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どんどん複雑化する私たちの問題:Complex Problem, Wicked Problem

  • 投稿カテゴリー:Social Change
  • 投稿の最終変更日:2021年10月31日
  • Reading time:8 mins read

世の中の問題の多くは、IT技術の進化やグローバル化で、SDGsのような世界的で大きな問題に限らず、割と身近な問題までどんどん複雑になってきています。問題がその他の多くの問題と複雑に絡み合い、「誰にも」正しい解決方法が分かりません。しかし、多くの人が従来の方法で安易に解決しようとして、物事を悪化させていきます。

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はじめに

世の中の問題の多くは、SDGsに掲げられる貧困、環境、食糧、平和、平等といった世界的で大きな問題に限らず、割と身近な問題までどんどん複雑になってきています。問題がその他の多くの問題と複雑に絡み合っていて、「誰にも」正しい解決方法が分かりません。
そのような問題を、英語で「Complex Problem(コンプレックス・プロブレム)」や「Wicked Problem(ウィキッド・プロブレム)」と言います。

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Complex Problem(コンプレックス・プロブレム:複雑に絡み合った問題)

Sholom GloubermanBrenda Zimmermanによると、私たちが直面する問題は大きく以下の3つに分類できます(1)

1.Simple Problem(シンプル・プロブレム:単純な問題)
2.Complicated Problem(コンプリケイテッド・プロブレム:煩雑で面倒な問題)
3.Complex Problem(コンプレックス・プロブレム:複雑に絡み合った問題)

「Simple Problem(シンプル:単純な問題)」とは、家で料理を作るようなものです。
いまや何を料理するにしてもインターネットで検索すればレシピが出てきますね、私もだいぶ助かっています(笑)。そのレシピ通りに作れば、料亭のようにとはいきませんが、そこそこ美味しい料理が出来上がります。使う材料は200も300もあるわけでなく、調味料を含めてもせいぜい10から20です。作り方も同様に200も300もステップがあるわけでありません。料理だけでなく、今やGoogleやYoutubeを検索すれば、多くの問題の解決法を知る事ができます。
単純な問題とは、このように、変数や、組み合わせ、手順の数が比較的少なく、やり方が分かれば、専門知識がなくても対応できるような問題です。

「Complicated Problem(コンプリケイテッド:煩雑、面倒な問題)」とは、車や飛行機を作ったり、高層ビルを建てたり、ロケットを月に送るような事です。
料理を作るよりもはるかに難しいですが、やはりレシピ、つまりマニュアルや手順があります。ただし、マニュアルの量は膨大です。
問題解決には、専門知識が必要となる他、特別な材料や設備も必要になる場合が多く、素人が家で簡単に作る事はできません。しかし、必要とするすべてのリソースを揃えて手順に従えば実現することが可能です。
例えば、ベトナムのビングループ (Vingroup) はノウハウゼロからあっという間に乗用車の生産と販売事業を立ち上げましたが、必要なリソースを世界のあらゆる所から調達する事でそれを可能にしたわけです。

「Complex Problem(コンプレックス:複雑に絡み合った問題)」は、これらの2つの問題とは、根本的に性質が異なります。
まずそれだけで完結するような単独の問題ではなく、他の問題と影響し合います。時に想像できないような影響を全く想像もしていなかった場所に及ぼしたり、逆にそのような影響を及ぼされたりします。問題が個々にユニークで、一つとして同じ問題はなく、既存のレシピやマニュアルに従うような画一的な対応はできません。また、他の状況の変化に従い、問題自体も変化し続けます。完全にそれを捉える事はほぼ不可能で、曖昧さや不確実さが常に存在します。

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例えば、子育ては複雑な問題です。
参考にできる本や、カウンセラーや専門家、その他アドバイスをくれる人はたくさんいます。それらは助けにはなるものの、それで問題をすべて解決できるわけではありません。
1人目の子供に通用したことが2人目、3人目の子供にも通用するかどうかは分かりませんし、親がいくら綿密に計画しても、そのような人間に育てられる保証は全くありません。

子育てはロケットを作るより、ある意味では簡単です。お金もリソースも労力も少なくてすむでしょうし、何より私たちの多くにその経験が既にあります。しかし、別の意味では、ロケットを作るよりも難しいです。
ロケットは作り方さえ確立してしまえば、再現性があり、同じロケットを繰り返し作る事ができます。しかし、子育てには再現性がありません。みんな同じように育てたつもりでも、それぞれ全く違った人間に成長します。つまり、ロケットのように、ある特定の方向に持っていくという事が極めて困難です。
子供は複雑で大きな社会というシステムの一部だからです。さらに、子を育てる親もそのシステムの一部で、他の家族、親戚、友達、地域の人たち、社会、文化、政治、教育、親の働き方やライフスタイルなど、子供や家族が関わるありとあらゆる要素が影響するからです。

