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ゴール設定の落とし穴。ゴールを設定するメリットとデメリット

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年4月30日
  • Reading time:9 mins read

個人でも仕事でも何かしようとする時に私たちはゴール(目標)を立てます。ゴールは私たちに方向性を示し、意識をフォーカスさせますが、落とし穴もあります。①ゴールの先にあるべき「なぜ?」が明確でない、②ゴールを立てても達成する仕組みがない、③矛盾するゴールが存在する、④ゴール設定によって視野が狭くなる、⑤非倫理的な行動を招く、などです。

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はじめに

ゴールは、人やグループの将来の願いや望みを具体的にしたものです。ゴールを設定することで、私たちは、自分の感情と思考と行動をゴールに結びつけ、実現させるための強い力にできます。
一方で、ゴールを設定してもなかなか達成できないとこも多いですね。今回はゴールを設定するメリットとデメリット(落とし穴)を紹介します。

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個人がゴールを設定するメリット

ゴール(目標)を設定すると、次の4つの要素によってパフォーマンスが上がる効果があります。(1)

1.ゴールは私たちが向かいたい方向を指し示すコンパスの役割を果たします。注意と努力(認知と行動)をゴール達成に結びつく活動に集中させ、結びつかない活動からは遠ざけます。

2.ゴールは行動への動機付けになります。私たちにエネルギーを与え、モチベーションを高めます。高くチャレンジングなゴールほど、低いゴールに比べて、より大きなエネルギーを生み出します。

3.ゴールは忍耐力を高めます。ゴールがなければ途中であきらめてしまうことも、より粘り強く、努力し続けようとします。

4.ゴールは、能力向上を助けます。ゴールを設定することで戦略的に考える力がつきます。既にある知識や過去の経験の組み合わせで達成できないか考えたり、それで足りなければ、どのような新しい知識やスキルが必要か、どうやってそれらを獲得できるか、他の人から協力を得られないかなど考える機会を与えます。その過程で新しい発見を得ることもあります。

ゴールを設定すると以上のようなパフォーマンスを上げる効果がある上に、実際にゴールを達成できれば、成功と喜びの感情、自信が高まるというメリットもあります。

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チーム(組織)でゴールを設定するメリット

もちろん、個人だけでなく、チーム(組織)でゴール(目標)を設定するメリットもあります。

1.ゴールをチームや組織で共有すると、メンバーの努力を同じ方向に向けさせ、より大きな力にできます。ゴールを設定すると、メンバーは常に指示されたり、進捗をいちいち管理されなくても、自律的にゴールに向けた努力を継続できるようになります。

2.組織のゴールと個人のゴールの方向性が一致していて、補完し合う関係にあると、組織のゴールを目指すことが個人のゴールに近づくことになります。その逆も成り立ち、相乗効果を高めます。

3.グループとしてゴールを設定すると、他のメンバーに対する責任感や、チームに貢献したいというという思いが強まり、ゴールへのコミットメントも高まります。お互いが支援し合いパフォーマンスを高めることができます。
他の人より優れている所を示したい、上司やチームに評価されたいなどの承認欲求からパフォーマンスが高まる効果もあります。

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ゴール設定の落とし穴

以上のようにゴール設定のメリットがある一方で、ゴール設定には落とし穴もあります。次にその落とし穴を見ていきましょう。

1.ゴールの先にあるべき「なぜ?」が明確でない

ゴールを設定しても、その背景にある理由=「なぜ?」が抜け落ちている場合があります。なぜそのゴールを達成したいのか、ゴールより一段上の、目的(パーパス)、ビジョン、成功の定義の欠如です。
効果的なゴールは、通過点やマイルストーンであって、最終目的ではありません。あくまでも短中期的な目標であって、1つのゴールを達成したら、その後にまた違うゴールがある、または複数のゴールを同時に並行して持っていて、それらのゴールの先に共通の目的がある、そのような性質のものです。

例えば、体重を5キロ減らす、良い成績を取る、〇〇大学に受かる、年収1000万円稼ぐ、社長になる、業界ナンバーワンになる。このようなゴールは「点」であり「イベント」です。その「点」に到達すれば成功、しなければ失敗で、その境界がはっきりしていて、しかも成功と失敗の差が極端です。
「点」のゴールを達成した後の喜びは一瞬で長続きせず、その先進む道を失ったり、空虚感が生まれたりする一方で、達成できないと挫折感を味わいます。

「点」のゴールの先にある目的を明確にしましょう。

なぜ5キロ痩せたいのか、なぜ年収1000万円稼ぎたいのか、なぜ社長になりたいのか?を自分に問いかけます。
例えば、地位欲=社長になりたいだけでなった社長は、社長になった時点でゴールを達成してしまいますが、本来それはスタート地点です。そんな「点」の思いだけ持って社長になった人が社長業を全うできるでしょうか?
社長になりたい「なぜ?」がはっきりしていれば、ひょっとしたら社長になれなくても、成功を手に入れる他の道はあるかもしれません。本来の「なぜ?」を実現する方法は他にもあると気付くからです。

