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プロジェクトアライアンスを支えるマインドセットとチーム文化

  • 投稿カテゴリー:海外建設
  • 投稿の最終変更日:2022年8月28日
  • Reading time:9 mins read

プロジェクトアライアンスは、当事者間の「One team, One Voice, One Result(1つのチーム、1つの声、1つの結果)」のチーム文化に特徴づけられます。アライアンスの根底をなすのは、コミットメント、相互信頼、誠実さ、平等、オープンさといったマインドセットであり、それを支える仕組みです。

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はじめに

大手コンサルタント会社のマッキンゼー(McKinsey & Company)は、2017年のレポートで、メガプロジェクト(超大型プロジェクト)の成功には、技術的なノウハウではなく、ソフトリーダーシップ、組織能力、マインドセット、行動などのソフトスキルが重要だと結論付けています。マッキンゼーは、メガプロジェクトを成功させた経験を持つ27人にインタビューを行い、これらの重要な特徴を見いだしました。(1)
そして、これらは間違いなく、プロジェクトアライアンス(Project Alliance)にも等しく当てはまります。今回はアライアンス形式のプロジェクトの成功に必要なマインドセットを見ていきます。

「メガプロジェクトのプロジェクト・ディレクターには、技術的な詳細を理解することではなく、チームをリードすることが求められる。エンジニアのトレーニングでは、リーダーシップスキルよりも技術的な面が強調され、そのような視点のプロジェクトマネージャーを育ててしまう」 ~  TG ジャヤンス(サンコーク・エナジー元副社長)

“A project director of a large project doesn’t need to understand the technical ‘nitty gritty’—they need to lead. Engineering training channels project managers to think in a particular way and often this emphasises technical over leadership skills.” ~ TG Jayanth (1)

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プロジェクトアライアンス(Project Alliance)とは?

本サイトではこれまでプロジェクトアライアンスやその契約形態を用いたプロジェクトを紹介してきました[1][2][3]。

プロジェクトアライアンス契約(コラボラティブ契約とも言います)は、プロジェクトを実施する当事者間のコラボレーション(協業)を最大化するチーム文化によって特徴付けられます。異なる組織から参加しているプロジェクトメンバーに対して、参加メンバー共通のゴールを設定して、メンバーの利害を一致させます。アライアンスの3つの大原則は「One team, One Voice, One Result(1つのチーム、1つの声、1つの結果)」です。(2)

One team(1つのチーム):プロジェクトの参加者は、発注者やその代理人の監督のもと独立して仕事にあたるのではなく、1つの統合されたチームとして協働します。

One Voice(1つの声):アライアンスでは各当事者の代表からなるチームによる共同ガバナンスの枠組みが確立されます。話し合いによって意思決定がなされ、各メンバーは意思決定において平等な発言権を持ちます。意思決定は、地位の高さや声の大きさによってではなく、何がプロジェクトにとって最適か「Best for project」の原則に基づいて行われます。

One Result(1つの結果):チームの決定にメンバー全員が責任を持ちます。「No Blame(ノー・ブレイム)」の文化があり、参加者が他の参加者を責めることはありません。プロジェクトのリスクと機会、利益と損失はメンバーでシェアします。すべての当事者が共に成功するか失敗するかどちらかである運命共同体のチームで、結果に対して全員が責任を持ちます。

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プロジェクトアライアンスを支えるマインドセット(3)

建設プロジェクトの契約形態は、当事者間の分担と責任を明確に分けることを主眼とした従来型の契約方式から、パートナリングやPPP(官民パートナーシップ)など、紛争回避や、協力の仕組みを取り入れた契約形態に緩やかに移行してきています。
アライアンス(コラボラティブ契約)は、その原理をさらに推し進めたもので、従来の契約形態下の当事者同士の対立的な関係「Us vs Them(私たち 対 彼ら)」とは対照的な協力のチーム文化を持っています。

では、アライアンスにおける成功の鍵は何でしょうか?
今回はアライアンス契約の根本をなすマインドセットを見ていきます。

コミットメント ・オーナーシップ

「コミットメントがある」、「オーナーシップがある」とは「自分事として物事に取り組んでいる」ということです。アライアンスでは、プロジェクト開始時に共通のゴールを掲げ、メンバーすべてがそれを理解し、それぞれが当事者意識をもってその目標達成に向かって努力し、かつ協力的・協調的に行動することを約束(コミット)します。
アライアンスでは、プロジェクトのビジョンを明確にし、その達成のために期待される行動を盛り込んだ基本原則に合意し、プロジェクトにとって何が最善か「best for project」のアプローチを取るコミットメントを促す仕組みが組み込まれています。

