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リーダーとリーダーシップ。権力のダークサイド

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年3月25日
  • Reading time:9 mins read

地位や役職に伴う構造的な力である権力は、そのポジションに就く人間誰もが獲得する力です。権力には、強力なダークサイドのパワーが存在します。そして、大きな負の影響を組織にもたらします。例えば、自信過剰になり他人のアドバイスを受け入れなくなる、チームの正しい判断を妨げる、自己利益に走るなどです。

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リーダーとリーダーシップ

リーダーシップは、「人やチームや組織を指導し、影響を与え、先導する能力」です。(1)
リーダーという言葉もありますが、リーダーとリーダーシップ、この2つの言葉の意味にはそれぞれ多くの見解があり、その違いの解釈も様々です。(2)
一例として「リーダーは、組織的な課題と個人的な課題に対応する。 リーダーシップは、リーダーとフォロワーの間の相互作用を中心とする継続的なプロセスで、リーダーのミッションの成功を左右する。」(3) というような定義があります。
ここでは便宜上、リーダーとリーダーシップを以下のように定義し、説明していきます。

「リーダー」:組織上のリーダー。ポジション、役職、役割
「リーダーシップ」:人やチームや組織を指導し、影響を与え、先導する能力、個人的特性

会社の一番のリーダーは社長ですね。会社全体を導く役割です。部長も、所轄する部署のメンバーに対するリーダーです。会社だけでなく、その他の団体や、野球やサッカーといったチームにもリーダーという役割が存在します。
リーダーがポジションであるのに対して、リーダーシップは個人の特性です。
リーダーが組織の中で求められるリーダーとしての本来的な役割を果たすためには、高いリーダーシップが必要です。
この定義によると、下図のように、リーダーだがリーダーシップがない人、リーダーではないがリーダーシップがある人も存在します。

図:リーダーとリーダーシップのイメージ図

リーダーとリーダーシップが持つ力

リーダーとリーダーシップ、共に人間関係における種々の「力」を備えています。下図に示す個人的な力、構造的な力、認知による力です。個人的な力は、リーダーシップに関する力を含み、他の人が自発的に認め、従う事で生まれる、その人その人に特有の力です。一方で構造的な力は、個人に付随する力ではなく、組織上のリーダー等のポジションに付随する力で、基本的には誰でもそのポジションに就く事で獲得できる力です。

図:力の種類と拠り所

個人的な力と構造的な力は、1959年に社会心理学者のジョン・フレンチとバートラム・レイヴン(French and Raven)によって紹介されました(当初は5つの力でしたが、1965年に「情報」が追加され、合計で6つになりました)。フレンチとレイヴンは、これらの社会的な力を、「影響(人の信念、態度、行動の変化)の可能性」と定義しています。(4)
以下、6つの力の拠り所の意味になります。

専門性:専門力は、特定の分野で専門知識を有している人の権威による力です。
対人性:私たちが作る個々人の関係や、所属するグループや組織の評価による力で、肯定的な力の例としては尊敬や信頼などが含まれます。
情報:情報力は、他の人が必要としたり欲しがる知識、または役に立つ情報を持っている結果として生まれる力です。
地位:組織上の役職などの社会的地位による力は、正当に選出されたまたは任命された地位に帰属する権限から生じます。
報酬:報酬力は、期待する事に対する結果に対して、物質的、社会的、感情的な報酬を与える又は与えない権限による力です。
強制:強制力は、威力を利用して他者からの服従を得るもので、物理的、社会的、感情的、政治的、経済的手段が含まれます。

フレンチとレイヴンが紹介した個人的な力と構造的な力に加え、上図にあるように、第3の種類の力である認知による力(Cognitive Power)も存在します。(5) 認知による力は、自分がリーダーになると信じる力であり(それが良い意図でも悪い意図でも)、プライミング効果により強化される力です。
歴史上または現代の偉大なリーダーにも、自分がリーダーになるという強い信念の結果、リーダーとなり偉業を成し遂げた人が多く存在します。一方、自己の目的達成のためにリーダーになるという強い信念で昇りつめ、大きな力を得た独裁的なリーダーや自己利益的なリーダーも存在します。

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権力のダークサイド(負の側面)

突然ですが、「leadership」という単語をGoogle検索するといくつヒットすると思いますか?。。。正解は65億(!)です。世界中で出版されるリーダーシップに関する書籍は、なんと年間2万冊です。
それだけリーダーシップに関する情報、良いリーダーになるための方法が膨大に提供されているわけですが、現実には真にリーダーシップを持つリーダーのなんと限られている事でしょう。

悪いリーダーに関しても、例えば「ダメ上司の特徴」なんて検索すれば、数多くの情報が見つかります。真のリーダーが少ない一方で、悪いリーダーは至る所に存在します。
実は本人は
悪いリーダーになるつもりはなく、悪いリーダーになっている意識もないが、結果的に周囲から悪いリーダーとして認識されているという事も往々にしてあります。

