組織改革、OCM(Organizational Change Management)、リーン・アジャイル型経営、それぞれ出発地点は違いますが、いずれも目的とする所は同じです。
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チェンジマネジメントは大きく分けて2通りの使われ方をします。
- ひとつはプロジェクトに付随するチェンジマネジメント、
- もうひとつは組織を大きく変えるような変革に付随するチェンジマネジメントです。
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プロジェクトに付随するチェンジマネジメントの例として、人事システムでも顧客管理システムなど、新しいシステムを会社に導入するプロジェクトがあげられます。その場合、以下のような事項がプロジェクトの計画や管理項目に含まれます。
(1) スケジュール通りに導入する
(2) 予算通りに実施する
(3) 仕様や機能が要求を満たす
システム開発を請け負った会社にとってはこれを達成すればよいケースもあるでしょう。しかし、システムを導入する会社側にとってはこれだけでは不十分です。
なぜでしょう?
なぜなら、これだけではシステムを導入する事で達成したい目的が成し遂げられているかどうか分からないからです。
システム導入自体はプロジェクトの技術的側面でしか過ぎません。システムを導入するそもそもの目的があるはずです。上記の3つの視点だけでは、その目的が達成できたのか分かりません。以下の項目が抜け落ちています。
(4) システムを使う人をまき込んで計画、そして計画した通りその人達が実際に使っているか
(5) さらには、システム導入のそもそもの目的、その恩恵を得たのか
「対象者が計画した通りにシステムを使っているか」言い換えると「対象者に期待した通りの行動の変化をもたらしたか」です。「期待する行動の変化」もシステム導入前に設定されていなければなりません。
そして、一人一人の行動の変化によって、達成されるべきそもそもの目的が実現され、恩恵・利益が得られたのかどうか。
最近流行りのDX(デジタル・トランスフォーメーション)も、他社に続けとシステムの導入を急ぐあまり導入自体が目的になってしまい、業務効率化に繋がらない、後になって上手く運用されていないけどどうしたらいいでしょう?、、、という例は少なくないかと思います。
(4)と(5)の視点が欠けているからです。
(1)~(3)にほとんどのエネルギー、予算、労力、時間をかけていませんか?
(4)と(5)にはほとんどリソース、ケアをかけていないのではないでしょうか?
(4)と(5)には、プロジェクトマネジメントに加えて、チェンジマネジメントの要素が入ってきます。
欧米では人的側面が大きいプロジェクトの場合、プロジェクトマネージャーと別にチェンジマネージャーがプロジェクトの人的側面を専門で担当する事があります。日本では一部の外資系企業を除いてチェンジマネージャーという役職がある会社はほとんどないかと思います。この人的側面のケアの欠如が、日本の企業の生産効率性が他国に比べてどんどん差がつけられている要因の一つになっています。
なお、上の(1)~(3)のレベルの取り組みを「Installation(導入)」レベルの取り組みと言います。上の例で挙げた「システムの導入」や、「DXの導入」、「制度の導入」などです。あなたの組織でもこの「導入」レベルで終わっている取り組みが多くありませんか?
