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書籍紹介:On becoming a person 人が人になること:カール・ロジャーズ

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  • 投稿の最終変更日:2023年1月22日
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心理療法の創始者のひとり、カール・ロジャーズの6つの重要な学びを紹介します。専門知識に依存するアプローチは直接的で魅力的に見えますが、せいぜい達成できるのは一時的な変化だけで、長期的には役に立ちません。必要なのは、人との関係であり、その関係において、自分に正直で、相手を理解したいと思い、その人がどんな態度であろうと相手を受け入れるほど、人はその関係を利用して成長できるのです。

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はじめに

カール・ロジャーズ(Carl Rogers, 1902 – 1987)は、アメリカの臨床心理学者で、心理療法(サイコセラピー、精神療法)の父の1人として、そして最も著名な心理学者の1人として広く知られています。

ロジャーズは、「マズローの自己実現理論(欲求5段階説)」で有名な心理学者アブラハム・マズロー(Abraham Maslow)とともに、ヒューマニスティック心理学(humanistic psychology:人間性心理学とも呼ばれます)の発展に大きく貢献しました。
1900年代半ばまで主流だった、フロイトの精神分析学(psychoanalysis)や、スキナーを代表とする行動主義(behaviorism)が、人間の異常性やネガティブな部分、後天的な経験や受動的な環境の影響にフォーカスしていたのに対して、第3の心理学(”third force” in psychology)として、主体性・創造性・自己実現といった人間が持つ肯定的側面を強調した心理学の潮流がヒューマニスティック心理学です。

ヒューマニスティック心理学を代表するマズローとロジャーズは人のポジティブな面に目を向けた点で共通点が多いですが、マズローが自己実現理論において、人が自己実現の欲求を達成する前に、ある種の基本的欲求(生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求)が満たされなければならないと強調したのに対して、ロジャーズは、人は生まれながら自己実現的な志向を持っているが、与えられた環境によってそれが促進されたり抑制されたりするとしています。
そして、人は、ある種の関係が与えられれば、その関係を自己の成長のために利用する能力を自分の中に発見し、変化と自己開発が起こるとしています。ロジャーズの言う成長とは、自尊心、柔軟性、自分と他人の尊重といった方向への動きを意味します。

そのロジャーズが、心理学者や精神科医やセラピストだけでなく、カウンセリングや心理療法に特別な関心を持っていない幅広い人たちを対象に、人が自己成長への道を見出すことを支援する、経験や学びをまとめた書籍が、彼の著書の中で最も有名な「On Becoming a Person(邦題)ロジャーズが語る自己実現の道」です。
ロジャーズは、セラピストにとって、「どうするか」という技術的な訓練よりも重要なのは、「どうあるか」という自己認識であり、必然的に、心理療法の専門家と一般の人たちの普通の生活との境界線は薄くなると言います。もし、ロジャーズのカウンセリングのアプローチ(パーソンセンタード・アプローチ:Person-centered therapy)の核をなす、自己一致、受容、共感が人間の成長に必要かつ十分な条件であるならば、それらはカウンセリングのみならず、教育、職場、友人関係、家庭生活などにも等しく幅広くあてはまります。

日本ではフロイトやマズローに比べ、カウンセリングの専門家以外への認知度が高くないロジャーズですが、1961年発刊後、本書は当時ではまだ珍しいミリオンセラーとなり、ワシントンDCの米国議会図書館によって「次世紀に残したい100冊の本」にも選ばれました。
本書でロジャーズは、悩みを抱えた多くの人たちと何千時間にも渡って親密に接した結果学んだことを紹介しており、その中でも特に「重要な学び(Significant Learnings)」を6点書き記しています。今回は、そのロジャーズの6点の学びを紹介します。

なお、私は、他の書籍と同様に本書も英語版を読んでいまして、日本語版との表現の相違がありましたらご了承願います。

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カール・ロジャーズの重要な学び:Significant Learnings of Carl Rogers