組織で昇格するに伴って個人に求められる能力は変化します。組織を管理したり先導する立場に求められる能力は、それまで必要とされてきた能力とは異なる種類の能力です。
技術面や専門性で高く評価されて出世していく人は多いです。しかし、昇格するに従い必要になってくる能力はマネジメント力であり、リーダーシップです。昇格前にそのような個人的な力やスキルの習得を十分に行わなかった場合、その力不足を隠すかのように構造的な力を全面に押し出すように変わってしまう例があります。

また、昇格前は同僚と同じ目線で組織の問題点にどう取り組むべきか熱く語っていたのに、出世した途端「ミイラ取りがミイラになる」、すっかり人が変わってしまって、批判していたあの問題上司とそっくりになってしまった、、、という事は皆さん思い当たる節がないでしょうか?
なぜそうなってしまうのでしょう?
理由の一つは、昇格に伴い構造的な力を得る事で考え方が変わってしまうからです。
昇格前では出来なかった多くの事ができるようになります。それには個人的な利益の実現も含みます。個人的な利益とは、横領などの違法行為のみを言っているのではありません。行動の細部で組織より個人を優先する行為であり、自己防衛のために取る行為です。構造的な力を持っていない時は出来なかったが、権力を持つ事でできると発見する事です。

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先ほど、一般に「良いリーダー」はリーダーシップの特性を多く備えていると説明しました。
では、悪いリーダーはリーダーシップの特性が低いのでしょうか?
実は、必ずしもそうではありません。
悪いリーダーも、リーダーシップの力や特性を多く備えている事もあり、ある点においてはむしろ「良いリーダー」より優れているほど優秀である事さえあります。しかし「悪いリーダー」はその力を組織の目的のために使いません。
権力のダークサイドに引き込まれてしまっているからです。
以下、実験で裏付けられた、組織に大きな負の影響をもたらす権力のダークサイドの例をいくつか紹介します。どれも強力なダークサイドのパワーです。

図:権力のダークサイドのイメージ図~ ~ ~ ~ ~

権力のダークサイドその1:力が高い人は自信過剰で他人のアドバイスを受け入れなくなる

図:専門家の意見が、力が高い人と低い人の決断にどう影響を与えたかの実験結果(6)

上のグラフは、力が高い人と低い人が、専門家(アドバイザー)の意見を受け入れて自分の考え方を変えたかどうかという実験の結果です。グラフの縦軸の数字が高いほど、実際に専門家の意見を受け入れて考え方を変えた事を表します。
この実験結果より、力の低い人は、経験の浅い専門家のアドバイスよりも、経験豊富な専門家のアドバイスを受け入れやすいものの、総じて専門家の助言を受け入れる傾向がある事が分かります。
一方で、力の高い個人は、専門家の経験や能力のレベルに関わらず、総じてアドバイスを受け入れない傾向が読み取れます。
組織上大きな権限を持つ人は、一般的に幅広いリソースや意思決定権限が与えられており、組織の他の人より、多くの人の意見に耳を傾ける機会を得る事に恵まれ、その利益を享受する事ができます。 しかし実際は、その権力が自信過剰を生み出し、アドバイスを拒否する傾向があるのです。

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権力のダークサイドその2:力が高い人の存在はチームの正しい判断を妨げる

図:リーダーと力の高い人の存在が、チームの問題正解率に及ぼす影響の実験結果(7)

上のグラフは、リーダーと力の高い人の存在が、チームの問題正解率に及ぼす影響を調べた実験結果です。なお、この実験では、正式なリーダーかつ力が高い人が存在する場合は、力が高い人と正式なリーダーは同一人物です。
チームに力の高い正式なリーダーがいる場合のチームの正解率は、パワーバランスが中立的なチームより圧倒的に低く、チームに正式なリーダーがいない場合は、権力構造に関係なく、ほぼ同じ割合の正解率に達しました。
またこの結果は、正式なリーダーが強い力を持つチームは、正式なリーダーが中立的な力を持つチームよりもパフォーマンスが悪いという事を示すとともに、チームのリーダーの力がチームのパフォーマンスに及ぼす影響は、リーダーが正式な権限を持っている場合にのみ現れるという事も意味します。

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権力のダークサイドその3:道徳的価値観の低い人が構造的な力を手に入れると自己利益に走る

図:道徳的アイデンティティと、仕事での自己利益的な行動との相関(8)

