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変革の書籍紹介:インフルエンサー:行動変化を生み出す影響力

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年1月7日
  • Reading time:7 mins read

核心的な行動を探し出しましょう。てこの原理で小さな力を大きな力に変えるように、ちょっとした行動で大きな変化をもたらす、問題・課題の核心をつく行動です。それは実は簡単に見つかったり、あまりにも当り前だったりします。しかし、多くの人はそれを知っているのに、行動に移していないのです。

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変化を起こすには、行動の変化をもたらす影響力(インフルエンス)を駆使する必要があります。
本書「インフルエンサー」は、ジョセフ・グレニー、ケリー・パターソン、デビッド・マクスフィールド、ロン・マクミラン、アル・スウィッツラーの5名のコンサルタントの共著ですが、この「インフルエンス」をどうやって実際に生み出し行動の変化に繋げていくのか、原理、方法、事例、必要なスキルを紹介しています。
一部にややしつこい事例の引用の繰り返しがありますが、5人の専門家の研究や調査結果が凝縮されており、多くの有益な情報を含んだ良書です。
私は、他の今まで紹介してきた書籍と同様に、本書も英語版を読んでいます。2007年に初版が発刊されましたが(Influencer – The Power to Change Anything)、私が読んだのは2013年の第2版(Influencer – The New Science of Leading Change)です。

日本語版と翻訳がマッチしない単語や言い回しがあるかも知れませんが、ご了承下さい。

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インフルエンサーとは

インフルエンサーとは、世間に与える影響力が大きい行動を行う人物のことです(Wikipediaより)。
世の中的には「インフルエンサー」と聞くと、SNSやユーチューブで多くのフォロワーを抱え、情報発信からマーケティングに繋げる、インターネット・セレブリティをぱっとイメージする人が多いかもしれませんね。ただし、本書はそのようなSNSインフルエンサーやユーチューバーを取り扱うものではありません。
本書では、リーダーを「重要な結果を実現するためには人の行動を変えることが必要で、その人たちに影響(インフルエンス)を与える能力が高い人」と定義しており、そのようなリーダーを「インフルエンサー」と紹介しています。

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変革の試みを成功に導くための3つのポイント

著者たちの過去30年における文献調査では、職場に意味のある変化をもたらし成功した企業変革の試みの成功事例は8つに1つ以下、つまり成功率は8分の1以下です。
成功の可否を大きく左右するのがインフルエンサーの存在です。インフルエンサーが変革の試みを成功に導くための3つの重要なポイントがあります。

1.達成しようとしている結果が明確。みんなの意識を達成すべき結果に釘打ちするような計測項目を設定する

本書によると、数ある死亡理由の中で、なんと「医療従事中の死亡」がアメリカで6番目に高い死亡理由だったそうです。米国ヘルスケア改善協会(IHI : Institute of Healthcare improvement:「医療の質改善研究所」と訳されている場合もあります)は、この医療従事中の事故を減らすための医療改革として、2004年12月14日、全米の病院を巻き込んだ「10万人の命のキャンペーン」を始めました。
当時IHIのCEOだったドナルド・M・バーウィック医師はある目標を掲げました。その目標は「病院内で予防できる危険を低減する」とか「安全性を向上する」などというような曖昧な目標ではなく、「10万人の命を2006年6月14日午前9時までに救う」という大胆で極めて具体的な目標でした。
ここまで目標が具体的だと、その本気度が伝わり、達成への使命感が全く違ってくるだろうと皆さんも想像できるのではないでしょうか。結果的には、最終的に「10万人の命のキャンペーン」は目標を達成し、12万人以上の病院内でおきる事故死を防ぐことができました(1)(2)

別の例として、「貧しい人を救う」という目標と「5,000の恵まれない貧しい家族に、今年の年末までに1日1人当たり5ドルの収入をもたらす」という目標の違いは、皆さんにはどう感じられるでしょうか?

