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なぜルールでは社会や組織の文化や規範を変えられないのか?

  • 投稿カテゴリー:Change Management
  • 投稿の最終変更日:2021年11月23日
  • Reading time:6 mins read

例えば、長時間労働のように、法律や規則などルールを作っても変わらない社会や組織の仕組みがあります。原因は、ルールの効果が十分でない事、長時間労働の見方を完全に変えていない事、定時で帰るなど新しい行動(記述的規範)が十分に形成されず、従業員への長時間労働の期待や評価(社会的規範)が抜けきらないからです。

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はじめに

社会や組織が変わるためには規範(ノーム)の変化が必要です。
社会規範(ソーシャルノーム)は、社会や組織などグループで共有され、許容される行動のルールです。規則や法律など公式に決められてるルールもあれば、暗黙に共有されているルールもあります。
例えば、朝会社に出社して「おはようございます!」と挨拶し合う規範を持つ組織もあれば、そうでない組織もあります。会議で自由な意見の交換ができる規範を持つ組織もあれば、そうでない組織もあります。

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ルールを変える事が、規範を変える効力を持つには?

では規範を変えるためにはどうすればよいでしょうか?
考えられる方法はいくつかありますが、その1つがルールを作ったり変えることです。ルールとは法律や組織の規則を含みます。

ルールを変える事が、規範を変える効力を持つには、まずはじめに次の条件が必要です(1)(2)

  • ルールの正当性
  • 手続きの公正さ(ルールがどう作られ、実施されるか)

正当性とは、ルールを作る人たちが、そうするにふさわしい人間かどうか、人がそれを認める事です。通常、議会や裁判所は立法や司法権を行使するふさわしい立場にあると認識されています。しかし、隣の家のおじちゃんが勝手に国や町のルールを作っても誰も相手にしません。隣のおじちゃんにはその正当性がないからです。

組織の例で言えば、リーダーが、従業員には「これをやれ、あれはやるな」と規則で縛る一方、自分は決めたルールを守らないような人の場合、他の人たちは正当性を感じる事ができず、ルールは守られません。

法律の例で言えば、途上国などの腐敗防止キャンペーンは、効果のない法的介入例です。このような法律は、政権の思惑や利己的な動機によって、政治的に微妙な時期に制定されたりしますが、そのような法律を作る本人たち自身が汚職に関与しているので、まったく正当性がありません。

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罰則規程による抑止力:時間外労働の上限規制の事例

規則や法律などのルールを作ることで期待される効果は、①罰則規程による抑止力(または報奨)と、②グループの規範を変えることです。
罰則規程は、罰則を導入すれば、その他の部分に変化がなければ、罰則の対象となる行動の発生を抑制できるというものです。しかし、必ずしも効果があるわけではなく、時に罰則規程による抑止力は諸刃の剣となります。

例えば、働き方改革の一環で厚生労働省によって、年間720時間、月間100時間、複数月平均80時間など、時間外労働の上限規制が設けられていますが、長時間労働の問題は根が深く、なかなか無くなりません。なぜなのでしょう?

その理由としてまず罰則の軽さがあります。時間外労働の上限規制に違反した場合の罰則は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です。
2015年に過労自殺した当時電通新入社員の高橋まつりさんに関する裁判で、電通に下された罰金は50万円でした。年間1兆円売り上げるような会社にとって、50万円は金額としては何の意味もありません。1人の命の代償が従業員1か月分の給与より低いのは悲しいですね。
6か月以下の懲役も、この事件で起訴猶予処分として処理されたため、抑止力として働きません(3)

会社の規模は様々なので、一律いくらではなく、前年売上の〇%などにできれば、抑止力として効果はかなりありそうです。しかし、一方で一気に厳しくすると、今度は初めに紹介した正当性が疑われたり、正しく手続きされない恐れがあるため、段階的な引上げ等が望まれます。
厚生労働省は、違反の程度によって企業名を公表することもあるとしていますが、実際にそうすれば抑止効果はあるものの、行使しないことが分かれば絵に描いた餅に終わります。

罰金やペナルティは、その規則を破ることの「価格」です。
高ければやめようと思いますが、安ければ別にいいかと思います。高くてもそれが実施されなければ別にいいかと思います。価格が低すぎると、抑止力として働かないだけでなく、そのルールの重要性が低いというメッセージまで与えてしまい、逆効果にもなり得ます。

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罰則規程による抑止力:イスラエルの保育園の事例

別の事例として、イスラエルのいくつかの保育園で、保護者が子供を迎えに来るのがよく遅れるので、遅れてきた保護者に僅かな罰金を課すことにしました(4)
その結果、遅れてくる保護者の数は減ったでしょうか?実は減るどころか逆に大幅に増加したのです。多くの保護者が、僅かな罰金を払えば時間までに迎えに行かなくてもよいと考えたのです。
面白いのは、事態が悪化したので保育園は罰金を取りやめたものの、その後、遅刻する保護者の数は元通りには戻らなかったことです。遅れて迎えに行くことに慣れてしまい、時間通りに迎えに行かなければならないという従来あった保護者のモラルが低下してしまったのです。また、次に説明する「他の人たちもやっているからいいか」という記述的規範が生まれてしまったのです。

