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行動を変える:健康行動を取るためのモデルの紹介 Health Behavior Change

  • 投稿カテゴリー:Change Management
  • 投稿の最終変更日:2022年3月25日
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人が変わるには、その人の行動が変わる必要があります。今回、健康に関して人はどのようにして行動を変えるか、数多くあるモデルの中から3つのモデルを取り上げて紹介します。① Health Belief Model(ヘルスビリーフモデル)、② Transtheoretical Model(トランスセオレティカルモデル)、③ Theory of Planned Behavior(計画的行動理論)

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本サイトでは「人の変わる」、「組織の変わる」、「社会の変わる」を紹介していますが、これらすべてに共通して必要なのは「人が行動を変える」事です。

「人の変わる」=「人が行動を変える」は、多くの病気の治療や予防にも必要です。例えば、たばこをやめる、お酒を控える、運動を始めるなどの健康行動は、その人が行動を変えないと実現できません。
そのため、医療やその他健康関連分野でも、どうしたら人は行動を変えるのか長く研究され、様々なモデルが提案されてきました。
今回はそのような健康行動変容に関する以下の3つのモデルを取り上げて紹介します。名前を見るだけで何だか難しそうですが(トランスセオレティカルって何よ??)、できるだけ分かりやすく紹介できればと思います。。。

1.Health Belief Model:ヘルスビリーフモデル
2.Transtheoretical Model:トランスセオレティカルモデル
3.Theory of Planned Behavior:計画的行動理論

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1.Health Belief Model:ヘルスビリーフモデル(1)(2)(3)(4)(5)(6)

ヘルスビリーフモデル(Health Belief Model)は、1950年代、米国公衆衛生局の社会心理学者によって、人が病気の予防策や早期発見のための検査などをどう受け入れるのか理解するための研究から生まれたモデルです。行動変容に影響する要素がシンプルにまとめられていて、それぞれの要素に対して対策を立てるのに役立ちます。このモデルは認知心理学と行動学の理論から派生したもので、その後改良を加えられ半世紀以上経った今でも広く利用されており、最近ではコロナウイルスのワクチン接種を人はどう受け入れるのかという研究にも使われています(1)

人が健康行動を取るか取らないかは、以下の4つの項目に対する個人個人の認識に影響されます。

1.病気になる可能性の高さ(perceived susceptibility)
2.病気になった場合の深刻さ(perceived severity)
3.健康行動を取るメリット(perceived benefits):行動によって病気を予防したり生活を改善できるなど
4.健康行動を取るデメリット(perceived barriers):治療が効かないリスク、費用、時間、安全性、副作用など

これらの認識の仕方は人によって千差万別で、人種、年齢、収入、教育レベル、就業状況、住む場所、性格、社会的環境、社会的地位など様々な要因が影響します。実際に行動に移すには、これらの動機付けに加えて、更に次の2つの要素が必要になります。

5.行動を取るきっかけ(cue to action):実際に行動に移す際のきっかけで、痛みや苦痛から逃れたいなどの内的なきっかけと、メディアで得た情報や、医者や家族からの助言、身近な人の病気に接したなど外的なきっかけがあります。
6.自己効力感(self-efficacy):自己効力感は「自分は必要な行動を実行できる」と自分自身の能力を信じていることです。

これを図にすると次のようになります。

図:ヘルスビリーフモデル(Health Belief Model)の要素
adapted from Figure 3.1. “Health Belief Model Components and Linkages”,
Health behavior and health education: theory, research, and practice (4th edition)”, p49(3)

*ヘルスビリーフモデルの限界(2)(3)(4)(5)

どの健康行動変容モデルにも限界やモデルで考慮されない要素がありますが、ヘルスビリーフモデルには以下のような限界や考慮されていない要素があります。

  • 人の態度、信念など、決断に影響する個人的な要因を考慮していない。
  • 喫煙など習慣化された行動や無意識レベルの影響を考慮していない。
  • 社会的な理由など、健康とは無関係な理由で行われたり行われない行動は考慮されていない。
  • 「行動を促す手がかりが広く普及し、健康な行動ができること」を前提としている。
  • 自分がコントロールできない外的環境要因を考慮していない。
  • 「きっかけ」に関してはあまり実証されていない。
  • 基本的に認知モデルなので、感情が行動にもたらす影響を考慮してない。

このような限界もあるため、次に紹介するトランスセオレティカルモデルなど他のモデルと組み合わせて使われることもあります(3)

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2.Transtheoretical Model:トランスセオレティカルモデル(3)(5)(6)(7)

トランスセオレティカルモデルは、心理学者のプロチャスカ(Prochaska)とディクレメンテ(DiClemente)が、1970年代から80年代にかけて開発し、90年代に現在ある形になった行動変容の ①ステージ②プロセス を体系化したモデルです(3)。自力で禁煙に成功した喫煙者を研究して生まれたモデルですが(7)、その後幅広く健康行動の変容に対して利用されています。