具体的な目標は、高いエンゲージメントを生み、具体的な計画を立て実行する力を与えます。明確で説得力がありチャレンジングな目標は、ひとの心に届き、その行動に大きな影響を与えます。ひとの血を掻き立て、脳とハートに火をつけるのです。

2.核心的な行動(vital behavior)を見つける

「核心的な行動」とは、てこの原理(レベレッジ)で小さな力が大きな力を生み出すように、ちょっとした行動で大きな変化をもたらす、問題や課題の核心をつく行動です。ただし、そのような行動はとても限られ、せいぜい1つか2つ程度です。しかし、その1つか2つの最もレベレッジ(てこの力)が大きい決定的な行動を見つけ、実行し、継続的に計測することで劇的に異なる結果を生み出すことができます。

例えば、幸せな結婚生活のために必要なものは何でしょうか?そのために必要な事項が50あり、その全てを満たさなければならないわけではありません。むしろ1つか2つの核心的な行動、例えば、夫婦の意見が一致しない時の行動等が大きく左右します。本書によると、意見が一致しない時に「責める、激化する、認めない、引き下がる」のような行動が多くを占める夫婦は、将来的に破綻する可能性が高いそうです。

レストランでも、成功するレストランの従業員は、お客さんが必要とすることや望んでいること、困っていることに意識を集中し継続的に観察します。そしてその瞬間が来たらさっと声を掛けます。本当に印象に残るレストランは、料理の味ではなく、お店の従業員のちょっとした気遣いや心配りだったりしますが、それが核心的な行動なのです。

3.6つの影響要素をすべて活用する

書籍の後半ではインフルエンス(影響)の6つの要素を紹介していきます。
下図が本書で紹介しているその6つの要素になりますが、縦軸がモチベーション(意欲)とアビリティ(能力)の2つの軸からなっており、横軸が個人、社会、構造の3つの軸で構成され、縦横の組み合わせで合計6つの影響要素になります。

図:インフルエンス(影響)の6つの要素

モチベーションとアビリティ(能力)は、以前本サイトで紹介した変革に必要な3要素【①文化、②オーナーシップ(コミットメント)、③キャパシティ(能力)】の、オーナーシップとキャパシティ(能力)にそれぞれ対応します。

● モチベーション   ➡  オーナーシップ(コミットメント・エンゲージメント)
● アビリティ(能力) ➡  キャパシティ(能力)

やる気があってもスキルがないと変革は達成できず、スキルがあってもやる気がなければ実現できません。
モチベーションとアビリティ(能力)を「個人レベル」
、「社会レベル」、「構造レベル」の3つのレベルで高めることで成功の確率が高まります。

「個人レベル」は、ひとりひとり個人の範囲、
「社会レベル」は、社会や会社、組織等の人と人のつながりや相互関係とその影響の範囲、
「構造レベル」は、物、スペース、報酬など人的でない要素を示します。

優れたインフルエンサーはこの6つのエリア全てを活用し影響力を高めます。しかし、経験のない人が6つのエリア同時に影響力を達成することはできません。最初はどれか1つか2つでも影響力を発揮できるエリアを見つけて小さいことから始めていくべきでしょう。

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失敗する変革の取り組み

以上、本書が紹介する変革の試みを成功に導く3つのポイントを簡単に紹介しましたが、これらの3つのポイントを逆から見ると、失敗する変化の取り組みは、下記のようになります。

1.ゴールが曖昧で説得力がない
2.計測指標が変革の目的とマッチしておらず、信頼できる指標でもない
3.指標を計測してはいるが、間違った指標を使っていて間違った行動を引き起こしている

