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正常性バイアス、確証バイアス、突出バイアス、メディアバイアス。。コロナウイルスの様々なバイアス

  • 投稿カテゴリー:Change Management
  • 投稿の最終変更日:2021年12月16日
  • Reading time:8 mins read

私たちのコロナウイルスへの対応・意思決定は、データなど数字的証拠を元に決定された事もありますが、憶測や期待、バイアスなどの思考プロセスが大きな役割を果たしました。それは役に立ったり、立たなかったりして、時に事態を悪化させました。コロナに影響したバイアスはとても多く(汗)、そのうち5つに絞って紹介します。

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コロナウイルスは人間の様々な本能や思考を浮き彫りにする出来事でした(まだ過去形にしちゃいけませんが)。
コロナへの対処は、政治家、科学者、医療関係者、企業や個人事業者、その他多くの団体や一般の人たちがどう決断し、行動するかによって、大きく左右されました。
その決断と行動はデータなど数字的証拠を元に決定された事もありますが、憶測や期待、バイアスなどの思考プロセスが、意思決定で重要な役割を果たしました。
私たちの思考には、特定の方向に偏りがあり、それが役に立ったり、立たなかったりして、時に事態を大きく悪化させる働きをします。コロナに関しては多くの様々なバイアスが作用しました。

本サイトでもコロナウイルスの話題を断片的に扱ってきましたが、今回コロナウイルスに際して、私たちが目にし、そして自ら陥ってきたバイアス、思考のくせを振り返ります。全部紹介するとすごい量になるので、、、今回その一部だけを紹介します。

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正常性バイアス(Normalcy bias)

まず紹介するのは正常性バイアス(Normalcy bias)です。日本でもここ数年、台風や洪水被害時の避難行動に関して、よく引用されるようになったバイアスですね。異常な状態が起きても、正常な状態に固執し、今ある日常が続くと期待して、都合の悪い情報を無視したり、重大さを軽視するバイアスです。
「日本は大丈夫」「ここは大丈夫」「私は大丈夫」「う~ん、まだ大丈夫」。。。皆さんの周りでもよく聞いたのではないでしょうか?災害の際、70%もの人が正常性バイアスを示すという文献もあります(1)(2)

正常性バイアスは、変化への否定です(3)
正常性バイアスと同様のものに、「現状維持バイアス(Status quo bias)」、「分析麻痺(Analysis paralysis)」、「オーストリッチ効果(Ostrich effect)」などがあります。オーストリッチ効果は、ダチョウが危険を避けるために砂に頭を埋めるという話に由来しています(実際は違う事が分かっています)。下の写真のように、砂に顔を埋めたら周りの変化を見なくてすみますからね(笑)。

オーストリッチ効果(Ostrich effect)

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ところで、そもそもなぜ私たちにはバイアスがあるのでしょうか?
バイアスは私たちに役立つ面があるからです。例えば、正常性バイアスの反対は過剰反応ですが、過剰反応はリスクを避けるためには望ましい一方、普段ちょっと何かあっただけで、いちいち過剰に反応していたら、私たちの脳は疲れてヘトヘトになってしまいます。つまり普段危険がない時は正常性バイアスが働いていてもよいのですが、災害や事件など命に係わる緊急事態では不利に働く、私たちにとって最も危険なバイアスの1つです(4)
そのことを肝に銘じておき、緊急時にバイアスを克服する訓練をしておく必要があります。

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確証バイアス (Confirmation bias)

次は確証バイアス(Confirmation bias)です。
確証バイアスとは、人は、自分の信念や価値観に沿う情報、それを強化する情報を集める傾向があることです。
コロナウイルスでも、コロナをただの風邪だと信じたい人は、情報をクリティカルに捉えず、自分の考えを裏付ける情報を取り入れ、強化していきます。
ワクチンが危ないと考える人も同様で、ワクチンの副作用を示す情報を強調する一方で、ワクチンの安全性を示すデータは軽視します。
確証バイアスはコロナウイルスに限らず、政治や科学や社会の色々な問題に関連しています。インターネットやソーシャルメディアでも、自分の考えを増強したり、同じ思想の仲間を見つける事は簡単になりました。更にソーシャルメディア自体も、そのアルゴリズムで、閲覧履歴と反する情報の表示を自動的に減らしていくため、多様な意見に触れる機会を減らし、確証バイアスを強化する作用があります。

