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変革の書籍紹介:「Pig Wrestling ブタとの泥の格闘:問題を解決し変化をもたらす方法」

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2021年6月17日
  • Reading time:7 mins read

私たちの身の周りは問題山積です。しかし多くの場合、問題そのものを間違っていて、問題の取り組み方も間違っています。対処すべき(問題=ブタ)を間違え「ブタとの泥まみれの格闘」をしています。新しいフレームがたくさんあるのに使う事をせず、使い慣れた古いフレームで見て軽率に判断し、間違った方向からブタに飛び込んでいきます。

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はじめに

私たちの周りには、多くの問題が存在し、それを解決しようと一生懸命取り組みますが、行き詰ってどうしようもなくなる事は多いですね。

実は、その原因として、「問題」そのものの捉え方が間違っている事があります。
私たちの思考やモノの見方は、習慣や、経験、知識の偏り、言葉の使い方、認知バイアスなどによって制限されています。 私たちは問題を十分に理解しないうちに、今までの経験や知識に沿って捉えて、間違ったあるいは断片的な理解をします。時に無意識、条件反射的に、私たちが直面している問題を、とても単純化した物語にしたり、軽率な論理を作り上げてしまいます。そして、拙速にレッテルを選んで問題に貼り付け、解決しようとしてしまいます。
間違ったレッテルは、問題解決や変化の機会を制限するだけでなく、問題をさらに深刻化させます。本来進むべき道と完全に違う道を出だしの一歩から選んでしまう事で、問題解決のゴールにたどり着けなくなるどころか、全く見当違いの方向に進み、深い森の中へと迷い込んでしまうのです。

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Pig wrestling:ブタとの泥まみれの格闘

本書「Pig wrestling: Solve problems and create the change you need:ブタとの泥の格闘。問題を解決し変化をもたらす方法(2019年出版)」は「豚レスリング=ブタとの泥の格闘」を例えにした寓話を使って、この問題と問題解決の方法を紹介しています。
なお、本書は現時点(2021年6月)では日本語訳版は出版されていません。

著者のピート・リンゼイ(Pete Lindsay)とマーク・ボーデン(Mark Bawden)はともにスポーツ心理学、パフォーマンス心理学を専門とし、英国スポーツ科学研究所や英国のクリケットチームやサッカーチームでのキャリアの後、Mindflickというコンサルタント会社を経営しています。

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ところでみなさんは「Pig Wrestling=豚レスリング」はご存じでしょうか?
下のYoutubeの動画のように囲いに放たれたブタを捕まえる競技ですが、時に囲いの中を泥だらけにして行い、更にはブタにオイルを塗って滑りやすく、捕えにくくしたりもします。

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ブタ(問題)を正しく理解する

本書は、多くの組織が、問題を間違え、ブタとの泥まみれの格闘をしていると指摘します。問題解決や変革の試みの最初の間違いは、取り組むべき問題を間違える事です。
本来できるだけ正確な情報を集めて問題を理解する事が重要です。
正しい情報に基づいて理解しているでしょうか?
限られた情報や、人づてのフィルターのかかった情報だけで判断していないでしょうか?
問題は可能な限り自分で直接確認する必要があります。問題がおきた文脈、経緯、因果関係が理解できなければ解決はできません。
逆に言えば、もし現場の正しい状況が理解できないならば、その人は問題解決に関与すべきでありません。正しく理解している対処するべき人が対処せず、理解していない人が対処する事もしばしば起きる間違いです。

これは私の個人的な経験ですが、ある途上国で仕事をしていた時、取引先の日本人担当者から「お宅の会社、これおかしいけどどうなってるの?」のような連絡を受け、何の事か見当もつかずよくよく調べてみると、相手先の現地スタッフが嘘をついて自分のミスを当社に擦り付ける説明を日本人上司にしていた。。」なんて事が何度かありました。
直接確認しない事は事実でない可能性があるという前提を持たないと、問題自体を完全に履き違えてしまう一例です。

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また、本書は、既に長く取り組んでいるのに解決できない問題は、一度その取り組みをやめてみる、何もしなかったらどうなるかを観察してみる事も勧めています。
バタバタするのをやめ、改めてブタ(問題)を細部まで、目の色や、鼻の大きさや、しっぽの形までよく観察してみます。そして何もしなかったら何が起きるのか?

