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建設のプレファブ化(製造業化)とDfMA

  • 投稿カテゴリー:海外建設
  • 投稿の最終変更日:2021年3月12日
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BIMやモジュラー・コンストラクションに絡めて、DfMAという言葉を目にする事が増えてきました。建設分野におけるDfMAは、プレファブ部材の利用等で建設作業の現場外作業化・工業化を図り、部品、製作プロセス、現場での組み立ての合理性を追求するものです。海外のDfMAの動向を紹介します。

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DfMA(Design for Manufacture and Assembly)とは?

DFMA®は、「Design for Manufacture and Assembly」の略語で、アメリカの「Boothroyd Dewhurst, Inc」社の統合ソフトウエアの名称であり、DFMA®のホームページでは下記のように紹介されています。

DFMA®は、組み立てを容易にするための設計(DFA:Design for Assembly)と、製造を容易にするための設計(DFM:Design for Manufacturing)という2つの設計手法を組み合わせたものです。

DFAソフトウェアは、直感的なQ&Aのインターフェイスを利用し製品の大幅なコスト削減の機会を特定します。 業界でテストされた最小部品数基準を適用し、100%の機能を維持しつつ、統合/削除できる部品を見つけます。
DFMソフトウェアは、製品の製造に関する主要なコスト要因を即座に把握し、製品コストのベンチマークを設定します。 更に、プロセス・材料の違いによる設計の比較検討を容易にします。

「Boothroyd Dewhurst, Inc」社は1981年に設立、ソフトウエア初版は1983年に販売されました。DFMA®は同社に商標登録されています。2019年の同社情報によると、850社がこのソフトウエアを利用しています。
アメリカやヨーロッパで、自動車産業、航空産業、電気機械、工業製品、家電、日用品等々の開発設計に広く適用されています。

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DfMAという「f」を小文字にした言葉もよく目にします。「f」を小文字にしているのは、DFMA®が商標登録されていて一般に使えないからではないかという私の推測ですが、違っていたらすみません(_ _)。

DfMAという言葉は特に建設分野で使われる事が多いようです。
DfMAを建設分野で目にする機会が増えた背景としては、2点挙げられます。
1つはBIM(Building Information Modeling)やICT(Information and Communications Technology:情報通信技術)の建設分野への普及により、DfMAを建設に導入する素地が広がった事、もう1つはモジュールコンストラクション等、建設のプレファブ化(現場外作業化、製品化、製造業化)の流れが進んできている事です。

DFMA®と同様、DfMAも「Design for Manufacture and Assembly」の略語で、同義であるものの、建設分野にあたっては、現場のプレファブ化という概念的・広義的な意味で使用される事も多いようです。
この辺りは、ITを絡めた業務改善やシステム導入をなんでもDX(デジタル・トランスフォーメーション)と呼んでしまうケースがあるのと似た感じでしょうか?
プレファブ部材を使用する建設工事にDfMAを適用することで、現場外での製造と、工事現場における組み立て時の無駄や非効率性の特定、定量化、排除を目指します。

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DfMAの製造業から建設業への適用

建設業はDFMA®が採用されてきた製造業とは以下のような点で違いがあります。

  • 通常、設計者は部品の最適化まで意図していない
  • 建築要素、使用可能な部品、製品の数が膨大
  • 多層構造、多数の専門業者、サプライチェーン
  • 基本的に単一生産(製造業の大量生産に対して)
  • プロジェクトベースの管理(製造ベースの管理に対して)
  • プロジェクトによって異なる現場の状況
  • プレファブ部材と現場作業・現場環境とのインターフェイスが必ず発生
  • 概して工業製品よりスケールが大きく、運送や組立時の設備や安全面の制限がある

以上のような違いもある事から、建設分野のDfMAでは、現段階では、DFMA®が製造業で達成してきたようなレベルの製作段階の費用や部材の最適化を必ずしも求めている訳ではなく、製作作業の合理化や製作コストの低減、現場の組み立て時の整合であるDfAを主眼とした取り組みが主体です。

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建設におけるDfMAの海外の取り組み事例

政府が積極的にDfMAの導入を図っているシンガポールにおいても、DfMA=プレファブ部材の使用という意味合いで、DfMAとして以下のような技術を紹介しています。

  • プレファブ立体ユニット:PPVC(Prefabricated Prefinished Volumetric Construction)
  • 直交集成板:MET(Mass Engineered Timber)/ CLT(Cross Laminated Timber)
  • プレキャストコンクリート:APCS(Advanced Precast Concrete System)
  • 鋼構造:Structural Steel
  • バスタブユニット:PBU(Prefabricated Bathroom Units)
  • 設備関係のユニットシステム:MEP(Prefabricated Mechanical Electrical and Plumbing System)

