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ギャングからイノベーターへ:アセットベースのコミュニティ改革

  • 投稿カテゴリー:Social Change
  • 投稿の最終変更日:2021年12月4日
  • Reading time:7 mins read

南アフリカ、ケープタウンの若者たちは、貧困、失業、犯罪、薬物の負のスパイラルから抜け出せずにいました。しかし、テクノロジーが彼らを変え、彼ら自身がコミュニティを変え、システムを変え、社会を変え、そして世界を変えて行きます。外部の人間ではなく、コミュニティに元々いる人の繋がりが社会のシステムを変えていくのです。

上の写真:Olga Ernst, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

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南アフリカ、ケープタウン、ケープフラッツ

南アフリカ、ケープタウンにあるケープフラッツ・タウンシップは、若者の貧困と失業が日常で、組織犯罪、薬物乱用、暴力がはびこり、若者の大半は学校を中退してギャンググループに入り、あるものは薬物のディーラーになり、あるものは薬物中毒になるような状況でした。早くして養うべき子供がいる若者さえいますが、生活を良くしたいと助けを求める事は弱さと否定され、若者たちは、自己破壊的な負のスパイラルに陥っていきます。

そんな町で育ったマーロン・パーカー少年の夢は、将来シャツを着てネクタイを締める仕事に就く事でした。コミュニティでそのような姿の人を見かける事はほとんどありませんでした。マーロン少年は母親の家を担保に授業料を工面し、IT技術を勉強して、ケープ工科大学の講師になります。

マーロンは、あるきっかけから、地域のギャングたちにコンピューターを教え始めます。当初、彼らがコンピューターについて知っていた事は、その「盗み方」だけでした。

若者たちは、メールやソーシャルメディアなどから始め、テクノロジーを色々学ぶにつれて、のめり込んでいきます。更にインターネットを通じて、同じような境遇の若者が多くいる事、その解決にテクノロジーを利用できることを知っていきます。

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Rlabs

RLabsは、マーロンらによって、南アフリカ、ケープタウン、ブリッジタウン地区の社会経済的な問題を解決するためのコミュニティプロジェクトとして、2008年に設立されました。

スキルを身に付けた元ギャングたちは、同じように既存の教育の枠組みからはじかれた若者たちに教える立場になっていきます。そこに外部の専門家はいません。コミュニティで教わったものが新しく来る若者を招き入れ教えていきます。
学位も資格も年齢も関係ありません。社会から力を奪っていた彼らは、最初は教わる側、次に教える側、更には自ら新しい挑戦を掲げ、イノベーションを起こし、コミュニティの再生を先導する立場へと変わっていきます。

彼らはモバイルカウンセリングのアプリである「JamiiX」を開発します。このテキストベースのアプリでは、仲間たちから同調圧力を受けないように匿名機能を付けて、悩みを持つ若者たちが様々な場所にいるカウンセラーに気軽にいつでも連絡できるようにしました。これによって、より多くの若者をつなげることができ、また、裏で会話をつないで、進捗状況や行動の傾向を把握することができました。
「Uusi」は「JamiiX」から独立したプラットフォームで、コミュニティで成立するやり方で、若者と仕事の機会を結びつけ、若者がプロフィールを作成し採用担当者がアクセスできるようにしています。

ギャングは、人の弱みを知り、つけ入る方法、侵入する方法を知り、戦略的に考える事ができます。ギャングたちは、以前は社会を悪くするために使っていたその知識を、良くするために使い始めたのです。
そこに生まれ育った彼らこそが、最も豊富な経験を持ち、問題の敏感で複雑なところまで身をもって知る一番の専門家なのです。

若者だけではありません。家族も関与していきます。学びに飢えた84歳のおばあさんは、コミュニティで最高齢のファシリテーターとなり、Google社からスピーカーとして招かれるほどになります。

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Youth Café(ユース・カフェ)

RLabsが、2014年初頭にケープタウン、ロックランズで政府と共同で立ち上げた「Youth Café(ユース・カフェ)」という面白いコンセプトのカフェがあります。
このカフェは、若者たちが、求人情報、自己啓発コースなどを見つけり、支援し合ったり、または単に気軽に立ち寄っておしゃべりできるポジティブで活気あるスペースです。このカフェでは、コミュニティで良いことをしたり、自己啓発ワークショップに参加したりすることで「Zlato」というデジタル通貨を受け取ることができます。若者たちは、そのデジタル通貨を、カフェや地元の商店で様々な商品の購入に使うことができます。

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下記、Youth Café(ユース・カフェ)でコミュニティの若者に提供されるサービスや機会です。
Western Cape Government ホームページより抜粋・要約)

  • パソコン・インターネット使用
  • 就労支援・トレーニング
  • コミュニティ開発・支援
  • 自己啓発・リーダーシップ・メンタートレーニング
  • ウエルネス(健康)プログラム
  • 起業トレーニング
  • コース(アプリ開発、ウエブデザイン、美容、ファーストエイド、ブログ、映像、芸術、ソーシャルメディア)
  • ソーシャルイノベーション
  • イベントマネージメント

