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パーパスとパッション。情熱に溢れているのに失敗するのは、目的が欠けているから

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年8月17日
  • Reading time:6 mins read

「情熱を追求せよ」、「情熱をもって打ち込めるものを探しなさい」と言われます。しかし、私たちは、情熱をもっているのに、いや、情熱があるがために失敗するのです。目的がないからです。情熱は「もの」や「こと」に対する感情に過ぎず、目的があなたが行動する「なぜ」になるのです。

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はじめに

私たちがよく耳にするアドバイスがあります。

「情熱を追求せよ」
「情熱を持って打ち込めるものを探しましょう」
「情熱を注げられるものに取り組みなさい」

このようなアドバイスに疑問を持ったり、否定する人はめったにいませんね。「情熱を追いかけよ(Follow your passion)」という言葉が英語の書籍に現れる回数は、1990年以降9倍にも増えています。(1)

しかし、アメリカのベストセラー作家であり、メディア戦略家のライアン・ホリデー(Ryan Holiday)は、この「情熱に従って行動するべき」という考え方に異議を唱えます。時に私たちは、情熱をもっているのに、いや、情熱があるがために失敗するからです。(2)

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「情熱(パッション)」ではなく「目的(パーパス)」を持て

エレノア・ルーズベルト(Eleanor Roosevelt)は、フランクリン・ルーズベルト第32代アメリカ大統領の妻であり、1933年から1945年までファーストレディーを務めました。
彼女は幼少期、金銭的には恵まれたものの、理想とはかけ離れた家庭環境で育ち、その両親とも早くに死別しました。のちに彼女は、貧しい移民の子どもたちのための学校で働き、人生で初めて貧困の現状を目にし、大きな衝撃を受けます。ルーズベルト政権の女性やマイノリティに関する政策の多くはエレノアの発案によるものです。(3)(4)

彼女が政治家としてのキャリアをスタートさせたばかりの頃、ある人が、社会政策に対する彼女の「情熱的な関心」に賛辞を送りました。しかし、彼女はこう答えました。「そうです、私はその政策を支持しています。でも、”情熱的”という言葉は、私には当てはまりませんね」。(2)(5)

彼女が持っていたのは情熱ではなく、強い目的でした。彼女は情熱(パッション)ではなく、揺るぎない目的(パーパス)と使命感で動いていたのです。

このことは、私たちに広くあてはまります。多くの情熱(パッション)あふれる起業家や、経営者、政治家たちが失敗するのは、目的(パーパス)が欠けているからです。

「世界一の〇〇を目指す」
「最年少で□□を達成する」
「世界平和を実現する」
「環境問題を解決する」

ここで言う情熱とは、目の前にあるものに全力で飛びつく熱意、強いエネルギーの塊です。それは、何かを達成したいという、野心的で、燃えるような、抑えがたい、しかし何か漠然とした欲求です。

ライアン・ホリデーは、大切なのは、「情熱(パッション)」ではなく「目的(パーパス)」を持つことだと言います。(2)
情熱を持つ人の多くが見ているのは「自分自身」だけです。主に「自分」だけを喜ばせたり満足させるための情熱なのです。それとは対照的に、目的は、自分を強調せず「自分の外」にあるものを追求します。
情熱は、時に派手さを求め、強い衝動や焦燥をもたらし、最も危険な、野心、貪欲、虚栄心、名誉、名声への欲望の罠へ私たちを引きずり込むことさえあります。情熱がエゴとなり、私たちをコントロールするのです。

情熱は感情であり、目的は意志です。
情熱は「もの」や「こと」に対する感情であり、目的はあなたが行動する「なぜ」です。(6)
目的を持ち強い意志で動く人は、強い情熱を持つ人とは違う行動の仕方をします。

また、私たちには、目的とともに、リアリズム(現実主義)も必要です。情熱に視界を曇らせ自分の見たい方向からだけ現実を見るのではなく、現実を冷静に見つめます。小さなステップから始め、それがうまくいったら、次のステップを見つけ、どうすればより良くできるか考え、また同じことを繰り返します。派手さはありませんが、少しづつ前進します。その先にあるものに怯え、その大きさに謙虚になり、しかし、それでもやり遂げようと決心しています。自分がどうしたいかではなく、何をしなければならないか、何を言わなければならないかを考え、質問し、フィードバックを求めながら、少しづつ大きくしていくのです。

多くの場合、燃え盛る情熱の炎は、いずれ消えていってしまうか、その逆に巨大なエゴの炎となり私たちはコントロールするすべを失います。目的は細く長く強く消えることなく燃え続ける炎です。