プレファブ立体ユニットPPVC(Prefabricated Prefinished Volumetric Construction、統一された日本語訳はまだないのでとりあえずこう呼びます)は、通常、トレーラーで運搬できるようなコンテナ形状のユニットを内装まで含めて工場で製作し、現場で組み立てて建物を建てていく方法です。
直交集成板CLTは、プレファブ要素としてのみならず、「ネットゼロ(CO2排出量実質ゼロ)を目指す海外建設業の取組」で紹介したように環境負荷低減に貢献する材料としても注目されています。

シンガポールでは2014年11月から、特定の高層住宅向け国有地販売にPPVCが義務化されました。
他にもプレファブ化を図るための国有地の貸与など、行政の積極的なDfMA導入支援があります。
2017年9月のシンガポール住宅開発庁の発表では、2019年まで全ての工営住宅はバスタブユニットを設置、プレジェクトの35%にPPVCを導入するとしました。

下のYoutubeビデオは、シンガポールで代表的なPPVC建築であり、同国で初めてPPCVで建設されたホテルであるチャンギ国際空港のCrowne Plazaです。シンガポールに行ったことがある方は空港の敷地内にあるこのホテルに記憶がある方もいるのではないでしょうか。

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シンガポール同様、香港でもDfMAの取り組みは進んでいます。
なお、プレファブ立体ユニットは、シンガポールではPPVC(Prefabricated Prefinished Volumetric Construction)と呼ばれますが、香港ではMIC(Modular Integrated Construction)と呼ばれています。

同じくDfMAの取り組みが積極的なイギリスでも、建設大手のLaing O’Rourke社やBalfour Beatty社が明確にDfMAへの傾倒を表明しています。

Laing O’Rourke社は、下のYoutubeビデオのように「DfMA 70:60:30」というアプローチを掲げて、「70% の建設を現場外に、60%の生産性の向上を達成、30%の工程の改善を実現」を目指しています。

Balfour Beatty社は、「25% by 2025 Streamlined construction: Seven steps to offsite and modular building, 2018年8月」で、2025年までに25%の現場作業を現場外に移すという目標を立てています。

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建設におけるDfMAの日本の取り組み事例

日本でもプレファブ化の流れは以前よりありますが、何と言ってもこの点で業界をリードしているのは大和ハウス工業でしょう。
従来からの住宅建設で築き上げてきた大量生産型・工業化建築の設計・製造・施工のノウハウに加えて、近年拡大してきた総合建設分野に、100%BIM導入等のゼネコン各社の先を行く取り組みを進めています。単なるプレファブ化のDfAの領域のみならず、本来的にDFMA®が意図する総合的な領域で世界をリードする存在になるのではと思われるほどです。

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最後に

私はDFMA®ソフトウェアの詳細は全く分からず恐縮ですが、日本の製造業では以前からトヨタ生産方式に代表されるような取り組みがなされてきました。
建設分野のDfMAに関しても、日本のプレファブ部材を利用した建設工事は今に始まったわけではなく、製造と現場の取り合いや合理化も以前からなされてきました。日本では既に多種多様の建設向けのプレファブ製品・部材が存在し、世界の中でも取り組みが進んでいた領域です。
トヨタ生産方式が「Lean Manufacturing」として海外に紹介され、更に「Lean Startup」や「Lean Construction」と業種を超えて派生し、日本に逆輸入されています。
建設分野でも、DfMAに通じる技術要素は日本にも存在し、世界をリードすらしていたが、BIMを含む建設分野のICT技術の導入、プレファブ化などの「建設の製造業化」で追い付き追い抜かれ、欧米さらにはシンガポールや中国から逆輸入される状況になるのではないかと懸念します。

建設のプレファブ化分野は、元来日本の会社に強みがある部分だと思いますので、日本が世界をリードしていく位の気概と展開を期待したいと思います。

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参考文献
(1) Tan Tan, Weisheng Lu, Gangyi Tan, Fan Xue, Ke Chen, Jinying Xu, Jing Wang and Shang Gao, “Construction-Oriented Design for Manufacture and Assembly (DfMA) Guidelines”, August 2020, Journal of Construction Engineering and Management, The American Society of Civil Engineers
(2) Ivana Kuzmanovska and Mathew Aitchison, “DfMA in Building Design and Construction: Uses and Abuses”,  2019

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