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難しい会話 Difficult Conversations:建設的な対話へのちょっとしたコツ

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年4月30日
  • Reading time:7 mins read

難しい会話を建設的な対話に変えるコツを紹介します。「わたしメッセージ(I-message)」や「はい、そして(Yes, and)」メッセージを使う、そして、相手への興味、理解、貢献、信頼を前提とする真のアクティブリスニングです。

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前回、難しい会話への対応として、①学びに変える方法と、②そもそも難しくなる前に対処する方法を紹介しました。
今回は難しい会話に対応するための、より具体的で役に立つ、ちょっとしたコツを紹介します。

1.わたしメッセージ(I-message)を使う

「わたしメッセージ(I-message)」は、米国の心理学者、トマス・ゴードン(Thomas Gordon)が1962年に開発した親業訓練講座(P.E.T. : Parent Effectiveness Training)で紹介している方法です。(1)
親業訓練講座(P.E.T.)の名の通り、そもそも親子間の会話を助けるために開発されましたが、その内容はその他の人間関係で生じる多くの会話に応用できます。実際に、ゴードン・トレーニング・インタナショナルは、リーダー訓練講座(L.E.T. : Leader Effectiveness Training)や、教師訓練講座(T.E.T. : Teacher Effectiveness Training)も提供しています。

難しい場面において、あなたで始まる「あなたメッセージ(You-message)」は、攻撃的な言葉となり相手の感情を害する可能性がある一方、「わたしメッセージ(I-message)」で始まる会話はそれを和らげる事ができます。

わたしメッセージは、特に、相手の行動が自分に影響していて、相手に行動を変えてもらいたい時の会話で効果的です。具体的には、以下の3点を、わたしメッセージで伝えます。
1.自分にとって受け入れがたい相手の行動
2.自分の気持ち
3.相手の行動がどう自分に影響しているのか

以下、「あなたメッセージ」を「わたしメッセージ」に置き換えた例です。

Aさん、部下のBさんに対して、
● Aさん「Bさん、まだここ直ってないよ!何度言ったら分かるの、小学生じゃないんだから!」
Aさん「Bさん、ここにミスを見つけたけど、正直私はちょっと困ってるんだ。というもの、もうすぐ新人さんが入ってきて私が担当する事になるから、Bさんにはそろそろ独り立ちしてもらいたいんだ」

別の例として、
● Aさん「Bさん、また遅刻かよ。なんで時間通りに会議に参加できないんだ?!」
➡ Aさん「私はこのチームの会議が他のチームより機能していないと感じていて悔しいんです。どうしたら改善できるか悩んでいます。みなさん、良い会議に必要なものは何だと思いますか?」

他「わたしメッセージ」の例として、「私は〇〇と思っています」「私は〇〇だと感じます」「私は〇〇が知りたいんです」などがあります。わたしから始まる会話の本質は、丁寧とか感じが良いという点にあるのではなく、正確な点です。相手の事は正確には理解できない一方で、自分の事は自分が一番分かるからです。正確なメッセージはネガティブな感情の発生を抑えます。

と、紹介しておいて何ですが(汗)、「わたしメッセージ」を使いこなすには、ちょっと訓練が必要です。慣れないと即座に良い文章を思いつく事はできないでしょう。「私は〇〇と聞いて残念です」「私は悲しくなりました」「〜してもらえると助かるな」などのいつくかの言い回しのパターンから始めて使い慣れていくのが良いかもしれません。

また「わたしメッセージ」の注意点は、どんな場合でも万能という訳ではない事です。(1)(2)
「私は怒っているのよ」など感情を相手にぶつけるわたしメッセージは機能しません。また、自分と相手の利害がそもそも対立している場合は、わたしメッセージで相手に変えてもらいたい行動を伝えるだけでは、相手が行動を変える動機としては足りない場合があります。
しかし、わたしメッセージは、感情の衝突を避け、互いを対話の正しい入口に導いてくれます。自分がどう感じ、どうしたいのか考え、頭の中でわたしを主語にして言葉を組み立てるだけでも、一呼吸おいて間を取る事が必要になるので、相手に条件反射的な攻撃をしてしまうリスクを避ける効果もあるでしょう。

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2.「はい、そして(Yes, and)」メッセージを使う

人は「でも(but)」や「いいえ(no)」のメッセージをよく使います。
「いや、違うでしょ」「そうじゃなくて、、」「ていうより、〇〇じゃない?」など、とりあえず否定から入る返答にイラっとさせられる事はありますよね。条件反射的にとりあえず「No!」が口から出てしまう、このような話し方が癖になって脳みそに染み付いていると思われる人さえいます。
「でも(but)」や「いいえ(no)」で始まるメッセージを、「はい、そして(Yes, and)」メッセージに変えてみましょう。普段「でも」や「いいえ」で繋げてしまいがちな会話を、強制的に「はい、そして」に変えるだけで印象が全然違います。以下に「でも」「いいえ」と「はい、そして」の対比の例をいくつか見てみましょう。

● 「このアイデア良くない?」「いや、私は〇〇の方がいいな」
➡ 「このアイデア良くない?」「いいね!そして、〇〇って考えもあるよね」

● 「〇〇君、ここ間違ってないか」「でも、そこは△△の担当ですが」
➡ 「〇〇君、ここ間違ってないか」「そうですね、担当した△△に伝えておきます」

● 「〇〇部長、企画書作ってきました!」「いや~、これは〇〇だから難しいだろ」
➡ 「〇〇部長、企画書作ってきました!」「これいいじゃない!ここをこう直せば更によくなるぞ!」