このモデルでは、人が行動を変えるには、以下のように「無関心期」➡「関心期」➡「準備期(決意)」➡「行動期」➡「維持期」➡「終了」の6つのステージを踏みます。ただし「完了」は、もともとのモデルには含まれておらず、健康関連の行動変化に適用する場合にはあまり使用されません。

① 行動変容ステージ(Stages of change)

(1) 無関心期(Precontemplation):人は自分の今の行動が悪い結果をもたらすことに気づいていないか、行動を変えることのメリットを過小評価し、デメリットを強調していて、当面(6ヶ月)行動の変化を起こすつもりはありません。
(2) 関心期(Contemplation):人は自分の今の行動が悪い結果をもたらすことを認識していて、6ヶ月以内に健康行動を開始するつもりでいます。行動を変えることのメリットとデメリットを熟慮していますが、行動を変えることに対してまだ曖昧な気持ちを持っている場合があります。
(3) 準備期・決意(Preparation・Determination):この段階では、近く(1ヶ月以内)行動を起こす準備ができています。行動変容に向けて小さな一歩を踏み出し、行動を変えることがより健康的な生活につながると信じています。
(4) 行動期(Action):人は最近(6ヶ月以内)行動を変え、更にその行動の変化を継続するつもりでいます。
(5) 維持期(Maintenance):人はしばらくの間(6ヶ月以上)行動変化を維持していて、今後もその行動変化を維持するつもりです。この段階の人は、以前の段階への逆戻り(再発)を防ぐために努力します。
(6) 完了(Termination):この段階では、人々は不健康な行動に戻りたいとは思っておらず、再発することもないと確信しています。(多くの人は維持段階にとどまる傾向があるため、健康プログラムではこの段階は考慮されないことが多いです)

図:行動変容ステージ(Stages of change)

② 行動変容プロセス(Process of change)

人は、変化のステージを進めるために、認知的、感情的、評価的な以下の10のプロセスを踏みます。
初期段階では、認知、感情、評価といったプロセスを経て、ステージが進むにつれて、コミットメント、カウンターコンディショニング、報酬、環境のコントロール、サポートといった要素にシフトするようになります。

(1) 意識の高まり(Consciousness Raising): 健康的な行動についての情報や事実に触れ意識を高める。
(2) 劇的な緩和(Dramatic Relief):健康的な行動について、肯定的であれ否定的であれ、感情的な喚起がある。
(3) 自己再評価(Self-Reevaluation):健康的な行動が自分のありたい姿の一部であることを認識する。
(4) 環境再評価(Environmental Reevaluation):自分の不健康な行動が他人にどう影響を与えるかを理解する。
(5) 社会的解放(Social Liberation):社会が健康的な行動を支持していることを示す環境的な機会が存在する。
(6) 自己解放(Self-Liberation):健康的な行動の達成を確信し、行動を変えることを決意する。
(7) 助け合う関係(Helping Relationships):望む変化を促すような支え合う関係を見つける。
(8) カウンターコンディショニング(Counter-Conditioning):不健康な行動や思考を、健康な行動や思考に置き換える。
(9) 強化(Reinforcement Management):ポジティブな行動に報酬を与え、否定的な行動から生じる報酬を減らす。
(10) 刺激のコントロール(Stimulus Control):環境を再構築し、それを支援・促進するような注意喚起や合図を与える。健康的な行動を促し、不健康な行動を促すものを排除する。

このステージやプロセスを使う事で、様々な段階にいる人たちに対して、次の段階に移行させるためにテーラーメイドした効果的な介入を取ることができます。

図:行動変容ステージ(Stages of change)と行動変容プロセス(Process of change)
adapted from Table 5.2. “Processes of Change That Mediate Progression Between the Stages of Change“,
Health behavior and health education: theory, research, and practice (4th edition)”, p105(3)

*トランスセオレティカルモデルの限界(3)(8)(9)

本モデルにも以下のようないくつかの限界があり、この理論を公衆衛生に利用する際には注意する必要があります。

  • 変化が起こる社会的背景を無視している。
  • 各ステージ間の線引きは恣意的である可能性があり、人の変化の段階をどのように決定するか基準が定まっていない。
  • 各ステージにどれくらいの時間が必要なのか、明確なものがない。
  • ステージを踏んだ変化が、ステージを踏まない変化に比較して、必ずしも効果があるわけではない。
  • 人が首尾一貫した論理的な意思決定プロセスを踏むと仮定しているが、必ずしもそうではない。

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3.Theory of Planned Behavior:計画的行動理論(3)(6)(10)(11)

最後に紹介する計画的行動理論(Theory of planned behavior)のベースは、行動を決定する一番大きな要素は意図(Intension)であり、その意図は行動に対する①態度(Attitude)、②主観的規範(Subjective Norms)、③行動をコントロールしている認識(Perceived behavioral control)の3つの要素によって決定されるという、その名前の通り、行動は意図的にプラン(計画)されるという前提を持つ理論です。
この理論は、健康行動だけでなく、広告、広報、ヘルスケア、スポーツマネジメントなどに利用されています。

