You are currently viewing カール・ロジャーズの個人の行動や価値観に関わる8つの学び

カール・ロジャーズの個人の行動や価値観に関わる8つの学び

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年11月21日
  • Reading time:8 mins read

カール・ロジャーズの、自身の行動に関わる8つの学びを紹介します。ロジャーズによれば、人生は何も固定されていない変化するプロセスです。人ができるのは、先入観にとらわれず、自ら体験し、その時その時の自分を受け入れ、その意味を解釈しながら生きることです。内なる自由を得たとき、この自由な探求のプロセスが「よい人生」となるのです。

~ ~ ~ ~ ~

はじめに

カール・ロジャーズ(Carl Rogers, 1902 – 1987)は、アメリカの臨床心理学者で、心理療法(サイコセラピー、精神療法)の創始者の1人として広く知られています。以前、本サイトでロジャーズを紹介したときに、彼の対人関係に関わる6つの重要な学びを紹介しました。今回は、人間関係とは直接あまり関係のない、ロジャーズ自身の行動や価値観に関わる8つの学びを紹介します。

なお、以前紹介した対人関係における6つの学びと、今回紹介する自身の行動や価値観に関わる8つの学びは、共に、彼のもっとも有名な著書である「On Becoming a Person(邦題)ロジャーズが語る自己実現の道」の第1章の中で紹介されているものです。

この8つの学びは、とても短くまとめられていて、それ故に間違って解釈される可能性があるため、誤解を避け、理解を助けるために、一部補足説明を入れて紹介していきます。

~ ~ ~ ~ ~

カール・ロジャーズの個人的な行動や価値観に関わる8つの学び

1.自分の経験を信頼することができる

ロジャーズは、人は知性や理論に頼りすぎる傾向があるが、直感とのバランスを取るのが大切だと述べます。
ロジャーズは、理論も直感も様々な感情も含めた全体の自分(organismic self)が状況や物事を感じることが大切で、噓偽りがないありのままの自分(real self)の全体的な感覚が、最も信頼できることを学びました。

ロジャーズはそれまで、自分の進む道が他人から間違っていると思われて、その結果、自分自身を疑うことさえありました。しかし、孤独を感じたり、愚かさを感じたりしながらも、自分が正しいと思う方向に進むことで、次第に多くの仲間が加わってきました。
自分の中で時々起こる漠然とした、何か意味がある気がするような考えも、より尊重できるようになりました。曖昧な考えや勘が、大事なところに導いてくれることもあると思うようになり、それを指針にできるようになったのです。

~ ~ ~ ~ ~

2.他人からの評価は自分を導くものではない

2番目の学びは、先ほどの1番目の学びと密接な関係にあります。
他人の判断に、耳を傾け、考慮することはあっても、そのままでは、決して自分を導くものにはなりません。ロジャーズは、このことを学ぶのはとても大変だったと振り返ります。

かつて、ロジャーズは、知識豊富な心理学者に、心理療法はどこにもつながらない、心理療法に興味を持つのは間違いだと言われました。また、ある人たちの目には、ロジャーズが無免許で医療行為を行う詐欺師や神秘主義者のように映っていることを知り、動揺することがありました。その一方で、極端なまでに賞賛されて心を乱したこともあります。
しかし、時を経て、ロジャーズは、自分のしていることが正直で健全か、それとも、偽りで不健全かを知ることができるのは、自分1人だけだと感じるようになりました。
自分がすることについて、他人から、批判であれ、賞賛であれ、さまざまなフィードバックをもらうことはうれしいことですが、その意味や有用性を判断するのは、自分自身の仕事であり、他の誰にも譲ることができないものなのです。

※ 補足:人の評価は正しいことも、間違っていることもあります。つまり、他人が正しく、自分が間違えていることもあります。ロジャーズが述べていることは、他人がどう評価しようが、最終的に判断するのは自分自身だということです。
逆も真です。つまり、他人に対する自分の判断を相手に押し付けてはいけませんし、自分が与えたアドバイスを最終的に相手がどう判断するかは、完全に相手に委ねるべきです。