かつてゲーテは「大いなる情熱は、希望のない病である」と言いました。(2)
フランス革命からナポレオン時代のフランスの政治家タレーランは、外交官に「Surtout, pas trop de zèle(とりわけ、熱意がありすぎないように)」という格言を贈りました。(2)

寝具産業に新たな風を吹き込んできたキャスパー(casper)社の共同創業者の1人、ジェフ・チャピン(Jeff Chapin)は「情熱を追うな(Don’t follow your passion)」と言います。チャピンにとって「情熱を追う」とは「趣味を追う」と同じ意味です。「カイトサーフィンが好きだから、カイトサーフィンのビジネスを始めようと考える人」と同じだと言います。(7)

目的(パーパス)が強く感じられる最近の人物として、ドイツのメルケル元首相があげられるでしょう。粘り強い政治手腕でドイツの長期経済成長を支え、16年の長期政権を築きましたが、彼女が初めて政治家になったのは、ベルリンの壁の崩壊の翌年1990年、36才の時です。それまではごく普通の一般人でした。
他の多くのリーダーたちがエゴや権力に毒されて自分を大きく見せようとすることに躍起になるのとは異なり、彼女はとても地味で静かで、派手さはありませんでしたが、少しづつしっかりと前進しました。テレビの画面からも、パーパスに導かれている人たちに見られる軸の強さ、ぶれなさ、地に足がついている印象が感じられました。

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ほんとうに情熱(パッション)は悪いのか?

と、ここまで「情熱(パッション)ではなく目的(パーパス)が大切」という事例を紹介してきました。私もそう思う一方、しかし、最後に今さらですが(汗)、すべての情熱が否定されるべきでもないとも思うのです。
再三にわたってこのサイトで述べているように、二極化した意見では、その両極端のどちらかだけが常に正しいということはほとんどありません。
キャリアの初期には、情熱から端を発して、その後長い時と道のりを経て、ようやく目的を見つけることにつながることもあるでしょう。また、情熱によって何かを発見したり、情熱によって人の心を揺り動かして、ほかの人たちに何か大切なものを与えることもあるでしょう。

しかし、その情熱でさえ、行動なくしては得ることはできません。

スタンフォード大学の心理学教授であり、以前本サイトでも紹介したベストセラー「マインドセット」の著者でもあるキャロル・ドゥエック(Carol Dweck)は、学部のゼミで、学生たちに「情熱が見つかるのを待っている人は何人いますか?」と尋ねました。ほぼ全員が手を挙げて、夢見るような目をしました。彼らの情熱への追求は尽きることがないようでした。
ドゥエックは彼らにこう言いました、「風船を割るようで悪いんだけど、普通そうはならないのよ 」。

イェールNUS大学の心理学助教授ポール・オキーフは言います。「つまり、彼らにとって仕事のように感じるようなことは、好きではないということです」。彼は、研究室から研究室へと飛び回り、研究テーマとして自分の情熱と感じられるものを必死に探そうとする学生の例を挙げます。つまり、何かする前から、「興味や情熱が感じられないものは仕事にすべきでない」と考えてしまうのです。
情熱は「発見」されるものではなく、自らの行動を通して見つけていくものなのにです。(1)

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さいごに

以前本サイトで、「アパテイア(apatheia)」を紹介しました。
「アパテイア(apatheia)」はもともと哲学用語で、「パッションがない状態(a-passion = without passion)」、つまり、感情に邪魔されない心の状態です。アパテイア(apatheia)は、否定的な意味を持つ無関心(apathy)とは異なり、平静な状態を意味する肯定的な言葉です。つまり、情熱的になりすぎず、かつ無関心でもなく、この2つの状態の間にあるスイートスポットを見つけることができれば、外の世界で起きることから悪い影響を受けず、満足感と良い感情を維持できるとするものです。

情熱(パッション)と目的(パーパス)についても、それぞれが重なる、またはバランスを取り合うスイートスポットがあるのでしょう。

もし情熱があなたを駆り立てようとするならば、理性でその手綱を引くのだ。

~ ベンジャミン・フランクリン

If passion drives you, let reason hold the reins.

~ Benjamin Franklin

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参考文献
(1) Olga Khazan, “Find Your Passion’ Is Awful Advice”, The Atlantic., 2018/7.
(2) Ryan Holiday, “Ego is the Enemy”, Portfolio, 2106/6.
(3) Eleanor Roosevelt”, Wikipedia
(4) “エレノア・ルーズベルト”, ウィキペディア
(5) Anything Can Have Meaning”, Daily Stoic
(6) “Passion vs. Purpose – What’s the Difference and Why Does It Matter?”, Second Wind Movement
(7) Ali Montag, “Casper co-founder: Don’t follow your passion – do this instead“, CNBC, 2017/11.

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