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コラボラティブ契約(Collaborative Contracting):プロジェクトの新しい契約の形

  • 投稿カテゴリー:海外建設
  • 投稿の最終変更日:2022年8月21日
  • Reading time:5 mins read

コラボラティブ契約は欧米では20~30年も前から提案されていますが、日本ではあまり認知されていません。基本的な考えは、プロジェクト関係者全てに成功するインセンティブを与え、お互いに助け合う事がお互いのメリットになる仕組みを作ることです。

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前々回前回の投稿で「予測型プロジェクトライフサイクル・ウォーターフォール型開発モデルとアジャイル型プロジェクトライフサイクル・アジャイル型開発モデル」や、「昭和型経営からアジャイル型経営への移行の必要性」を紹介しました。
今回紹介する「コラボラティブ契約」の基本的な概念も、従来の縦型・分断型・対立型の契約関係から、組織の垣根を超えフラットで一体型のチームを志向するという意味では、方向性・ベクトルとしては共通、同じ方向を向いていると言えます。

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「コラボラティブ契約(Collaborative Contracting)」の枠組みの契約の形が提案されたのは1990年代イギリスで、もう20~30年も前ですから表題のような「新しい」にはかなり語弊があるかもしれません。しかし、日本では一部の事業者や専門家を除いて、あまり認知されていないと思います。
実はこのような長い歴史がある欧米でさえ、今でも「比較的新しい」契約形態として紹介される事が多いですから、まだ「新しい」と言い切ってしまっても良いでしょう。

コラボラティブ契約の基本的な概念は同じですが、欧米豪で名称や呼ばれ方が違い、基本的な理念は共通するものの仕組みが若干異なります。
● イギリス:「NEC(New Engineering Contract)」という契約約款が1993年に正式に発行。2017年に発行されたNEC4が最新。他国でも実績あり
● オーストラリア:アライアンス契約(Alliance contracting)
● アメリカ:IPD(Integrated Project Delivery:インテグレーテッド・プロジェクト・デリバリー)

「コラボラティブ契約」は、これらの契約の総称として使われることが多いです。更には後述する「パートナリング」のように、従来型の契約形態をベースにしたより緩やかな協力的な仕組みまで含んで呼ぶこともあります。まれですが「Relational Contracting」という表現もコラボラティブ契約同様の総称として使われることがあります。

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従来の契約方式、例えば「総価請負契約」(英語では、Lump Sum / Fixed Price / Stipulated Sum と言われ、プロジェクトの範囲全部を最初に決めた金額で行うという契約です)は、プロジェクトを進める中で問題が生じて契約当事者が対立する関係になることが多く、結果的にどちらかが何かを勝ち取ると、他方は失うまたは負けるというような「Win-Lose」の商業的インセンティブが根底にあります。

「総価請負/ランプサム契約」のような従来の契約形態では、その仕組み上、請負会社はプロジェクトの価値を求められる以上に高めるような努力はせず、契約で求められることのみを責任を持って実施しようとするインセンティブが発生します。
最初にプロジェクトの総額を決めますから、途中で問題や追加コストが発生した場合、プロジェクトオーナーは出来るだけその負担を請負会社に押し付けようとします。一方、請負会社としても追加の支払いがないと分かっているのに、余分なコストをかけることは避けたいですから、プロジェクトオーナーの意図とは反対の思惑で動きます。そのため、問題が起きた時に、協力して解決しようというよりは互いが互いに責任を押し付け合う構図になってしまいます。
このような契約では、請負会社は自ら追加のコストをつぎ込んでまでより良い物を作ろうとか、決定した契約金を減らされるリスクを背負ってまで、自ら提案してオーナーのコストを下げる努力はしません。設計にミスがあっても、請負会社が自ら追加のコストを使って、設計者のミスに対処しようとも思わないでしょう。

つまり、従来型の契約形態では、プロジェクト全体と各当事者の利害は一致しません。プロジェクト全体でみれば成功なのに、ある業者だけ大赤字ということもありえます。逆にプロジェクト全体でみれば大失敗なのに、ある業者だけ大きな利益を上げるということもありえます。

契約上の対立の問題を軽減・解決するための仕組みとして「パートナリング」があります。懸念事項、想定される課題などが大きな問題に発展する前に、プロジェクト関係者で協議して解決を試みる制度です。
パートナリングはアメリカとイギリスで仕組みが若干異なるのですが、アメリカでは裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution:ADR)に関連付けられて用いられ、紛争の早期予防・初期対応という意味合いで導入される事も多く、パートナリングがない場合に比較して紛争解決費用が抑えられる効果はあります。
しかし、契約自体は基本的に従来の形式であり、パートナリングは契約上の対立の問題を軽減するが対立をなくすものではなく、その効果には限界があります。

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コラボラティブ契約の背後にある基本的な考え方は、プロジェクト関係者全てに成功するインセンティブを与えることです。
例えば、設計者、元請、下請、トータルで費用を最適化しようとすることは、従来の契約形態ではありえませんが、コラボラティブ契約では実現できるのです。

パートナリングの仕組みでもそこまでは達成できません。当事者間の紛争が深刻になりプロジェクトにおける自社の収益が大きく悪化してきたら、身銭を切ってまで相手のコスト低減を助けることはしないでしょう。しかし、コラボラティブ契約では相手を助けることが自分の利益にもなるのです。

コラボラティブ契約は相互利益の仕組みをつくり、友好的な関係を助長し、無駄なコストをお互いに費やすのではなく、共に生産性を上げプロジェクト全体の成果を向上させるものです。

「そんなの言うは易く行うは難し、できるならとっくの昔にやっているよ。。」と思われるかもしれません。

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では、どうやってこれを実現していくのか?
。。。「相互信頼と協業の精神をもって行動する」ことによってです。

「相互信頼と協業の精神をもって:in the spirit of mutual trust and co-operation」は、先に紹介したイギリスのNEC契約約款に記載されています。
アメリカ建築家協会(American Institute of Architects)発行の「Integrated Project Delivery: A Guide」にも冒頭に契約の原則として「相互の尊重と信頼:Mutual Respect and Trust」が謳われています。

なんとっ!

日本では曖昧で見直す必要ありと、悪い意味で引用されることが多い建設業法第18条の「信義に従って誠実にこれを履行するものとする」が大事だというのです!国際契約をやっている日本人にとってはびっくりですね。

日本では「信義に従って誠実にこれを履行する」原則のもと、工期や金額の変更については、「発注者と受注者とが協議して定める。。。協議が整わない場合には、発注者が定め、受注者に通知する(公共工事標準請負契約約款より引用)」と書かれていますが、結局実務上は片務的(片方に有利 → つまり発注者側に有利)になっています。
日本で「信義に従って誠実にこれを履行する」が機能しないのは、どう誠実に対応するかの具体的な記述が書かれていないからです。

コラボラティブ契約は、日本の契約約款のように、ただ「誠実に履行する」の一文が条項に含まれているだけではありません。お互いに無理して誠意に取り組むことを強制させるものでもありません。「どう誠実に対処する」のか、どう「Win-Win」の関係を作るのか、コラボラティブ契約には、プロジェクト参加者が必然的に「相互の尊重と信頼」のための具体的な仕組み化がなされているのです。
では、それはどのような仕組みなのでしょうか?
次回、コラボラティブ契約の仕組みの詳細を見ていきましょう。

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