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プロジェクトアライアンス Project Alliance:フィンランドの事例

  • 投稿カテゴリー:海外建設
  • 投稿の最終変更日:2022年8月21日
  • Reading time:11 mins read

写真:Tiia Monto, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

プロジェクトアライアンスとは、契約参加者がプロジェクトの成果に共同責任を負い、プロジェクトを実施する方式です。お互いの英知や経験を結集させ、互いに合意した金額でプロジェクトに最大の価値をもたらすという目的の達成に向け、関係者の利害を一致させます。

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数十年にわたり生産性が向上しない建設業界

以前本サイトで紹介したように、建設業界の生産性はここ数十年ほとんど向上していません。多くの国で、建設業の生産性向上は他産業に比べて低いレベルにとどまっています。
2000年代初頭、フィンランドの建設業界もこれらの国と同じような状況にありました。プロジェクトの成果は期待を下回り、納期に間に合わなかったり、予算に収まらないことは多々ありました。発注者と受注者は、対立を解決するためにさらに多くのリソースをつぎ込まなければならないことに不満を募らせます。フィンランドにおける過去30年間の業種毎の生産性の推移を示したデータによると、建設業は他産業と比較して最も生産性向上が低い業種でした。(1)

建設業界の生産性の向上を阻害する要因には以下のようなものがあります。(2)

  • 学習や経験の共有などを計画段階で利用するための統合されたプロセスの欠如
  • 継続的な改善の取り組みの欠如
  • 価値を最大化するよりも、最低価格で完成させることを望むクライアント
  • プロジェクト関係者間の信頼と尊敬の欠如
  • イノベーションを促進するインセンティブ(動機)の欠如

建設業界では長い間、請負業者を最低入札額のみで選定する慣習がありました(今でもそうですが)。この慣習は、関係者間でのリスクの押し付け合いや敵対的な関係を引き起こし、建設的なパートナーシップの構築を阻害してきました。問題を解決するためには、広い意味での文化的な変化が必要です。
また、社会の変化とともに、プロジェクトはより複雑になり、要求も多岐に渡り、かつ厳しくなってきています。ステークホルダーが主体的に関わる協調的なプロジェクト手法がますます必要になってきています。

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フィンランドのプロジェクトアライアンス

フィンランドでのプロジェクトアライアンス契約(Project Alliance)を導入する試みは、2007年オーストラリアへの視察と調査にさかのぼります。当時オーストラリアでは、アライアンスが既に建設業界にブレークスルーを起こしていました。
フィンランドの道路局(Finnish Road Administration:Finnra)や鉄道局(Finnish Rail Administration:RHK)は大きな衝撃を受けます。オーストラリアで実施されていたアライアンスプロジェクトの多くは、民間工事ではなく、彼等の範疇である土木系のインフラ工事だったのです。

その後、道路局と鉄道局は、フィンランドでのアライアンスの発展における中心的存在となります。道路局と鉄道局のイニシアティブによって検討がすぐ開始されました。2012年にはパイロットプロジェクトが始動し、それ以降、フィンランドでのアライアンスのプロジェクトレベルの取り組みは進み、2017年からは組織レベルに発展します。2020年からは参加する設計会社や建設会社も増え、業界全体へと広がると共に、その手法を非常に成熟したレベルまで発展させてきています。

フィンランド交通インフラ庁(Finnish Transport Infrastructure Agency:FTIA)はアライアンスに関して次のような目標を設定しています。そして、アライアンスによってこれらを達成する可能性を信じています。

  • 建設業界全体の生産性を向上させる
  • 信頼に基づいた、よりオープンで透明性の高い運営方法への建設業界全体の文化の変革
  • イノベーションとコンピテンスの向上・開発
  • プロジェクトをより速く実施し、より良い品質で、経済的メリットを向上させ、最終成果物の顧客満足度を向上させる

アライアンスのモデルは、当事者間の協力とイノベーションを促進し、無駄や不必要な作業を削減します。従来の調達方法と比較して、社会とプロジェクトに投資した資金で、より多くの価値をもたらすことができます。

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プロジェクトアライアンスとは?

