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建設DXは、技術課題でなく経営課題

  • 投稿カテゴリー:海外建設
  • 投稿の最終変更日:2021年7月14日
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前回、DXは技術課題でなく経営課題と説明しました。
今回は建設業のDX関連の取り組みを紹介します。建設分野でのDXは「建設DX」と言われますが、建設DXもまたDXと同様に技術課題でなく経営課題です、しつこいですが(笑)。

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2020年、国土交通省は、コロナ禍で加速する社会変容に対応するため、インフラ分野のDX推進を開始しました。インフラ分野のDXを

「インフラ分野においてもデータとデジタル技術を活用して、国民のニーズを基に社会資本や公共サービスを変革すると共に、業務そのものや、組織、プロセス、建設業や国土交通省の文化・風土や働き方を変革」

と定義しています。

前回紹介したDXの定義と同じですね。技術はあくまで「活用」するもので、変革するのは「業務そのものや、組織、プロセス、文化、風土、働き方」です。まずこの点を理解する事がとても大事です。そして、DXを建設業界でも推し進めていこう!、それが建設DXです。

国土交通省は、その4年前の2016年から「生産性革命プロジェクト」をスタートさせ、その中のプロジェクト⼀つとして「i-Construction」の取り組みも開始しています。
建設業は他産業に比較して生産性向上で後れを取っていますが、
国土交通省のi-Constructionサイトによると、i-Constructionは「ICTの全面的な活用等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図る取組」とあります。

国土交通省は、インフラのデジタル化を進め、2023年度までに小規模工事を除く全ての公共工事に、BIM/CIM原則適用を実現するとし、現在モデル工事等、段階的な導入を進めています。
この文章を書いているのは2020年12月、2023年ってあと2年ちょっとしかありません!今後事態は大きく急速に変わっていくという事ですね。
日本だけではありません、ヨーロッパ、中東、アジアでは、ある規模以上のプロジェクトで既にBIMが義務化されている国もあります。

BIM原則適用が意味している重要なポイントは、数年後には「BIMは仕事をする上で最低限の要件になる」という事です。
まだ「BIM導入の取り組みを頑張ってます!」に止まっている会社もありますが、これだけでは「将来、仕事(入札)に参加するのに必要な最低限のラインをクリアするぞ!」、つまり勝負の土俵に立つ準備をするだけと同義です。他社との競争に勝ち抜くにはそれ以上の取り組みが必要になります。

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ここまで色々な頭字語、略語が出てきたので、ここで一度言葉の意味を整理しましょう。

DX(Digital Transformation:デジタル・トランスフォーメーション):企業がビジネス環境の変化に対応し、データとデジタル技術を活⽤して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変⾰するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業⽂化・⾵⼟を改⾰し、競争上の優位性を確⽴すること。

ICT(Information and Communications Technology:情報通信技術):情報技術(IT)を拡張した用語で、ITにコミュニケーションの役割を強調したもの。
日本語では「通信」と訳されていますが、本来は「通信」に限らないコミュニケーションツールを含みますね。

BIM(Building Information Modelling): ISO19650:2019によると、デジタルモデルを使って、設計、建設、運用の建物のライフサイクル全体に渡って信頼できる情報を管理する仕組みです。
日本ではCIM(Construction Information Modelling)という単語も使われますが、国際的には一般的でなく、全てBIMに含まれます。
なお ISO 19650は、BIMを使った建物のライフサイクル全体に渡る情報管理の国際基準です。

i-Construction:ICTの全面的な活用等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図る取組

これらの相関をイメージとして図にすると下図のようになります。

図:DX、ICT、BIM、i-Constructionの相関イメージ

ICTの中にBIMが含まれています。つまり、BIMはICTの一つのモデルです。
また、DXの中にi-Constructionが含まれています。つまり、i-ConstructionはDXの取り組みのひとつです。
i-Constructionに含まれるBIM以外のICT要素としては、ICT建機の利用、ドローンを使った測量点検、書類のデジタル化、遠隔での監督業務等があります。

BIMを含むICTやi-Constructionは、DXの一つのエリア(要素)に過ぎません。なぜなら、上の定義のように、ICTは「活用」すべきものの一つで、DXで変革すべきは「業務そのものや、組織、プロセス、文化、風土、働き方」だからです。

BIMは、5D BIMまでは設計と建設の分野、つまりi-Constructionの領域にとどまっていますが、今後下記のように6D BIM、7D BIMに拡大していくに連れて、建設以外の段階での利用が期待されます。特に日本を含めた各国でネットゼロ(CO2排出量実質ゼロ)の目標が設定された現在、建物の建設時と運用時の環境負荷評価は今後必ず必要になっていきます。

3D BIM:3次元モデル
4D BIM:時間、スケジュールの情報を追加
5D BIM:コストの情報を追加
6D BIM:エネルギー消費量、環境負荷評価情報を追加
7D BIM:ファシリティーマネジメント(運用、維持管理)情報を追加

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現状、多くの建設会社は「DXはIT・デジタル技術導入」と思っていますが、それだけでは十分ではありません。
まず、DXは今までアナログでやってきた事を単にデジタルに置き換える事ではありません。今までアナログで出来なかった事、想像も出来なかった事をデジタルで実現する事です。

また、工事、技術、IT部門のみならず、営業やサービス部門、総務、経理も含めた、会社全体の改革であり、更にはバリューチェーンなど社外も含めた改革であり、最終的には顧客に新しい繋がり方と新しい価値を提供する事が、DXの本質です。

DXを本当に達成するにはどうするか?

建設プロジェクト(工事)は、最初に作る物とそれをどうやって作るかを明確にして、詳細に計画し遂行する事で目的を達成する典型的なウォーターフォール型のプロジェクト実施方法をとります。建設業の方にとってはガントチャート型と言った方が分かりやすいでしょうか。
多くの建設会社の経営も同様のプロセスで、最初に綿密に計画して、承認をとって、その通り実施して、という経営を行う傾向が強いです。途中で変更しようとすると「おまえ、最初と言ってる事が違うだろ!」なんて言われます。「会議で通したから、もう変えられない」なんても言われます。

ウォーターフォール・モデルと対比して引用されるのがアジャイル・モデルです。仕様の変更が途中当然起きるという前提で、初めから詳細に設定せず、作業を回していく中で得た新たな発見を次の反復のインプットにして改良・改善を繰り返していく手法です。

建設工事・プロジェクト自体はその性質上今後も基本的にはウォーターフォール型で進めるべきです。
建設工事で、最初に何も決めないで途中変更を繰り返していく手法は有り得ないでしょう(笑)。しかし、会社が真のDXを達成するためには、組織改革の意思と手法、そしてアジャイル型の思考とプロセスが社内になければなりません。
この点に関しては、以前紹介していますので、ご興味あればこのリンクをご覧下さい。

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現状、「建設DX」に関しては、BIMやデジタル建設技術の技術的側面の議論がほとんどですが、組織改革等の人的側面の議論が増える事を期待します

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