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変革の書籍紹介:インフルエンサー:行動変化を生み出す影響力

  • 投稿カテゴリー:Change Management
  • 投稿の最終変更日:2021年7月26日
  • Reading time:7 mins read

核心的な行動を探し出しましょう。てこの原理で小さな力を大きな力に変えるように、ちょっとした行動で大きな変化をもたらす、問題・課題の核心をつく行動です。それは実は簡単に見つかったり、あまりにも当り前だったりします。しかし、多くの人はそれを知っているのに、行動に移していないのです。

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変化を起こすには、行動の変化をもたらす影響力(インフルエンス)を駆使する必要があります。
本書「インフルエンサー」は、ジョセフ・グレニー、ケリー・パターソン、デビッド・マクスフィールド、ロン・マクミラン、アル・スウィッツラーの5名のコンサルタントの共著ですが、この「インフルエンス」をどうやって実際に生み出し行動の変化に繋げていくのか、原理、方法、スキル、事例を紹介しています。
一部にややしつこい事例の引用の繰り返しがありますが、5人の専門家の研究や調査結果が凝縮されており、多くの有益な情報を含んだ良書になっています。
私は、他の今まで紹介してきた書籍と同様に、本書も英語版を読んでいます。2007年に初版が発刊されましたが(Influencer – The Power to Change Anything)、私が読んだのは2013年の第2版(Influencer – The New Science of Leading Change)です。

日本語版と翻訳がマッチしない単語や言い回しがあるかも知れませんが、ご了承下さい。

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インフルエンサーとは

インフルエンサーとは、世間に与える影響力が大きい行動を行う人物のことです(Wikipediaより)。
世の中的には「インフルエンサー」と聞くと、SNSやユーチューブで多くのフォロワーを抱え、情報発信からマーケティングに繋げる、インターネット・セレブリティをぱっとイメージする人が多いかもしれませんね。ただし、本書はそのようなSNSインフルエンサーやユーチューバーを取り扱うものではありません。
本書では、リーダーを「重要な結果を実現するためには人の行動を変える事が必要で、その人たちに影響(インフルエンス)を与える能力が高い人」と定義しており、そのようなリーダーを「インフルエンサー」と紹介しています。

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変革の試みを成功に導くための3つのポイント

著者たちの過去30年における文献調査では、職場に意味のある変化をもたらし成功した改革の試みは8つに1つ以下、つまり成功率は8分の1以下です。
成功の可否を大きく左右するのがインフルエンサーの存在です。
インフルエンサーが、変革の試みを成功に導くためのポイントが3つあります。

1.達成しようとしている結果が明確。みんなの意識を達成すべき結果に釘打ちするような計測項目を設定する

本書によると、数ある死亡理由の中で、なんと医療従事中の死亡がアメリカで6番目に高い死亡理由だったそうです。アメリカの健康改善協会(IHI : Institute of Health improvement)は、医療従事中の事故を減らすための医療改革として、2004年12月14日、全米の病院を巻き込んで「10万人の命のキャンペーン」を始めました。
当時IHIのCEOだったドナルド・M・バーウィック医師は目標を掲げました。その目標は「病院内で予防できる危険を低減する」、「安全性を向上する」というような曖昧なものではなく、「10万人の命を2006年6月14日午前9時までに救う」という大胆な目標でした。
ここまで目標が具体的だと、その本気度が伝わり、達成への使命感が全然違ってきます。
最終的に「10万人の命のキャンペーン」は目標を達成し、12万人以上の病院内でおきる事故死を防ぐことができました(1)(2)

別の例として、「貧しい人を救う」という目標と、「5,000の恵まれない貧しい家族に、今年の年末までに1日1人当たり5ドルの収入をもたらす」という目標の違いは、どう感じられるでしょうか?

具体的な目標は、具体的な計画と高いエンゲージメントを伴った実行に繋がります。明確で説得力があり、チャレンジングな目標は、ひとの心に届き、行動に大きな影響を与えます。ひとの血を掻き立て、脳とハートに火をつけます。

2.核心的な行動(vital behavior)を見つける

核心的な行動とは、てこの原理(レベレッジ)で小さな力が大きな結果を生み出すように、ちょっとした行動で大きな変化をもたらす問題や課題の核心をつく行動です。核心にせまり、その核の変化を導く行動をみつけます。
そのような行動は非常に限られ、せいぜい1つか2つです。しかし、その1つか2つの最もレベレッジが大きい決定的な行動を見つけ、実行し継続的に計測する事で劇的に結果が違ってきます。

例えば、幸せな結婚に必要な要因は50ありその全てを満たさなければならないわけではありません。1つか2つの核心的な行動、例えば、夫婦の意見が一致しない時の行動等が大きく左右します。意見が一致しない時に「責める、激化する、認めない、引き下がる」のような行動が多くを占める夫婦は、将来的に破綻する可能性が高いそうです。

レストランでも、成功するレストランの従業員は、お客さんが必要とする事や望むこと、困っている事に意識を集中し観察します。そしてその時が来たらさっと声を掛ける。本当に印象に残るレストランは、料理の味ではなく、お店の方々のちょっとした気遣いや心配りだったりしますが、それが核心的な行動という事になります。

3.6つの影響要素をすべて活用する

書籍の後半ではインフルエンス(影響)の6つの要素を紹介していきます。
下図が本書で紹介しているその6つの要素になりますが、縦軸がモチベーション(意欲)とアビリティ(能力)の2つの軸からなっており、横軸が個人、社会、構造の3つの軸で構成され、縦横の組み合わせで合計6つの影響要素になります。

