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組織文化の変革その3:ネットフリックスのカルチャーデック

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年4月30日
  • Reading time:8 mins read

10年に渡り、組織文化を徹底的に議論追求し築き上げてきたネットフリックス社は、「スタートアップが最初から取り組んだから実現できた企業文化なのでは?」という質問にこう答えています。「古い会社や大きい会社は変われないのでなく、変わらないという選択をしているだけです。小さな事から出来る事がいっぱいあるはずです。」

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前回前々回と組織文化について紹介してきました。

今回は、「カルチャーデック(Culture Deck)」で有名なネットフリックス社の組織文化の取り組みについて紹介します。
ネットフリックス(NETFLIX)は、アメリカに本社を置く、世界的な定額制動画配信サービス会社です。
アメリカの主要巨大IT企業4社を、日本ではよく「GAFA」と紹介しますが、アメリカではIT企業5社をまとめて「FAANG」という方が一般的です。FAANGは、フェイスブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)、アップル(Apple)、ネットフリックス(Netflix)、グーグル(Google)の5社の総称であり、ネットフリックスは、その一社です。

いずれの会社も急成長を遂げ大きな成功をおさめましたが、なぜ成長を維持する事ができたのでしょうか?
前々回紹介したように、このような企業は、スタートアップとして創立した当初は「臨機応変」型の企業文化を持ちますが、会社が成長し従業員が増えるに連れて、「同族」型文化を経由して「階層」型文化に移行していくのがよくあるパターンです。拡大する組織を管理するため多くの規則や手順を導入する必要性に直面するからですが、「階層」文化に移行すると、創業初期からいる臨機応変・イノベーション型のメンバーは、友好的で自由な感覚を失い組織を離れていく事もあります。

しかし、これら「FAANG」の企業は、規模が大きく拡大してもなお「臨機応変」型の企業文化を維持しています。

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ネットフリックスは、どうやってその企業文化を維持してきたのか見ていきましょう。
最大の成功の要因は、企業文化を最重要課題とみなし、それを長年に渡って議論し続け根付かせてきた事です。
従業員を増やす中、どうやって「臨機応変」型の組織を維持する事ができたのか、そのネットフリックスの文化は「カルチャーデック(Culture Deck)」に凝縮されています。カルチャーデックは10年以上の年月をかけ、繰り返し議論され見直されてきました。現在、ネットフリックス社のホームページで日本語も含めた14か国語で公開されています。
その全文は直接そのページ上(Netflixのカルチャー:日本語)で確認して頂きたいと思いますが、カルチャーデックの冒頭と結びで協調しているのが、以下の5つのポイントです。

1.社員一人ひとりの自立した意思決定を促し、尊重する
2.情報は、広く、オープンかつ積極的に共有する
3.とことん率直に意見を言い合う
4.優れた人材でチームを構成し続ける
5.ルールをつくらない

この5つのポイントについて、現在人事コンサルタントであり、かつてネットフリックスのチーフ・タレント・オフィサーであったパティ・マッコード (Patty McCord)2018年著書の「Powerful: Building a Culture of Freedom and Responsibility(邦題:NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く)」をベースに、説明していきます。

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1.社員一人ひとりの自立した意思決定を促し、尊重する

マネージャーのするべき仕事は、素晴らしいチームを作る事です。人を管理するのではなく、チームのメンバーそれぞれが自由と規律(自己規律)を持って問題解決していく自律的なチームを作りそれを維持する事です。メンバーに求められる「規律」とは、価値観や原則を反映する行動指針です。
不必要な手順、規則、ルール、承認は、スピードと俊敏性の天敵であり、それらを排除して従業員を解放します。
では承認なしでどうやって仕事が成立するのでしょうか?
そのためには、全ての従業員が自社のビジネスを完全に理解している必要があります。完全に理解していれば、いちいち承認の手続きを踏まなくても、自分で都度都度判断して進んでいけます。

間違ったリーダーやマネージャーが犯す最大の過ちは、「ボスであろうとする事」です。そのような上司は、ボスとして部下に命令する一方、部下から指摘される事は嫌います。 急速に変化する競争の激しい世界では、このアプローチは致命的と指摘しています。

