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なぜ日本ではSDGsはブームで終わったのか? – 社会が流行語を消費する仕組み

  • 投稿カテゴリー:社会が変わる
  • 投稿の最終変更日:2026年8月12日
  • 読むのにかかる時間:8 mins read

数年前に騒がれたSDGsという言葉を聞くことが少なくなりました。このようなシンボリックな社会的取り組みは、日本ではせいぜい一過性の流行りになるだけで定着せず、ブームは静かに過ぎ去っていきます。SDGsで課題とされていることは解決されるどころか、ますます深刻になっているのにも関わらずです。
なぜ、日本ではこのような重要な取り組みでさえ定着しないのでしょうか?

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はじめに

スーツの襟にSDGsのピンバッジを着けた経営幹部、会社紹介のパンフレットに散りばめられた17色のアイコン、SDGsイベントやセミナーやテレビ特番の数々。。。

2020~21年ごろに目立った光景ですが、今では見ることがめっきり少なくなりました。そのころ企業のホームページに出現した「SDGs宣言」には、その後積極的に更新されていないページも少なくありません。

当時、これらは、企業が「私たちはSDGsに取り組んでいます」というメッセージを可視化して社会に伝えるためのシンボルとして機能していました。

しかし、2026年の帝国データバンクの『SDGsに関する企業の意識調査』では、SDGsに「積極的」と答えた企業は2年連続で低下し、SDGs目標のいずれかに力を入れる企業も2020年の調査開始以来初の減少となりました。また、SDGsに取り組んでいる企業のうち、何らかの成果を実感している企業は、前年より大幅に低下しています。

インターネットでの検索数や関心度を示すGoogleトレンドで調べてみると、下図のように、日本において「SDGs」というキーワードは、2021年末ごろをピークに減少の一途をたどっていることがよく分かります。
これは他の先進国では見られない特徴です。イギリスやフランス、さらにはトランプ政権の元、環境対策に政治的に否定的なアメリカでさえ、関心度は一定か、むしろ少しづつ上昇しています。

図:「SDGs」の検索トレンドの各国比較(2016/1/1~2026/8/1)
上から日本、イギリス、フランス、アメリカ

[日本]

SDGs Trend - Japan

[イギリス]SDGs Trend - ENGLAND

[フランス]SDGs Trend - France  [アメリカ]
SDGs Trend - USA

なぜ、日本でのSDGsの取り組みや関心が減少しているのか、今回はその背景にあるものに迫ってみたいと思います。

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SDGsは「持続的な活動」ではなく「分かりやすいトレンド」だった

日本は「本質的な課題」より「表面的な空気」が拡散しやすく、中身よりもイメージが優先されやすい国です。

日本では、メディアが社会的な話題を取り上げる、行政が何からの規制を課す、そして、企業が形式的に乗る、という流れで一気に取り組みが広がることがあります。しかし、反対に、メディアが扱わなくなる、行政が積極的でなくなる、企業の形骸的な対応がいったん落ち着くなどして、あたかも課題対応が完了したかのような印象を受けることも少なくありません。

もちろん、SDGsが掲げる目標は「ブーム」で終わる一過性のテーマではありません。いまだ目標の達成にはほど遠く、ブームが去っても問題が去ることはありません。

国連が世界に示したSDGsには、カラフルな17色のアイコンやピンバッチ等、視覚的にアピールする要素が含まれています。

一方で、企業が重視すべき視点を示した「ESG(Environment, Social, Governance)」には、このようなキャッチ―で統一されたロゴやメッセージは存在しません(ESGという3つの観点から企業経営上のリスクや機会を特定・評価するものなので、当たり前ですが)。

日本では、SDGsの分かりやすさや一般への受け入れやすさのおかげで広がったのかもしれません。

実際に、KPMG Internationalの調査報告書『Survey of Sustainability Reporting 2024』では、日本は調査対象となったトップ企業の中でSDGsを報告書の中で利用した割合が最も高い国だったと報告しています。