このバイアスを克服するためには、まず自分の考えを一度白紙にリセットして、物事の様々な点を俯瞰的に、オープンマインドで見る必要があります。私もこの文章を書くにあたっては、確証バイアスに陥らないように、最新のデータとコロナがただの風邪だという主張の両方を改めてフラットに見直してみました。

なおコロナウイルスは「コロナウイルス」であり、「ただの風邪」でも「インフルエンザ」でもありません。既知の分類に当てはめようとする私たちのバイアスを、「カテゴリーバイアス(Category bias)」と呼びます。

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突出バイアス(Salience bias, Salience effect)

セイリアンス・バイアス(Salience bias, Salience effect)の適切な日本語訳を見つける事が出来なかったので、取り合えずここでは「突出バイアス」と呼びます。
人間は、感情を際立たせる突出した情報をよく記憶する傾向があります。例えば、飛行機事故などのニュースがあると、その衝撃映像などで大きな感情的インパクトを受け、事故を起こした航空会社の利用を避けたり、飛行機そのものを避ける人もでます。しかし、飛行機事故は統計上極めてまれで、交通事故に巻き込まれる方が確立が高いのに、自転車に乗ったり車道の脇を歩くのをやめたりはしません。

ハロウィンのトリック・オア・トリートで、子供がお菓子をもらいに近隣の住宅を回っている際に撃たれたある地域の一つの事件は、突出バイアスにより、世界に広まり、世界中で多くの両親が子供たちの外出を制限する結果に繋がります。

先ほど確証バイアスで紹介したワクチンの副作用も、件数は非常に少なく、ワクチン接種が直接死亡に繋がる事を示すデータはほとんどないのにもかかわらず、副作用に関する感情的に突出した情報に接すると、その可能性と重大さをデータ以上にはるかに高く見積もって、ワクチン接種を避けるという行動に繋がってしまうのです。

「利用可能性ヒューリスティック(Availability heuristic)」や「利用可能性バイアス(Availability bias)」も同様の思考の偏りを表すバイアスで、私たちが意思決定を行う際に、すぐに思い浮かぶような情報を安易に使ってしまう傾向があることを表します。感情的に際立った情報、特にネガティブな情報は、たとえそれが証拠のないものであっても、私たちは容易に意思決定に利用してしまうのです。
「利用可能性バイアス」を逆から見ると、例えば、中国、韓国、台湾、ベトナムなどは、過去にSARS(サーズ)の苦い経験があり、当時の情報の利用可能性が残っていたため、コロナ対応の初動が早かったとも言えます(5)

図:突出バイアス(Salience bias, Salience effect)

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メディアバイアス(Media bias)

メディアバイアス(Media bias)は、メディアが情報を伝えるときに、情報源のどの部分を取捨選択して伝えるかによって生じるゆがみで(6)、コロナでも大きな影響をもたらしました(7)。ソーシャルメディアは従来のメディアより情報が拡散するスピードが速く、間違った情報でも一気に広がってしまいます(8)

危険を指摘することはマスコミの重要な役割ですが、強調し過ぎて報道することで、市民に過剰な反応を起こすことがあります。
東京オリンピックへのメディアの当時の対応は偏り、しかも大きく振れました。オリンピック直前は、オリンピックに否定的な報道やコメントを盛んに取り上げたものの、オリンピックがいざ始まると、コロナと関連付ける報道はピタッと鳴りを潜め、日本人選手の活躍を称えオリンピック一色になります。そしてオリンピックが終わると、またオリンピックとコロナを紐づけて結論づけ始めるだけでなく「メダルラッシュの陰で老夫婦が孤独死」など全く関係ないネガティブな出来事までオリンピックに結び付けた報道すらありました。
メディアには、解決策を提示することよりも、世の中の問題点を強調し、危機を叫ぶ人たちを取り上げる行動原理があります。
しかし、メディアが国民に及ぼす影響はとても大きく、特にパンデミックでは情報が危うい事態に火を注ぐ可能性もあるので、是非メディアに関わる方々にはその重要さを認識し、バイアスについて改めて学んで頂きたいと思います。

