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難しい会話 Difficult Conversations:学びに変える方法と、難しくなる前に対処する方法

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年4月30日
  • Reading time:6 mins read

顧客や上司に反対意見をする、情報を共有しない同僚を注意する、ルールを守らない部下の仕事を変える、、、難しい会話は状況を変えて私たちをチャレンジします。ポイントは2つです。相手を知り相手から学ぼうとする姿勢と、そもそも難しくなる前に対処する姿勢です。

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今回は、書籍「Difficult Conversations(邦題)話す技術・聞く技術 ― 交渉で最高の成果を引き出す「3つの会話」」の紹介を織り交ぜながら、難しい会話にどう対応するのか紹介していきます。なお、本書は、原作1999年、日本語版2012年発刊で、ハーバード・ネゴシエーション・プロジェクトの取り組みの成果の1つとして、ダグラス・ストーン、ブルース・パットン、シーラ・ヒーンの3名によって書かれたものです。

私は20年ほど前に、本書を英語版で読みました。小口どころか印刷面まで黄色く変色した本を久しぶりに本棚から取り出し、改めて読み直してみました。

以下、本書の冒頭にあるジャックとマイケルのやり取りです。

ある日の午後遅く、ジャックは、親友でありクライアントでもあるマイケルから電話を受けました。
明日の午後までに財務パンフレットが必要だが、彼のデザイナーが不在なので、助けてくれないかというものでした。
ジャックは、別のプロジェクトの真最中でしたが、マイケルは友人だったので協力することにし、夜遅くまでパンフレット作りに取り組みました。

翌朝、ジャックはマイケルにドラフトに目を通してもらい、ゴーサインをもらいました。ジャックは午前中のうちにマイケルの事務所に行き、彼の机の上に印刷したパンフレットを置いて戻りました。ジャックは疲れ果てていましたが、マイケルを助けることができて嬉しく思いました。

ジャックは自分のオフィスに戻った後、マイケルからボイスメールが入っていることに気が付きました。

ー ー ー ジャック、君は本当に台無しにしてくれたね。時間がなかったのは分かっているけど、売上表ははっきり示されていないし、しかもずれてるよね。これはひどいよ。今回のクライアントはすごく大切なんだよ。すぐに直してくれないかな。メッセージを聞いたらすぐに電話して。 ー ー ー

ジャック:やあ、マイケル。メッセージを見たよ。
マイケル:やあ、ジャック。これを見てくれよ、やり直しだ。
ジャック:ちょっと待てよ。確かに完璧じゃないかもしれないけど、表はちゃんとラベリングされてるじゃないか。 誰も間違えないよ。
マイケル:なあ、ジャック。こんなの客先に渡せないのは分かるよな。議論の余地無しだよ。とっとと直そうぜ。
ジャック:じゃあ、今朝見た時に、なんで何も言わなかったんだよ?
マイケル:俺は校正係じゃないぜ。ジャック、大至急なんだ。問題は今やるかやらないかだよ。君がチームの一員か、そうでないかって事。どうする?
ジャック:わかった、わかった。 やり直すよ。

本書では、難しい会話には、3つの特徴があると書かれています。

  • お互いの意図、前提、解釈が違う
  • 感情に関わる
  • アイデンティティに関わる

「お互いの意図、前提、解釈が違う」とは、お互いのものの見方が違う、ずれているということです。
上の会話では、マイケルとジャックのパンフレットの出来について見方が違っていますね。事実は1つですが、それぞれがある意図を持ってそれぞれの解釈を付け加えます。お互いが自分が正しいと思い込んで、相手が間違っていると考えています。そして双方が相手に問題を押し付けています。
感情に関しては、いらだちや落胆、傷心、混乱、様々な感情が2人を交錯していますね。
更に、ジャックにとっては、マイケルのためにと思って一生懸命やったのに非難されて、結果的に自尊心(アイデンティティ)が大きく傷つけられる結果になりました。

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以下、難しい会話の対応策です。

1.自分を主張するのではなく、相手の立場に立って、相手を理解するように努める
相手を理解するとは、相手のストーリーに関心を持ち、なぜ相手がそう考えるのか、その背景に何があるのかに考えを巡らせることです。そのためには、自分のモノの見方や先入観をいったん取り外す必要があります。また、相手を理解するためには、相手に質問を投げかける必要があります。
相手には自
分が持っていない情報やその他の何かが必ずあります。大切なのは、自分がまだ知らない相手が持つ情報に関心を持ち、学ぼうという気持ちを持てるかどうかです。

2.相手をコントロールして、相手より上に立とうと思うのをやめる
相手の話を理解することに集中すれば、おのずと相手をコントロールする気持ちはなくなります。お互いが相手のコントロールに成功することはありません。コントロールしようとすれば、必ず Win-Lose の関係、一方が勝ち、他方が負け、引き下がる結果になります。

3.自分の感情がどこから来るのか、自問する
あなたの感情は、あなたが作っています。相手があなたの感情を作っているのではありません。感情に振り回されず、感情の責任を相手に押し付けるのをやめ、その感情を引き起こしている自分の考えが何かを自問します。