アメリカ陸軍では、かつて年間3,000件のセクシャルハラスメントによる暴行被害が報告されていました。しかし、この被害報告数の数字を下げる事自体を目標にするのは大きな間違いだと指摘します。実際は、ハラスメントのような被害は報告されないケースの方が多く、報告されない被害も含めるとその10倍の30,000件のハラスメントがあると推測されるそうです。
「被害数」ではなく「被害報告数」に注目し、報告数の低減を図った場合、本来の被害数を減らすという目的とは逆の結果、つまり報告数は減るが、被害数は減らないかむしろ増加する恐れがあります。「報告数を減らすこと」に努力が注がれるからです。
適切な対策はむしろ逆で、報告しやすい環境を整えることです。
よって、正しい指標は「被害報告数」ではなく、「ハラスメントや暴行から安全と感じるか」や「被害のみならず懸念やリスク等を安心して報告できる環境であるか」であり、これらの指標を定期的に計測することになります。

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核心的な行動(vital behavior)を見つける4つの秘訣

変化を達成する成功の鍵は、核心的な行動(vital behavior)を見つけることにあります。本書では、その核心的な行動を見つける4つの秘訣も紹介しています。

1.明らか(少なくても専門家にとっては明らか)だがあまり利用されていない行動を見つける

例えば、「健康な人は、適度な運動をし、体に良いものを食べ、たばこを吸わない」は誰にでも明らかな健康の秘訣ですが、多くの人が実践しているわけではありません。
大学を落ちこぼれることなく上手く乗り切るための秘訣は、1年生の時に「①授業に出て、②宿題をして、③友だちを作ること」だそうですが、これも至極当然に聞こえます。
当り前だが実際には行動に落とされていない核心的な行動は、実はインターネット検索や専門家の意見で容易に見つけられる場合があります。しかし実施されていないのです。

別の事例として、公営プールで亡くなった年間3,000人の原因を調べたところ、多くの事故が、プールの監視員がクラブメンバーに挨拶したり、プールのレーンを調整していたり、キックボードを集める、水質をチェックする、、、というような「プールの監視をしていなかった時」におきているそうです。
この問題の解決策は「プール監視員を、監視に注力させて」です。当り前ですね(笑)。つまり、監視以外の仕事は別の誰かが行うとか、監視すべき時間には行わないとか、監視員を監視に集中させる仕組みを作ることです。

2.決定的なタイミング、行動が成功を導く最も効果的なタイミングを見極める

98%のことを、98%の人たちが、98%のタイミングで成功するようなことでも、インフルエンサーは、残った2%のこと、2%の人、2%のタイミングの成功事例を見つけ出そうとします。これを突き当てることができれば飛躍的な改善に繋がるからです。2%を知ることで、行動を取るべき決定的なタイミングがいつかを知ることができます。

3.優れた例外事例から学ぶ

ある工場で業務変更をした後、ほとんどの従業員が生産性を落としたのに、数人だけが生産性を飛躍的に伸ばしました。この場合、他の大多数とは違うこの突出した数名のみが取っていた行動を突き止められれば、チームの効率は大きく向上します。

4.変えるのが困難な文化やタブーをひっくり返すような行動

私たちの社会や組織では、はっきりと意見を言うことがはばかられます。長年社会や組織に染みついた文化や習慣は、組織の外にいる人にははっきり見えているのに、組織の中の人たちは気が付くことができません。「Fish discover water last(魚は水を最後に見つける)」ということわざがあります。魚は水の中にあまりにも長い間居過ぎて、自分の目の前にある「水」の存在にすら気づけないのです。
インフルエンサーが行うのは、まずその社会や組織に染み付いた隠れた文化、暗黙のルールを知りそれを明らかにすることなのです。

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最後に

本書で紹介している能力は、学び、習得することができます。
本書では6つの影響要素それぞれのエリアの事例や秘訣を紹介しており、「そうかな~?」という事例も正直ない訳ではないですが、役に立つ多くのヒントが散りばめられています。その1つ1つについては、是非直接書籍を読んで頂きたいと思います。

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参考文献
(1) “5 Million Lives Campaign“, Institute for Healthcare Improvement, 2006
(2) “日本語版IHI教材ライブラリ“, 医療における現場改善ネットワーク

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