更に、実はブタ(問題)は幻想で、問題は自分の中だけにあるというケースも指摘しています。
本書では、主人公の自宅のお隣に引っ越してきた男性が、お互いの敷地の真ん中にある両家で共有する入口の扉を、何回言っても、張り紙をしても閉めず、我が家の小さな子供が開いている扉から外に出て行って交通事故に遭う危険にさらしていると憤慨します。
しかしこの主人公、暫くして、近所で行われている工事用の大型トラックが家の前を通り過ぎていく時に、風圧で扉が開くのを発見します。つまり、隣の男性はきちんと扉を閉めていて、扉が開くのはトラックの仕業だったのに、隣の男性が扉を閉めないと決めつけていたのです。
問題は外部には一切なく、全て自分が引き起こしていたのです。

ブタ(問題)を見つけたら、すぐ飛びついてしまう前に、まずよく確認する事が大切です。

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様々なフレームでブタ(問題)を見る

更なる問題解決の失敗の原因は、ブタ(問題)を見るフレームにあります。残念なことに、袖をまくり上げた私たちの思考を拘束し間違った豚舎へと導くのは、私たちが持つ古いフレームです。

私たちは物事を見るのに、限られた古いフレームを使います。そのフレームは、私たちの前提であり、培った技術であり、表現の仕方であり、普段使う言葉であり、バイアスです。見ている対象や問題の質がもはや今までと違うにも関わらず、使い慣れたフレームを今までのように使い、軽率な判断、間違った解釈をします。しかも一度間違ったフレームで見て思い込みをしてしまうと、その他の見方がほとんど出来なくなります。
それらは、ブタとの格闘の「泥」です。泥を取り払わなければブタの本当の姿を見る事はできません。

図:限られた古いフレームで問題を間違えて捉えているイメージ図~ ~ ~ ~ ~

企業の事業戦略計画を例にとると、未だに事業戦略で使われるSWOT分析、あるいはマイケルポーターの競争戦略(コストリーダーシップ・差別化・集中戦略)も、ツールの一つとして使うのであれば効果も期待できますが、このような狭く限られたフレームの中に思考を押し込めて戦略が描けるような時代ではもはやありません。
競争戦略(コストリーダーシップ・差別化・集中戦略)は外的要因しか見ておらず、今の時代に成功する事業を始めたいなら、むしろ避けるべき戦略と言えるかもしれません
。テクノロジーはもちろん重要ですが、今大きな成功を収めている企業は、企業戦略、技術的優位性より、優れた企業文化の開発・醸成による力が大きいです。
戦略ツールであるバランス・スコアカードも、今多くの会社で課題である経営陣のリーダーシップ・コミットメント不足や、部署間のサイロ化の解決、企業文化の問題解決には役に立ちません。

多くの組織が、「技術的なチャレンジ」、「業務プロセスの改善」、「パフォーマンスレビュー」、「従業員のエンパワーメント」、「人材開発」などの限定されたフレームでしか複雑な現実を見ておらず、そもそも直視すべき現実を正しく理解していません。

ブタと悪戦苦闘の取っ組み合いをしている時は、問題を正しく捉えていない、使い慣れた古いフレームでしか見ていないか疑う事です。そして、新しいフレームで見てみる事です。周囲を見渡せば多くの新しいフレームが存在している事に気付くはずです。
いったん使い慣れたフレームを手放し、新しいフレームを試してみると、数多くの違うフレームも試せるようになります。考え方のスイッチを変え、創造的に考えるきっかけとなります。

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書籍は、1902年フランスの統治下にあったベトナムのハノイで発生した大量のねずみの話を取り上げています。当時政府は大量のねずみへの対応に悩まされていました。ネズミを退治する労働者を雇ってもなかなか減らず、住民にネズミを捕獲してきたら現金と交換する事を通知しました。
結果はどうなったと思いますか?なんとネズミの数は更に膨れ上がったのです!
なぜでしょう?
政府にネズミを買い取ってもらえるため、ネズミを繁殖させる住民が増えたからです。この結果を知った後では「なんだよ、そんな事もあらかじめ考えなかったのかよ!?」と思うかもしれませんが、結果を知ってから前提を作るのは簡単です。様々なフレームで考えられるスキルがないと、結果を事前に予測する事はそう簡単ではないのです。

