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変革のケーススタディ:チェンジ・グリッド「拒絶 ➡ 抵抗 ➡ 探求 ➡ コミットメント」

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2022年9月19日
  • Reading time:6 mins read

ケーススタディ(製造販売会社A社の事例)と共に、人が変わっていくためにはどのようなプロセスを踏む必要があるのか、個人の変化は「拒絶 ➡ 抵抗 ➡ 探求 ➡ コミットメント」であるという「スコットとジャフィの変革グリッドモデル」を使って見ていきます。

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ケーススタディ:製造販売会社A社の事例

下図はある製造販売会社A社の組織図ですが、約1年ぶりに本サイトに登場です!

図:製造販売会社A社の組織図

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山口製造課長は、この仕事に就いて15年になりますが、入社以来同じ製品を作り続けてきました。製品の改良や製造方法の改善は重ねてきたものの、基本的にはずっと同じような仕事をこなしています。山口製造課長は社内で製造に関するノウハウを最も知り、尋ねられて答えられない質問はありません。山口製造課長は仕事もよくでき、まじめで信頼も厚く、自分がやっている仕事にとても満足していて、誇りを感じています。

しかし、製品の需要は年々落ち込んできており、将来的には新しい技術に取って代わられるでしょう。会社の業績も右肩下がりです。佐藤社長を筆頭に営業部や開発課は、物事をややこしくするだけの気難しい鈴木事業部長はスルーして(笑)、山口製造課長に、市場に見合った新しい製品導入の必要性を訴えかけます。しかし、そのノウハウは社内にはありません。山口製造課長も当然その技術を全く知らず、従来の技術を改善し続けていけばまだまだ大丈夫だと主張します。

会社は、信頼できる山口製造課長に会社の未来を担ってもらいたいと考えていますが、視野を広げるための社外のワークショップやセミナーなどを紹介しても参加しようとせず、自分の持っているスキルで十分だと答えます。

なんとか山口製造課長に考え方を変えてもらわなければなりません。どうすれば良いでしょうか?

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スコットとジャフィの変革モデル:チェンジ・グリッド

下図は、シンシア・スコット(Cynthia Scott)とデニス・ジャフィ(Dennis Jaffe)が1988年に紹介した変革モデルで、チェンジ・グリッド(Change Grid)や移行カーブ(Transition Curve)などと呼ばれます(1)

図:スコットとジャフィの変革モデル:チェンジ・グリッド

このモデルによると、個人の変化は「拒絶 ➡ 抵抗 ➡ 探求 ➡ コミットメント」のプロセスを通らなければ達成できません。このモデルは、1969年に医師のエリザベス・キューブラー・ロス(Elisabeth Kübler-Ross)が発表した「5段階の死の受容モデル」を参考にしています。キューブラー・ロスは200人の死にゆく患者との対話の中で、人が死を受け入れるのには「否認 ➡ 怒り ➡ 取引 ➡ 抑うつ ➡ 受容」という5つの段階のプロセスがあると発見しました(2)

なお、チェンジ・グリッドの左側の「拒絶、抵抗」の段階では過去にフォーカスがある一方、右側の「探求、コミットメント」の段階では未来にフォーカスがあります。また、上側の「拒絶、コミットメント」は外部環境にフォーカスがある一方、下側の「抵抗、探求」の段階では自分の内面にフォーカスがあります。人は感情を伴わず変化する事はできず、この内面の対応がとても大事になりますが、その一方で多くの組織の取り組みで欠如している部分でもあります。

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1.拒絶(Deny)

山口課長が今いるのは「拒絶」の段階です。変わらなければならないという事実、情報、状況があっても、それに深く注意を払わず目を背け、今まで通りの仕事を続けます。図らずしも目に入ってしまった情報は軽視したり、自分に都合良く解釈したり、そのリスクを過大評価してブロックし、今のままで十分だと考える状態です。

拒絶を乗り越えるには、状況を正しく理解する本人の「気づき」が必要です。
この気づきは、いったん気づいた人には容易に理解できるのですが、気づく前の人は「何に気づけばよいのか」「なんで重要なのか」が分からないため、越えることのできない高い壁として立ちはだかります。むしろ目の前に壁があり進むことができていないことにさえ気が付いていないのです。
特に現状維持バイアスが強く、過去の成果に執着し、好奇心や学習意欲の低い人は、「気づく」きっかけを得る機会が少なくなります。

会社が山口課長に対して出来ることは、なぜ変化が必要か、現状を続けた場合将来どうなるか、信憑性が高く説得力のある情報に様々な媒体を通して触れさせることや、気づきを促す対話の創出です。ただし、いつ「気づく」かは誰にも分からず、どんなきっかけで気づくかも人それぞれで、他人が強要できません。時間を与えることが必要で、会社ができるのはそのサポートです。