先ほど、「罰則を導入すれば、その他の部分に変化がなければ、罰則の対象となる行動の発生を抑制できる」と書きました。しかし、この「その他の部分に変化がなければ」という条件を満たすのは難しいのです。罰則でなく、ある行動を奨励するためにインセンティブ(報奨)が設定される場合もありますが、この原理は同じく当てはまります。

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規範を変えるステップ

話を先ほどの長時間労働の問題に戻しましょう。
長時間労働の問題の解決には、企業内の社会規範の変化が必要です。ルールだけでは社会規範を変える効果は限定的です。
以前紹介したように、社会規範が成立するという事は、特定の集団的行動が共有されているという事を意味しますが、それが成立するためには、①他の多くの人たちがやっているからという経験的期待(記述的規範)と、更に②他の人たちがグループの人たちにそう期待するからという規範的期待(社会的規範)が必要です。

図:集団的行動の分類
adapted from (5)(6), Bicchieri and Penn Social Norms Training and Consulting Group

 

長時間労働のような規範を撲滅するためには次の1から6のステップが必要で、これによって古い社会規範が放棄され、新しい社会規範が確立していきます。

  1. 事実の見方の変化:長時間労働は問題であり追放すべきものとまず自分が受けとめ、意識を変える
  2. 自分は長時間労働をするべきでない、組織の他の人もするべきでないと考える
  3. みんなで新しい考えを共有し、長時間労働を放棄するための行動をみんなで決定する
  4. 新しい取り決めに沿った行動を取る
  5. 新しい記述的規範(他の多くの人たちがやっているから取る行動=経験的期待)が形成される
  6. 以前の社会的規範(他の人たちが自分たちにそう期待するから取る行動=規範的期待)が放棄される

「労働基準法を守ったら会社は絶対に成り立たない」と明言する経営者がいたり(2)、絶対に守れと口では言いつつ、仕組みは何も変えず「残業はするな、だが今まで以上に働け」という矛盾したメッセージを送ったり、法律ギリギリの所でできるだけ従来通りにやろうとする経営者もまだ多いです。
このような経営者は、上の1~6のステップを順に踏んでいないだけでなく、1~6のどの項目も満たしていないので、変わることができるわけがありません。

まずはじめに一番重要なのは、「1.事実の受けとめ」です。長時間労働の問題が減らない大きな要因は、経営者が本気でやろうと思っていない事です。必要なのは、口先ではなく、心からそう強く思い自ら行動する事です。この事実にしっかり向き合うことなくルールを作っても、小手先だけの対応になって従業員がついて来ないだけでなく、矛盾する施策に膨大な労力やエネルギーが無駄に費やされ、大きなストレスを生みます。
また、みんなが意見と行動を一つにする事も大事です。「長時間労働認めない」派と「残業やむなし」派が混在し、その原因を放置した状態ではうまくいきません。
「5~6」
の、新しい記述的規範(長時間労働をしない)が形成され、古い社会的規範(長時間労働の前提)が放棄される流れも重要です。十分な数の人が行動を変えず、一部の人たちだけが行動を変えると、行動を変えた人は評価を下げられたり制裁されるなど不利益を被るのではないかと恐れます。十分な多数が行動を変えることでそのような心配がなくなり、以前の規範を放棄する事ができるのです。

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参考文献
(1) Margaret Levi, Audrey Sacks, Tom Tyler, “Conceptualizing Legitimacy, Measuring Legitimating Beliefs“, American Behavioral Scientist, Volume 53 Number 3, SAGE Publications, 2009/11. 
(2) 飯田高, “法を守る動機と破る動機 : 規制と違法のいたちごっこに関する試論“, 
日本労働研究雑誌 57(1), 15-25, 労働政策研究・研修機構, 2015/1.
(3) 榊裕葵, “電通過労死事件「罰金50万円」は軽すぎないか ー 現行の労働法規では抑止力になりえない“, 東洋経済ONLINE, 2017/10.
(4) Uri Gneezy, Aldo Rustichini, “A FINE IS A PRICE“, The Journal of Legal Studies, Volume 29, Number 1, The University of Chicago Law School, 2000/1.
(5) Bicchieri, Cristina and Penn Social Norms Training and Consulting Group, “Why people do what they do?: A social norms manual for Zimbabwe and Swaziland.”, Innocenti Toolkit Guide from the UNICEF Office of Research, Florence, Italy., 2015/10.
(6) Bicchieri, Cristina and Penn Social Norms Training and Consulting Group, “Why People Do What They Do?: A Social Norms Manual for Viet Nam, Indonesia and the Philippines.”, Innocenti Toolkit Guide from the UNICEF Office of Research, Florence, Italy., 2016/10.

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