4.目的に対して、お互いの利益を擦り合わせる
相手の話を理解した上で、自分側のストーリーを説明し、お互いが達成したいゴールにたどり着くにはどうするべきか、お互いの見方を修正しながら話し合います。お互いの利益が摺り合うようなお互いのフレームを見つける作業です。

と、ここまでは概ね書籍に沿った説明です。

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しかし、このジャックとマイケルのやり取りですが、私が思うに、そもそも論として、最初に2人がしっかり話し合い、それぞれがおかれた状況の詳細やそれぞれの認識を共有していないことが問題です。
本書は、難しい会話にどう対応するかという本ですが、事前にしっかり確認しあっていれば、このような難しい会話にたどり着かずにすんだはずです。

つまり、2人はこんな会話をするべきだったはずです。

マイケル:ジャック、頼むよ、大至急なんだ、なんとか明日の朝までにやってくれないか。
ジャック:マイケル、もちろん君を助けたいけど、今日はまだ他の仕事があるんだ。
マイケル:そうか、でも他に人がいないんだ。なんとかお願いできないか。
ジャック:分かったよ。でも他の仕事もあって、時間が限られているから、正直に言うけど、たった一晩でちゃんとしたものを作るのは難しいよ。出来るだけの情報を先にくれないか。その後また電話するよ。
マイケル:ありがとう。すぐに資料とイメージを送るよ。

マイケル:何時ごろまでにできそうかい?
ジャック:日は跨いでしまうかな。。。
マイケル:忙しい所すまないな。
ジャック:念のため、11時までには一度ドラフトを送るよ。遅くてすまないけど、それで一回見てくれないか?その後君が確認した内容も含めて最終の修正して印刷するから。この進め方でいいかい?
マイケル:分かった。無理言ってすまないな。今回うまく行ったら、噂のウルフズ・グリルで最高のステーキをご馳走するよ!

書籍の巻末には、2人の関係を修復させる16ページに渡る難しい会話とそのための周到な前準備が記載されています。実際に読んでいただければ分かりますが、この関係修復の会話を、作り込んで推敲された文章でなく、現実世界で即興で口頭で実現するのは、はっきり言ってとても困難です。
上の会話のように事前にしっかり確認しておけば、1ページ以内で収まります。
※ なお、私は書籍の批判をしているわけではなく、本書がコミュニケーションの良本であることは付記しておきます。。。(汗)

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難しい会話の背景にあるのはコンフリクト(対立)です。コンフリクトはコミュニケーションを通して表現されます。難しいコミュニケーションをどう扱うかは、コンフリクトマネジメントでもあります。以前紹介した「コンフリクトのサークル」(Circle of Conflict)にあるように、コンフリクトは、構造、利益、価値、関係、情報の5種類に分類されます。

コンフリクトにはグループに様々な異なる考えをぶつけ合い、新しい成長に繋がる可能性があるプラスの側面がある一方で、人間関係のコンフリクトはデリケートで、扱いが厄介です。
どうしても避けられない人間関係のコンフリクトは確かにあるでしょう。しかし、私からのアドバイスは、情報や解釈の不一致、誤解など、将来的にトラブルに発展することが予想されるコンフリクトは出来るだけ早い段階で解決しておくことです。
事前に曖昧な確認しかせず、明確な共通認識を持たずに、何となく始めてしまうことのほとんど全ては、後になって問題となって表面化します(私の経験上も。。汗)。
負の結果に発展する可能性があるコンフリクトは、問題に発展する前にできるだけ芽をつぶしておくことが大切です。

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プロジェクトマネジメントの分野や、チームデベロップメントにおいても、チームが機能するためには、下記のステップを踏む事が必要とされます。

「形成期 ➡ 混乱期 ➡ 統一期 ➡ 遂行期 」
「Forming ➡ Storming ➡ Norming ➡ Performing 」

これはグループダイナミックスの研究を主に行った心理学者ブルース・タックマン(Bruce Tuckman)が1965年に提唱したモデルで、タックマンモデルとも呼ばれます。
この4段階の中で、最も重要なのは「混乱期:Storming」です。
混乱期に、お互い遠慮せず腹を割って本音で話せる関係を構築できないと、チームは機能しません。健全な混乱期を経ないと、衝突を先送りするだけでなく、先送りすればするほど、
問題とムダがどんどん大きくなって後から噴き出し、修復することが難しくなっていきます。
これはチームに限らず2人の関係に関しても同様です。お互い腹を割って本音を話し合うことを避け、スコープを明確にし共有することも避け、曖昧なまま物事を進めた結果が、マイケルとジャックのような衝突になって後の段階で表れるのです。

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ただし、先に述べたように、いくら事前に関係を構築し認識を共有しても、回避できない衝突、難しい会話はあります。そのような衝突に、どう対応すれば良いのか、次回は、具体的なアドバイスをいくつかご紹介します。

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