複雑な問題は、あなた自身もその問題の一部で、問題解決のためにコミュニティ、組織、システムを変えるためには、自分自身も変わることが必要になります。つまり、複雑な問題に取り組むとは、自分自身をシステムの中に持ち込み、システムと関わり、システムとともに生き、システムを改革するように、自分自身も改革することです。

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かつて私たちが抱えた問題は地域的、分野的に限定されていましたが、インターネットやその他技術の発展、経済や社会のグローバル化により、今や身近な小さな問題が実は数千キロ離れた世界のある場所での出来事に影響されていたという事さえ珍しくなくなりました。私たちの社会のほとんどの問題は、かつてよりはるかに複雑で、相互に絡み合っています。残念ながら、それらがすべて完全に解決される事は決してありません。

一昔前は、マニュアルに沿って仕事をし、何か問題が起きてもマニュアルに沿って問題解決する事ができました。その習慣がこびりついている多くの人たちは、複雑な問題に対しても、同じようなアプローチを取ろうとします。
企業も政治もそうですね。物事をある一面でしか見ないで安易に決定する事が多々あります。

しかし、このように限られた見方で、複雑な問題の多くの側面を無視し、手順が確立された予定調和型のアプローチに縛られて問題解決しようとすると、不適切な解決策につながるだけでなく、全体で見れば、物事をさらに悪化させる事も少なくありません。

例えば、先進国では、シャンプーがボトルに入って売られていますが、途上国の経済的に恵まれない人たちにはボトル入りのシャンプーを買う余裕がありません。そこで先進国のメーカーが駄菓子屋で売られているお菓子のように小さな包装で使い切りにして売り出しました。ビジネスは成功し、今やこの小包装のシャンプーは多くの途上国で見る事ができます。
しかし、現地の人たちのシャンプーの問題は解決しましたが、別の問題が発生しました。包装のゴミです。一回一回シャンプーするたびに包装ゴミが一つずつ溜まっていくのです。それを毎日何億人もの人たちが使うのです。そのシャンプーを使う人たちが住む途上国の片田舎に処理施設やリサイクル施設はなく、燃やして処分するわけにもいかず、途上国の人たちの生活環境と地球環境に負の影響を与えます(2)(3)

別の例として、ハラスメントを解決しようとする取り組みで、相談件数を減らすという目標を掲げてしまうと、ハラスメントではなく「相談件数」を減らす、つまり報告されるハラスメントを減らすという意図を持ってしまう可能性があり、ハラスメントの問題そのものはむしろ悪化する可能性があります。

酔っ払いが暗い夜道で街灯の近くをふらふらと歩いているという古いジョークがあります。何をしているのかと聞かれ、車のキーを探していると答えます(1)
「どこで失くしたんですか?」
「車の近くで落としたんだよね 」
「は?それなら、なぜこんなところを探しているの?」
「だって、ここの方が明るくてよく見えるから」

解決に全くつながらないのにもかかわらず、面倒を回避して、慣れ親しんだ解決方法、簡単な解決方法に固執して、いつまでも問題の解決にたどり着けない比喩です。複雑な問題に対処するためには、その問題を含むシステム全体を俯瞰しなければなりませんが、多くの人が、問題の複雑性を無視し、極端に単純化して、安易な解決策に飛び付こうとします。

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Wicked Problem(ウィキッド・プロブレム:やっかいな問題)

Complex Problem(コンプレックス・プロブレム:複雑に絡み合った問題)と同様の意味で多く使われるのが、Wicked Problem(ウィキッド・プロブレム:やっかいな問題)です。

RittelとWebberは、「Wicked Problem( ウィキッド・プロブレム)」と対比される従来型の問題を「Tame Problems, Benign Problems(簡単な問題)」と紹介しています(4)
「簡単な問題」は、先ほど紹介した「単純な問題」や「煩雑で面倒な問題」と同様で、従来科学者や技術者たちが対処してきた問題、つまり限られた分野、領域の中だけで対処できる問題です。
多くの人は、この慣れ親しんだ解決方法に則り、「やっかいな問題」に対しても、自分の専門分野の中だけで問題を主観的に定義して、解決を試み、そして解決した気になって、その分野外の影響については注意を払わないという姿勢を取ります。その結果生じる別の問題については別の分野の人間が対処するだろうというスタンスです。これは先ほど紹介したコンプレックス・プロブレムと同様ですが、そ
の代償は今やどんどん大きくなっています。

