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書籍紹介「Getting to Yes:ハーバード流交渉術」~互いの本意を実現する交渉の方法

  • 投稿カテゴリー:マネジメント
  • 投稿の最終変更日:2022年8月11日
  • Reading time:7 mins read

私たちは他人との交渉で、ついポジション争いをしかけ強く主張し、交渉相手と対立する関係に陥ってしまいます。お互いが本来望む利益にたどり着くためには、交渉相手をパートナーとして考え、お互いの本意を明らかにし、対峙するのではなく同じ方向を向いて双方が望むゴールを目指すことです。

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はじめに

今回ネゴシエーション(交渉)について色々書こうと思ったのですが、書籍「Getting to Yes:ハーバード流交渉術」の紹介だけで文章が増えてしまったため、今回はこの書籍の紹介だけにとどめて、その他書きたかったことは次回「ネゴシエーション(交渉)はゲーム。真剣になりすぎず、相手と議論したり、口論もしない」で紹介します。

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「Getting to Yes:ハーバード流交渉術」

ネゴシエーション(交渉)に関する名著である「Getting to Yes:ハーバード流交渉術」は、ウィリアム・ユーリー(William Ury)とロジャー・フィッシャー(Roger Fisher)の共著で、1981年に初版が発刊されています。もう40年以上も前になるわけですが、その本質は今でも全く色褪せません。

2人は共に交渉の専門家で、ハーバード・ネゴシエーション・プログラム(Harvard Negotiation Project:1979年創立)の共同創始者でもあります。
ウィリアム・ユーリーは、カーター元アメリカ大統領の国際交渉ネットワークの設立を支援し、世界中の紛争解決に携わってきました。ロジャー・フィッシャーも、ハーバード大学で教鞭をとりながら、和平交渉、人質事件、外交交渉、商取引・法的交渉・紛争などに関わり、特に中東の平和交渉で大きな役割を果たしました。
ウィリアム・ユーリーについては、本サイトでも以前「なぜ人は他人の言う事を聞けないのか? ~ 「聞く」環境を整える」で紹介しましたのでご覧下さい。

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私が本書に出会ったのは5、6年前ですが(2011年の英語改訂版)、本書はその後私が携わった外国企業との契約交渉において大きなヒントを与えてくれました。この契約交渉において私は当初、一般的な交渉のスタイルやマインドセット、プロセス、外部コンサルタントからの提案に縛られ、典型的なポジション争いの提案を交渉相手に仕掛け、相手もそれに応じて対抗案を提示してくるという交渉をしていました。しかし、その交渉が行き詰まり、にっちもさっちもいかなくなった時に、この本を読み返し、本当に双方が望むことは何なのかを改めて考え、当初の提案とは全く違う内容の提案に切り替え、最終的に成立するに至ったのです(その時の弁護士がそのような契約書を作ったことがないということだったので、自分で契約書も作りました)。
この本は、ネゴシエーションで私たちの多くが陥ってしまう落とし穴と、本来あるべき交渉の考え方のフレームワークを教えてくれます。

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ネゴシエーション(交渉)とは、自分が欲しいものを相手から得る手段です。ネゴシエーション(交渉)と聞くととても堅苦しいイメージを持ってしまいがちですが、私たちは、仕事だけでなく、日々の生活や家庭の中でも交渉をしています。
夕食は中華がいいとかイタリアンがいいとか、週末は海に行くとか買い物に行きたいとか、大人だけでなく子どもたちも、友だちと何をして遊ぶかなど、様々なネゴシエーションをしています。
しかし、そのようにネゴシエーションの機会は多いにもかかわらず、私たちは必ずしも上手くやれているわけではありません。時に、お互いの違いを強調させる結果に終わることさえあります。

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本書によると、ネゴシエーションには大きく「ソフトネゴシエーション」と「ハードネゴシエーション」の2種類のスタイルがあります。ソフトネゴシエーションでは人間関係を重視してお互い衝突を避けようとし、ハードネゴシエーションではお互いが強く主張します。どちらのスタイルでも、双方に良い結果を得ることは難しく、片方が多くを獲得し他方が譲歩する「Win – Lose」、または双方が満足する結果を得られない「Lose – Lose」という結果になることが多いです。