~ ~ ~ ~ ~

3.経験が、最も信頼できる

ロジャーズは、真理にできるだけ近づくためには、何度も何度も経験に立ち返なければならないと言います。
自分の意見も、他人の意見も、自分自身の直接的な体験に勝るものはありません。さらには、自分の経験が一次的で、より直接的であればあるほど、経験は高い信頼性を持ちます。つまり、経験は、その最下層において最強となります。
心理療法の理論を読むことより、患者との共同作業に基づいて心理療法の理論を立てることの方が信頼度が高く、さらには患者と心理療法を直接体験することの方が信頼度が高いです。
経験が信頼できるのは、それが絶対的だからではなく、常に一次的な方法で確認できるからです。

※ 補足:ロジャーズは、経験が常に正しいと言っているのではありません。うまくいく経験も、うまくいかない経験もあります。成功、失敗にかかわらず、できるだけ直接的な経験をするということです。もし今までの経験からでは分からなければ、理論や過去の経験だけに答えを求めるのではなく、新しい経験をし、もしそうすべきであれば、その経験を生かして自分の考えや行動を変えていくということです。間違った経験をしてもいいのです。間違いは人の可能性を広げ、成長させるものです。

~ ~ ~ ~ ~

4.経験の中に原則を発見するのを楽しむ

ロジャーズは、どんな経験にも、意味や原理を求めます。なぜなら、ロジャーズが、それを追求することに好奇心があり、その作業にやりがいを感じ、とても楽しんでいたからです。自分が楽しみ満足できるから、ロジャーズは経験の中に原則を見い出せたのであり、また、彼が書いた1つ1つの本や論文にたどり着いたのです。
一方で、出世のためだとか、名声やお金を得るためにおこなう判断や行動では、原理に到達できず、誤った原理にたどり着きます。

※ 補足:つまり、ロジャーズは、お金や名声のために仕事をしていたのではなく、自分が興味をもつことに、喜びを感じるから取り組んでいたのであり、それがゆえに、原則や真理にたどり着くことができたのです。
これは、以前本サイトでも紹介した内発的動機」と呼ばれるものです。自分が強く興味を持つ分野に取り組んでいる人は、その活動そのものから大きなエネルギーを得て、より充実し、幸せを感じます。一方で、お金や地位による動機付けは「外発的動機」と呼ばれます。外発的動機は、最低限の動機付けにしかならず、また短期的な効果しかもたらしません。

~ ~ ~ ~ ~

5.事実は友好的である

多くの専門家たちが、自らの論理を否定されることを恐れます。彼らは真実を知ることではなく、自分の論理を守ることを優先するからです。彼らにとって、事実は災いをもたらす可能性のあるリスクであり、新たな事実は敵対視すべきものです。

もし、私たちの仮説が反証されたら。。。
もし、私たちの意見が間違っていたとしたら。。。
自分の意見が正当化されないとしたら。。。

専門家だけではありません。私たちも見たくない現実から目をそらし、自分が作り上げた虚構にしがみついてしまいがちです。私たちはリアリティよりもファンタジーが好きなのです。

しかし、事実は常に友好的です。なぜなら、どんな分野でも、新しい証拠があれば、その分、真実に近づくことができるからです。真実を探求し続けることは、長い時間がかかるかもしれませんが、いつでも、最終的には私たちをよい方向に向かわせます。
真実に近づくことは、決して有害であったり、危険であったり、満足できないことではありません。真実に近づくことで、人生をより正確に見ることができます。

自分の考え方を修正するのを嫌ったり、古くなった認識や概念にこだわっていては、成長できません。成長や学びが難しいのは、成長や学びがこうした短期的な痛みを伴うからです。しかし、短期的な痛みは、長期的には、よりよい自分と世界につながる大きな価値があるものなのです。

~ ~ ~ ~ ~

6.最も個人的なことは、最も一般的である

この6番目の学びを理解するのはすこし難しいかもしれませんが、最もプライベートで、最も個人的で、それゆえ最も他人から理解されにくいものが、転じて、多くの人に共感される表現だということです。
私たちひとりひとりが持つ最も個人的でユニークなものは、おそらく、それを共有したり表現したりすれば、他の人の心に最も深く語りかけることができます。

