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組織文化の変革その1:組織文化とリーダーシップ、組織属性との強力な磁力

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年4月30日
  • Reading time:7 mins read

組織改革や新しいビジネスモデルの開発には、組織文化の変革が必要です。そのためにはまず組織文化のタイプを知る必要があります。組織を支配する文化のタイプと、リーダーシップ、価値観、効率性、管理手法は、それぞれ相互に深く相関しています。そのため、組織文化の変革にはこれらの組織属性も変わっていかなければなりません。

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社会や価値観、テクノロジーが目まぐるしく変わる中、会社も変わっていかなければなりません。デロイト社の130か国以上7,000を超える回答による調査では、82%の回答者が、組織文化が企業の潜在的な競争優位性の鍵であると答えています(1)
会社の変革には、変革に対するオーナーシップ(コミットメント)と共に、相応する組織文化とキャパシティ(能力)を身に付ける事が必要と以前説明しました。更には、組織文化の変革のためには、現状の組織文化と変革後の理想とする組織文化を明らかにして、比較してみる必要があるとも説明しました。
組織文化の変革のためには、そもそも組織文化とは何かを知る必要があります。今回はその組織文化(Organizational Culture)を詳しく紹介していきます。

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文化とは?

そもそも文化とは何でしょう?
Wikipediaによると、「文化にはいくつかの定義が存在するが、総じていうと人間が社会の構成員として獲得する多数の振る舞いの全体のこと」とあります。

人間がグループ化すれば文化が形成されます。国や人種、民族、地域、性別、世代、会社、学校、趣味、親族、家族等々、多種多様な人のグループがあり、それぞれのグループに特有の文化があります。
しかし同じグループでも、ずっと一定の文化が続くというものでもありません。外的環境やグループの構成員の変化によって、意図しなくてもグループの文化も時と共に徐々に変化していきます。しかしその一方で、恣意的に文化を変えるというのは極めて難しくもあります。

私たちは複数の社会的グループに属しており、それぞれのグループがそれぞれの文化を持ち合わせ、その文化によって意識的・無意識に言動の仕方を使い分けています。
皆さんも、家族といる時や、友だちといる時、会社や学校にいる時、それぞれのグループの文化に応じて多少なりとも立ち振る舞いが変わりますね。しかし、あまりにも当り前の習慣となっているため、普段は疑問視されないほど当然のものと見なされ、特に意識もされません。
例えば、日本特有の文化も、外国人に指摘されたり、海外に出て外から見る事で初めて気が付くようなことも多くあります。会社の文化も転職してみて分かるようなこともあります。

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組織文化とは? なぜ組織変革は難しいのか?

組織文化とは、組織で共有されている価値観、規範、信念、習慣、行動です。Wikipediaによると、「組織において、構成員の間で共有されている行動原理や思考様式などのことを言う。組織に存在している個々の構成員の価値観が融合されるということで組織文化が形作られていく」とあります。

下図のように、組織文化を形づくる要素には目に見えるものと見えないものがあります。行動や可視化できる要素、例えば服装、事務所のレイアウトやスタイル、掲示物、(文面上の)理念・ミッションは比較的認知しやすいです。しかし、最も根底にあり、かつ行動や目に見える要素に強く影響を及ぼす要素は、価値観、信念、物の見方や考え方などの目に見えないものであり、目に見える要素に比べて理解するどころかその存在に気が付くのさえ難しいことがあります。

図:組織文化の要素(adapted from Elements of Organizational Culture(2)

組織に文面化された理念や行動指針が存在していても、実際に組織文化を支配する信念や行動はそこに書かれていることとは多かれ少なかれ異なります。すべき行動をしていない、「〇〇する」とは反対の「〇〇しない」という規範も文化を形成する要素となります。つまり行動と対称にある非行動もまた文化であるため、把握するのがとても難しいのです。
先に紹介したデロイト社の報告書によると、自社の組織文化を理解しているのは、僅か12%の会社に過ぎません(1)

組織文化の変革が難しい理由は、組織文化は呼吸する空気のようで、組織の中にいる人にとってはそもそも客観的に特定するのが難しく、また、組織文化の根底にある価値観と、より深い個人レベルの信念が強く結びついている可能性もあるからです。組織文化の変革は、時に個人のアイデンティティや価値観の変革でもあります。
組織文化の変化は、個人の変化と密接に関連します。マネージャー層が個人の変化にコミットする意思がない限り、組織文化は変化に抵抗し続けるのです。

更に組織文化は、組織構造やビジネスモデル、リーダーシップのスタイル、管理手法、意思決断の方法、コミュニケーションの取り方、どんなタイプの人が採用され昇格されるか等々、組織の多くの属性と相互に深く結びついています。つまりこのような他の組織属性を一切変えることなく、組織文化だけを変えることはできません。
社会の変化に対応するために、多くの会社が新しいビジネスモデルの導入や組織改革を試みていますが、多くの会社ではうまく行っていません。ビジネスモデルや組織構造等の目に見えるハード面を変える視点しかないからです。「木を見て森を見ず」と言いますが、ソフト面を含めた全体を俯瞰的に見ていないからです。
新しいビジネスモデルの導入や組織改革には、それに相応するリーダーシップのスタイル、管理手法、コミュニケーション手法を取り入れることが必要で、更にそれに呼応した企業文化も形成されなければ実現できないのに、その手当がなされていないのです。

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組織文化のタイプ

組織文化の変革のためには、まずは組織文化のタイプを知ることが必要です。
多くの専門家や研究者によって、様々な組織文化のタイプを分類するためのモデルが提案されています。
その中でよく引用されるモデルの1つが、キム・キャメロン(Kim S. Cameron)とロバート・クイン(Robert E. Quinn)による組織文化評価手法:Organizational Culture Assessment Instrument(OCAI)です。OCAIモデルは組織文化を下図の4種類に分類しています。