皆さんにも、ある時ふと「あっ、そういうことだったのか!」と気が付き、腑に落ちる事ってありますよね。周りの人からは「だから何回も説明したじゃないの!!」と言われてしまいますが(笑)本人は気が付くまで分からないのです。事前に「〇月までに気づきを得る」と計画することもできません。

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2.抵抗(Resist)

拒絶を抜け出し現実を直視できても、それがすぐ「変わる」につながるわけではありません。「拒絶」を乗り越えても、「抵抗」の壁が立ちはだかります。現実を認めてしまえば、その先に進まなければなりませんが、その先が見えず、進み方が分からないのです。現実を直視できても、そこからどうしたらよいのかが分からないのです。そこにあるのは未知への恐怖や不安で、その結果、非現実的な妄想にしがみつき、前に進むことに抵抗するのです。

ここでも引き続き情報の提供と対話が必要で、また新しい未来に進むためには新しいスキルが必要になるはずですから、スキル習得のためのトレーニングの機会等を提供します。それによって、少しづつ先に明かりが見え始め、やるべきことがより具体的にイメージできるようになります。

また、会社としては、スキルアップなどを山口課長だけに押し付けるのでなく、主体的に自らが変化していく様を示さなければなりません。山口課長より上位の人間、特に社長には行動で示すことが強く求められます。
もし社長を含め、会社の誰もやるべきことが分からなければ、その事実を認め、全員で前に進んでいくしかありません。

抵抗を克服するにも時間が必要です。組織は往々にして、「拒絶」から「コミットメント」に一っ飛びに移行することを従業員に強要しますが、感情的に付いていけず、「拒絶」から動くことさえできなくなります。
抵抗のプロセスを進めると、不安定な状態になり、生産性も落ちるかもしれません。というか、従業員自ら感情面で変化に対応するためには一度「落ちる」必要があるのです。チェンジ・グリッド図の「Uの字」は、その「落ちる」状態も表すものでもあります。

山口課長のように自他とも認める優秀な人間は、「知らない」と言うことに抵抗があり、新技術の導入は山口課長が築き上げてきた様々なモノを捨てることを意味します。その点では部下と同じレベルに落ちることになりますが、築き上げてきた地位とプライドがそれを許しませんし、いつものように対応できない自分にイライラも募ります。
この段階では、会社は従業員の思い、悩みを良く聞き、心配を受けとめなければなりません。サポートは誠実で無ければならず、言動の不一致、誤解を招くような曖昧さ、部下に押し付ける、強制があってはいけません。このサポートが多くの組織で欠落しているのです。

図:「拒絶」から「コミットメント」への直線移動はできず、変化は「Uの字」を経る必要がある

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3.探求(Explore)

抵抗の段階を乗り越えると、やるべきことが少しづつ見えてきますが、同時にやるべきことの多さ、大変さも見えてきます。スキルを習得しながら進んでいきます。この段階を乗り越えていくと、未知の中での進み方が自分で見えるようになりコントロールできるようになるので、自信が生まれます。他方、非常にデリケートな段階でもあります。ペースが速すぎるとついて行けずに、前の「抵抗」の段階に逆戻りしてしまうこともあります。
変化への見方も、当初の否定的なものからポジティブなものに変化していき、新しいことへの挑戦を恐怖ではなく、機会と捉えることが出来るようになってきます。会社としてはその歩む道を外させないように、目的地であるビジョンを従業員共々しっかりと見据えることが大切です。

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4.コミットメント(Commit)

前段階で、変化の良い面を探求し始め、自分のものとして消化し、外部環境を素直に真正面から受け入れられるようになると、自分たちの将来あるべき姿に対してやらなければならないことが見えてきて、自分事として当事者意識を持って考え対応できるようになります。それがコミットメントがある状態です。
山口課長もここまでくれば、イキイキと新しい挑戦に取り組んでいることでしょう。

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最後に

今回は、チェンジ・グリッドを紹介しましたが、実は同じような変革のプロセスを示すモデルは過去にもいくつか紹介してきました。人の「変わる」は感情的、心理的な要素が大きく、1つのモデルがピッタリハマることはないかもしれず、色々なモデルに触れることで何か「気づき」があるかもしません。音楽や勉強の仕方にも人それぞれ嗜好があるように、モデルにも合う合わないがあります。改めて他のモデルも振り返って頂ければと思います。

ジョン・コッター:変革の8段階のプロセス
レヴィン・モデル:「解凍 ➡ 変化 ➡ 凍結(Unfreeze ➡ Change ➡ Freeze)
ProsciのADKAR®モデル:「認知 ➡ 欲求 ➡ 知識 ➡ 能力 ➡ 定着」
あきとモデル:「認知 ➡ 比較 ➡ 支持 ➡ オーナーシップ

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参考文献
(1) Scott, Cynthia D., and Dennis T. Jaffe. “Survive and thrive in times of change.” Training & Development Journal, vol. 42, no. 4, 1988/4.
(2) “Five stages of grief“, Wikipedia

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