~ ~ ~ ~ ~

7.人は基本的にポジティブな方向性を持っている

この7番目の学びは、25年以上にわたって、ロジャーズが苦境にある人たちの役に立とうと努めてきた結果、たどり着いたものです。
大きな悩みを抱えている人たちや、反社会的な行動をとり、異常な感情を抱いている人たちでさえも、その悩みを解決する基本的にポジティブな方向性を自分の中に持っています。彼らが表現している気持ちを敏感に理解し、受け入れるほど、その人たちはそれまで人生と向き合ってきた偽りの姿を捨てて、建設的で、前向きに自ら方向を変えるのです。

~ ~ ~ ~ ~

8.人生とは、何も固定されていない、変化する流れ、プロセスである

人生が豊かで実りあるとき、それは流れるようなプロセスであることに気づきます。ロジャーズは、自分の経験の流れに身を任せ、自分がまだぼんやりとしか気づいていない目標に向かって進むことができるときが、最高の状態であると感じています。

自分の経験の複雑な流れに身を任せ、刻々と変化するその複雑さを理解しようとすると、人生には「定点」がないことがわかるはずです。つまり、終わりがなく、完結することがないそのプロセスの中にいることができるようになると、完成された信念のシステムや不変の原則は存在し得ないことが明らかになります。人生は、経験に対する変化する理解と解釈によって導かれるものです。

~ ~ ~ ~ ~

さいごに

私たちができるのは、自分に対しては、自分の体験の現在の意味を解釈して生きること、そして、他人に対しては、その人たちの体験の意味を解釈する自由を与えようとすることだけです。
ロジャーズは、もし真理があるとすれば、この自由な個人の探求のプロセスが、真理に向かって収束していくはずだと信じています。そして、これはロジャーズが自ら経験したことでもあります。

ロジャースは、よい人生を送るためのプロセスの特徴として、次の5つを挙げています。

  • 経験に対してオープンである:これと真逆の状態が自己防御です。自分の声に耳を傾け、自分の中で起こっていることのありのままを受け止め、恐怖や落胆、痛みといった感情に対しても、オープンになることで、より完全に生きることができます。
  • その時その時の自分を受け入れる:私たちの多くは、自分の先入観に合うように経験をねじ曲げて解釈します。築き上げた自分の世界と現実が合致しないことにイライラします。しかし、先入観に合わせて経験を解釈するではなく、その逆に、自己や人格を経験から形づくっていくのです。経験をコントロールするのではなく、経験を受け入れるのです。
  • 自分のすべてを信頼する:多くの人は、組織や団体が定めたルールや、他人の判断、あるいは過去に自分がとった行動を頼りに行動します。しかし、このプロセスは、信頼できません。現在の状況には適合しない情報が含まれていたり、逆に、現在存在する情報が抜け落ちていたりするからです。自らの感情や反応に正直になって、自分の経験にオープンになり、「正しいと感じる」ことをすることが、有能で信頼できる行動のガイドラインになります。
  • 創造性:以上の説明から、人に創造性が必要というよりは、よい人生を送る人たちが創造的であることが明らかでしょう。
    よい人生を送る人は、自分の世界に対してオープンで、周囲と新しい関係を築く自分の能力を信頼しており、必ずしも自分が所属する文化に「適応」するわけではありませんが、環境や文化とのバランスを図りながら、新しい経験を繰り返し、建設的に生きていきます。
  • 充実した人生:良い人生には、私たちの多くが置かれている窮屈な生活よりも、より広範囲な生活が含まれます。このプロセスに参加することは、より多様に、より豊かに、より繊細に、より鮮明に生きることであり、時に恐ろしく、時に満足する体験に関わるということです。
    そして、私たちがより広い範囲に渡ってよい人生を生きることができるのは、それを可能にする信頼できる道具は自分自身であるという根本的な自信があるからなのです。
    「良い人生」と呼ぶこのプロセスを表す言葉としては、幸せ、満足、至福、楽しいといった形容詞より、むしろ、豊かさ、興奮、やりがい、挑戦、意味といった形容詞の方が適切かもしれません。この「良い人生」のプロセスは、決して臆病な人たちには達成できません。自分の可能性をもっともっと引き伸ばし、人生の流れに身を投じ、成長する勇気を伴うプロセスだからです。人は、内なる自由を得たとき、このプロセスを「よい人生」として選択することができるのです。

コメントを残す

CAPTCHA