1.人との関係において、自分が自分ではない何かのように振舞うことは、長い目で見れば何の役にも立たない

本当は怒っているのに楽しんでいるかのように振る舞うのは助けにならず、答えを知らないのに知っているかのように振舞うことは役に立ちません。
敵対しているのに、あたかも自分が愛情深い人間であるかのように振舞うことも役に立ちません。
怯えていて自信のない自分が、確信に満ちているかのように振舞うのは、何の役にも立ちません。

ロジャーズが人間関係で犯す失敗、つまり他人の役に立てない原因は、何らかの自己防衛的な理由で、自分が、表面的にはある行動をとりながら、実際には逆方向に気持ちが動いていたり、見せかけの自分を維持しようとしているためだと説明しています。そのような関係では、短期的に問題が解決できたように見えても、長期的には役に立ちません。

2.自分自身の声に素直に耳を傾けることで、より効果的になれる

ロジャーズは、何年もかけて、自身の声に耳を傾け、自分に正直で、自分自身でいることができるようになれたと感じると書いています。
自分が怒っているとか、人を拒絶しているとか、人に温かい愛情を感じたり、退屈で興味をもてなかったり、この人を理解したいとか、人との関係に恐怖を感じているとか、これらはすべて、自分自身が耳を傾けられる感情です。
人は自分が望むように常に機能するわけではありません。不完全な人間である自分を受け入れるのです。言い方を変えれば、ありのままの自分を受け入れることです。

自分が自分らしくあることで、人間関係がリアルになりますもし自分が、相手にイライラしたり、退屈しているという事実を受け入れることができれば、それに対する相手の感情も受け入れられるようになり、自分と相手の変化した経験と感情を受け入れることができます。
真の人間関係は、相手との関係がありのままになり、固定されたものではなく、変化していくものです。

ここで大事なのは、「ありのままの自分を受け入れる」と聞くと「ありのままの自分を受け入れるから、それ以上成長する必要がない」と捉えてしまいがちな点ですが、そうではなく「ありのままの自分を受け入れるから成長できる」のです。逆に言えば、自分自身を受け入れない限り、そこから抜け出すことはできないのです。

3.他人を理解することを自分に許せるようになったとき、それが大きな価値を持つことが分かる

私たちは、他人が何か言うと、多くの場合、それを理解しようとするのではなく、すぐにそれを評価したり判断しようとします。私たちは、ほとんど条件反射的に「それは正しい」とか「それはバカげている」とか「そんなのありえない」と感じます。他人の発言がその人にとってどんな意味をもっているのか理解しようとすることはとても稀です。
なぜなら、他人を理解することはリスクが高いからです。もし自分が他人を本当に理解したら、自分自身を変える必要があるかもしれませんが、私たちはそれを望まないからです。そのため、私たちはお互いを理解し合うことをしません。

また、人は、自分がジャッジされていると思ったら、自分を変えることはできません。人は、自分の感情を誰か他人に理解してもらったときに、変わることができます。人に自分の気持ちを理解してもらうことで、その自分の気持ちを受け入れることができ、そうすると、自分の感情も自分自身も変化していることに気づくのです。理解されることは、人にとって、とてもポジティブな意味を持っているのです。

4.心のチャンネルを開き、他人がその人の感情や世界を伝えてくれるようにすることで、自分が心豊かになれる

ロジャーズは、患者との治療関係において、自分自身の態度によって、相手が自分自身を伝えやすくするような安全な関係を作ることができます。
ロジャーズは教師としても、心のチャンネルを開き、学生たちが自分と分かち合えることができれば、自分が豊かになれるということも知っています。教室に感情を表出できるような環境を整え、学生たちがお互いに、そして講師とも意見を交換できるような環境を作るよう心がけています。

マネージャーやリーダーも同じです。メンバーが自由に自分の感情を伝えることができるように、自分自身にある恐れや防衛の垣根を取り除いていくのです。

5.他人を受け入れられると、大きな報いを感じることができる

他人が私に敵意を抱くことを本当に許すことができるだろうか?
その怒りを、現実的で正当なものとして受け入れることができるだろうか?
他人が人生やその問題に対して自分とは全く違う見方をしている時、私は彼を受け入れることができるだろうか?