相互の敬意と信頼

すべてのメンバーがチームに貢献します。それを可能にするのは、メンバー間の敬意であり信頼です。チームのメンバーがお互いを尊重し、その貢献に対する価値を認めます。相互に敬意と信頼があるチームでは、メンバーが自分の言いたいことを言い、他のメンバーの言ったことを批判的にならずに受け止めることができます。
信頼とは、メンバーが自らの強みと弱み、脅威をチームに開示して共有し、ともに補完しあいながらそれぞれの違いを生かして目的を達成していくためのベースになります。それはもはや技術的なものでなく、人間的なものです。
信頼はまた、メンバーの士気の維持や、心理的な安全性の改善、不必要な書類作成などの業務や官僚主義の減少、当事者間の紛争の減少につながります。

誠実さ

アライアンスの環境下では、他のメンバーを批判したり非難しません。従来型の契約下では、相手方の遅れ、ミス、見落としなどから生じる損失に対して相手に請求しますが、多くの場合メンバー間の争いに発展してしまいます。アライアンスではこの相手を追及する権利を放棄します。
アライアンスには「それは私の仕事じゃないですよ」とか「○○さんの段取りが悪いから遅れたんじゃないんですか」とか「どうやって責任を取ってくれるんですか?」という文化はありません。

人の揚げ足をとったり、他人を責めることにエネルギーを使うのではなく、自分がいかにプロジェクトに貢献するか、他のメンバーと協働するか、うそや隠しごとなくお互いに助け合う誠実さが求められます。

平等

「ゲイン・シェア/ペイン・シェア(Gain share/Pain share)」 の原則の下、プロジェクトの機会やリスクに対する予算が設定され、共同管理されます。コスト削減による追加利益も、予算超過による追加損失も、事前に決めたられたフェアな割合で平等に配分されます。
この仕組みにより、プロジェクトメンバーに、革新的で、プロジェクトに利益をもたらすような新しいアイデアを提案するインセンティブが生まれます。上下関係や官僚主義はなく、クライアントでさえチームの1メンバーであり、下請け業者でさえも、プロジェクトに関連する事柄について、直接クライアントと対等な立場で話ができるのです。

統合・一体

アライアンス型のプロジェクトチームは、チームとして決断し、責任を追い、その結果に連帯責任を負います。特定の当事者の利益のために意思決定がなされるのではなく、プロジェクト全体の利益のために意思決定がなされます。所属先の組織よりプロジェクトチームの成果が優先されるので、皆が同じ方向を向き、ベクトルが合った一体化されたチームになります。チームの目標を一致させることは、プロジェクトの成功を決める核心をなします。

コラボレーション(協業)

アライアンスが成功するためには、メンバーすべてが協業の原則に基づいて行動することが求められます。メンバー全員がプロジェクト全体のパフォーマンスに責任を持つからです。そのためには、アライアンス文化に相容れない従来の古い慣習やマインドセットからの転換が必要で、プロジェクトによってはそのマインドセットの転換を助けるためにファシリテーターが置かれることがあります。
プロジェクトの参加者たちは、アライアンス共通の目的を達成するために必要な業務やサービスを認識し、「バリュー・フォー・マネー(Value for Money)」につながる新しい提案をします。

オープン

共通のゴール、一体化したチーム、敬意、平等、誠実さを基礎とし、関係者間の情報をオープンにして共有します。共有される情報には、原価、経費、見込み予算、利益に関する正確な数値が含まれ、すべての関係者が自由にアクセスできます(オープンブック会計)。
オープンなコミュニケーションには、周辺住民などのステークホルダーとのコミュニケーションも含まれます。プロジェクト期間中、地域住民などのステークホルダーに対して、さまざまな媒体やイベントを通して情報を共有し、地域住民や市民からのフィードバックに対応します。

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企業間のアライアンスとの共通点(4)

アライアンスという概念はプロジェクトだけでなく、もちろん従前から企業間でも利用されてきました。ヴァンテージ・パートナー(Vantage Partners)の経営コンサルタントであるヒューズ(Jonathan Hughes)とワイス (Jeff Weiss)らは、20年にわたる企業アライアンスの関わりから、アライアンス・マネジメントに関する従来のアドバイスを補完する以下の5つの原則を提示しています。

(1) ビジネスプランの定義よりも、自社とパートナーがどのように協働していくかに重点を置く。
アライアンスの成功は、双方の従業員たちが、あたかも同じ1つの会社に勤めているかのように働くことができるかどうかにかかっています。

