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ソーシャル・ノーム(社会規範)の変化で、社会や組織を変える

  • 投稿カテゴリー:Social Change
  • 投稿の最終変更日:2021年10月2日
  • Reading time:7 mins read

社会や組織が変わるためには集団の行動の変化が必要で、変化が定着するためには、それを取り巻くソーシャル・ノーム(社会規範)の変化が必要です。ソーシャル・ノーム(社会規範)は、グループで共有され、許容される行動のルールです。

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はじめに

以前紹介した書籍「How to Change 変化の仕方:今いる所から行きたい所へ進む科学(1)の著者、ペンシルベニア大学ウォートンスクール教授で行動科学研究者のケイティ・ミルクマンは、毎年2月、彼女が教えるMBA講座が開始する前に、3人を除いた全ての受講生に、あるメールを送信します。
「最初の講義でパワーポイントを使ってこれから始まる講座を説明している時に、学長の写真が出てきたタイミングで熱狂的に拍手をする」ようにお願いするメールです。そして、この事を他の受講生に話したり、メール転送してもいけないと念押ししておきます。

そしていよいよ講座初日、パワーポイントで説明し始めて、学長の写真のスライドが出てきました。その途端、クラスは拍手喝采の嵐に包まれます。さて、事前に何も知らされていなかった3人の学生はどう反応したでしょうか?
みなさん、容易に想像できますね。ほとんどの場合この3人も他の全員に合わせて拍手に加わります。

後でこの3人になぜ拍手をしたか聞くと、当然返ってくる答えは「皆拍手したから」です。
3人は、周りにいる多くの人がしたから、または自分もしなければならないように感じたから、拍手に加わったのです。
人は、皆と違う行動を取って仲間外れされたり、社会的な不安や制裁を避けるため、周囲に溶け込むことを選びます。

今回、主に、ソーシャル・ノーム(社会規範)について、その著名な研究者であるクリスティーナ・ビッキエリ(Cristina Bicchieri)の研究を通して、集団的行動、スキーマ、スクリプトとの関係を含めて紹介していきます。

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ソーシャル・ノーム(社会規範)とは?

ソーシャル・ノーム(社会規範)は、グループで共有され、許容される行動のルールです。規則や法律など公式に決められてるルールもあれば、暗黙に共有されているルールもあります。
ソーシャル・ノーム(社会規範)のポイントは「行動」について共有される信念や意見だという点です。個人的な「考え」「態度」「価値観」ではありません。つまり、社会規範に則ってグループである行動が共有されている場合でも、心のなかではそれに賛同していない個人がいる場合もあります。

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グループの集団的行動

ソーシャル・ノーム(社会規範)を含む「グループの集団的行動」は以下の4つに分類する事ができます(2)(3)

1.習慣:自分のニーズを満たすために取る行動
2.道徳的規範:道徳的に正しいと思うから取る行動
3.記述的規範:他の多くの人たちがやっているから取る行動
4.社会的規範:さらに他の人たちが自分にそう期待するから取る行動(=ソーシャル・ノーム)

以下、それぞれを簡単に説明します。

1.習慣の例としては、雨の日に傘をさす事が挙げられます。雨の日にはみんな傘をさして歩く姿が見られますが、これは周りのみんなが傘をさしているからではなく、一人一人が雨で濡れたくない個人のニーズを満たすために傘をさす行動を取り、その行動をみんなが取る結果として見られる集合的な行動です。

2.道徳的な行動も同様で、一人一人が考える道徳的な行動が集まった結果として見られる集合的な行動です。

1.2.が個人一人一人が判断した結果、集合的な行動として表れる一方で、3.記述的規範と4.社会的規範は、他人との関係に影響される集団的な行動です。

最初に紹介した大学の講義の3人の例は、他の学生みんなが拍手したから、自分も拍手に加わったのであれば記述的規範ですが、周囲から自分も拍手するようにプレッシャーを感じて拍手に加わったのであれば社会的規範です。
別の社会的規範の例は、順番待ちの列に並ぶ事です。スーパーやコンビニのレジの前に並ぶのは、お互いがお互いに期待する行動です。横入りは規範に反する行動だとみんなが知っています。そのため、あなたが並んでいるその目の前に、誰かが突然横入りしてきたら、びっくりしたり、いらっとしますね。

図:集団的行動の分類
adapted from (2)(3), Bicchieri and Penn Social Norms Training and Consulting Group

 

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私たちが、自分たちの意志で行っていると思っている行動も、実は他人の影響(記述的規範、社会的規範)を大きく受けている事は多いです。
例えば、「環境保護のため、タオルの再利用にご協力下さい」と書かれたメモをビジネスホテルのユニットバスで目にする事はありますね。あるホテルでこのメッセージに「当ホテルをご利用の75%のお客様にタオルの再利用にご協力頂いております」と付け加えただけで、タオルの再利用率は18%も向上しました(1)。これは、「他の人もやっているのだから自分もやらなければ」と思わせる社会規範(ソーシャル・ノーム)を利用した行動変化の事例の一つですが、このように、個人の習慣も、新しい社会規範を認知させることで、変化させる事ができるのです。

実は、集合的な行動が、個人が判断した結果であろうと、他人との関係に影響されたものであろうと、それを変えるためには、人と人の相互作用が必要で、更に、持続可能な変化のためには、社会規範の変化が必要です。