写真:Youth Café, Western Cape Government ホームページより

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そこにあるアセットを活かし、システムを変える

マーロン・パーカーは、これを「Hope Economies(希望の経済)」と呼びます。コミュニティのメンバーに希望を与え、彼らのスキルと自信を高めることで、彼らが社会起業家となり、コミュニティにポジティブな変化をもたらすことができるのです。
RLabsの現在の姿は、コミュニティの創造性と革新性を育み、若者がコミュニティの変革のリーダーとなり、自分自身や他の人々のための雇用機会を生み出すことを可能にする情報技術のハブです。

以前このブログでも、「ないモノや問題」に焦点を当てるのでなく「あるモノと可能性」に焦点を当てるアセットベースのコミュニティ作り「ABCD(Asset Based Community Development)」を紹介しました。社会改革やコミュニティ再生には、外部に頼るのではなく、既にそこにある、あらゆるアセットを利用するというものです。ギャングはまさにコミュニティに埋もれたアセットでした。

また、RLabsは、社会システムそのものに挑戦しています。コミュニティに当然かのようにあった常識、信念、ルール、役割、構造を、新しい形に置き換えていきます。コミュニティのアセットを活かし繋げることで、社会のシステムを変えているのです。

RLabsは設立以来、大学や民間企業、支援機関などの協力も得て、大きなムーブメントとなり、「Making hope contagious(希望を伝染させる)」をモットーに、23カ国でそのモデルを再現し、1,000万人以上の人々に影響を与えています。

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最後に。日本の事例も紹介

今回紹介したRlabsやYouth Caféは、ギャングが世の中を良くする立役者に変わっていく話ですが、この話で思い出されるのは永井陽右さんたちのソマリアでの活動です。

永井陽右さんは、2011年大学入学時から、日本国内では全く支援組織を見つけられなかった、紛争やテロで世界で最も危険な場所とされるソマリアに使命感を抱き、日本人学生とソマリア人の若者と共に、ケニアで難民として暮らすソマリア人の過激派やギャングの若者の更生と、コミュニティの変革を導く活動に取り組みます。
永井陽右さん達はテロリストやギャングを排除すべき存在とみなさず対等な立場で受け入れて、相手の話を聞き、問いかけ、対話を重ねる事で、その自発的な変化を促していきました。2017年には、NPO法人アクセプト・インターナショナルを立ち上げ、紛争解決支援を継続しています。
下の書籍でその取り組みが紹介されていますが、日本で大人たちに相談しても「今は無理」「君では無理」「君が行っても邪魔なだけ」と諭されるだけの状況に業を煮やし、英語もまともに話せないのに自ら行動を起こし、試行錯誤しながら物事を切り開いていく様がとても素晴らしいです。

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今回紹介したRlabsやYouth Caféの要点は、ギャングの更生やテクノロジー、ABCDだけにあるのではありません。今までの教育の概念を変えたという点にもあります。学ぶ人間が自律的にカリキュラムを作る、外部の専門家に頼らずコミュニティの若者が若者に教えるという仕組みです。そして、そのような教育という領域での社会システム改革は日本でも始まっています。

山形県の天童中部小学校では、生徒自らが学ぶことを決めていくマイプラン学習という取り組みが始まっています。教室では生徒が自分で学習計画を立てて自分が勉強したい事を勉強します。そのため、同じ教室、同じ時間でも、生徒一人一人学んでいる事がばらばらです。分からない事は生徒同士で聞き合って解決していきます。教師は子供たちの学びをサポートするだけです。「教師が教え、生徒が教わる」という従来型の一方向の教育システムの在り方そのものを見直す取り組みです。

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私たちの今までの社会改革の多くは、とにかく外部からの支援に頼ろうとします。しかし、外部からの支援はカンフル剤のようなもので、その効果は短期的なだけでなく、長期的に見ればむしろ逆効果になることは、日本の地域再生プロジェクトの多くでも見られる症状です。

私たちの従来からある社会の仕組み・システムの多くは、大きく変化する現状に既に適合しておらず、これから根本的に変わっていく必要があります。人々が輝く社会を作って行くには、主人公である「そこにいる人たち」の内発的な動機と、既に存在する埋もれたあらゆるアセット、能力をいかに掘り起こしてつなげていくかという視点が必要になります。

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参考文献
(1) Holly Powers, “RECONSTRUCTING LIVES . . . Through Hope and Innovation“, USAID/Southern Africa, 2016/2.
(2) Marlon Parker, “3 Ways Technology Is Helping Youth To Help Themselves“, Fast Company, 2015/7.
(3) Larry Claasen, “The world-changing RLabs”, Brainstorm Magazine“, 2018/2.
(4) Cynthia Rayner, François Bonnici, “The Systems Work of Social Change: How to Harness Connection, Context, and Power to Cultivate Deep and Enduring Change“, Oxford University Press, 2021/10.
(5) François Bonnici, Warren Nilsson, Marlon Parker, “Becoming a changemaker: Introduction to Social Innovation“, University of Cape Town, Coursera

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