変革にはリーダーが必要ですが、リーダーだけでも実現はしません。他の大勢に先駆けて、変革の取り組みを支持するファーストフォロワー(最初のフォロワー)が加わる事で、最初は突飛にも見える取り組みにも信憑性が生まれ、更なる人たちが参加できるようになります。この1人か2人のフォロワーの存在が結果として雲泥の差をもたらします。
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まず、このYoutubeビデオをご覧下さい。ナレーションは英語ですが、映像を見るだけで理解できます(笑)。
ある野外コンサートで、一人の男性が音楽に合わせて踊り始めます。
周囲の他大勢の人たちは彼の踊りを無視して座ったままで、踊っている男性はちょっと変わった人、浮いた存在の様にも見えますね。そこに、もう1人の男性(最初のフォロワー)が加わります。2人で時に絡みながら音楽に合わせて面白く踊り続けます。その段階でも周囲の人たちは静観していますが、そこに更にもう1人加わって3人の踊りになります。この2人目のフォロワーが加わった事で、「奇妙な2人」から「面白いグループ」へ場のダイナミクスが変わっていきます。そこからは雪崩のように人が加わり踊り始め、瞬く間に大きなダンス集団に膨れ上がります。
こうなると、集団に加わって踊っている人たちの方が正常で、座ったまま傍観している人たちの方が奇妙にすら見えてきます。この段階では参加しない事で仲間外れになるのが嫌なので参加する人さえいるように見受けられます。
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もし最初のフォロワーが最初に踊り始めた男性に加わらなければ、このダンスの大集団は形成されなかったかもしれません。
変革や新しい取り組みもそうです。
最初に踊り始めた男性は、変革や新しい取り組みの発起人です。周囲の人には、その変革や新しい取り組みのアイデアは、ばかげていたり奇妙に見えるかもしれません。しかし、そこにフォロワーが加わっていく事で、変革や取り組みに信憑性が植え付けられ、変化のダイナミクスが形成されていきます。そして発起人は、先導者=リーダーとなるのです。
新しい取り組みが進む組織と、進まない組織の差異が、このファーストフォロワーの存在にある場合も多いです。
つまり従業員のちょっとしたアイデアを「それ、いいね!」と後押しする人がいるだけで取り組みとして動き出す組織と、アイデアは出るのに「し~ん」と誰もフォローせずそれ以上発展することなく消滅していく組織、この差はほんの1人か2人のフォロワーの存在という僅かな差である場合もありますが、その差が結果として雲泥の差を生みます。
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アメリカの作家であり、ミュージシャン、プログラマー、起業家でもあるデレク・シバース(Derek Sivers)は、2010年のTEDカンファレンスで、このビデオとファーストフォロワー理論を紹介しました。 下のビデオをご覧下さい。右下のボタンで日本語の字幕も設定できます。
シバースによると、最初のフォロワーは、ユニークなアイデアを持つ発起人を信頼できるリーダーに変える存在であり、発起人と同じくらい重要な存在です。ちなみに、シバースは発起人を「Lone Nut = 孤独な変わり者」と紹介しています(笑)。
シバースは、このビデオから、次のような重要な教訓を提示しています。
1.最初のフォロワーがいなければ変革、新しい動きは生まれない。リーダーは必要だが、リーダー1人だけでは効果は生まない。
2.新しい動きを作る最良の方法は、勇気を持ってフォローし、そして他の人にフォローする方法を示すこと。
3.「孤独な変わり者」が何か素晴らしい事をしている所を見つけたら、立ち上がって参加する最初の人になる勇気を持ってください。
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変革や取り組みの発起人は先導者でありリーダーです。このリーダーとはリーダーシップを持つ人たちという意味で、必ずしも組織上のリーダーではありません。周りから「何それ?」と嘲りや失笑を受ける社会的リスクがあるにも関わらず行動を起こせる人です。
それと同時に、最初のフォロワーもリーダーです。上のYoutubeでも見られるように次のフォロワーが参加するまで、発起人・先導者と同じように周りから嘲笑を受けるリスクに直面します。ただし、この最初のフォロワーが加わり発起人を支持する事で、更なる人たちが参加するリスクが下がり、安心して参加・同調できるようになるのです。
残念ながら、変わる事ができない、新しい取り組みが実行できない、空気が重い組織には、会社の組織上のリーダー達に、この発起人・先導者たる資質も、最初のフォロワーとなるリスクを取る勇気もありません。
どんな組織にも従業員達の素晴らしいアイデアの原石は散りばめられています。しかし、組織上のリーダー達が、「これやるぞ!」と言える真のリーダーでもなく、「それいいね!やろうよ!」と言えるフォロワーでもない場合、そのアイデアの原石が拾い上げられる事も磨かれる事もありません。
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イノベーター理論(Diffusion of Innovation)もファーストフォロワー理論と共通する理論です。
イノベーター理論は、新しいアイデアやテクノロジーがどのように社会に支持され普及していくか説明します。アメリカの社会学者のエベレット・ロジャース(Everett M. Rogers)が、1962年の書籍「Diffusion of Innovation(邦題: イノベーション普及学)」で紹介し広めました。
イノベーションには、社会の人たちに時間をかけて伝達され普及していくプロセスがあります。具体的には、普及の過程を5つの段階に分類しています。下図の様に、イノベーションは、まず新しいものを積極的に導入する好奇心を持ったイノベーター(革新者:Innovators)の人たちに採用され、次にアーリーアダプター(初期採用者:Early Adopters)に採用されます。その後、アーリーマジョリティー(前期追随者:Early Majority)、レイトマジョリティ(後期追随者:Late Majority)、ラガード(遅滞者:Laggards)の順に採用が広がっていき、最後に100%に達するというものです。
図:イノベーションの普及プロセス
(Rogers Everett, Public domain, via Wikimedia Commons)
アーリーアダプター(初期採用者)は、普及する可能性がある製品やサービスの価値をいち早く感知して行動する人たちです。イノベーターとアーリーアダプターの合計は全体の僅か16%だけですが、イノベーションの普及には、いかにこれらの層の人たちに受け入れられるかが成功の鍵になります。なお、この層の人たちは「オピニオンリーダー」や「インフルエンサー」とも呼ばれます。
「インフルエンサー」については、以前「変革の書籍紹介:インフルエンサー:行動変化を生み出す影響力」でも紹介しました。
アメリカの組織論学者であり、コンサルタントでもあるジェフリー・ムーア(Geoffrey Moore)は、1991年の著書「Crossing the Chasm: Marketing and Selling High-Tech Products to Mainstream Customers(邦題:深淵を越えて: 主流顧客を対象としたハイテク製品の市場調査と販売)」で、この5つの層の間にはそれぞれ溝があり、その溝を乗り越えていかなければならないが、特にアーリーアダプターとアーリーマジョリティーの間の溝が一番深く、この最も深い溝(キャズム)を超えることが製品の普及に重要であるという「キャズム理論」を紹介しました。
※ 下の「キャズム Ver.2」はその書籍の増補改訂版です。
先のビデオの例に当てはめると、イノベーターが最初に踊る人、アーリーアダプターが最初のフォロワーにあたりますね。また、先のビデオで2人目のフォロワーが加わる前が転換点(キャズム、ティッピングポイント)にあたります。2人目のフォロワーが参加する事で、キャズム(深い溝)を超え、転換点に達し、加速度的に普及、参加者が広がっていきます。