これらの2つの方法と異なるネゴシエーションのスタイルがハーバード・ネゴシエーション・プロジェクトで開発された「本意に基づいた交渉(Principled negotiation)」です。これは、ハードでもソフトでもないものの、一方ではハードでありソフトでもある交渉方法で、お互いの主張を前面に押し出した駆け引き合戦ではなく、その主張の背後にある両者が本当に望む本意(Principle)を明らかにし、お互いの真の利益(Interest)を追求するものです。お互いが本当に望むものに対しては妥協せずハードに交渉するものの、人対人ではソフトに対応します。お互いが口や文書で主張しあうこと(ポジション)に捉われず、その主張の背景や動機、心の奥底で真に望むもの(利益)がいったい何なのか理解することにフォーカスするのです。

往々にして、交渉事は「お互いの主張=ポジション」をめぐる攻防になります。「ポジション」とは自分が望むものを相手に提示するために言葉に仕立てたものです。私たちは自分たちが望み、相手に主張する内容を形にします。それがポジションです。しかし、多くの場合このポジションを造り上げる段階で既にボタンをかけ違えています。
更には、相手との先々の交渉を見据えて、そのポジションをふかしたりします。相手も、あなたの肥大化された提案に態度を硬くし、同様に肥大化したポジションを造り上げ投げ返してきます。
企業買収等、特に金額が主体になってしまう交渉では、お互いが相手を欺き、増幅したポジションを主張しあい、その後できるだけ小さな譲歩をして自分に有利な結果を得る確率を高めようとするプロセスに長い時間と多大な労力を費やします。

ポジション争いの交渉がお互いの関係を悪くする可能性がある一方で、その逆に、お互いの関係を維持することに神経質になり過ぎると、気を遣い合って、双方とも納得できないぬるま湯のような結果しか得られないこともあります。

ポジションをめぐる交渉は、プロセスがはっきりしていて具体的な指標があるため分かりやすいというメリットはあるものの、交渉が何度も重なると、ポジションが自らのプライドやエゴと一体化していき、「お互いの案への攻撃」は「お互いのアイデンティティへの攻撃」とみなすようになることさえあります。
また、ポジションをめぐる交渉では、攻撃と防御を繰り返し合う緊迫した関係が築かれ、お互いに視野が狭くなって創造的なアイデアが抑制され、本来の目的、真意に沿うような他の代替案が見えにくくなります。

図:ポジション争いのネゴシエーション(イメージ図)

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本書で取り上げている分かりやすい例を紹介しましょう。
サダム・フセイン政権崩壊後のイラクで、農民と国営石油会社との間で起きた争いです。住むところを追われた農民たちがイラク南部で政府から耕地を借り受け、わずかながらの貯蓄と借金を使って作物を植えました。ところがその数ヵ月後、「地下に油田が発見されたので、賃貸契約に従って、すぐに土地を明け渡すように」という手紙が石油会社から農民たちのもとに届きます。農民たちと石油会社は「出て行け」「出て行かない」の一触即発の争いになりますが、交渉術の研修を受けた職員が土壇場で介入することで流血は避けられます。
彼が「この土地で、今後数ヶ月の間に何をするつもりですか?」と石油会社に聞くと「地図の作成と、地盤調査をします」という答えが返ってきます。同様に農民たちに聞くと「収穫まであと6週間なので、収穫だけはさせてほしい」と答えます。
それから間もなくして合意が成立します。「農民たちは作物を収穫してよい。その間、石油会社の準備作業の邪魔はしない。また石油会社は、農民たちの多くを労働力として雇用し工事を進めたいとも考えているので、油田掘削開始後も農業を続けてかまわない。」
この例に示されるように、ポジションに注意を払えば払うほど、当事者の根本的な懸念に注意が払われなくなり、お互いが本当に望む合意の可能性は低くなるのです。

本書で取り上げている別の例として、組織理論と組織行動のパイオニアであるメアリー・パーカー・フォレット(Mary Parker Follett)が書いた、図書館で喧嘩をしている2人の男の話を紹介します。
1人は窓を開け、もう1人は窓を閉めたいと思っています。窓をどのくらい開けておくかについて、2人は口論を繰り返します。「隙間程度だ!」「半分!」「4分の3!」しかし2人が納得する解決策はありません。

