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集団的無知、多元的無知:自分だけ考えが違うという勘違いを皆がすること

  • 投稿カテゴリー:Change Management
  • 投稿の最終変更日:2022年9月19日
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集団的無知、多元的無知(Pluralistic ignorance)は、集団によって共有されている無知のことで、「集団のメンバーの大多数が内心では否定しているが、他の大多数はそれを受け入れていると誤って思い込んでいる状況」です。集団的無知は、多くの社会機能不全の根源をなしています。

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製造販売会社A社にて

製造販売会社A社での事業改革会議の終了後、会議に参加していた高宮開発課長と山本営業課長、2人だけになった会議室で話し始めます。

高宮課長「山本君、今回の社長肝いりの事業改革案みんな賛成みたいだけど、ここだけの話、どう考えてもうまくいくように思えないんだよね」
山本課長「ま、間違いなくうまくいかないだろうね」
高宮課長「え?山本君もそう思ってたの?!さっきの会議で賛成してたじゃないか!」
山本課長「何言ってんだよ。みんなうまくいくわけないって思っているに決まってるじゃないか」
高宮課長「え、そうなの?じゃ、なんで誰も反対しないんだよ。ていうかみんな賛成してたじゃないか」
山本課長「誰が社長の案に反対できるんだよ。高宮君だって何も言わなかったじゃないか。会議ではうんうん頷いていて、あとはつじつま合わせの仕事をするだけだよ。社長だって、何かやってる感だけ見せようとしているだけさ。ま、こんなこと他の人たちの前じゃ絶対に言えないけどね」

上のA社の例では「社長肝いりの事業改革案」に関して次の2つの点が成り立っています。
1. A社の従業員は誰もが「自分以外の他の社員たちはみんな社長の事業改革案に賛成している」と思っている。
2.しかし実際は、A社の従業員の誰もが事業改革案に賛成しているわけではない。むしろ、大多数は事業改革案に賛成していないかもしれない。

これを、集団的無知(多元的無知、Pluralistic ignorance)と言います。つまり、集団によって共有されている無知のことで、「集団のメンバーの大多数が内心では否定しているが、他の大多数はそれを受け入れていると誤って思い込んでいる社会的状況」です。(1)

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集団的無知(多元的無知、Pluralistic ignorance)

この集団的無知、理解するのが少し難しいですがお分かりになるでしょうか?違う例も紹介しましょう。
※ なお、多元的無知より集団的無知の方が理解しやすいように思うので、以降ここでは「集団的無知」という言い方に統一します。

先生「はい、ここまでの説明で分からない箇所がある人はいますか?わからない人は手を挙げてください」
あきと君(あれ?みんな手を挙げないけど、分かっていなのは僕だけなのか??)
先生「はい、みんな分かったようなので次に進みますね、ではページをめくってください」
あきと君(え、僕まだ分かってないんだけど。。)

この時、実は先生の授業を理解していなかったのはあきと君だけでなく、クラスのほとんどの生徒もそうでした。つまりクラスに集団的無知が存在していたのです。
ではなぜ、みんな手を挙げなかったのでしょう?下記のような理由です。皆さんも経験がありますよね。

  • バカだと思われたくないから
  • 恥ずかしいから
  • 変な質問をして後でからかわれたくないから
  • 誰か他の人が質問してくれると思ったから

さらに別の例を紹介しましょう。
「誘われて参加することになった飲み会、みんな乗り気みたいだけど僕は行きたくないんだよな。。」なんて飲み会はないでしょうか?そして、実は行きたくないと思っていたのはあなただけではなく、他のみんなもそう思っていた。。。ということもあります。心の中では乗り気ではないのに、みんなの前では乗り気なように振る舞います。これをみんなが行うのです。つまり自分だけだけなく、他の人たちも、自分の行動を選ぶことができるのに、自分が「望むこと」と「行動」が一致していないのです。

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Everybody but Me

あなたは「私は○○と思っているけど、他のみんなは△△と考えていて、私のような考え方をする人は他にいないようだ」と思っていますが、実は他の人たちも○○と思っていた。これが集団的無知です。

さらに別の言い方をすると、集団的無知は次のように言い表すこともできます。(2)(3)

