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チェンジコミュニケ―ションその3:ベストプラクティス

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年4月30日
  • Reading time:7 mins read

組織内のコミュニケーションに問題を感じていない従業員はいないでしょう。業務上重要な要素であるのに、他の課題に目が向き、コミュニケーション自体の問題は対処されません。それを語る企業文化がなく、スキルや知識もなく、勇気も自信もないからです。コミュニケーションの対処だけでなく総合的なアプローチをしなければコミュニケーションは改善しません。

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コミュニケーションは、日々の組織の活動の最も重要な要素の1つであるのにも関わらず、あまりに多くの組織の関心が技術的な課題やビジネス上の課題にばかり向いていて、コミュニケーションの問題はおざなりにされています。
膨大な情報の中から重要な情報を見極め、新しいコミュニケーションの手段(チャンネル、メディア、ツール)が増える中、適切な手段を選び、組織の言葉として発信し共有する事の重要性が増しています。
コミュニケーションを通して、組織の目的を共有し、働きやすい環境を作り、生産性を上げる事は喫緊の課題です。

それにも関わらず、コミュニケーション自体を改善する事には目が向けられません。
組織の変革に伴うチェンジコミュニケーションは、通常の業務遂行上のコミュニケーションより更に難易度が高く、意識的な対応が必要です。
前回コミュニケ―ションプランを紹介しましたが、今回はチェンジコミュニケーションで重要なベストプラクティスを紹介します。
変革の取り組みはそれぞれ異なり、画一的な対応はあり得ないので、万能な解決策と受け止められかねない「ベストプラクティス」という言葉に私は違和感があるのですが(汗)、便宜上使用させて頂きます。

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1.透明性が高く誠実で信頼できる情報

まずメッセージを発信する上で重要なのは、信頼できる確かな情報を利用する事です。
信用できない情報や、裏と表があるような不誠実なメッセージ、一貫性がなく矛盾するメッセージ、送り手に都合良く受け手に押し付けるような一方的なメッセージで、メッセージの受け手である従業員を含めたステークホルダーに不信感を与えた場合、受け手は変革に対するコミットメントを発揮できないどころか、抵抗に転じ、変革は失敗に終わります。
変革の取り組みを成功させるには、外部環境や組織の実情、課題を包み隠す事なく伝える、透明性が高くオープンなコミュニケーションが必要です。
そのためには、メッセージの送り手自身が誠実であり、変革のオーナーシップを持っていなければなりません。リーダーが組織の目的を自分事として捉え、リーダー自らが自らの言葉を実践する必要があります。曖昧な情報に翻弄される要因の一つは、そもそも目的が曖昧で、リーダー自身が変革の理解もコミットメントも持っておらず、対処する意志も能力もないのにそれを認めないからです。

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2.信頼できる送り手が発信する

従業員にとって、マネージャーやスーパーバイザー(監督者)は最も信頼できる情報源です。従業員が最も頻繁にやり取りする直属の上司が、多くの場合適切な変革の情報発信者になります。
社長や経営層など組織のリーダーは、末端の従業員一人一人と直接個人的な関係を持っておらず、業務の詳細にも通じていません。実務の詳細への影響を含んだり、個々の事情に寄り添うリアルタイムなメッセージが必要な場合、従業員に直接メッセージを送る発信者として適切でない場合があります。リーダーが組織の末端の詳細な実状を把握しているのなら自ら発信するのは良いでしょう。しかし、実状を知らないなら、的の外れた現場レベルのメッセージを発信して反感を買う事は避けた方がよいでしょう。
一方で、なぜ変革が必要か、変革が組織にどういう意味を持つのか、変革の目的やビジョン、その背景となる外部環境の説明など、組織の視野の高いハイレベルなメッセージの発信者としては経営者や上級管理職は最適です。

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3.ステークホルダーのメリットに寄り添う

英語で「WIIFM」という言葉があります。「What’s In It For Me?」の頭文字を取ったもので「で、その話、私にはどういうメリットがあるの?」という意味です。
以前「変革は「認知 ➡ 比較 ➡ 支持 ➡ オーナーシップ」を踏んでのみ成功する」で紹介したように、変革によって一人一人にもたらされるメリットがデメリットより大きくなければ、従業員は自分事として取り組むことはできません。
従業員を含むすべてのステークホルダーの「WIIFM」を明確にします。多くのステークホルダーは、変革の必要性とそれが組織にどのように役立つかは頭では理解しています。しかしそれだけでは不十分です。影響を受ける部署やグループ、そして一人一人の個人レベルで、変革がどのようなメリットがあるのかを知る必要があります。そのためには、従業員の置かれた環境や、価値観を学ぼうとする姿勢も大切です。
「WIIFM」はグループや個人によって違います。メッセージもそれに合わせて変える必要があります。全く関係性のないメッセージを送っても、受け手は白けるだけです。

共感できるストーリーを語る事も必要です。外部環境や変革の目的、ビジョンの説明はもちろん重要ですが、それと同時に、個人の感情に訴えるストーリーも時として必要です。それは、従業員や他のステークホルダーの心を動かす組織の実際の出来事です。ただし残念ながら、メッセージの送り手に変革へのコミットメントがなければ、相手の心に届くストーリーを語る事はできません。

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4.適切なチャンネル(メディア、ツール)を使う

前回の記事で、コミュニケーションはその目的を設定する事が大事と述べました。そして、その目的の達成を支援できるコミュニケーションのチャンネル(メディア、ツール)を選択しなければなりません。信頼できる確かな情報を、適切な人が適切な媒体で発信します。

電子メールやイントラネットを従来の延長線上のまま何となく使っていませんか?