上のグラフは個人の道徳的アイデンティティと仕事での自己利益的な行動との相関の実験結果を示したものです。このグラフより、道徳観に応じて、その人が権力を持った際に、利己的な行動を取るかどうか予測できる事が分かりました。
この社会人を対象にした研究では、個人の道徳的アイデンティティが高い場合、社会的な力と利己的な行動の間に負の関連が見られました。つまり、道徳的価値観が高い人は権力を手にした場合、利己的な行動が減るという事です。
一方で、道徳的アイデンティティが低い場合、社会的な力と利己的な行動の間には正の関係が見られました。つまり、道徳的価値観が低い人は権力を手にした場合、利己的な行動が増すという結果です。
この発見は、権力が利己的な行動の可能性を減少させるかまたは増加させるか予測するのに役立ち、道徳的アイデンティティがこの関係に重要な影響を与えることを示しています。
つまり、組織のリーダーたる者には、道徳性が欠かせない事になります。

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権力のダークサイドその4:ダークサイドの強力さ。スタンフォード大学の監獄実験より

最後にダークサイドのパワーの強力さを示す実験、スタンフォード監獄実験を紹介します。
これほど「構造的な力」の恐ろしさを示す社会心理学上の実験はないでしょう。

スタンフォード監獄実験は、1971年にスタンフォード大学で行われた実験で、心理学のジンバルドー教授(Philip G. Zimbardo)と研究室の学生グループによって行われました。研究では、キャンパス構内地下階に仮想の刑務所を作り、学生は、刑務官のグループと囚人のグループに分けられ、最大2週間継続観察される予定でした。

実験は、実際に学生が現場で逮捕され刑務所へ送還される所から始まり、制服や、囚人をIDで呼ぶなど、実際の刑務所と収監の手続きを再現する形で行われました。
実験が進むにつれ、刑務官役は刑務官らしく、囚人役は囚人らしく行動するようになり、刑務官役は受刑者役に体罰や心理的拷問を与え始めました。一方で囚人役はこの虐待を受け入れたのです。更に実験を進めるうちに、囚人役の学生に精神障害をきたす者も生じ、実験は6日目に中止されました。

この実験は実験自体の妥当性や方法論、倫理等、様々な問題を投げかけましたが、刑務官の権力が偽物であったにも関わらず、構造的な力がごく普通の学生に強力なパワーを与えた事、囚人役がその偽のパワーに抗する事ができなかった事、それだけ権力の影響力が危険なほど増大する可能性がある事は心に留めなければなりません。
なお、この実験で収録された実際の画像や映像はスタンフォード大学ホームページのスタンフォード監獄実験ライブラリーで見る事ができ、下のYoutube(トレーラー)のように映画化(2015年)もされています。

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最後に

構造的な力が組織や個人に及ぼす影響の強大さをご理解頂けましたでしょうか?

既に構造的な権力を持っている方々へのアドバイスとしては、改めて自分が権力のダークサイドに引き込まれていなか、客観的に自分を見つめ直す、または周囲の人やアドバイザーに率直に聞いてみる事です。
「そんな事、人に聞けるかよ!」という方は、既に「権力のダークサイドその1:力が高い人は自信過剰で他人のアドバイスを受け入れなくなる」に陥っています。

構造的な権力をまだ持っていない方々へのアドバイスとしては、構造的な権力は、そのポジション、役職に就く人間の誰もが手にする力です。つまりあなたも昇格する事で必ず手にする力です。この権力のダークサイドの強力なパワーを持つ前に、その存在を理解し、心構えをしておくことです。

そして、権力のダークサイドに陥らないために最も重要で根本的なことは、人間としての「道徳性」であり、人間として「誠実」である事です。組織の階段を昇るほどこの「道徳性」「誠実さ」が求められてきます。

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参考文献
(1) “leadership“, wikipedia
(2) Yueh-shian Lee, Weng Kun Liu, “Distinguishing Between Leaders and Leadership in Global Business“, The Journal of Global Business Management, Volume 7, Number 1, 2011/4
(3) Stella Vale, “A List of the Differences Between the Term Leader & Leadership“, azcentral.com, 2018/4
(4) “French and Raven’s bases of power“, wikipedia
(5) Rachel E. Sturm, John Antonakis, “Interpersonal Power: A Review, Critique, and Research Agenda“, Journal of Management, 2014/9
(6) Tost, L. P., F. Gino, and R. Larrick. “Power, Competitiveness, and Advice Taking: Why the Powerful Don’t Listen.“, Organizational Behavior and Human Decision Processes 117, no. 1 (2012): 53–65.
(7) Leigh Plunkett Tost, Francesca Gino, Richard P. Larrick, “When power makes others speechless: The negative impact of leader power on team performance“, Academy of Management Journal, 2013, Vol. 56, No. 5, 1465–1486.
(8) Katherine A. DeCelles, D. Scott DeRue, Joshua D. Margolis, Tara L. Ceranic, “Does Power Corrupt or Enable? When and Why Power Facilitates Self-Interested Behavior“, Journal of Applied Psychology, American Psychological Association, 2012, Vol. 97, No. 3, 681–689

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