ゴールより一段上の、目的(パーパス)、ビジョンは、「点」や「イベント」ではなく、あるべき「状態」です。自分や組織が大切にしていることに携わり、成果を出し貢献し続け、感情的にも満たされている状態です。何をもって成功したと言えるのか、どういう状態になったら成功したことになるのか、成功の定義を明確にします。

成功を定義する作業は、自己の価値観と向き合う作業でもあります。そのような目的(パーパス)、ビジョン、成功の定義は、自己の価値観とリンクするからです。どんな自分でありたいのか、どんな組織でありたいのか、アイデンティティを明らかにするのです。

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2.ゴールを立てても達成する仕組みがない

ゴールは当面の達成したい目標と、そのための方向性を示すものに過ぎず、ゴールを設定しただけでは行動には移りません。行動に移すためにはもう一歩踏み込んで計画する必要があります。

個人や組織がゴールを掲げて達成するために、行動を変え進捗を確認するツールとして、OKR(Objectives and Key Results:目標と成果指標)があります。OKRの詳細を知りたい方は、Google  Re:Work(リワーク)の説明がとてもよくまとまっていますのでご覧下さい。
OKR、更にはKPIやPDCAもそうですが、それを取り入れて機能する会社は、そもそもそれを受け入れられる基盤や組織文化があります。その基盤がない組織では、いくらOKRやKPIを取り入れても機能しません。
既存のシステムや習慣が新しく取り入れようとしている仕組みやツールと相寄らないため、受け入れられず、無理矢理導入しても形式的に導入されるだけで本来期待される効果は発揮できません。

そのため、新しい仕組みやツールを受け入れる障害となっている現状のシステムや習慣を変えなければなりません。
OKR、KPIは、ややもすると「実行すること」=「やること」という「付け足すこと」目線になってしまいがちですが、ゴール達成のために何か追加してやることばかり考えるのではなく、障害になっているシステムや習慣を明らかにして取り除かなければなりません。ゴールを達成できないのは、その障害に目を向けるのを怠っているからで、そんな状況で新しい仕組みを導入しようとするのは、片足で思いっきりブレーキをかけているのに、別の足でアクセルを踏み込むようなものです。アクセルを踏む前にはブレーキを外しましょう!

簡単な例で言えば、「毎日朝1時間早く起きる」、この個人のゴールを達成するためには、「よし、明日から7時ではなく6時に起きよう!」だけでは不十分です。次のように生活全体、日々のシステムを見直す必要があります。

毎日朝1時間早く起きる
➡ 夜1時間早く寝る
➡ 夜1時間早く寝ることを妨げている要因を明らかにする
➡ その要因を取り除くための仕組みを考える
場合によっては、1日の生活のリズム全体を変えることも必要になるでしょう。

そもそも、朝1時間早く起きたいと思う背景には、もっと大きな理由や「ありたい自分像」があるからでしょう。その「なぜ」が自分の中で明らかになっていないままでは、早々に挫折してしまいます。ありたい自分が明確で強固なら、自分を変える強い動機付けとなります。そして、実は「毎日朝6時に起きる」以外にも目的に近づくために出来ることが見つかるかもしれません。

落とし穴にはまらないために、現状のシステムや習慣を書き換える所までゴール設定の一部と捉えましょう。
習慣を変えるには、意志だけでは長続きせず、システム(仕組み)を変える必要があります。そのための方法をもっと詳しく知りたい方は、下に紹介するジェームズ・クリア (James Clear)の書籍「Atomic Habits(邦題)複利で伸びる1つの習慣」が参考になりますので是非ご覧ください。

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3.矛盾する複数のゴールが存在する

組織の場合、組織のゴールと、役員や管理者などの個人のゴールが相反しているケースがあります。つまり、組織のゴールを実現しようとすることが、個人に何らかの不利益をもたらす場合です。
例えば、組織のゴールに対する成果に関係なく報酬がもらえる場合、高いゴールに真面目に取り組んで失敗して恥をかいたり評価を下げるより、体裁だけ整え「やった感」だけ演出して、事なきを得て報酬を手堅く獲得しようとします。そのような
組織では、表の目標(組織の目標)と異なる裏の目標(個人の目標)が存在し、従業員が表の目標を真に受けて頑張って裏の目標で動いている権力者の心証を損なうと、組織での評価を下げる事さえあります。
このような相反する複数のゴールの存在は、中間層や末端にいるメンバーのパフォーマンスややる気も下げる大きな要因になります。