以前本サイトで、コラボラティブ契約について紹介しました[1][2]。ちょっとややこしいですが、この契約形態はアメリカでは「Integrated Project Delivery」と呼ばれ、オーストラリアでは「Alliance(アライアンス)」と呼ばれますが、それらの基本的な理念や概念は同じで、一体化されたチームによる協業、共有された目的、そして当事者間のリスクと機会の分担にあります

フィンランドでは、オーストラリアのアライアンスがベースになっているので「プロジェクトアライアンス(Project Alliance)」と呼ばれることが多いようで、そこに以前紹介したリーンコンストラクションの理念が結び付けられています。

「Alliance」や「Integrated Project Delivery」を含むコラボラティブ契約(以下、今回は「アライアンス」という言い方に統一します)は、従来の建設契約とはまったく異なる新しい形態の契約であるとともに、新しいプロジェクトの進め方でもあり、契約当事者の新しい関係でもあります。当事者たちは従来のようにリスクを押し付けあう関係ではなく、リスクを共有し、ほとんどの全ての意思決定が連帯責任でおこなわれます。

範囲や設計が明確でリスクも顕在的で対応可能な程度のプロジェクトであれば、従来型の契約形態でも機能します。しかし、複雑で潜在的なリスクや未確定事項が多く存在し、途中大きな変更が予想されるようなプロジェクトの場合、不確実要素に適切な段階でうまく対応でき、当事者たちのアイデアやイノベーションを広く活用できるアライアンスの手法には大きなメリットがあり、欧米諸国のみでなく世界中で採用が広がりつつあります。

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プロジェクトアライアンスの特徴

以前紹介したプロジェクトアライアンスの特徴を簡単におさらいします。

● 複数の契約参加者
従来の契約は「オーナーと建設会社」とか「オーナーと設計会社」などの2者間契約でした。しかしアライアンス契約では、オーナーと1社以上のサービスプロバイダー(設計者、施工者、サプライヤーなど)が同じ契約の当事者になります。

● 「私たち(We)」ベースの契約書
従来の契約書では「請負者は、本条項に従って契約に基づく義務を遂行する。。」とか「請負者は、契約に基づく業務の遂行及び完了について全責任を負う。。」など双方の責務が別々に記載されますが、アライアンス契約では「私たちは、優れた結果を生み出すために、革新性と協力とオープンな態度をもって共に働きます」とか「私たちは、本プログラムの実施に伴う全てのリスクと機会を共有します」などと記載され、「私たち(We)」が主語の契約になります。ここで「私たち(We)」とは契約当事者全員です。

● 計画の初期段階から契約当事者が作業に携わる
アライアンスでは、計画や設計の早い段階から当事者が対等な立場で参加します。従来の契約ではプロジェクトの段階ごとに契約が異なり、当事者も異なり、すべての当事者が一堂に会して、プロジェクト初期から関わることはありません。また関係者の立場は対等ではありません。
アライアンスでは、情報は全てメンバーで共有され、透明性のある議論がおこなわれます。それぞれが所属する会社のためではなく、「One Team」「Best for Project」「Value for Money」の旗印のもと、1つのチームとしてプロジェクトの目標を達成するために協業します。

● 1つの大きな部屋「ビッグルーム(Big Room)」で作業を行う
「ビッグルーム(Big Room)」の意義は、すべての関係者が同じ場所にいて仲間として作業する点にあります。そのため、情報は即座に共有されます。また、業務の透明性とチームの開放性が確保されます。計画段階での「ビッグルーム(Big Room)」環境は、協力、信頼構築、継続的改善へのコミットメントを生み出し、イノベーションを大きく促進します。全ての関係者が常にそばいるので、ミーティングというよりはワークショップでアイデアを出し合いながら物事を決定していきます。

● 契約参加者全員が連帯責任を負う
プロジェクトがうまくいったりうまくいかなかったりした時の利益や損失は、当事者全員で平等に分担されます。誰か1人だけが利益を獲得し、その他のメンバーは赤字を被るということはありません。この仕組みによって、参加者全員がチームの利益を追求する「Win or lose together」のインセンティブを共有します。

● オープンブックで会計を関係者間でオープンにする
契約金は、コスト(原価+共益費+現場管理費)+マージン(一般管理費+利益額または利益率)で構成され、これがチーム共通のターゲットコスト(TOC:Target Out-turn Cost)になります。そのうち、コスト部分は、プロジェクトがどんなに悪化しても支払われます。マージンは、プロジェクトの成果によって変動しますが、その変動の仕方は、計画段階にあらかじ契約当事者全員で合意されます。その仕組みが成り立つには、コスト情報をすべて透明にする必要があります。そのため、それぞれの参加者の会計を関係者間でオープンにします。