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2.情報は、広く、オープンかつ積極的に共有する

情報を広くオープンにして共有するためには、組織内で情報の透明性を確保する事が最も大事です。透明性は、組織の課題・問題等の不都合も含めた可能な限り全ての情報を包み隠さずタイムリーに共有するという事です。誰かがミスをしたら、その間違いも包み隠さず共有し、何故その間違いが起きたかを突き止めます。
情報の伝達は、適切な送り手と受け手との間で、かつ直接行う必要があります。情報伝達が間接的になるほど、情報にノイズが入り、噂や裏切りなどの不信感に繋がるリスクが高まります。
無記名のアンケートは良くありません。お互いの顔が分かるメッセージの交換でなければなりません。
役員の間の議論も従業員に公開します。一例として、二人の役員の意見に対立があった場合、残りの役員の前で、二人を双方逆の視点に立って主張させました。その後小さなグループに分かれて二人のやり取りを議論するという徹底ぶりです。

透明性が確保されているかの簡単なチェックとして、社内ですれ違う従業員を捕まえて、「会社が次の6か月で行う最も重要な5つの事は何か?」と質問してみます。その順序も含めて正確に答えられなければ、ゴールもコミュニケーションも正しく機能していません。

透明性を確保し、自由に対面で話す事ができる環境を整える。各々が規律を持ち、各々に期待されることが明解で、問題の根本的な原因を追求する姿勢、厳しい質問、対立する意見の交換、建設的な批判をお互いに問い続けられる関係が、官僚主義を阻止します。全ての情報を共有する文化が形成できれば、ごまかしたり、脚色したり、都合の悪い情報を隠す必要は無くなります。緊張や不和もなります。
組織に
少しでも隠し事があると、社内政治や背信を生んでしまいます。社内政治や背信、中傷が、ゴールや顧客満足に貢献する事は一つもありません。

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3.とことん率直に意見を言い合う

透明性を確保するためには、時に厳しい討議が必要です。まず、組織の中で「討議」の定義を明確にし共有します。そして、定義通りの討議を実施するのです。討議には無私で臨み、自分の主張が受け入れられない事も否定される事も事前に想定しておきます。最も危険で絶対行ってはならない事は、権力のある者がその権力を使って下の人間の意見を打ち負かす事です。

討議する際に大切なことは、それがビジネスの目的、顧客の要望を満たすかどうかに視点を置く事です。
そして、
討議は徹底的に行います。
討議においては、「なぜ君は、それが事実だと知っているのですか?」、「それが事実だとあなたが思う理由を私が理解できるよう詳しく説明してもらえますか?」「どうして〇〇の問題が起きたのか理由を理解したいので私をサポートしてくれますか?」等の質問を使って、事実と意見の混同やバイアスの発生を防ぎます。
このような質問は、好奇心と尊敬、そして計り知れない学びの文化を醸成します。

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4.優れた人材でチームを構成し続ける

チームによる成果は、明確なゴールと、最高の同僚、自由な問題解決により達成されます。
組織は「スポーツチーム」であり、「家族」ではありません。チームにマッチする最高のプレイヤーのみを雇います。最高のプレイヤーのみを雇うという事はGoogle社の採用方針とも通じます。

スポーツチームは、チームに貢献できる素晴らしいプレーヤーを常に探しています。そして、チームで価値の低くなったプレーヤーは放出し、常にメンバーの入れ替わりがあります。

チームと家族の間には大きな違いがあります。チームは定期的に変更され、常に勝つように最適化されますが、家族は何があっても結束するよう努めます。
ネットフレックスは「スポーツチーム」です。組織で必要のなくなったスキルを持つ人材には組織を去る事を奨励します。ネットフレックスは定期的に従業員に他の会社の面接を受ける事を勧めるほどです。誰もが自分の市場価値を知り、満足して仕事に取り組む事に繋がるからです。

チーム作りのためには、6か月後に組織が最高のパフォーマンスを上げるに必要なスキルは何か?を問いかける事が大事です。そしてその人材を今から確保しておきます。
社内の既にいる従業員に新しいスキルを習得してもらうのがベストであればそうすべきでしょう。しかし、それは決して常にベストな選択肢ではありません。外部から必要なスキルを既に持つ人材に入ってもらう方が効果的であれば、もともと居る人に退出してもらう事になってでもそうすべきです。そして必要のなくなった人材には最高の退職金で報いて、次のチャレンジに羽ばたいていってもらいます。