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4.ゴール設定によって視野が狭くなる

最初にゴールのメリットの1つとして「ゴールに集中すること」を挙げましたが、実はこれがデメリットとして働く場合もあります。
VUCA(ブーカ)の時代と言われて久しくなりましたが、先が見えず、常に曖昧さ、不確実さが存在する時代で、未来に対して暗中模索しながら進むには、ゴールを脇見もせず真っすぐ目指すのでなく、周りを広く見渡し、時に寄り道して横道を探索しながら進むのが望ましいケースもあります。

ゴール設定手法の1つにSMARTゴールがあります。SMARTはSpecific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable/Attainable(達成可能)、Relevant(関連性のある)、Time-bound(期限のある)の頭文字で、できるだけ明確で具体的なゴール設定をするものですが、それが逆効果になるケースもあるのです。
SMARTゴールは、やる事がはっきりしていて、それを実行する能力が既にあり、具体的で測定可能な目標を設定するのには役立ちます。しかし、逆にゴールにフォーカスし過ぎて、それ以外のことが見えなくなって重要な情報を見逃したり、それ以外の自由な議論ができなくなったり、立てた目標が組織のより大きなパーパスやビジョンとどうリンクしているか見失ってしまう可能性があります。
このように、ある事にフォーカルし過ぎてそれ以外のことが見えなくなるのをトンネル・ビジョンと言いますが、それを避けるためには、先ほど説明したゴールの先にあるべき「なぜ?」とのリンクを常に確認する必要があります。

先が見えず、曖昧さ、不明確さが常にある時代では、「成果指標(Performance goal)」よりも、新しい事に挑戦したり探求するのを目標とする「学びの指標(Learning goal)」を設定するのが望ましいケースがあります。つまり「学ぶこと」がゴール達成に必要なプロセスの一部になるのです。

大学生を対象にした興味深い研究結果があります。「成果指標(Performance goal)」は学生の成績は向上させた一方で、授業への興味・関心には影響を与えませんでしたが、「学びの指標(Learning goal)」は成績には影響を与えなかったものの、授業への興味は高めたのです。(1)(2)

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5.非倫理的な行動を招く

人は一般的に、ゴールの難易度を上げると、達成への努力をもっと高めようとします。(1)
しかし、能力(スキル)や自分の能力に対する自信(自己効力感)に対して、あまりにも高すぎるアグレッシブなゴール(ストレッチゴール)は、心身を疲弊させ、達成後の燃え尽きリスクもあります。
更に、ゴール達成へのプレッシャーが大きく失敗が絶対に許されない状況で、ゴール達成できないと分かった時は、人は倫理に反する行動を取ることがあります。未達の数字を書き換えて
達成したことにするのです。

企業の財務データ改ざん、品質データ改ざんは、古くから毎年毎年繰り返され報道されますが、改ざんは会社レベルだけでなく、個人レベルでも起きます。自分で設定したゴールに対して、達成できない自分を自分でごまかすのです。個人でも組織でも、いったん結果をごまかし始めると、やめるのが難しくなるだけでなく、堰が切れたようにエスカレートしていきます。

実はストレッチゴールだけが非倫理的な行為をもたらすのではありません。具体的なゴール全てが非倫理的な行為をもたらす可能性があります。ペンシルベニア大学ウォートン経営大学院のモーリス・シュバイツァー(Maurice Schweitzer)らの研究で、具体的な目標を持っている人は、持っていない人に比べて、自分の業績を誇張する、つまり自分の業績について嘘をつく可能性が4倍も高いことが分かりました。(3)
あなたの組織でも、期末になって期首目標に対するつじつま合わせの成果を捻出することが行われたりしていませんか?

また、組織のメンバーが、協力より競争を促すような場合、情報やアイデアを隠したり、他のメンバーの目標達成に無関心になるだけでなく、それを妨害しようとする事も、非倫理的な行動の一種と言えるでしょう。スポーツの世界でもそうですね。金メダルを取ること「だけ」がゴールだと、目標を是が非でも達成しようとドーピングなどの不正に手を出すことも非倫理的な行動です。
私たちは、ゴール設定する前に自分の価値観、倫理観に基づいた大きな目的を持っておかないと、このような非倫理的な行動さえ取ってしまうのです。

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参考文献
(1) Edwin A. Locke, Gary P. Latham, “Building a Practically Useful Theory of Goal Setting and Task Motivation : A 35-Year Odyssey“, American Psychologist, 57(9), 705–717, 2020/9.
(2) Harackiewicz, J. M., Barron, K. E., Carter, S. M., Lehto, A. T., Elliott, A. J., “Predictors and consequences of achievement goals in the college classroom: Maintaining interest and making the grade“, Journal of Personality and Social Psychology, 73, 1284–1295., 1997.
(3) Maurice E. Schweitzer, Lisa Ordóñez and Bambi Douma, “Goal Setting as a Motivator of Unethical Behavior“, Academy of Management Journal Vol. 47, No. 3, 2017/11.
(4) “Goal setting“, Wikipedia

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