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後知恵バイアス (Hindsight bias)

最後に紹介するのは後知恵バイアス(Hindsight bias)です。
何事も物事が終わってから言うのは簡単です。「コロナ対策はやりすぎだった!」「対策は甘すぎた!」、終わった後なら誰にでも言えます。しかし、物事が始まる前には誰も断言できません。

仮に、コロナ中、行動制限もせず、マスクもつけず、手も洗わず、ワクチンも接種せず、毎日飲み歩いて、コロナにかからず乗り切ってしまった人がいたとしましょう。コロナ収束後、その人は、後知恵バイアスで「だから何もしなくても大丈夫だと言ったろう!」と意気揚々です。しかし、結果として運良くコロナにかからなかったからそう言えるだけで、運悪くかかってしまっていたら何も言えませんし、1人の1回の結果を全員や次回の自分にそのまま当てはめる事もできません。インフルエンザだって、毎年のようにかかる人もいれば、数年に1回しかかからない人、ほとんどかからない人もいますよね。

また、終わった後は結果が明らか=「確か」になるので、コロナ中事態がいかに「不確実」だったかを多くの人がすぐに忘れてしまいます。後知恵バイアスは集団の記憶を侵食し曲解させます。

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最後に

コロナウイルス以外にも過去に同様の感染症の世界的なパンデミックは何度もありましたが、教訓は時と共に忘れ去られます。今回紹介した「突出バイアス」や「利用可能性バイアス」のように、時間が経つに連れて印象や利用可能性が薄れていくからです。これは「健忘バイアス(Amnesia bias:これも日本語訳が不明なので、とりあえずそう呼びます)」とも紹介されます(9)(10)
コロナで特に欧米で見られるワクチン義務化と市民たちの抵抗でさえ、1800年代からイギリスで見られ、以後繰り返されてきました(11)
時間が立つと私たちの経験とその教訓は風化してしまい、活かす事が出来なくなるのです。

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参考文献
(1) Amie Gordon, reviewed by Lybi Ma, “How Psychological Biases Shaped My Response to This Pandemic“, Psychology Today, 2020/3.
(2) Esther Inglis-Arkell, “The frozen calm of normalcy bias“, Gizmodo, 2013/5.
(3) Helen Lee Bouygues, “Everything You Need to Know About Normalcy Bias“, Reboot Foundation
(4) Gerold, “Beware Your Dangerous Normalcy Bias“, Gerold’s Blog, 2013/4.
(5) François Lechanoine, Katlyn Gangi, “COVID-19: Pandemic of Cognitive Biases Impacting Human Behaviors and Decision-Making of Public Health Policies“, Frontiers in Public Health, 2020/11.
(6) “Media bias“, Wikipedia
(7) Jonathan Spiteri, “Media bias exposure and the incidence of COVID-19 in the USA“, BMJ Global Health, 2021/9.
(8) Preslav Nakov, Giovanni Da San Martino, “Fake News, Disinformation, Propaganda, Media Bias, and Flattening the Curve of the COVID-19 Infodemic“, 27th ACM SIGKDD Conference on Knowledge Discovery & Data Mining, 2021/8.
(9) Robert Meyer, Howard Kunreuther, “The Ostrich Paradox Why We Underprepare for Disasters“,  Wharton School Press, 2017/2.
(10) Adam Foley, “Not Quite Six Feet Apart: Bias in a Pandemic“, University of Delaware, 2020/5.
(11) Robert Wolfe, Lisa Sharp, “Anti-vaccinationists past and present“, BMJ Clinical Research, 2002/8.
(12) Kawthar Mohamed, Niloufar Yazdanpanah, Amene Saghazadeh, Nima Rezaei, “Cognitive Biases Affecting the Maintenance of COVID-19 Pandemic“, Acta Biomed, Vol. 92, N. 2, 2021/4.

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