別の例として、また海外の仕事の例で恐縮ですが、限られた視点でしか現地の事情を捉えられていない日本の本社が、現地にいる人間にとってあまりに的外れな指示を安易に出してしまうという間違いは、多くの会社で起きています。国内でしか通用しない見当違いのフレームを使って海外を見ているからです。国外に出て現地のフレームを手に入れた者には、この的外れ感は容易に見えるのです。

更にまた私の海外の仕事の例で恐縮ですが(汗)、数年に渡るプロジェクトの後半に差し掛かり、現地スタッフに残り期間の頑張りを期待して、プロジェクトの最終的な成果に応じたボーナスを設定したことがあります。成果に応じて月給の0.5~1.0か月分支給すると通知し、結果的にはプロジェクト終了間際に0.8か月分を支給したのですが、なんと受け取った現地スタッフは「なぜ満額でないのか?」と不満たらたらでした。つまりスタッフはボーナス通知の時点で満額もらえると期待していたのです。
根拠を事前に明確に提示しなかった私の大きな反省点ですが、ボーナスを敢えて設定したのに、喜ばれるどころか不満を買ってしまって、「もう二度とボーナスなんか設定するか!」と思ったものです(笑)。

これも私とスタッフが同じものを見ているのに、見るフレームが全然違っていた結果です。

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どういう状態になったら問題解決とみなすのか定義する

多くの人が問題を解決する事に一生懸命で、最初にその問題を詳細に定義する事はおざなりにしています。
更に、問題の定義と同様に重要なのが「どういう状態になれば問題が解決された事になるのか」を定義しておく事ですが、この点に意識が向く事もありません。

問題が発生すると「誰が悪かったんだ?!」とスケープゴート探しに一生懸命になりますが、その人物を突き止めて謝らせれば問題が解決したことになるのでしょうか。
問題は、人や行動にあるのではなく、その行動をもたらした構造や仕組み、環境にあります。しかし、その根本原因を掘り下げる事はしません。
問題解決も、従前通りのまま同じ方法で取り組んで、モチベーションが低いとかやる気が足りない等の精神論のフレームで片づけてしまう事さえ未だにあるのです。

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最後に

最後に、私が以前セルフコーチングで紹介したCTFARモデル(Thought Model:ソートモデル)は、このブタのモデルと共通します。

CTFARは、「Circumstances(状況) ➡ Thoughts(思考) ➡ Feelings(感情) ➡ Action(行動) ➡ Result(結果)」の頭文字を取ったものです。
最初の「状況」は「現実・事実」であり、個人が「思考」によって「状況」にある意味を付け加え、その思考に応じた「感情」が生まれ、それが「行動」に繋がり、最終的な「結果」に結びつくモデルであると説明しました。

望む「結果」にたどり着けない最も多くの原因は「状況」を正しく「思考」しない点にあります。「思考」が間違えている為、間違った「感情」と「行動」と「結果」が生まれます。
この点が、今回紹介した「豚レスリング」のフレームと共通します。状況を正しく思考しない事、問題を間違ったフレームで見てしまう事、その事で
ブタ(問題)を見誤り、ブタとの泥まみれの取っ組み合いに陥ってしまうのです。

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最後の最後に蛇足ですが、、、今回紹介した書籍を読んで、ふと、はたして本書はブタを引き合いに出す必要があったのだろうか?と思いました。。しかし、問題解決や変革とはあまり関係のないブタで興味を引き、読みやすく、また複雑な問題を取っ付き易くしているのは確かです。私もブタとポップな表紙につられて買ってしまった所は多少ありますから。。。笑)
いずれにしても、本書のフレームを使った説明はとても分かりやすいですね。是非皆さんにも問題に取り組む際には様々なフレームを使って色々な角度から捉える事を意識して頂きたいと思います。

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