グループの集団的な行動は、社会の秩序を保ったり利便性を改善するのに効果がある一方で、弊害になる場合もあります。正しい事をやりたいと思っているが、社会規範にその行動が現状含まれていないため、なかなかできないという弊害です。

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社会規範とスキーマ、スクリプト

社会規範はスキーマやスクリプトにも影響されます(4)
言葉を聞いてぱっとイメージできる特徴、無意識に持つ見方や解釈をスキーマと言います。それを具体的に表現する言葉や出来事がスクリプトです。心理学の用語でもあり、認知科学用語でもあり、クリティカルシンキングでも引用される概念です。

例えば、皆さんは「眼鏡をかけた理学部の学生」と聞いてどんなイメージが思い浮かべますか?
まず、男性を思い浮かんだ人が多いのではないでしょうか?
マッチョな体育会系、パリピ女子、おじいさんおばあさんを思い浮かべる人は少なかったと思います。そのような人たちも「眼鏡をかけた理学部の学生」である可能性は十分にあるのですが、「眼鏡をかけた理学部の学生」に対する一般的なスキーマはそうではないからです。

スキーマやスクリプトは人によってそれぞれ違いはあるものの、多くは似たようなイメージが社会で共有されます。一方で、同じ物事に対しても時を経てスキーマも変化します。社会全体が時代と共に変化するからです。例えば、お金持ちのスキーマは時代によって全然違いますね。
皆さん「昭和のお金持ち」はどんなスキーマでしょうか?
高級車の後部座席に乗り、その大邸宅には高価な装飾や置物が至る所に見られ、高い天井からシャンデリアが吊るされている、、そんなスキーマをお持ちの方も多いでしょう。

では、今のお金持ちはどうですか?
昭和のお金持ちと異なり、物的顕示欲は低く、住まいはむしろシンプルだったり、人によってはソフトバンクの孫正義やユニクロの柳井正のイメージだったり、ひょっとすると今のお金持ちのスキーマは昔より多様化しているかもしれません。

図:お金持ちのスキーマのイメージ図

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ソーシャル・ノーム(社会規範)を変えるには?(2)(3)(5)

経済や社会的課題のグローバル化や技術の発達、価値観の変化などにより、社会や企業に関して、今まで認識されていた「良い社会」「良い企業」のスキーマとスクリプトは、急速に変化してきています。つまり社会を見る目、企業を見る目、評価する視点が変化してきています。
働き方改革やライフワークバランス、副業・複業、在宅勤務、シェアオフィス、人生100年時代のライフシフトなど「働く」という事についてのスキーマ、スクリプトも変化してきていますね。これらが変化するという事は、多くの人がイメージし期待する事、つまり規範が変わってきているという事です。

その一方で、まだ多くの企業は古いスキーマとスクリプト、規範から脱却できず、変化に追いついていないだけでなく、その変化に気が付いていないふりをするか、変化を人に押し付ける企業や経営者もいます。

有害または非効率的となった集団的行動を変えるためには、規範の変化が必要で、そのためにはスキーマが変わる必要があります。スキーマをかえるには、スキーマそのものを変える方法と、スクリプトを変える方法がありますが、いずれにしても最終的に変化し定着するまでの道のりは容易ではなく時間がかかるプロセスです。
理学部の教授が「眼鏡をかけた理学部のパリピ女子」を連れて来て、「明日から、彼女が理学部のスキーマです」と言っても、誰も容易に受け入れる事はできません。

人間には、既にある考えを支持する情報を受け入れ、反する情報は理由を付けたり例外だと決めつけて、簡単には受け入れられません。また、社会で広く長く共有されたスキーマほど、それを変えるのは難しいですし、また権力(パワー)を持つ人間は概して現状維持志向で新しい考えを受け入れ難いことにもよります。

社会や組織の変化に必要な社会規範の変化には、スキーマの変化も必要ですが、そのためには、多くの人が実際にその変化を目にし、具体的に頭に思い浮かべられる必要があります。
現状と対比した、新しい姿、望ましい姿をできるだけ具体的な行動(スクリプト)レベルで明らかにし、新しい規範とグループの期待が擦り合わされる必要があります。
このためには、グループの多くが関心を持ち、グループ全体で情報を共有する事が必要です。つまり、グループ全体の参加と対話が必要です。

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最後に

次回は、ソーシャル・ノーム(社会規範)やスキーマを変えて行く必要性を、ソーシャル・チェンジ(社会変革)の事例を交えながら、より分かりやすく説明していきます。

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参考文献
(1) Katy Milkman, “How to Change: The Science of Getting from Where You Are to Where You Want to Be“, Portfolio, 2021/5
(2) Bicchieri, Cristina and Penn Social Norms Training and Consulting Group, “Why people do what they do?: A social norms manual for Zimbabwe and Swaziland.”, Innocenti Toolkit Guide from the UNICEF Office of Research, Florence, Italy., 2015/10.
(3) Bicchieri, Cristina and Penn Social Norms Training and Consulting Group, “Why People Do What They Do?: A Social Norms Manual for Viet Nam, Indonesia and the Philippines.”, Innocenti Toolkit Guide from the UNICEF Office of Research, Florence, Italy., 2016/10.
(4) Bicchieri, Cristina, Mcnally Peter, “Shrieking Sirens – Schemata, Scripts, and Social Norms: How Change Occurs“, Social Philosophy and Policy 35(1), 2015/7.
(5) Katie Williamson, “Building Blocks: What’s in a Norm?“, Medium, 2018/10

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