブン・ピンカーの方で、本が売れているのも圧倒的に彼の方でしょう。ピンカーは数多くの受賞歴があり、過去に複数の雑誌で、世界で最も影響力のある100人などに選ばれています。
彼は、進化心理学(evolutionary psychology、適応主義心理学)と、心の計算理論(computational theory of mind)の提唱者です。
進化心理学は、人間のすべての行動は、私たちの先祖たちが生き残り繁栄するのに役立った身体的・心理的な要因を反映するというもので、つまり、心臓や肺や肝臓などの生理的機能が進化してきたように、人の心理的な機能も進化してきたと主張するものです。
心の計算理論は、計算主義(computationalism)とも呼ばれ、人間の心は一種の情報処理システムだとする理論です。

ただし、紹介すると言いながらなんですが、私はスティーブン・ピンカーの本をどうも好きになれないのです(汗)。好きになれないのは、彼の主張ではなく、彼の書き方です。
私の個人的な意見ですが、難しい言い回しやまどろっこしい抽象的な表現が多く、簡単なことでもシンプルにまとめない文章が続くせいで、自分の中で考えをまとめながら読み進めるのが難しく、とても疲れるのです。。。(すべて英語版を読んでの感想です。邦訳版は読んでいないため違うかもしれませんが)。
英語やそれぞれの専門分野に精通した人であれば、もっと簡単に読み進めることができるのかもしれません。
スティーブン・ピンカーはバイアスに打ち勝つには人間の理性や合理性が重要だと説き、そのために必要なのはクリティカルシンキングやゲーム理論、論理学などだと主張しますが、これらに関しても、この本を読むより、むしろ、それぞれの専門書や入門書を読んだ方がよく理解できるだろうと思います。
ただし、難しいからこの本の主張自体を否定するという不合理なことを言うつもりは全くありません。

一方のスチュアート・ サザーランドの本の方は、簡潔でストレートな表現で、変に脱線することもなく、不合理の事例を次から次へと紹介していきます。中には説明が軽すぎるため、その事例を事前に知らないと理解しにくいこともあるかもしれませんが、私はこちらのスタイルの方が断然好きですし、単に不合理事例を知るためであればこちらの本を選びます。
ま、人の嗜好はそれぞれ違いますし、個人的な意見ですのであまりお気になさらず、興味があれば2冊ともお読みください。こう書いている私自身の意見にも、この2冊が紹介しているような偏見やバイアスが影響していますから(笑)。

これらの本で取り上げている認知バイアスファラシーは、本サイトでも以前紹介しているので、今回は、まだ本サイトで紹介したことがなく、2冊の本が共通して取り上げているものをピックアップしていくつか紹介しましょう。

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コイン投げの事例

コイン投げを6回繰り返した次の3つの結果の中で、一番確率が高いのはどれでしょうか?

① 裏 裏 裏 裏 裏 裏
② 裏 裏 裏 表 表 表
③ 裏 表 表 裏 裏 表

多くの人は③が一番確率が高いと回答します。しかし、実は①、②、③、いずれも同じ確率です。
サザーランドはこの問題を間違ってしまう原因を「代表性ヒューリスティック(Representativeness error)」で説明しています。代表性ヒューリスティックとは、典型的なイメージや代表的な事例を頭に浮かべて物事を判断してしまうことです。この場合は③が典型的な結果で確率が高いと判断し、①と②は特別なケースだと間違って判断し確率が少ないと捉えてしまうのです。
ピンカーも同じコイン投げの事例を取り上げていますが、ピンカーは「クラスター錯覚(Clustering illusion)」の文脈で説明しています。クラスター錯覚は、サンプル数の少ないランダムな分布において、①や②のように連続したり集中するクラスター(群れ、塊)を、ランダムなものではないと間違って判断してしまうことです。

みなさんは、代表性ヒューリスティックやクラスター錯覚に陥らなかったでしょうか?

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基準率の無視(base rate neglect:事前確率の無視)

あることの確率について新しい情報を得た場合、その確率は新しい情報がまだない場合の確率と合わせなければなりません。その確率を基準率(base rate)事前確率(prior probabilities)と呼びます。
この確率の計算方法を定めた公式は、18世紀前半に活躍したイギリスの数学者トーマス・ベイズ(Thomas Bayes)によって提唱されましたが、この定理の古さにもかかわらず、私たちの多くはこの定理を使いこなせていません。医者、弁護士、経営者、その他専門家など知的に優れているとされる人たちでさえもです。
最もよく知られている事例の1つに次のようなものがあります。(1)

ある町には2つのタクシー会社があり、ブルータクシーが町の85%のタクシーを占め、残りの15%をグリーンタクシーが占めています。
あるタクシーがひき逃げ事故を起こし、その目撃者が「ひき逃げしたのはグリーンタクシーだ」と言いました。
しかし、目撃者がブルータクシーを間違って緑色だと認識してしまう確率が20%あり、その逆の確率も20%です。さて、事故を起こしたタクシーは、ブルータクシーか、グリーンタクシーか、どちらであった可能性が高いでしょうか?