(2) アライアンスの成果に対してだけでなく、その進捗に対する評価指標を作成し、短い頻度で測定する。
通常、企業間のアライアンスでは、収益の増加や、コスト削減、市場シェアの拡大などの目標が設定されます。しかし、企業間のアライアンスでは、最初の数ヶ月、あるいは1〜2年で大きな成果が出ることは稀です。アライアンスは、その性質上、相当な投資と努力を継続しないと大きな成果は得られません。しかし、なかなか成果が上がらないという報告を受けると、当事者たちは自信を失ってしまい、上層部の関心は薄れ、経営資源は他に移され、士気は低下し、アライアンスの崩壊につながることが多いのです。
アライアンスの最終的なパフォーマンスに影響を与える要因、いわば成功(または失敗)の主要指標となる手段や行動を測定する必要があります。このような進捗に関する指標で良好な結果を得ることで、コミットメントを持続することができます。

(3)違いをなくそうとするのではなく、違いを活かして価値を生み出す。
企業がアライアンスを組むのは、市場、顧客、ノウハウ、プロセス、文化が異なるという、活用したい差異があるからのはずですが、大半のアライアンスでは、これをすぐに忘れてしまい、対立を最小限に抑えることに膨大な時間とエネルギーを費やし、どちらかまたは双方が持っていた強みを利用するどころか弱めていってしまいます。

(4)形式的な制度や構造にとらわれず、協調的な行動を可能にし奨励する。
アライアンス後のチームで最も克服するのが難しい行動は、何か問題が発生したときにすぐに相手を責めてしまうことです。誰が悪いかを考えたり、批判をかわすことに費やされる時間とエネルギーは膨大です。大切なのは、相手を判断や評価するのではなく、関係を探求することです。
そのためには、課題に対して、両当事者がどのように貢献し、それを改善するためにそれぞれが何をすべきかを冷静に話し合うことです。

(5) パートナーとの関係だけでなく、社内のステークホルダーの管理にも目を向ける。
この最後の原則は奇妙に聞こえるかもしれませんが、しばしば最も重要で最も困難なのは、自社側のコミットメントを維持したり、関連部署との調整を図ることです。
会社は一枚岩ではありません。アライアンスはこの現実を無視し、双方のパートナーを単純で均質な存在であるかのように扱う傾向があります。アライアンスに関するアドバイスの多くは相互信頼の重要性を強調しますが、相手企業とのやりとりに集中するあまり、自分たちの組織内で起きていることに気が付かなかったりコントロールできず崩壊していくケースも多いのです。

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最後に

以上、企業間のアライアンスの5つの原則を紹介しましたが、ヒューズとワイスは、これらの原則を採用した企業は、アライアンスの成功率を劇的に向上させていると報告しています。
そして、これらの企業間のアライアンスの原則は、もちろんプロジェクトアライアンスにも共通しますし、その根底にあるマインドセットは先に紹介したプロジェクトアライアンスを支えるマインドセットにも通じるものです。

また、大小かかわらずプロジェクトを実施する環境や状況、求められる要件は複雑かつ厳しくなってきており、冒頭に紹介したマッキンゼー社のメガプロジェクト(超大型プロジェクト)の成功に必要なソフトスキルは、メガプロジェクトに限らず、またアライアンスにも限らず、多くのプロジェクトで必要になってきているかもしれません。

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「プロジェクトをどう立ち上げるか、正しい人たちをどう集めるか、パートナー間の正しい行動をどう確立するか、これらを深く考える必要性を回避することはできない。すべてはプロジェクトの始まりにある」 ~ グラント・キング(オリジン・エナジー社 元マネージング・ディレクター兼最高経営責任者)

“I don’t think anything avoids the need to think deeply about how you set these projects up, how you get the right people in the ventures and how you get the right behaviours between the partners and through the contractors. I think it’s all about the beginning.” ~ Grant King, Former Managing Director and Chief Executive Officer, Origin Energy (1)

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参考文献
(1) “The art of project leadership: Delivering the world’s largest projects”, McKinsey Capital Projects & Infrastructure Practice, 2017/9.
(2) Nicole Green and Madeleine Chua, “Alliance contracting: key ingredients to a successful alliance”, Roads & Infrastructure Australia Magazine, 2018/4.
(3) Lim Shin Yee, Chai Chang Saar, Aminah Md Yusof, Loo Siaw Chuing, and Heap-Yih Chong, “An Empirical Review of Integrated Project Delivery (IPD) System“, International Journal of Innovation, Management and Technology, Vol. 8, No. 1, 2017/2.
(4) Jonathan Hughes and Jeff Weiss, “Simple Rules for Making Alliances Work“, Harvard Business Review, 2007/11. 

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