● 全員一致の決定
決定すべき重要事項は、すべての関係者からの代表者で構成される共同意思決定機関によってプロジェクトにとって何が最適か「Best for Project」「Value for Money」の視点で、全員一致で決定します。

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プロジェクト事例:タンペレトンネル(Tampereen Rantatunneli Project)(1)(3)(4)(5)

フィンランドでアライアンス契約が使われたパイロットプロジェクトの1つに、タンペレ(Tampere)市の道路工事(タンペレトンネルプロジェクト:Tampereen Rantatunneli Project:2011 – 2017)があります。市街地を分断し渋滞の原因となっていた主要幹線道路(国道12号線)を移設するプロジェクトで、道路の一部を片側3車線のトンネル(各2.3km)で地下化し、残り4kmを拡幅して周辺の交通網と接続するためのインターチェンジを整備する複雑なプロジェクトでした。その契約上の特徴をいくつか紹介します。

写真:タンペレ(Tampere)の風景, adopted from
Ville Oksanen, Leo-setä, Tiia Monto, Cryonic07, Rayshade, Mikko Paananen, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

1.業者選定審査基準

プロジェクトのサービス提供者(業者)選定は段階的に行われ、最終的に2つのチームがワークショップ形式の最終審査ステージに進みました。その選定審査において、入札金額は審査基準の25%のウエイトを占めるに過ぎず、75%はその他の項目によって評価されました。その中には、過去の実績、管理計画、技術的・財政的・管理的なプロジェクト実施能力といった通常のプロジェクト評価基準の他に、アライアンス特有の評価基準が含まれました。

例えば、「反省する力」や「失敗から学ぶ力」などです。(6)

「反省する力」では、ワークショップの終わりに、参加者に、他者との協働において自分のパフォーマンスがどのようなものであったか壁に書き込むように要求されました。「失敗から学ぶ力」では、それまでに犯した最大の失敗を書き留め、そこから学んだ教訓を深く掘り下げることが求められました。
アライアンスでは、自分の過ちを認め、その過ちから学び、解決策を見出した者は罰せられるのではなく報われるからであり、それができる資質があるメンバーしか参加が許されないからです

2.ターゲット・コスト(Target Outturn Cost:TOC)

従来型の契約方式では、複雑で不確定要素が多いプロジェクトに対して、入札段階では精度の高い予測や計画ができず、入札金額においてリスクプレミアムが高く設定されがちです。本来この段階で価格を固定することは賢明ではありません。

プロジェクトアライアンスでは、契約当事者決定後の共同計画の段階で、詳細で正確なコストを詰めていきます。契約当事者同士が話し合い、設計、仕様、施工方法、調達先など、代替案を検討したり、新しいアイデアを導入して、コストを下げたり、プロジェクトの価値を引き上げることができます。
その目的のためには、チーム内のコストの透明性が必要です。そのため、全ての情報はチームに開示し共有されます。先に紹介したように、ターゲットコストには原価と管理費、妥当な利益が含まれます。主要な調達品は市場テストされ、第三者がコストの妥当性を評価します。また、実施段階では、発生したコストと財務管理全般に対して監査がおこなわれます。

契約当事者間での共同計画段階(2012/6 – 2013/9)の最後に、チーム共通の目標となるプロジェクトの価格(ターゲットコスト)が最終設定されます。そして、このターゲットコストが次のステップである建設実施段階(2013/10 – 2016/11)でのチーム共通の目標になるのです。
建設工事終了後に、ターゲットコストと実際のコストの差分があれば(ターゲットより上回った場合も下回った場合も)、当事者同士で事前に合意していた方法で配分されます。入札段階では厳密な金額は設定せず、このプロセスに対する参加者の能力が主に評価されるのです。

タンペレトンネルプロジェクトでは、この過程を経て、当初のオーナーの見積2.2億ユーロを1.8億ユーロまで低減してターゲットコストとすることができました。

従来型の契約関係では、このようなプロジェクトの利益のための当事者間での情報交換や協力ができません。たとえ競争力のある代替案を入札時に提示しても、発注者が短期間ですべての入札者を平等に扱いかつ適切に評価することは困難なため、発注者の意思決定は保守的になり、大胆な改善の提案は受け入れられず、多くの可能性が無駄になるのです。

