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デミングのマネジメント論:深遠なる知識のシステムSystem of Profound Knowledge

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年1月7日
  • Reading time:6 mins read

統計的な生産管理手法で日本の製造業に大きな影響を及ぼしたデミングですが、そのマネジメント論も秀逸です。組織が変化を受け入れ進化するためには、①システムに対する理解、②ばらつきに関する知識、③知識の理論、④心理学の4つの領域からなる知識が必要です。この4つは相互に関連しあっていて、切り離すことはできません。

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深遠なる知識のシステム(System Of Profound Knowledge® :SoPK)

W・エドワーズ・デミング(W. Edwards Deming, 1900~1993)はアメリカの統計学者で、1950年から日本に統計的な生産管理手法(Statistical quality control:SQC)を広め、日本の製造業や経営に多大な影響を与えた人物として有名です。

今回紹介する「深遠なる知識のシステム(System Of Profound Knowledge® :SoPK」 は、デミングが晩年に近い1991年にまとめた研究の集大成とも言えるマネジメント論です。(1)

デミングは、従来型のマネジメントは変化を受け入れ、システムを変えなければならないと言います。しかし一方で、システムの中にいる人は自らのシステムを理解できません。システムの変革にはシステムを外から見ることが必要です。「深遠なる知識」とはシステムを外から見る視点であり、①システムに対する理解、②ばらつきに関する知識、③知識の理論、④心理学の4つの領域から構成されています。この4つは相互に関連しあっていて、切り離すことはできません。

① システムの理解(Appreciation of a system)- システムやプロセスの全体を理解する
② ばらつきに関する知識(Knowledge of variation)- 統計的な手法を用いてばらつきの範囲と原因を知る
③ 知識の理論(Theory of knowledge)- 知識と「知ることの限界」を知る
④ 心理学(Psychology)- 人の考え方や感じ方を理解する

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1.システムの理解(Appreciation of a system)

システムには、システムを構成する個々の要素間の相互作用(フィードバック)によって、まるで1体の生き物が、その定常状態を維持しようとするために自動的に行動を強制するような内的な制約が生まれます。システムのアウトプットを決定するのは、個々の要素ではなく、この定常状態です。
組織を含むシステムで言えば、組織の成果の質を向上させる鍵を握っているのは、個々の部署や従業員、プロセスの足し合わせではなく、その相互作用であり、個々の従業員というよりは、組織の構造なのです。

管理者や経営者はシステムをマネージしなければなりません。全ての人が違うことを理解し、その相互作用をマネージするのです。これは人を順位づけたり、階層分けするような意味ではなく、すべての人のパフォーマンスは、その人たちが働く組織のシステムに大きく影響されており、つまりマネジメントの責任に大きく支配されているという意味です。

システムは意図で動きます。システムを導くには目的がなければなりません。経営者は、将来のあるべき姿を念頭に置いて、組織のシステムを設計しなければなりません。個々の要素とその相互作用が共通の目的を達成するために協力し合うとき、組織はシステム全体として最適化され、大きな成果を上げることができるのです。
デミングは、問題の原因が特別なもの(システムの外)のものは6%に過ぎず、その他94%はシステムに起因するもの、つまり、管理者や経営者、マネジメントの責任であるとしています(2)

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2.ばらつきに関する知識(Knowledge of variation)

多くの理論やモデルは平均値に基づいており、測定するすべてのものにはばらつきがあります。そしてそのばらつきには「正常なばらつき」と、欠陥を生み出す「特別な原因」があります。管理することは「正常なばらつき」をコントロールしながら「特別な原因」を排除することです。
データを正しく使うためには、「ばらつき」の原因を知らなければなりません。管理者や経営者は「正常なばらつき」と「特別な原因」を区別できなければなりません。
「正常なばらつき」を排除しようとしてシステムを変えるという間違いを犯すと、システムはますます機能しなくなります。
また、ばらつきには「数えられる既知のばらつき」の他に「未知のばらつき」と「数えられないばらつき」があるため、数字は大事ですが、数字だけに依存することは危険です。

図:正常なばらつき(イメージ図)

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3.知識の理論(Theory of knowledge) 