  • ある集団のほぼ全員が、その集団全体の支配的な考えに実は同意していない状況
  • 自分以外の全員が自分と異なる意見を持っていると誤解していること
  • 誰も賛成していないにもかかわらず、他の誰もがそれに賛成していると信じ、その結果、誰も賛成していないのにその考え方に従うこと
  • 自分の考えや信念は他の人たちとは違うのに、集団の一員になると皆と同じように振る舞う心理状態
  • あるトピックに関する少数派の立場が多数派の立場であると誤って認識される状況、または多数派の立場が少数派の立場であると誤って認識される状況
  • 「私以外の大多数は自分の考えに沿って行動しているが、私は自分の考えに沿って行動していない少数派だ」という誤った考えのこと
  • 大多数の人が正しいと思っていないのに、多数派と思われている意見に従う誤ったコンセンサス
  • 全員が支持しているように見えるが、実は全員が支持していないということに気づかず、結局は全員が従ってしまうことになること

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深刻な機能不全をもたらす集団的無知

集団的無知は、自分の判断を、他人の行動に対する観察結果に帰属させるために生じます。他人の行動に自分の行動を合わせようとする私たちが持つ同調(Conformity)欲求と他人からの同調圧力が集団的無知の根源です。
そして、特に私たち日本人は、この自分が集団に同調したいと思う同調欲求や、相手を集団に同調させたいと思う同調圧力が強いと報告されています。

私たち日本人は、何か行動を始めるとき、周りの人たちがどう動くのか確認してから、自分の行動を決めます。そして、他の人たちと同じような行動を取ります。それが自分自身の考えに反していてもです。たとえ集団の外から見ると奇異に見えたり、時代に合致していない行動であっても、同じ行動を共有する集団の中にいる限りは安心だからです。

残念ながら、集団的無知は、多くの社会機能不全の根源をなしています。特に社会が急速に変化する今の世の中では、既存の考え方とは異なる新しい考えが次々と生まれてきています。しかし、集団的無知が支配的なグループでは、何か物議を醸すようなことがあっても、それについて話すとみんなが不快感を覚えるので、どこか目につかないところに隠しておいて、そのことについて話し合うのを避けるのです。そして、物事について話すのをやめることは、物事について考えるのをやめるための最初のステップとなります。(3)(4)

最初に紹介したA社の事例でも、会社の戦略が的を得ていないものであっても、他のみんながそれを支持すれば、あなたも支持してしまうのです。また、上司の有害な言動を内心では嫌っていても、他の同僚たちがそれを受け入れていると思えば、惨めさや無力感を感じながらも、それを許容し続けるのです。

ミシガン大学のジム・ウェストファル教授は、アメリカの中堅上場企業228社の取締役会について、さまざまなデータベースとアンケート調査を用いてデータを収集しました。その結果、社外取締役は、自社の既存の戦略に対して深い懸念を抱いていながら、それを口にしないことが多いことがわかりました。同時に、社外取締役は、同僚取締役がどの程度懸念を抱いているかを過小評価していたのです。その結果、業績不振の会社は、戦略を変えることなく、失敗した行動を取り続けるのです。(5)

集団的無知は、恋愛関係の形成にも支障をきたすことがあります。例えば、恋愛感情を抱いていながらお互いにその思いを伝えられていない男女がいるとします。お互いに相手から断られることを恐れて、自分からはアプローチしません。このため、お互いに、相手が自分に興味がないからアプローチしてこないのだと思い込んでしまうことがあります。この場合、関係の発展を妨げているのは、お互いの集団的無知なのです。(2)

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なぜ集団的無知が生まれるのか?