3.KPI・イノベーション

一般的なアライアンスの慣行に従い、このプロジェクトでも、様々なパフォーマンスインデックス(KPI)が設定されました。スケジュール、安全性、交通への影響、公共イメージ、賞賛などに関するもので、それぞれのフォーマンスに応じて、ボーナスの支払いがあります。その成果はチームメンバー全員の成果なので、ボーナスはある当事者だけに与えられるのではなくチーム全体でプールされます。
タンペレトンネルプロジェクトでは、設定したすべてのKPIを達成しました。ターゲットコストよりさらに低いコストで、しかも、予定より6か月も早く完成したのです。

また、このプロジェクトでは50のアイデアが生まれ、20のイノベーションが実施されました。新しいアイデアが常に歓迎されるイノベーティブなチームとビッグルームの環境で、アイデアに経済的価値(VfM:Value for Money)があると判断されれば必ず実施されるのです。

4.アライアンス導入時の障害

アライアンスの採用にあたって障害がなかったわけではありません。「純粋な」アライアンスの業者選択プロセスでは、金額を一切含めず、キャパシティと能力のみを評価基準にします。しかし、これではEUとフィンランドの調達法を遵守しなかったため、「純粋な」アライアンスから一歩はみ出し、金額を含めたハイブリッドな業者選択基準を採用しました。ただし、通常の複雑な入札金額評価ではなく、とても簡素化された評価方法が採用されました。

またプロジェクト計画時には政治的な抵抗もありました。しかし、時の首相によるアライアンス契約への強い後押しもあって、国民たちの関心を維持することができました。

本プロジェクトは、2018年、IPMA (International Project Management Association) のメガプロジェクト部門で、国際プロジェクト優秀賞を受賞した他、複数の団体から受賞されています

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最後に

その後フィンランドでは、様々なプロジェクトにアライアンスが採用されています。多目的ビル、病院・医療施設・福祉サービス、旅行センター、大学施設、コミュニティセンター、教会、空港のターミナル、発電所、LRTなどです。さらに、プロジェクトアライアンスは、新築や改築工事だけでなく、鉄道網や都市部の日常的な維持管理にも適用されており、さらには情報システムの開発にも広がっています。すでに100近いプロジェクトが実施されており、その総額は55億から60億ユーロにもなります。(2)

アライアンス以前、フィンランドではPPP(Public Private Partnership:官民連携)が利用されていましたが、政治的に要求されない限りもはやPPPに戻ることはないでしょう。(7)

一方で、アライアンスが広がっていくと、「偽物」とまではいかないまでも、表面的にはアライアンスの体裁を整えるもののその本質が伴わない悪しき前例が生まれたり、マーケティング目的のフェイクなアライアンスの適用が懸念されます。そのようなギミックのアライアンスを制限するための業界全体のルールとモデル文書の作成が急務です。(3)

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参考文献
(1) “Rantatunneli : Value for money report”, Finnish Transport Agency, Helsinki 2018/3.
(2) Anders Nordström, ”How Finland developed Lean Construction and IPD made a part of project culture”, Lean construction-DK Network’s annual conference, 2022/8.

(3) Pertti Lahdenperä, “A Longitudinal View of Adopting Project Alliancing: Case Finland“, Emerald Reach Proceedings Series, Vol. 2, pp.129–136, Emerald Publishing Limited, 2516-2853
(4) Pertti Lahdenperä, ”The beauty of incentivised capability-and-fee competition based target-cost contracting”, 8th Nordic Conference on Construction Economics and Organization
(5) “Rantatunneli Alliance, Value for money report, Project development phase“, Rantatunneli Alliance Leadership Team, 2014.4.

(6) Saurabh Varanasi, ”Analyzing the collaboration tools used in the Dutch Bouwteam contract form and comparing it with similar international integrated contract forms of Finland and UK”, the Delft University of Technology, 2021/5.
(7) Olav Torp, “International experiences with implementation strategies (On behalf of the Norwegian Ferryfree E39 project)”, Concept Symposium 2016 Governing the Front‐End of Major Projects

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