マネジメントの仕事は予測することです。合理的な予測には理論が必要で、知識は理論の上に積み上げられます。理論は行動の原理となりますが、その理論は人それぞれです。過去に起きたことをもとに未来を予測し、その予測と実際に起きたことの観察を比較してシステムを修正し理論を拡張する、この繰り返しの学習(Study)によって新しい知識を積み上げていくことができます。日本ではPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルが一般的に知られていますが、デミングはPDCAではなく、PDSA(Plan-Do-Study-Act)という言葉を好んで使っています。

経験それ自体は何も教えません。基礎となるシステムを理解しない経験は、欠陥のある理論の誤った解釈につながるだけです。また、データは、その文脈を切り離しては意味を持ちません。

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4.心理学(Psychology) 

心理学は、人、人と環境の相互作用、マネージャーとチームメンバー、そしてシステムを理解するのを助けます。デミングにとって、心理学の知識は、人の考え方や感じ方を理解することであり、何が人を動機づけ、何が損なうかを知ることです。

従業員の誰もが組織に貢献できる能力をもっています。その能力を発揮させるためには、仕事に誇りを持ち、自由に頭を使い、効果的な道具を与え、継続的な改善を実践させる仕組みが必要です。
人が活躍できる環境を整えること、人が自分の仕事に誇りを持てるような仕組みを作ることがデミングの考え方の鍵です。デミングのマネジメントシステムは、人が自由に質問し、実験し、学び、失敗し、協力し、革新することができる環境を作ることです。人には学びへの欲求があります。経営者の仕事は、この欲求を満たすことであり、外的な動機付けによって行動を操作しようとすることではなく、内発的動機を満たし、働く喜びを満たすことです。そうすることで組織は長期的な視点に立ち、目的を達成しようと進むことができるのです。

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変革のステップ

変革に必要な最初のステップは、個人の変革です。個人の変革は断続的に起きるもので、深遠なる知識の体系を理解することで始まります。深遠なる知識の体系を理解し変革を成し遂げた人は、自分の人生、出来事、数値、他人との対話に新たな意味を見いだすようになります。

いったん深遠なる知識の体系を理解できれば、その原則を他人とのあらゆる関係にも適用することができます。模範を示し、他人の話を良く聞くが妥協せず、常に人に教え、人々が古くなった習慣から抜け出すのを助け、新たな哲学を植え付けます。それによって、その人が属する組織を変革することができます。

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デミング賞

デミング賞は、デミングの業績を記念して1951年に創設されたTQM(Total Quality Management:総合品質管理)に関する賞です。デミング賞には「受賞が目的になっている」等の否定的な意見もないわけではありませんが、日本科学技術連盟のホームページに記載されている「デミング賞を受賞できる組織」には、組織のあるべき姿がコンパクトにまとめられています。

A) 経営理念、業種、業態、規模及び経営環境に応じて、明確な経営の意思のもとに積極的な顧客指向の、さらには組織の社会的責任を踏まえた経営目標・戦略が策定されていること。また、その策定において、首脳部がリーダーシップを発揮していること
B) A)の経営目標・戦略の実現に向けて、TQMが適切に活用され、実施されていること
C) B)の結果として、A)の経営目標・戦略について効果をあげるとともに、将来の発展に必要な組織能力が獲得できていること

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最後に

システムと言えば、ピーター・センゲ(Peter M. Senge)が「The Fifth Discipline: the Art and Practice of the Learning Organization(邦訳:学習する組織)」で紹介したシステム思考が有名です。書籍の中で、センゲは、システムを「。。。これらの出来事は、時間的にも空間的にも離れているが、すべて同じパターンでつながっている。それぞれの事象は他の事象に影響を与えるが、その影響は通常は見えない。システムを理解するには、個々の部分ではなく、全体を観察する必要がある。」と紹介しています。

デミングはシステムを「共通の意図を達成するために協力し合う、相互依存する構成要素のネットワーク」と定義しており、「システムには目的が必要で、目的がなければ、システムは機能しない。組織の目的に向かって、人々が協力するようにシステムをマネージしなければならない」と述べています。

①システムに対する理解、②ばらつきに関する知識、③知識の理論、④心理学という4つの領域からなるデミングのマネジメント論は、時代を超えた普遍的なものであり、シンプルながらも本質を突いています。

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参考文献
(1) W. Edwards Deming, “The New Economics for Industry, Government and Education“, MIT Press, 1993.
(2) W. Edwards Deming, “Out of the Crisis“, MIT Press, 1986.
(3) Ronald D. Moen, Clifford L. Norman, “Always Applicable”, Quality Progress, American Society for Quality, 2016/6.

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