折角、メッセージ作りに時間とエネルギーを注いだのに、メッセージを送るチャンネルにはほとんど注意を払わず、効果の薄い方法でメッセージを発信してしまう事はよくあります。

恐らく多くの組織で最も多用されている電子メールは、変革のオーナーシップ(認知 ➡ 比較 ➡ 支持 ➡ オーナーシップ)の初期の段階、つまり「認知(Awareness)」の段階で、メッセージを一気に拡散したり、対面でのメッセージを強化したり、話の要点をまとめ共有する目的では効果的です。しかし、電子メールで長い文章を送って、変革の理解を一方的に求めたり、変革への「支持(Acceptance)」、「オーナーシップ(Ownership)」を期待しても効果は限定的です。
また、
同じメッセージを同じ媒体で何度も繰り返しても、受け手は次第にメッセージの詳細には気を留めなくなっていきます。メールの受け手は最初のくだりをざっと眺めるだけで最後まで読みません。更にしつこく受け手に響かない曖昧なメッセージを繰り返した場合は、開く事もなくゴミ箱に移動されるようになります。
重要なメッセージは、1つのチャンネルに頼らず、複数のチャンネルを通して、チャンネルの特性に合わせて変えて発信するのが効果的です。(1)

イントラネットは双方向で効果的に使えば効果もありますが、掲示板機能やオンライントレーニングなど一方的なメッセージの発信に終始し、同じような使い方を繰り返すと、電子メール同様ほとんど効果がなくなります。

SlackやTeamsなど様々なコミュニケーションのプラットフォームが利用可能になってきています。このようなオンラインのチャットやフォーラムを使用すると、組織の縦割構造の弊害をバイパスしたディスカッションを促進する事ができます。
ソーシャルメディアやチームコラボレーションアプリは、人々が意見や経験を共有し協業する場所です。従業員が意見を述べる事を容易にし、組織に影響を及ぼす事ができる非公式なスペースと機会を提供することは、取り組みへの参加意欲を高めます。
また、変革を支援するインフルエンサーやアーリーアダプター(早期導入者、オピニオンリーダー)を発見する事も容易にします。逆に変革に否定的な意見を発信する人も見つける事ができるでしょう。そのような人物を早期に特定し、なぜ否定的なのかを突き止める事は変革を成功させるためにとても重要な情報を与えてくれます。(2)(3)

一方で、これらの新しいツールを導入する上で厳禁なのは、ツールの必要性や目的を検討し明確にする前に、ツールを導入してしまう事です。「馬車を馬の前に置く(Put the cart before the horse)」ということわざがありますが、「他の会社が導入しているから」などツールの導入自体が目的になってしまうと、ツールが持つ効果をほとんど発揮できず終わっていく事もあります。

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5.適切な量と頻度のコミュニケーション

日々膨大な情報が発信され、情報があふれている時代と言われる一方で、多くの従業員は組織内のコミュニケーションは不足していると感じています。
変革を実現させるためのチェンジコミュニケーションは、通常業務よりはるかに多くのコミュニケーションを必要とします。
頻度が少なく、不定期なコミュ二ケーションは問題です。コミュニケーションの種類にもよりますが、週一回などできるだけ定期的なコミュニケーションの設定が望まれます。

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6.フィードバック、フィードバック、フィードバック

とにかくフィードバックです。フィードバックがなければ、双方向コミュニケーションは成り立ちません。ミーティング、チャット、フォーラム、サーベイなど双方向のチャンネルを利用した場合は、必ずフィードバックを行います。フィードバックは可能な限りすぐ行う事を心がけます。不要に長いタイムラグはノイズとなって、誤解や噂を生じたり、士気を下げる原因になります。
コミュニケーションプランは定期的にその効果を評価しますが、フィードバックを得る事は、コミュニケーションプランを評価する上でも有益な情報源です。

また、適切なフィードバックを行うためには、相手の言う事を良く聞かなければなりません。
従業員が変革に無関心である大きな要因は、「自分には取り組みに関して何に影響力もない」と感じる事です。従業員は、自分の気持ち、意見、懸念、経験などについて、公式または非公式のグループで話すことができる時、そしてそれがその場限りで右から左に聞き流されるのではなく、きちんと聞き入られていると感じる時、変革に影響を与える声を持っているように感じます。

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さいごに

以上、3回に渡り、チェンジマネジメントにおけるコミュニケーションである、チェンジコミュニケーションを紹介しました。冒頭でも紹介した通り、多くの会社ではコミュニケーションに問題があるにも関わらず、それが議論される事はほとんどありません。コミュニケーションに問題があると心の中では分かっていながら会社のリーダーでさえ言い出せないのは、コミュニケーションについて語り合う事を可能にする企業文化がなく、そのキャパシティ(スキル、知識)もなく、勇気も自信、心理的安全性もないからです。チェンジマネジメントは総合的、全体的なアプローチです。コミュニケーションを改善させるには、コミュニケーションの処方だけでなく、他のエリアと連携して取り組みを進める事が必要です。

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参考文献
(1) Hewitt, P., “Electronic mail and internal communication: a three-factor model”, Corporate Communications: An International Journal, 11(1) 78-92, 2006/1
(2) Susan Fouché, “Considered Social Media as a Change Management Channel yet?“, 2016/9
(3) Sarah Jensen Clayton, “Change Management Meets Social Media“, Harvard Business Review, 2015/11
(4) Alicia Sewestianiuk, Oana Voitovici, “Managing strategic communication: An organizational case study on internal communication channels at Ericsson Göteborg”, University of Gothenburg Department of Applied Information Technology Gothenburg, Sweden, 2013/8
(5) Khadim Batti, “7 Best Practices in Change Management Communication“, whatfix, 2019/9

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