スキルのミスマッチが生じた優秀な人材に留まってもらう事は、会社と従業員の双方に不幸です。会社への忠誠心のために、顧客サービスと従業員の幸せをトレードオフにしてはいけません。目まぐるしく変化する社会においては、マネージャーがキャリアプランナーとしての責任を負う事は危険で、キャリアプランはそれぞれの個人が各自の責任で行うのです。会社が開発すべきは人材教育ではなく、製品やサービスです。 

多くの組織は将来の市場動向や売上規模を予測する事には熱心ですが、そのためにどのような組織が必要かにはあまり目が向きません。成長の度合いに合わせて、10倍のエンジニアが必要とか5倍の営業チームが必要など、ほとんど根拠のない推測をするだけです。
組織をこのような数字で考えてはいけません。また今の組織を前提に考えてもいけません。将来に必要な組織を前提にして、そこから逆算して、今どう準備するかという発想でチームを作ります。

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5.ルールをつくらない

優れたチームは、大人の集まりであり、管理されないと行動出来ないような子供がいてはならず、子供に対するように管理してしまうマネージャーがいてもいけません。
ルールは多ければ多いほど、そのルールを守っているか管理する時間とエネルギーが割かれます。

学ぶ機会を与えることは大事です。学びとは外注講師を雇って実施する事業戦略との関連性の薄い社員教育ではなく、実践にリンクする価値のある学びであり、それはフィードバックです。
フィードバックを提供する上で最も重要な事は、人の本質的な特徴ではなく、行動に関するフィードバックをする事です。相手が実行に移せるようなフィードバックです。
例えば
「君、頑張ってるけど、もうちょっとなんだよな!」のようなフィードバックは意味がありません。フィードバックは具体的、正直で、直接相手に語られなければなりません。
ネットフレックスでは「スタート、ストップ、コンティニュー」というフィードバックを従業員同士で行っています。「やるべき事、やめるべき事、うまく行っているので継続すべき事」をお互いに指摘し合うのです。

管理をやめフィードバックにシフトする事で、業務がどれほど改善していくか驚かされるでしょう。

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以上ネットフリックスの文化の紹介でした。
なお、TEDで、パティ・マッコードの「みんなが楽しく働く会社を作る8つのヒント」が日本語字幕付きで見る事ができます。5分弱ですので、ぜひご覧下さい。

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会社は変われないのでなく、変わらないという選択をしているだけ

「ネットフレックスは最初からこういう文化を築き上げたから出来るんだよ。歴史が長くてガチガチになったうちの会社ではこんなの無理だよ」と思う方もいるでしょう。
それに対して、パティ・マッコードはアメリカのニュース番組のインタビューでこう回答しています。
「古い会社や大きい会社は変われないのでなく、変わらないという選択をしているだけです。小さな事からでも出来る事がいっぱいあるはずです。」
そしてまた、リーダーから行動を変える事が重要と述べています。リーダーの行動が組織に波及していくのです。

私のブログも含め、変革の参考となり役に立つ情報は世の中に数多く膨大に存在しています。変わらない会社は、その情報から目を背ける、もしくは目にしても「へーそうなんだ」と他人事と捉えるだけで自分の行動には反映しないという意思決定をしているのです。

私はかつてアメリカのシリコンバレーのお膝元サンフランシスコ・ベイエリアで仕事をしていましたが、週一回数週間に渡って行われたある業界団体の勉強会で、言われてもいないのに前の週に習った事を即会社で実践してきて、翌週には、ああだったこうだったとレポートする参加者の姿勢に大変感心しました。学びが実践と直結しているのです。行動に移さない学びは情報にしかなりません。

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最後に

このカルチャーデックというアイデアは、多くの会社に広がっています。
日本でも「経済情報で、世界を変える」をミッションに情報インフラを提供するユーザベース社が「31の約束」という自社のバリューを明文化したカルチャー・ブックを作成しています。ちょっとユーモラスなイラストを交えた、シンプルかつ多くの組織で参考になる内容になっています。こちらのユーザベース社ホームページで公開していますので、ネットフリックスのカルチャーデック同様、是非ご覧になってください。

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参考文献
(1) “Learning from Netflix: How to Build a Culture of Freedom and Responsibility“, Knowledge@Wharton, Wharton School of the University of Pennsylvania, 2018/5
(2) 松井しのぶ, “「DO」と「DON’T」で自社のバリューを明文化。ユーザベース「31の約束」の存在意義“, SELECK, 2018/11

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