図:組織文化のタイプ(adapted from The Competing Values Framework(2)

それぞれの組織文化タイプを簡単に説明します。

同族集団(共同)
図左上、「同族」文化は、組織に対する家族や親族のような感情、共同体意識が特徴です。従業員を育て、従業員の忠誠心を育み、長期的な利益を志向します。報酬も個人の成果や能力主義というよりは組織としての成果に連動します。同族型の組織では、チームワーク、協調、コンセンサスが価値があるとされ評価されます。

階層主義(管理)
図左下、「階層主義」の組織文化は、組織内部に焦点をあて、形式化・構造化された組織が特徴で、リーダーはプロセスと手順が厳密に守ることで効率的に成果を達成することに主眼を置きます。階層主義はしばしば官僚主義を生みます。
創業から長い時間を経て成熟した企業や政府機関はこの組織タイプが多いです。
「階層主義、官僚主義」と聞くとあまり良い印象を持たないかもしれませんが、予測可能で長期的な安定性を志向する事業タイプ、ルールや手順を確実に実行することで成果を上げられる組織はこの構造が適しています。例えば、建設現場や製造工場は決められた手順通りに確実に実施することで、品質や安全、納期などを確保します。

臨機応変:アドホクラシー(創造)
図右上、「臨機応変」(原文は「アドホクラシー(adhocracy)」)型の組織は、イノベーション、創造性、革新、適応力、柔軟性、リスクテイクに価値を置く組織です。典型的な例は、もちろん、IT関連のスタートアップ企業です。「臨機応変、アドホクラシー」より「アジャイル」型と言った方がしっくり来る人が多いかもしれませんね。

市場(競争)
図右下、「市場」型文化は、他企業との競争に勝ち抜き市場での優位性の獲得を目指しますが、外部のマーケット志向という意味だけでなく、組織内部にも市場(競争)原理が働いており、成果主義で、効果的なシステムとプロセスを通じてこれを追求します。

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組織はこの4つのタイプのどれかだけに属するわけでなく、最も特徴的なタイプがあり、かつ他の複数のタイプを併せ持つことが多いです。
なお、対角線上にある組織文化タイプの両方を支配的かつ同時に併せ持つのは難しいとされています。例えば「階層主義」と「臨機応変型」の組織文化です。これらの特性はトレードオフの関係にあるからです。手順やプロセス、管理に重きを置けば置くほど組織の俊敏性は失われるからであり、その逆も真になります。
ただし、パフォーマンスの非常に高い企業には、そのような対角線上の組織文化を強く併せ持つ会社がないわけではありません。

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組織における組織文化の変化

新しい組織または小規模な組織は、組織の成長に伴い、組織文化もあるパターンを経て変化していくことが多いです。

組織のライフサイクルの初期段階では、組織は「臨機応変」型が多いです。この段階は、官僚的な構造はなく、起業家精神によって特徴付けられます。また、多くの場合、煩雑な手順やプロセスもなく、強力な先見の明と行動力のあるリーダーによって率いられます。

彼らが事業に成功し発展・拡大するにつれて、「同族集団」の文化に近づいていきます。組織への強い帰属意識と、組織と個人の同一視により、組織のメンバーは、組織内で社会的および感情的なニーズの多くを満たし、個人的な友情の感覚と、会社とプライベートの境が薄いコミュニティを形成します。

しかし、組織が更に大きく成長しメンバーが増えていくと、「臨機応変」型や「同族」型にマッチしない新しいメンバーも増えていきます。拡大する組織を管理するために、標準的な手順を導入する必要性に直面することになり「階層」文化への移行が始まります。その方向転換によって、創業初期からいるメンバーは、友好的で個人的な感覚を失ったと感じることがよくあり、個人的な満足度が低下します。

組織は最終的には「市場」文化へ移行して行きます。競争力や結果、外部関係の強調、顧客志向の文化に移ります。

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組織文化と、組織のその他の属性との相関

先に説明したように、組織文化は、組織のその他の属性と相互に深く結びついています。つまり、それぞれの組織文化のタイプに相応するリーダーシップのスタイル、価値観、効率性の基準、管理手法、人事の役割・施策が存在します。下図は、各々の文化タイプに呼応する組織属性の特徴を示しています。

図:組織文化タイプ毎のその他の組織属性の特徴(adapted from The Competing Values Framework(2)

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組織の支配的文化と、リーダーシップのスタイル、価値観、効率性、管理手法、人事管理、品質管理がそれぞれ一致する場合、組織は高いパフォーマンスを発揮できます。 逆に言うと、支配的な組織文化とこれらの要素にミスマッチがある場合は、高いパフォーマンスが発揮できません。

それでは、社会や価値観、テクノロジーの変化など外的環境の変化により会社が変わっていかなければならない場合、そして会社の文化も変えていかなければならない場合、どうやって組織文化を変革できるのでしょうか?
次回「組織文化の変革その2:失敗例と正しい手順」で説明していきたいと思います。

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参考資料
(1) Marc Kaplan, Ben Dollar, Verónica Melián, Yves Van Durme, Jungle Wong, “Global Human Capital Trends 2016, The new organization: Different by design“, Deloitte University Press, Deloitte Development LLC, 2016
(2) Kim S. Cameron, Robert E. Quinn, “Diagnosing and Changing Organizational Culture – Based on the Competing Values Framework, Third Edition”, Jossey-Bass, A Wiley Imprint, 2011
(3) Melissa Jones, “Types of organisational culture“, Breathe, 2018/2

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