図:インフルエンス(影響)の6つの要素

モチベーションとアビリティ(能力)は、私が以前紹介した変革に必要な3要素【①文化、②オーナーシップ(コミットメント)、③キャパシティ(能力)】の中の、オーナーシップとキャパシティ(能力)にそれぞれ対応します。

モチベーション   ➡  オーナーシップ(コミットメント・エンゲージメント)
アビリティ(能力) ➡  キャパシティ(能力)

やる気があってもスキルがないと変革は実現できませんし、スキルがあってもやる気がなければ達成できません。
モチベーションとアビリティ(能力)を個人レベル、社会レベル、構造レベルで高める事が成功の確率を高めます。

個人レベルは、ひとりひとり個々人の範囲、
社会レベルは、社会や会社、組織等の人と人のつながりや相互関係やその影響の範囲、
構造レベルは、物、スペース、報酬など人的でない要素を示します。

優れたインフルエンサーはこの6つのエリア全てを活用し影響力を高めます。しかし、経験のない人が6つのエリア同時に影響力を達成する事はできません。最初はどれか1つか2つでも影響力を発揮できるエリアを見つけて小さい事から始めていくべきでしょう。

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失敗する変革の取り組み

以上本書が紹介する変革の試みを成功に導く3つのポイントを紹介しましたが、これらの3つのポイントを逆から見ると、失敗する変化の取り組みは、下記のようになります。

1.ゴールが曖昧で説得力がない
2.計測指標が変革意図とマッチしておらず、信頼できる指標でもない
3.計測できる指標を使っていても、間違った要素を計測し間違った行動を引き起こしている

アメリカ陸軍では、年間3,000件のセクシャルハラスメントによる暴行被害が報告されていたそうです。しかし、この被害報告数の数字を下げる事自体を目標にするのは大きな間違いだと指摘します。実際は、ハラスメントのような被害は報告されないケースの方が多く、報告されない被害も含めるとその10倍の30,000件のハラスメントがあると推測されるそうです。
「被害数」ではなく「被害報告数」に注目し、報告数の低減を図った場合、本来の被害数を減らすという目的とは逆の結果、つまり報告数は減るが、被害数は減らないかむしろ増加する恐れがあります。報告数を減らす事に注力する取り組みが行われるからです。
適切な対策はむしろ逆で、報告しやすい環境を整える事です。
よって、正しい指標は、「ハラスメントや暴行から安全と感じるか」、「被害のみならず懸念やリスク等を安心して報告できる環境であるか」であり、これらの指標を定期的に計測する事です。

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核心的な行動(vital behavior)を見つける4つの秘訣

変化を達成する成功の鍵は、核心的な行動(vital behavior)を見つける事にありますが、その核心的な行動を見つける4つの秘訣も紹介しています。

1.明らか(少なくても専門家にとっては明らか)だがあまり利用されていない行動を見つける

例えば、「健康な人は、適度な運動をし、体に良い物ものを食べ、たばこを吸わない」は誰にでも明らかな健康の秘訣ですが、多くの人が実践しているわけではありません。

大学を落ちこぼれることなく上手く乗り切るための秘訣は、1年生の時に「1.授業に出て、2.宿題をやって、3.友だちを作る事」だそうですが、これも至極当然に聞こえます。
当り前だが実際には行動に落とされていない核心的な行動は、実はインターネット検索や専門家の意見で容易に見つけられる場合があります。しかし実施されていないのです。

別の事例として、公営プールで亡くなった年間3,000人の原因を調べたところ、多くの事故が、プールの監視員がクラブメンバーに挨拶したり、プールのレーンを調整していたり、キックボードを集める、水質をチェックする、、、というような「プールの監視をしていなかった時」におきているそうです。
この解決策は、「プール監視員は、監視に注力する」です。当り前ですね(笑)。つまり、監視以外の仕事は別の人が行うとか、監視すべき時間には行わないとか、監視員を監視に集中させる仕組みを作ることです。

2.決定的なタイミング、行動が成功を導く最も効果的なタイミングを見極める

98%の事を、98%の人が、98%の場合で成功するような事でも、インフルエンサーは、残りの2%の事、2%の人、2%の場合に集中します。これを突き当てる事ができれば飛躍的な改善に繋がるからです。2%を知る事によって、行動を取るべき決定的なタイミングがいつかを知る事ができます。

3.優れた例外事例から学ぶ

ある工場で業務変更をした後、ほとんどの従業員が生産性を落としたのに、数人だけが生産性を飛躍的に伸ばしました。この場合、他の大多数とは違うこの突出した数名のみが取っていた行動を突き止められれば、チームの効率は大きく向上します。

4.変えるのが困難な文化やタブーをひっくり返すような行動

はっきりと意見を言う事がはばかられる組織は多いです。長年組織に染みついた文化や習慣は、組織の外にいる人にはあまりに自明でも、組織の中の人は気が付く事ができません。
「Fish discover water last(魚は水を最後に見つける)」ということわざがあります。魚は水の中にあまりにも長い間居過ぎて、自分の目の前にある「水」の存在にすら気づく事ができないという意味です。

インフルエンサーが行う事は、まずその社会や組織に染み付いた隠れた文化、暗黙のルールを知り明らかにする事です。

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最後に

本書で紹介している能力は、学び、習得することができます。
本書では6つの影響要素それぞれのエリアの事例や秘訣を紹介しており、「そうかな~?」という事例も正直ない訳ではないですが、役に立つ多くのヒントが散りばめられています。その1つ1つについては、是非直接書籍を読んで頂きたいと思います。

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参考文献
(1) “5 Million Lives Campaign“, Institute for Healthcare Improvement, 2006
(2) “日本語版IHI教材ライブラリ“, 医療における現場改善ネットワーク

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