ここに図書館員が登場し、2人になぜ窓を開けたいのかまたは閉めたいのか尋ねます。1人は「新鮮な空気を吸いたいから開けたい」、 もう1人は「すきま風を避けるために閉めたい」と答えます。
少し考えてから、彼女はこの部屋の窓は閉めておいて隣の部屋の窓を大きく開けることで、隙間風を入れることなく新鮮な空気を取り入れることにしました。

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以下「本意に基づいた交渉(Principled negotiation)」の4つの原則です。

  1.  問題から人を引き離す。
  2.  ポジションではなく、お互いの本当の望みにフォーカスする。
  3.  結論を急がず相互にメリットのある複数の選択肢を探求する。
  4.  本当の望みと結びついた客観的な指標に基づいて結論を出す。

交渉に当たっては、自分の本意が何であるか、そして相手の本意が何であるかを明らかにする作業が必要です。しかしそれが難しいのは、お互いが本当に望むものに実は両当事者たちすら気が付いていない場合さえあるからです。

この「本意に基づいた交渉(Principled negotiation)」を理論的・学術的で、実務的でないと批判する方もいますが、私は全くそうは思いません。駆け引き合戦が体に染みついていてそこから抜け出せず、交渉の本来の目的が何なのかを明確にしていないから双方の本意に基づいた真の利益を追求する交渉ができないのであり、人と問題を切り離すこともできないのです。

具体的には以下のような点に注意する必要があります。

① 相手の立場に立って相手を理解しようとする。
② 自分の恐れや心配の感情をベースに、相手の意図を勝手に推測しない。
③ 感情を認め、なぜその感情を持つのか考える。
④ 自分の問題を相手に押し付けない。相手の感情の発露に感情的に反応しない。
⑤ 謝罪や同情を表現することは、感情を和らげるのに役立つ。
⑥ 相手に十分な意識を払い、話を良く聞き、時に話し手のポイントを要約して自分の理解を確認する。
⑦ 相手の価値観に沿った提案をする。
⑧ 対立をなくそうとするのではなく、明らかにして転換する。

最後の「対立を転換する」ことについては、以前本サイトの「コンフリクト(意見の対立)の5つのタイプ:コンフリクトは「解決」でなく「転換」する」でも紹介しました。その際にも「ポジション」と「利益」の違いを説明しましたが、対立を鎮静すべきものと考えるのではなく、正しく対処すれば双方に機会をもたらす道具と考えられれば、お互いの利益をさらに高めることもできます。人と人、それぞれに異なる様々な考えがあるから、新しいアイデアが生まれるのです。
交渉において最も大事なことは、お互いを敵対者としてではなく、交渉のパートナーとして考え、対峙する関係ではなく、お互いが同じ方向を見るような共同作業をすることです。

図:本意に基づいた交渉(Principled negotiation)(イメージ図)

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最後に

企業間取引や国際取引において忘れがちな交渉の基本は、相手が「組織の代表者」である前に「人間」であるという点です。つまり、交渉において人には、自分で選択し自分が思うようにコントロールしたい欲求、周囲に認められたい欲求、認められたメンバーとしてチームに所属したい欲求、勝利の欲求や地位への欲求、成功欲求などがあり、対立した関係では、交渉のプロセスで非生産的な強い否定的な感情が避けられません。

相手にも自分と異なる背景と、視点、価値観があり、それに起因した感情があり、怒ったり、落ち込んだり、苛立ったり、不快感を表します。私たちは、自分のエゴのために自分だけに有利な立場から世界を見たり、認知バイアスで「自分の認識」と「現実」をしばしば混同したり、相手が意図したとおりに相手の言葉を解釈できず、非論理的な議論をけしかけたりします。

しかし、同じ方向を見た、信頼と、相互理解、尊敬の上に築かれた関係は、交渉をよりスムーズにし、双方が満足する結果が得られる可能性を高めるとともに、お互いの関係をさらに深くするのです。

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