次のような理由によって、私たちは集団的無知を引き起こします。(6)(7)

1.他人の「行動」は観察できるが、他人の「考え」は観察できない。
まず初めに他人の「行動」は多くの場合、観察可能です。一方で、他人の「考え」は、その人とのある程度以上の意思疎通を行うことが出来なければ知ることができません。行動は外から見えますが、脳みその中は外から見えません。この点で、他人の「考え」と「行動」は大きく異なります。

2.私たちは、ネットワークの中の人たちと自分を常に比較している。
私たちは常に自分が属するグループの他の人たちの行動を観察し、そこから次に取るべき行動についての手がかりを得ています。しかし、他人を外から観察しても、彼らの真の考えや信念を知ることはできません。知ることができるのは、彼らの「行動」だけなので、行動からすべてを察して判断するのです。

3.自由で、透明性の高い、正直なコミュニケーションができない。
仲間外れや異端児と思われて距離を置かれたり、バカにされるのを恐れて、自分が不利になったり、大多数と違うような意見は言いません。

4.他人の「行動」と「考え」が合致していると勝手に思い込んでいる。
私たちは自分はそう考えていないのに、不本意ながら行動する場合があります。つまり私たち自身の「行動」と「考え」は必ずしも一致しているわけではありません。
しかし、これが他人のことになると、「行動」と「考え」が一致していると考えるのです。以前、根本的な帰属の誤り(Fundamental Attribution Error)を紹介しました。私たちは、他人の「行動」と「考え」が一致していると間違って思い込む傾向があります。つまり、他人の行動に対しては、外的要因よりも、その人の内的要因(思考、考え、信念、好み)に帰属させる傾向がある一方で、自分の行動は外部要因(この場合は社会的圧力)に帰属させるのです。

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「アビリーンのパラドックス:Abilene paradox」やその他の関連モデル

実はこの集団的無知と同じようなモデルを以前本サイトで紹介しました。
アビリーンのパラドックス:Abilene paradox」です。アビリーンのパラドックスとは「グループが、グループ内のほとんど又はすべてのメンバーが望んでいないにも関わらず、そのような行動を集合的に決定すること」です。

また、「集団的無知」や「アビリーンのパラドックス」は、以下のような他のモデルや私たちの傾向や癖とも関連し合っています。

  • Peer pressure:同調圧力
  • Conformity, Desire to conform:同調欲求
  • Fear of rejection:人から拒絶や否定されることへの恐怖
  • Fear of standing out:目立つことへの恐怖
  • Diffusion of responsibility:責任の希釈。大多数の中に入ることで、何かあっても責任が薄まること
  • Bystanders effect:傍観者効果。自分以外にも周りに人が大勢いる場合、自ら率先して行動を起こさなくなる心理

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最後に

皆さんご存じのクリスチャン・アンデルセンの童話「裸の王様」も、私たちの集団的無知を痛烈に表しています。見えない衣装を身にまとい裸で大通りを行進する王様を前に、集まった国民たちは、目の前を通る王様が何も着ていないのを目にしているにもかかわらず、みな歓呼して王様の衣装を誉めそやすのです。
この集団的無知を打ち破ったのは、沿道にいた1人の小さな子供でした。その小さな子供が、「王様は、なんにも着てないじゃないか!」と叫ぶと、群衆はざわめきはじめ、ついに皆が「王様は何も着ていない」という事実を共有するのです。

集団的無知を打破する方法はいくつかありますが、この少年のように、集団との深い関わり合いがない第三者や、政治的に無頓着で、情報に疎い個人の行動によって、突然集団的無知が打破され社会変化が起こることもあります。その大胆な行動は、誰もが自分たち自らできたらいいのにと思うものの、自ら実行する勇気はないことでもあります。

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参考文献
(1) Daniel Katz, Floyd H. Allport, “Students’ Attitudes: A Report of the Syracuse University Reaction Study”, Syracuse, N.Y., Craftsman Press, 1931.
(2) Charlotte Nickerson, “Pluralistic Ignorance: Definition & Examples”, SimplyPsychology, 2022/5.
(3) Vinita Bansal, “Pluralistic Ignorance: Why Smart People Do Dumb Things”, TechTello
(4) Dave Trott, “One Plus One Equals Three”, Pan Macmillan; Reprint, 2016/11.
(5) Freek Vermeulen, “The Abilene Paradox
(6) Cristina Bicchieri, “The Grammar of Society: The Nature and Dynamics of Social Norms“, Cambridge University Press, 2005.
(7) Cristina Bicchieri, “Norms in the Wild: How to Diagnose, Measure, and Change Social Norms“, Oxford University Press, 2016/12.

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