以下、RittelとWebberが1973年に発表した社会政策計画における「やっかいな問題」の10の特徴です(4)

1.絶対的な解決策の公式がない
「やっかいな問題」は、その切り口、見方によって如何様(いかよう)にも見えます。悪く言うと、見たいように見る事もできます。さらに言うと、問題を定義しようと「言葉」にしただけで、ある特定の見方やバイアスを与えてしまうような問題です。ある切り口だけでの問題定義と問題解決が、問題全体の解決につながることは決してありません。

2.問題解決に終わりがない
従来の問題には、どうすれば問題が解決されたことになるかという「終わり」がありました。「やっかいな問題」には、終わりがありません。最終的な解決方法はありません。
では実際上どう対応するかと言うと「十分やったからもういいだろう」「これは効果があった!」「自分たちが今回できるのはここまで」と自ら線を引く事で終わらせます。

3.解決策に「正しい、悪い」はなく、「良い、悪い」があるだけ
先にも述べましたが、ある分野、特定の見方から「正しい、悪い」を主観的に定義することはできます。しかし、それが全体として正しいか、悪いかは誰にも判断できません。解決策が全体として「より良い」ものにつながるかどうか、それが判断基準です。

4.解決策の妥当性をすぐに確認することはできない
複雑な問題への「解決策」は、長期に渡りシステムの様々なところへ波及していきます。良い影響を及ぼすかもしれませんし、悪い影響を及ぼすかもしれません。短期的にその効果を検証することはできません。

5.すべての解決策が一回限りで、重要な影響を及ぼす
すべての解決策がシステムに何らかの痕跡を残します。そして一度実行してしまうと、それをなかったことにする事はできません。トライアル・アンド・エラーを意図しても、トライアルの段階でさえ逆戻しできない影響を残します。

6.従来型の計画に組み込むことができるような記述可能、説明可能な解決策がない
問題を定義できず、明確な基準も定義できないため、やるかやらないか決めるためには、その判断能力が問われます。

7.本質的にすべての問題がユニーク
ある場所や組織の成功事例を、別の場所や組織でそのまま展開しようという試みはありますね。企業で言えば、「あの会社が成功したから、うちでも導入してみよう!」です。
しかし、「やっかいな問題」の場合、このようなコピペはうまくいきません。「やっかいな問題」の背景やシステムが違うからです。しかし、そのアプローチは参考にすることができるかもしれません。

また、問題を特定の分野に分類したり、押し込んだりする事はできません。「やっかいな問題」は既存の分野を跨いだ問題だからです。

8.すべての問題が、別の問題の症状になる
9.個々の見方によって大きく異なるため、常に多くの説明があり、その説明の仕方が解決策を決定する
この8~9は、既に先の説明に含まれますので省略します。。。

10.計画者には間違う権利がない
「やっかいな問題」に対処する目的は、科学のように「真実」を見つけることではなく、人々が住む世界をより良くすることです。計画者は、自らの行動と結果に対して完全に責任を負わなければなりません。その結果が、多くの人に波及し大きな影響を与えるからです。計画者は事前にその影響の広さの可能性を知っておく必要があります。

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最後に

以上、今回、「Complex Problem(コンプレックス・プロブレム:複雑に絡み合った問題)」、「Wicked Problem(ウィキッド・プロブレム:やっかいな問題)」を紹介しました。
今私たちが抱える社会問題のほとんどは、複雑に絡み合ったやっかいな問題です。やっかいな問題には絶対的な解決策の公式がないと紹介しましたが、「より良い」社会に近づくアプローチの仕方は存在します。今後その具体的な取り組み事例とアプローチの仕方を紹介していきます。

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参考文献
(1) Sholom Glouberman, Brenda Zimmerman, ”Complicated and Complex Systems: What Would Successful Reform of Medicare Look Like?”, 2002/7.
(2) Karen Lema, “Slave to sachets: How poverty worsens the plastics crisis in the Philippines“, Reuters, 2019/9.

(3) “The problem with plastic bags“, The Center for Biological Diversity
(4) Rittel, Horst W.J., Webber, Melvin M., “Dilemmas in a General Theory of Planning“, Policy Sciences. 4 (2): 155–169, 1973.

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