変革におけるステークホルダー対応は、「Manage of Stakeholders(ステークホルダーの管理)」ではなく、「Manage for Stakeholders(ステークホルダーのための管理)」であり、ステークホルダーを管理するのではなく、彼らのエンゲージメントを支援します。
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ステークホルダーとは、日本語では「利害関係者」ですが、プロジェクトや変革などの取り組みに影響されたり、逆に影響を与える個人や組織を言います。
例えば、会社の新しいシステム導入の場合、下記のようなステークホルダーが考えられます。
【社内】経営者、上級管理職、中間管理職、システム開発・管理部、各事業部、営業部、人事部、経営企画部、プロジェクトマネジメントオフィス、エンドユーザー、その他サポート部署や関連部署、従業員、等々
【社外】顧客、パートナー、サプライヤー、外注/協力業者、既存のプロジェクト関係者、業界団体、コンサルタント、株主、販売店、行政、等々
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プロジェクトマネジメントの分野でもチェンジマネジメントの分野でも「ステークホルダー」に関するエリアがあり、それぞれ重要な位置づけを担います。
変革・チェンジにおいてまず大事な点は「ステークホルダー・マネージメント」ではなく、表題にあるように「ステークホルダー・エンゲージメント」のサポートである点です。
エンゲージメントとは、以前から度々紹介しているオーナーシップやコミットメントと同様に「自分事として取り組む」姿勢です。内発的動機も同様の言葉ですね。
エンゲージメントがあると、、、
「積極的、熱心に、興味を持って、持続的に、注意を払って、目的に向かって」行動します。
逆にエンゲージメントが全くないと、、、
「受動的で、先延ばししようとし、気乗りがせず、関心が少なく、注意散漫で、回避的に」行動します。
日本でも社員のエンゲージメントを高める動きが増えていますね。
社員もステークホルダーですが、他のステークホルダーのエンゲージメントも同様に重要です。
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変革は「認知 ➡ 比較 ➡ 支持 ➡ オーナーシップ」を踏んでのみ実現すると以前説明しましたが、変革には一人一人に「オーナーシップ、エンゲージメント、コミットメントを持って自分事として関与」してもらう必要があります。これは他人が強制出来ず、本人にその気になってもらわなければなりません。
ステークホルダーにも自分事としてそれぞれの役割を果たしてもらう必要があります。
「ステークホルダー・マネージメント」は「Manage of Stakeholders(ステークホルダーの管理)」を連想してしまい、受け身の印象、管理されている、やらされている感を与えてしまいます。
一度やらされ感を感じてしまうと、なかなか自分事とし取り組む事ができなくなり、期待する関与を得る事が難しくなります。
「ステークホルダー・エンゲージメント」は「Manage for Stakeholders(ステークホルダーのための管理)」です。ステークホルダーのエンゲージメントを支援していくのです。
意識を「マネージメント(管理)」から「エンゲージメント」に変更する事で、より思慮深い関与が促進されます。そして、プロジェクトや変革がより良い成果に繋がるだけでなく、相互理解と長く継続する関係に繋がります。
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ステークホルダーの継続的なエンゲージメントには、次のような活動が必要です。
● プロジェクトの計画・各実施段階で関与してもらう
● コミュニケーションを通じてステークホルダーの期待を管理する
● 各段階で生じる問題の明確化、共有と解決
● 潜在的な懸念、ステークホルダーで発生する可能性のある将来の問題を予測し、できるだけ早く特定して話し合う
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エンゲージメントされたステークホルダー間の関係は、以下のような特徴があります。
・目的が明確
・できるだけ早い計画段階から関与する
・各ステークホルダーの役割・期待が明確
・双方向である。双方が意見や情報を交換し、お互いの課題や心配事を聞き、お互いを理解・尊重
・Win-Win、お互いの課題を解決する機会を共有、アイデアや解決法を共創する(共同してつくり出す)
・双方が対等で無理強いや圧力が無い。安心して話せる心理的安全性がある
・透明性を確保し、お互いに操作や嘘、隠し事が無い。自分の非を認められる。変更を適切に連絡しあう
・最初から担当者が明確で、容易に連絡が取れる、対話の機会を作れる
・関心のある担当者
・コミュニケーションラインが明確
・長期的な関係、信頼に基づく関係を志向する
・お互いに理解できるフォーマット、互いの文化・キャパシティに見合うツールや手法を使う
・画一的な対応でなく、ステークホルダー毎に合わせた対応とする
・実現できないコミットメント・約束はしない、柔軟である
・フィードバックとフォローアップが行えるシステム
・ファシリテーションスキルがあり、相反する意見に対応できる人がファシリテートする
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上記の項目の裏返しがエンゲージメントされていないステークホルダー間の関係ですが、以下の様な場合です。
・目的が不明確
・初期の段階から関与せず、後になってから初めて関与する・させる
・役割・期待が不明確、途中でステークホルダー間の役割・責任・権限の変更がある
・後の段階まで懸念・問題を隠しておく
・片方が操作的または高圧的・命令的で、相手の話を聞かず、他方が率直に意見できない
・Win-Lose、否定から始まる、「違う=対立」の構図で、建設的な議論ができない
・隠れたアジェンダや違う意図を持っており、透明性が確保されない
・嘘をつく、事実と異なる事を伝える。問題は他人のせいにする。変更を後まで伝えない。「聞いてなかった」がある
・担当者が明確でない。連絡・対話の機会が取りづらい
・担当者に関心がない、担当者がステークホルダーを代表していない
・ステークホルダー間、またはステークホルダー内部でコミュニケーション不足、不明確、無駄なコミュニケーション、誤解、事実に基づかない噂やデマがある
・長期的な視点がなく、重要な関心事が議論から欠けている
・双方で使用するのに配慮がないツールや手法、専門用語を使う
・必要なスキルやノウハウが不足している
・目標が実現できそうにないほど高く、修正できる柔軟性がない
・要求される時間や費用が成果よりも大きい
・過去に、障害となった主要な関心事に関する立場の大きな違いがあった
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次回はステークホルダー・エンゲージメントの分かりやすい事例を紹介します。