このように、他人を受け入れるということは簡単なことではありません。
私たちはつい「他の人たちは皆、自分と同じように感じ、考え、信じるべきだ」と考えてしまいます。
私たちは、特定の問題や課題について、自分の子供や両親、配偶者、友人、職場の人たちが自分とは異なる感覚や意見を持つのを許すことが非常に難しいと感じています。
しかし、ロジャーズは、この個人の分離、つまり、各個人が自分の経験を自分のやり方で利用し、その中に自分の意味を見出す権利、これこそが人生の最も貴重な可能性の1つであると思うようになりました。1人ひとりが、自分自身の「島」であり、他の島との間に橋を架けることができるのは、まず自分が自分自身でいることを望み、自分自身でいることを許されたときだけです。つまり、他人が持っている感情や態度や信念を、その人の本当の重要な部分として受け入れることができれば、その人が1人の人間になるのを助けることになるのです。

6.自分の現実と相手の現実にオープンであればあるほど、「物事を解決しよう」と急ぐ自分がいなくなる

自分自身と自分の中で起こっている経験に耳を傾けようとすればするほど、そして同じように相手の話を聞く姿勢を広げようとすればするほど、人の複雑で様々なプロセスに対して敬意を感じられるようになれます。それによって、物事を急いで解決したり、目標を設定したり、人を型にはめて自分の思い通りになるように操作したり、何かを押しつけようとは思わなくなります。

自分が自分であること、そして他人がその人であることに、満足するのです。
そして、逆説的かもしれませんが、自分がただ自分自身でいようと思えば思うほど、そして自分自身と相手の中にある現実を理解し受け入れようと思えば思うほど、変化がかき立てられるように思えるとロジャーズは書きます。私たち1人ひとりが自分自身でいようとするほど、自分自身が変わるだけでなく、自分と関わりのある他の人たちも変わっていくことに気がつくのです。これはロジャーズの経験の中でとても鮮明な部分であり、職業上、そして個人として、人生で学んだ最も深いことの1つだと記しています。

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まとめ

以上、ロジャーズの6つの重要な学びを紹介しました。これらの6つの学びは主に人との関係における学びに結びついているのですが、書籍では、人間関係とはあまり関係のない、ロジャーズ自身の行動や価値観に関わる学びも書き記しています。それらはまたの機会に紹介したいと思います。

ロジャーズは、専門家として働き始めたころは、「どうしたらこの人を治療できるのか、治せるのか、変えられるのか」と問いかけていました。しかし、知識、訓練、教えられたものに依存するアプローチは直接的で魅力的に見えるのですが、そのようなアプローチでせいぜい達成できるのは一時的な変化だけで、その効果はすぐに消えてしまい、長期的には役に立たないと気づきます。その人たちに対して説明し、知識を身につけさせることはできるのですが、そこで終わってしまうのです。

ロジャーズは、「この人たちが自分自身の成長のために使えるような関係を、どうすれば提供できるだろうか?」と問いかけなおしました。知性によるアプローチがうまくいかなかったことで、関係の中で経験することで変化が生まれると認識せざるを得なくなったのです。

ロジャーズは、人間関係において、自分が自分に正直であればあるほど、より助けになることを発見しました。そして、相手を理解したいと思い、その人がどんな態度であろうと、どんな行動をとろうと、どんな感情を持とうと、相手を受け入れるほど、相手がその関係を利用して成長できることを発見しました。
このようにして初めて、人間関係はリアリティを持つことができるのです。自分の中にある本物のリアリティを提供することによって、相手は自分の中にあるリアリティをうまく求めることができ、もともと持っている成長する力と成長したいという意欲を利用することができるのです。

そして、ロジャーズが半世紀以上も前に得たこれらの学びは今でも色あせない普遍的なものです。

 

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