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アセットベースのコミュニティ作り:「ないモノや問題」でなく「あるモノと可能性」に焦点を当てる

  • 投稿カテゴリー:社会が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年4月30日
  • Reading time:7 mins read

私たちは、つい「自分たちが抱える問題」や「自分たちにないもの」に焦点を当て、人に何とか解決してもらおうと考えがちです。しかし、本当の問題解決のためには、「自分たちが持っているもの」に焦点を当て自律的な対応を取らなければならず、自律性なくして持続可能な発展はありません。

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「ない」ものに目を向けるのではなく、「ある」ものに光を当てる

アセット・ベースド・コミュニティ・デベロップメント(ABCD : Asset Based Community Development)は、1980年後半、アメリカで人種間対立が深刻になっていた時期に、それを解決しようと始まった取り組みです。この取り組みはその後世界中に広がり、関連する組織や団体も数多く、資料や情報も膨大に存在します。

ABCDは、地域にあるアセット(資産)をベースにして、持続可能なコミュニティを築き上げるものです。ここで言う「アセット(資産)」とは、日本人が「アセット」と聞いてイメージする金銭的価値のある財産に限らず、地域の人たち、関係、つながり、団体、施設、場所、もの、産業、自然、歴史、物語、経験など、地域にある「すべて」です。

社会変革の大きな問題は、外部の人たちが地域を助けるという根本的に間違った考えにあります。この考えのベースにあるのは、「必要なものが地域にない」、「地域では解決できない問題がある」という前提です。
ABCDは、この前提=出発地点を覆します。問題やニーズ、「ないもの」に注目するのではなく、その地域にすでに「あるもの」、つまりアセット(資産)に注目します。

地域を真に変える事ができるのは当事者である地域の人たちだけです。人が他人を変える事ができないように、その地域の人たちが地域を変える事ができるのであり、よそ者にはできません。変化をもたらすのに最も重要な資産は、そこにいる人たちであり、スキル、経験、関係、そして自分たちが住む場所をより良い場所にするためのコミュニティのエネルギーで、そのために必要なのは、「ない」ものから「ある」ものに視点を変える、マインドセットの変化です。

表:旧来型の社会改革モデルとアセットベース・モデルの対比
,adapted from “Fundamentals of Asset-Based Community Development” (1)

旧来型の社会改革モデルアセットベース・モデル
「必要なもの」「足りないもの」にフォーカスする「既にあるもの」にフォーカスする
「問題」を見つけ、その問題を解決しようとする話し合い、既にあるもの、機会から築き上げる
寄付・補助金・外部支援志向自己資金・自己投資志向
専門家重視つながり重視
個人にフォーカスコミュニティにフォーカス
目標は、サービスや設備の提供・導入住民の関与を増やし、地域のアセットをつなげる
権限のある人が中心住民が中心
答えは問題対応にある答えは地域の人にある
プロジェクト型で、終わった後は先細り雪だるま式に大きく広がり根付いていく
地域の人は外部エージェントの「お客様」地域の人は変革の当事者
地域の人が知らないうちに計画が作られる地域の人の話し合いからアイデアが生まれる
どのようにして住民を巻き込むか?どのようにして住民同士をつなげていくか?
他の地域と比較する自分たちが何を望むかを自問する

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外部から与え続ける事の問題点

例えば、貧しい国への従来型のチャリティー(慈善金、寄付)は、長期的な問題を解決するには有害だと言う意見があります(2)。寄付は災害やその他の命に関わる問題への緊急支援など、目先の問題に対応するには効果的です。しかし、地域の発展のような長期的な課題には逆効果であることが多々あります。
地域の長期的で持続可能な発展には、そこに住む人たちの自律的・主体的・自発的な参画と取り組みが必要です。しかし、寄付が常態化すると、寄付を受け取る事、誰かに助けてもらう事に慣れてしまい、それが当り前となって、自分でなんとかしようという意志が働かなくなります。時に、寄付は貧しい人たちを豊かにするのではなく、もっと貧しくしてしまいます。(3)

先進国の寄付する側も、アプローチとその前提となる思考が固定化されていて、貧しい人たちは恵まれない環境に生まれ育ち、無力で、何も持たず、何も知らず、かわいそうで、自分たちが彼らの世話をし続けなければならないと考えます。このことは、寄付される人たちの威厳、自主性を奪い取り、むしろ劣等感を植え付けます。
本当に必要なのは、貧しい人たちも可能性を持った人間であると信じる事です。貧しい人々に必要なのは、依存ではなく自身への尊厳であり(1)(4)、貧困を解決したいのであれば、支援する側が支援の内容を決めるのではなく、人々が自らの人生を描くのを支援しなければなりません(5)

この問題は貧しい国々に限られるわけではありません。日本の地方再生もそうです。地方が、交付金など国の補助金頼みになると、自律的に地域を発展させる事よりも、いかに補助金を手に入れるか、いかに外部の支援に頼るかという思考に陥ります。その仕組みが定着してしまうと、外からの支援が前提となってしまい、自らの意志と努力で変えて行く事ができなくなるだけでなく、取り巻く環境やビジネスもそれに合わせて形成されてしまうため、変えるのはとても難しくなります。

健康な身体を作りあげ維持するために、エナジードリンクを飲み続ける人はいませんね。同様に助成金というカンフル剤を打ち続けても健全な地域も育ちません。
さらに言えば、ばらまき政策と言われるように、同様の仕組みは、日本のいたる所、分野、業界で見られます。そのため、日本の借金が比類ないほど膨れ上がり続ける一方で、一向に成果は乏しいままなのです。