これに対して、そもそもの目的の達成するために必要な(1)~(5)のレベルの取り組みを「Realization(実現)」レベルの取り組みと言います。
ちょっと長くなりましたが(汗)、以上のシステム導入のようなケースが、プロジェクトに付随するチェンジマネジメントです。
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チェンジマネジメントのもう一つの使われ方は、組織を大きく変えるような改革に付随するチェンジマネジメントです。海外ではOrganizational Change Management(OCM)と呼ばれます。
日本語に直訳すると「組織変更管理」ですが、これではあまりに一般的過ぎて、何の特徴もない印象を与えてしまいそうです。一方でカタカナでオーガニゼーショナルチェンジマネジメントではまどろっこしいので(汗)、以下海外と同様にOCMと略します。
以前紹介した通り、VUCA(Volatility:不安定さ、Uncertainty:不確実さ、Complexity:複雑さ、Ambiguity:曖昧さの頭文字を取った言葉)の時代では従来の大量生産消費型・高度成長型・昭和型の経営スタイル、組織構成のままでは競争に勝ち残っていく事は難しく、手探りしながら暗闇の中を進んでいき、企業文化、価値観、仕事のやり方・あり方・考え方が根こそぎ変わるような変革が必要になります。
チェンジマネジメント自体にも、組織改革が必要な今の時代、プロジェクトのみでなく組織そのものの変革をいかに支援できるかが求められます。
そのため、従来型のチェンジマネジメントからOCM(Organizational Change Management)や、更にアジャイル開発やアジャイル型プロジェクトマネジメントサイクルの手法を取り入れたアジャイル・チェンジやリーン・チェンジへの更なる派生が海外では起きています。
プロジェクトマネジメントの分野では、OCMはOPM(Organizational Project Management)とも言われます。
OPMはプロジェクトマネジメント手法をベースに展開されており、プロジェクトマネジメントの上段のプログラムマネジメント、更に上段のポートフォリオマネジメントを更に包括するような位置づけですが、OCMとOPMはかなりの部分でオーバーラップしています。
従来から紹介されてきたチェンジマネジメントの手法・モデルには、レビンの変革プロセス、マッキンゼーの7S、コッターの8段階変革プロセス、プロサイのADKAR等があり、更に最近のアジャイルチェンジも含めれば本当に多くの手法があります。
これらの個々の手法・モデルは、心理学者や哲学者、学識者、経営コンサルタント等によって、異なる時代にバラバラに提案されたものです。必ずしも全てがビジネスへの適用のみを意図して提案されたものでなく、どのように具体的に実務に落とし込んでいくのか明確でないものもあります。また、これらの個々の手法単独では組織改革を実現する事はできません。
OCMはより体系立てられた手法になり、変革の可能性を高める事ができます。
チェンジマネジメントもOCMも基本的な考え方・ツールは共通している部分が多いですが、OCMの方が扱う範囲が広くなります。
組織レベルの変革は、トップのリーダーシップなしでは”絶対”に達成できないので、その時トップ及び経営層を構成している人の考え方によって難易度が雲泥の差ほど大きく変わります。
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チェンジマネジメントでもOCM(Organizational Change Management)でも、プロジェクトマネジメントでもそうですが、一番重要なのは、最初に目的を明確にする事です。
OCMの目的は、会社のありたい姿、会社のビジョンとリンクしたものになるはずです。
OCMは組織改革です。
組織改革を支援する経営コンサルタントは日本でも以前から数多く存在します。
コンサルタントによって色々な方法が提案されます。しかし、その多くは経営層や人事部門を対象にしており、概して他の部署で組織が変わらない事で苦しんでいる方々には接点が少ない存在でしょう。
また会社がそのようなコンサルタントを利用しても、更にはそのコンサルタントがどんなに素晴らしく的確な指摘・提案をしても、経営層が聞く耳を持たず、または真意を理解できず、必要なリーダーシップが形成されなければ「はいそれまで」で、下部組織まで落ちてきません。
一方で、技術・エンジニアリング・プロジェクト・新規事業開発の立場・視点から展開した改革が、リーンやアジャイルといった手法でしょう。スタートアップ企業で多く使われてきた事業開発手法が、既存企業内でも新規事業開発に導入され、近年は企業内の問題意識・リーダーシップの素質が高いミドルマネジメント層がボトムアップによって突き上げる例が多い改革の取り組み手法です。
成果物が最初に明確でなく反復で作り上げていくスタートアップ的な企業内新規事業は、組織に従来からある承認プロセスでは、その過程で潰されてしまい育たないため、「出島」という治外法権の手法を用いて、既存の会社の承認手続きから外れた所でアジャイルで回し、新規開発する事が多くの企業で行われ始めています。
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組織改革、OCM(Organizational Change Management)、リーン・アジャイル型経営、それぞれ出発地点、発展してきた道筋は違いますが、いずれも目的とする所は同じはずです。
私は、エンジニア、プロジェクトマネジメント、チェンジマネジメント、海外での企業経営・組織運営のバックグラウンドを持っていますが、このような枠組みを超えて、微力ながら組織の色々な階層にいる方に少しでも有益となる情報を発信したいと考えています。
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実はこの文章を書き始めた時点では、OCM(Organizational Change Management)で最初に行うChange Readiness Assessment(変革のレディネス評価)について紹介したかったのですが、既に長くなってしまいましたので(言い訳)、、、またの機会に紹介致します。