● 「今日外食にしようか?」「う~ん、でも、面倒くさいから、うちで食べよう」
➡ 「今日外食にしようか?」「いいね!そして、外で買ってきて、うちで食べるのもありかもね」

違いを感じられるでしょうか?
「でも(but)」「いいえ(no)」の言葉には会話を抑圧する負のエネルギーがある一方、「はい、そして(Yes, and)」の言葉には相手を認め、会話を弾ませるポジティブなパワーがあります。

「はい、そして(Yes, and)」は、相手に「受け入れられた」という印象を与えますね。逆に「でも(but)」「いいえ(no)」を聞いた相手は「拒否された、否定された」と感じます。「でも(but)」「いいえ(no)」が言い争いや主張し合いの土台を作るのに対して、「はい、そして(Yes, and)」は会話に勢いをつけ、建設的な対話を促し、更なるアイデアの創出に貢献するための土台を作ります。

A「今週末キャンプに行こうか?」
B「いいね!長野が良いね」
A「いいね~。川の近くが最高だね」
B「そうそう、あーマイナスイオン欲してきた」
A「最高!川でスイカ冷やそうか」
B「やば!
はやく予約しないと」

人それぞれだと思いますが、私個人的には、先ほど紹介した「わたしメッセージ」より、こちらの「はい、そして(Yes, and)」が使いやすいです(笑)。

一点注意点は「はい、でも(Yes, but)」のメッセージにしない事です。
「それ良いね!でも現実的には無理だろうね」「それ良いけど、誰がやるのよ?」「悪くないけど、もう時間がないから。。」など、「でも」「いいえ」のメッセージと同じ効果を与えてしまいます。肝心なのは「はい(Yes)」の後を「そして(and)」で繋げる事です。「そして(and)」にはブレインストーミングのように会話を発展させる効果があります。(3)(4)

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3.アクティブリスニング

最後に紹介するのは、アクティブリスニングです。
アクティブリスニングと言うと、相手の目を見るとか、共通の話題を探すとか、相手の話を要約して繰り返すとか、頷いたり、微笑んだり、ボディラングエッジを取る等々のように紹介される事がよくあります。しかし、アメリカのラジオジャーナリストであり作家でもあるセレステ・ヘッドリー(Celeste Headlee)は、このような会話のテクニックは「くそ(crap)」だと言います(笑)。
ヘッドリーは、もし本当に相手に関心を持っていて興味深く聞いているのであれば、わざわざ関心がある「ふり」をする必要はないと言います。頷こうが、微笑もうが、そもそも相手に興味がなければ、相手はその姿勢を見抜きます。逆に本当に興味をもって聞いているのであれば、その姿勢は自然に相手に伝わります。
以下、2,500万ビューもある彼女のTedでのスピーチです。右下の吹き出しをクリックすると日本語字幕で見る事ができます。是非ご覧下さい。他にも、良い会話をミニスカートに例えてみたり、面白い事を話しています。

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冒頭に紹介した親業訓練講座(P.E.T.)でも述べられていますが、真のアクティブリスニングは、相手に心から関心を持ち、相手を受け入れ、好奇心を持って話を聞く事です。そしてその根源にあるのはテクニックではなく、結局前回の内容と共通しますが、新しい何かを学ぼうとする姿勢です。(1)

アクティブリスニングに必要な態度
● 相手の話を聞きたいと思っている事。時間をかけてでも聞こうとしている
● 相手が持つ問題に対して、役に立ちたいと思っている
● 相手の話を、純粋に受け入れる
● 相手を信頼する
● 感情は一過性のもので、永久的なものではないことを理解する
● 自分と相手を別の人間として見ることができる

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最後に

以上、前回に引き続き今回も、難しい会話の対処方法を紹介しました。
しかし、しかしですね、、、残念ながら会話は一人では成り立ちませんから、必ずしもあなた一人だけの努力で改善できるわけではありません。こちらがどう頑張ってあがいてみても、どうやっても対処できないほど難しい人も残念ながら存在します。
あなたの周りにそのような人はいないでしょうか?思いつかなければあなたはラッキーです。しかし、ネガティブなオーラに包まれ、否定否定のオンパレードで、話しをするのがとにかく難しく苦痛に感じる人はいたる所に存在します。そしてそのような人たちから逃れられず、苦しみ、ストレスを抱える人は多いのです。
次回は、そのようなとても難しい人に対応する方法を紹介します。

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参考文献
(1) Thomas Gordon, “Parent Effectiveness Training: The Proven Program for Raising Responsible Children“, Harmony Books, updated 2019 edition, 2020/10
(2) John A. Johnson, Reviewed by Jessica Schrader, “Are ‘I’ Statements Better Than ‘You’ Statements? Is “I feel bad when you do that” really different from “You make me feel bad”?“, Psychology Today, 2012/11
(3)  Jennifer Oleniczak Brown, “Leading With A ‘Yes, And’“, Forbes, 2017/4
(4) Lois Holzman, “Golden Rule” For Better Relationships: Say “Yes-and…”“, Psychology Today, 2017/8

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