みなさんはどう思いますか?
大多数が「グリーンタクシー」と答えますが、それは間違いです。

ブルータクシーを見て(85%の確率)グリーンタクシーだと間違える確率(20%)は、0.85 x 0.2 = 17%である一方で、グリーンタクシーを見て(15%の確率)正しくグリーンタクシーと判断する確率(80%)は、0.15 x 0.8 = 12%です。その他はすべてブルータクシーと判断するケースなので除外します。つまり、目撃者がグリーンタクシーだと思ったそのタクシーが実際にグリーンタクシーである確率は、12 / (17+12) = 41%しかないのです。
この誤りは、目撃者の証言に注意を払いすぎていて、その出来事に関する一般的な頻度(緑色のタクシーである頻度)に十分注意を払っていないことにあります。
つまり、「ひき逃げしたのはグリーンタクシーだ」という目撃情報に意識がいき、ブルータクシーとグリーンタクシーのそもそもの割合である基準率(事前確率)を無視しているのです。
そして、この基準率(事前確率)の無視(base rate neglectが、私たちにステレオタイプやバイアスを引き起こすのです。

最近の身近な同様の事例でいえば、コロナウイルスですね。
例えば、コロナウイルスで10人亡くなり、5人はワクチンを接種していたが、残りの5人は接種していなかったとします。これを受けてメディアは「コロナウイルスで亡くなった半分はワクチンを受けていた」というニュースを流すかもしれません。

しかし、これだけでは基準率(事前確率)のデータが不足しています。もし、全体の人数が1,000人だとして、そのうちワクチン接種している人が800人、していない人が200人だとしたら、ワクチン接種している人の死亡率は、5/800 = 0.6%、 接種していなかった人の死亡率は、5/200 = 2.5%になるのです。(2)

コロナウイルスワクチン導入の初期の段階では、ワクチンを接種した人が1人亡くなっただけでも大騒ぎになりました。ワクチンを打って亡くなった人がいるから、ワクチン接種をすべて中止すべきという主張があった時期がありました。
亡くなった方や遺族の方々にはたいへんお気の毒ですが、死者が出たからといってワクチン接種をすべて中止すべきというのも少し乱暴であり、合理的でないのです。正しく判断するにはその基準率を見なければなりません。つまり、亡くなっていない人のデータや、接種していない人のデータも見なければならないのです。私たちは基準率を無視して、稀な事例を全体に当てはめて判断材料にしてしまう間違いを犯します。

これは突出バイアス(Salience bias)とも言われます。コロナウイルス以外でも、ある治療方法の副作用で亡くなる人が出るような場合、人が亡くなるという感情を際立たせる突出した情報を私たちは強調してしまい、その治療方法がいかに多くの人たちを救うかというあまり目立たない情報は無視してしまうのです。

コロナウイルスに関しては、私たちが陥ったバイアスの事例がたくさんあります。そのうちいくつかを以前紹介しましたが、またの機会にまとめて紹介したいと思います。

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3枚のトランプの事例

最後に3枚のトランプの事例を紹介します。これも2冊の書籍両方で紹介しています。この問題は間違える人が多いだろうと思います。みなさんも是非お試しください。

3枚のカードがあり、1枚目は両面とも赤、2枚目は片面が赤で反対側が白、3枚目は両面とも白です。その3枚のうち1枚をテーブルの上に置きます。そのカードの赤い面が上に見えています。では、そのカードの裏面も赤である確率は何%でしょうか?

先を読み進める前にみなさんも是非考えて答えてみてください。何%になるでしょうか?

多くの人は、50%だと答えるでしょう。赤い面が見えていることで、両面が白のカードである可能性はゼロです。よって、このカードは残った2枚のカードのいずれかであり、その確率は50%、50%だと考えるからです。しかし、その答えと考え方は間違っています。

テーブルの上に置かれたカードの見えている赤い面は、①赤白カードの赤、②両面赤カードの片方の赤、③両面赤カードの他方の赤の3つの可能性があるのです。
3枚のカードの問題というよりは、下の図のように、赤白表裏合計6つの面に関する問題と捉えた方が分かりやすいかもしれません。

この6つの面のうち、テーブルの上に置かれたカードの見えている面が赤となるのは次の3つのパターンのいずれかです。そして、下図のように、そのカードの裏面も赤である確率は、2/3 = 66.7%になるのです。

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まとめ

以上、2冊の書籍が紹介する私たちの不合理事例の一部を紹介しました。しかし、書籍が紹介する事例数に対して、ここで取り上げた事例はあまりに少ないため(汗)、次回は特にスチュアート・ サザーランドの書籍から、他の事例も紹介したいと思います。

ピンカーは合理性が私たちを正しい方向に進めると主張します。私たちが自らのバイアスや不合理性の罠に陥らないためには、合理性を身に付け、理性で打ち勝つ必要があります。理性を得るためには、回想する能力や、オープンマインド、論理や確率を正しく利用できる能力が必要です。

しかし、ピンカーは、最近の傾向として、理性を評価しない傾向、合理性のイメージを人が良く思わない傾向を案じています。つまり、今の世の中では、理性的であることは、格好良いことではなく、クールでもドープでもないのです。人類はどんどん理性を軽視していくようであり、合理性や理論的な人たちは逆に煙たがられたり、ディスられるようになってきているのです。

ポスト真実(post-truth)の時代と言われることがあります。客観的な事実より個人的信条や感情が重視され、世論が形成されることです。つまり、事実の軽視化です。特にアメリカでは、トランプ大統領の登場後、この流れが加速してきているように見えます。ピンカーが書籍の中で紹介しているファラシー、感情への訴えかけ(Appeal to emotion)感情的な誤り(Affective fallacy)のように、「わたしが感情的に傷ついたからあなたが悪い」「私を不快にした君が悪い」など自分の感情を相手に対する判断の材料にしたり、相手の主張ではなく人格を否定する人身攻撃(ad hominem)による論法がはびこっているのです。

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参考文献
(1) Amos Tversky, Daniel Kahneman, “Judgment Under Uncertainty: Heuristics and Biases: Biases in judgments reveal some heuristics of thinking under uncertainty“, Science. Vol. 185. Issue 4157, Cambridge University Press. pp.1124–31, 1982.
(2) Edouard Mathieu, Max Roser, “How do death rates from COVID-19 differ between people who are vaccinated and those who are not?“, Our World in Data, 2021/11.

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