特に秀でていて人徳のある外部人物の活躍により地域が活性する例もなくはありませんが、それも一種のカンフル剤であり、その取り組みを地域に根付かせるのは地域の人たちの役割で、それなくして定着することはないのです。

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コミュニティ活動のためのポイント

以下は、コミュニティ活動のための基本的なルールです(6)

  • 他の人ができることを、その人の代わりにしない
  • 一歩引いたところからサポートする
  • 可能性に焦点を当て、問題を違う角度から再定義する
  • ミーティングではなく、パーティや非公式な集まりを楽しむ
  • 人がいるところから始め、人の話に耳を傾ける
  • 人たちが気にかけていることから始める
  • 目に見える変化をもたらす結果に向けて取り組む
  • 誰もが才能とリソースを持っており、誰もが何かに貢献できる
  • アジェンダ(やる事)を決める前に、人を知ること
  • 途中で成果を祝いながら進める
  • 良い話を共有し、新しく良い物語を一緒に作っていく
  • 悪い点や不足しているものではなく、強みとリソースに焦点を当てる

以下は、ABCDの創設者たちが、ポジティブな発展を実現するために重要だとしていることです(6)

  • 地域の住民が持っている資産
  • 地域のボランティアの集まり
  • 地域のコミュニティ形成を支援する地域の機関・団体
  • 物理的な環境(オープンスペース、公園、遊び場、森林、埠頭などなど)
  • その土地の文化や伝統を伝える物語
  • 上記の相互作用と交換・交流

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アメリカ、ヒルサイド・コートの事例

ABCDの成功例の多くでは、コミュニティのメンバー自身が「コミュニティの開発者」です。変化の機会を見出し、持続可能な方法でその変化を達成するために努力する人たちです。
持続可能な資産ベースのコミュニティ開発の究極の目的は、地元のスキルを発掘し、地域の人たちの変革へのオーナーシップ(エンゲージメント)を促進することです。そのため、外部エージェントに依存すべきではありませんが、その貢献を否定するものではない事だけ付け加えておきます。

下のYoutubeは残念ながら英語の字幕しかありませんが、アメリカ、バージニア州、リッチモンドのヒルサイド・コート(Hillside Court)という地域で2011年から始まった取り組みの紹介です。この公営住宅が立ち並ぶ、端から端まで歩いていけるような小さな地域で、その年の最初の3週間で3つの殺人事件が起き、その後数週間のうちに2人の10代の若者が流れ弾に倒れました。ヒルサイドではなく「キルサイド」と呼ばれるほどで、人々は子供たちに不必要な外出を控えるようになりました。
そのため、この地域の子供たちを守るために何ができるか、住民みんなを集め、話し合いの場が設けられました。この集会で、ウエンディ・マッケイグが「私はここに住んでいない外部の人間なので、できるのはサポートすることだけ。誰が子供たちを守る?」と問いかけたところ、ある女性が「私がやる!!」と声を上げます。さらに続いて5,6人と声が上がりました。

ある女性は以前ニューヨークでチアリーダーのコーチをしていたので、チアリーダーのチームを作ることにしました。
ある男性は、それなら男の子達の受け皿も必要だと、地域の支援を受けてフットボール(アメフト)のチームを立ち上げました。
別の女性は、私は料理が得意だからとクッキングチームを作りました。そしてクッキングチームは月に一度コミュニティに料理を振舞いました。

こうするとポジティブなエネルギーは地域に伝染していきます。
お年寄りたちも、自分たちも何かせねばとお年寄りチームを作ります。その他家族支援チームやコンピューターラボなど、3年で9つの住民のグループが立ち上がります。地域の空き住宅を利用して若者たちのリーダーシップ教育の場も生まれました。さらに、チアチームがお年寄りチームに成果を披露するなど、それらのグループが交流し始め、ポジティブがうねりとなって、真のコミュニティーが形成されていきます。

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最後に

ヒルサイド・コートの事例で、アセット・ベースド・コミュニティ・デベロップメント(ABCD)の概要がイメージできたでしょうか?ヒルサイド・コートでは、地域の中の人たちが、自身のスキルなど既にあるアセット(資産)を利用して自らのコミュニティを変えて行ったのです。外部の人間はそのサポートをしただけで、それ以上の支援を外部から受け取ったわけでもありません。

厳しいようですが、外部依存型のコミュニティ再生モデルは、時に膨大なコストがかかる割には成果が限定的で、また持続可能でもありません。今後ABCDのような地域のポジティブな側面に光を当てる自律型モデルが主体になっていくべきでしょう。今後もそのような事例等を紹介していきます。

 

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参考文献
(1) “Fundamentals of Asset-Based Community Development“, Unite For Sight
(2) ”Detriments of Traditional Charity”, Unite For Sight
(3) “Acumen’s Patient Capital Model Is A New Approach To Solving Poverty“, Acumen
(4) Dambisa Moyo. “Why Foreign Aid Is Hurting Africa” The Wall Street Journal, 2009/3.
(5) Visscher, M. “The World Champ of Poverty Fighters” Ode Magazine, 2006/12.
(6) “Asset Based Community Development – how to get started“, the Western Norway University of Applied Sciences, 2019
(7) John Kretzmann, John P. McKnight, “Assets-Based Community Development“, National Civic Review, Volume 85, Issue 4, Winter, 1996.
(8) John Kretzmann, John P. McKnight, “Building Communities From the Inside Out: A Path Toward Finding and Mobilizing a Community’s Assets”, ACTA Publications, 1993.

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