①態度(Attitude)は、行動がもたらす結果に対する考えとその評価によって決定されます。つまり、行動を行うことによって価値ある結果が得られると強く信じている人は、その行動に対して肯定的な態度を取ります。逆に行動によって悪い結果が得られると強く思っている人は、その行動に対して否定的な態度を取ります。

②主観的規範(Subjective Norms)は、その人の社会規範に対する認識(自分がその行動を取ることを他人がどう考えると思うか)によって決まり、特に重要な人に従う動機がある場合には意図に重み付けされます。
つまり、ある行動をするべきだと他人が考えていると信じ、その人たちの期待に応えようとする動機がある人は、肯定的な主観的規範を持ちます。逆に、他人が自分はその行動を行うべきではないと考えていると思っている人は、否定的な主観的規範を持ちます。他人に従う意欲が低い人は、比較的中立的な主観的規範を持ちます。

③行動をコントロールしている認識(Perceived behavioral control)は、行動遂行に対する促進要因と障壁要因を自分がコントロールできると思うかです。先に紹介した自己効力感(Self-efficacy)に由来するもので、自己効力感と同等のものとして扱っている文献もあります(12)

図:計画的行動理論(Theory of Planned Behavior)

*計画的行動理論の限界(3)(10)(11)

本モデルにも次のようないくつかの限界があります。

  • 意図と関係なく、その人が望ましい行動を成功させるための機会とリソースを既に手に入れているという前提をしている。
  • 恐怖、脅威、気分、過去の経験など、行動の意図や動機に影響を与える他の要因を考慮に入れていない。
  • 規範的影響は考慮しているが、人の行動意図に影響を与える可能性のある環境要因や経済的要因は考慮していない。
  • 行動は直線的な意思決定プロセスの結果であると仮定しており、時間の経過とともに変化する可能性を考慮していない。
  • 「意図」と「行動」の間の時間軸は、この理論では扱われていない。

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最後に

以上3つのモデルを紹介しましたが、実は今回紹介した3つのモデル以外にも、健康行動の変化に関する理論やモデルは様々あります。

そのような今回紹介できなかった理論の中で最も代表的なものに社会的認知理論(Social Cognitive Theory)があります。社会的認知理論は、心理学において最も著名で影響力のある心理学者の1人であるアルバート・バンデューラ(Albert Bandura)によって広く展開された心理学の理論ですが、純粋に心理学よりも、その他の健康行動や教育、ビジネス等の幅広い分野でむしろ利用されています。

今回紹介したモデルの中にもある自己効力感(Self-efficacy)もバンデューラが最初に提案したものですが、こちらも、自己啓発や教育、ビジネス等、健康/医療分野以外でも引用されることが多いコンセプトです。

次回は、この社会的認知理論(Social Cognitive Theory)と自己効力感(Self-efficacy)を合わせて紹介します。

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参考文献
(1).Zampetakis, L.A. and Melas, C., “The health belief model predicts vaccination intentions against COVID-19: A survey experiment approach“, Applied Psychology : Health Well-Being, 13: 469-484., 2021.
(2) Nancy K. Janz, Marshall H. Becker, “The Health Belief Model: A Decade Later. Health Education Quarterly“, 1984;11(1):1-47. doi:10.1177/109019818401100101
(3) Karen Glanz, Barbara K. Rimer, K. Viswanath, “Health behavior and health education: theory, research, and practice (4th edition)”, Jossey-Bass ISBN 978-0787996147., 2008.
(4) Wayne W. LaMorte, “The Health Belief Model”, Boston University School of Public Health, Date last modified: 2019/9/9.
(5) “Health belief model”, Wikipedia
(6) Barbara Rimer, Karen Glanz, National Cancer Institute (U.S.), “Theory at a Glance – A Guide For Health Promotion Practice”, U.S. Department of Health and Human Services, National Institutes of Health, National Cancer Institute, 2005
(7) Prochaska JO, DiClemente CC., “Stages and processes of self-change of smoking: Toward an integrative model of change“, Journal of Consulting and Clinical Psychology 51(3): 390–395, 1983.
(8) Wayne W. LaMorte, “The Transtheoretical Model (Stages of Change)”, Boston University School of Public Health, Date last modified: 2019/9/9.
(9) “Transtheoretical model”, Wikipedia
(10) Wayne W. LaMorte, “The Theory of Planned Behavior”, Boston University School of Public Health, Date last modified: 2019/9/9.
(11) “Transtheoretical model”, Wikipedia
(12) Martin Fishbein, Joseph N. Cappella, “The role of theory in developing effective health communications“, Journal of Communication”, 56(s1), S1-S17. 2006.

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