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SDGsはスケールが大き過ぎた

SDGsは、持続可能な社会への転換のため、貧困、飢餓、格差、環境、エネルギー、教育、産業、平和など、さまざまな17の分野にまたがって整理された目標です。

しかし、一企業や一個人が取り扱うにはあまりにも広大すぎるテーマだったかもしれません。17の目標に整理されたターゲットの総数は169もあります。

問題が大きすぎると、人は行動に起こしにくいものです。
例え何かを実施しても、効果は微々たるもので、何をしても十分ではないようにも感じるかもしれません。その結果「行動しても意味がない」という感覚が生まれやすくなります。これは、心理的距離(psychological distance)や、前回書いた自己効力感(self-efficacy)にも関わる問題です。

また、日本は「適応すること」には強いが「変革すること」には弱い国です。

ごみの分別やコロナ禍のマスク着用などのように、問題の範囲が限定され、社会全体としてやるべきことが明確になると多くの人が協力できます。ピアプレッシャーや同調圧力が良い方向に働く好例です。

一方で、消費行動の見直し、ライフスタイルの転換のように価値観や生活全般に大きく広範囲な変化を伴う課題では、特定の限られた共通の行動に落とし込むことが難しく、誰もリーダーシップのある率先した行動を起こすことができません。むしろ同調圧力が新しい行動を抑制し、現状を維持する悪い方向に作用します。

そのため、自社のビジネスとまったく関係のない多くの項目も含むSDGsという広範囲なテーマをまるごと取り扱うよりも、働き方、ジェンダー、地域など、より分かりやすく、コンセンサスを得やすい個別テーマを扱う方向へ移った方が取り組みやすいのかもしれませんし、実際に、そのような焦点を絞った対応への移行が見受けられます。

SDGs

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日本企業に繰り返し現れる「コンプラ対応」で済ませる姿勢

一方で、SDGsは広範囲な課題を包括するだけに、何でもSDGsに結び付けることが可能になってしまうという問題もあります。

つまり、すでに行っている企業の取り組みを17項目のどれかに結び付けて、「我々はすでにSDGsに貢献しています」と、現状を正当化するために利用することが容易になるのです。

実際、ほとんどの企業で、自社の既存ビジネスを17の課題のどれかに紐付けてもっともらしい説明を作り上げることが可能でしょう。つまり、行動を変えるのではなく、すでにやっていること、売っている商品をSDGsに結び付け、SDGsに貢献している会社だとアピールするのです。

この現象はSDGsだけの問題ではなく、日本企業に繰り返し現れる「社会課題のコンプラ対応」の特徴に重なります。

SDGsは、古くはISOの形骸的導入から、CSR(社会的責任)、ESG、GX(グリーントランスフォーメーション)へと脈絡と続く形骸的な取り組みの1つであり、多くの企業が外部のステークホルダーに対して「取り組んだふりをする」流れを汲んでいます。
つまり、多くの企業には、課題への対応そのものよりも、「どうやって、取り組んでいることをアピールしておくか」を考える悪しき習慣が身についてしまっているのです。

特に大企業は、他の企業が取り組んでいるのに、自社が取り組んでいないのは体裁が悪いため、このようなトレンドがおきた時に「きちんと」対応しておくことが重要です。

17色の課題色やバッジは、その意味でもとても都合が良かったのです。バッジを購入する費用やパンフレットを刷り直す費用は微々たるもので、カラフルで見栄えもしてイメージ向上にも寄与しました。

社会学では、シンボル的導入(symbolic adoption)デカップリング(decoupling)と呼ばれる現象です。組織は外部に「対応しています」と示しながら、実際の行動はほとんど変えず、外部へのメッセージと内部の変化が切り離されているのです。

グリーンウォッシュ」「SDGウォッシュ」という言葉を聞くこともありますが、多くの企業がイメージ戦略のために取り組んでいるふりをするのです。

同様に「サステナぶる」という言葉を聞くこともありますが、「サステナビリティ」という言葉はSDGs以上に危険で、SDGs以上にほとんど何でも入れることができます。つまり「サステナビリティ」という言葉ですべてを覆い隠せてしまうのです。

ESG評価にもかなり問題があり、研究でも、企業のESG開示内容と実際の環境パフォーマンスの乖離(disclosure-performance gap)が問題になっており、ESGレーティングそのものも評価機関によって大きく異なることが指摘されています。

しかし、日本では2023年から、有価証券報告書でサステナビリティに関する情報開示が求められるようになり、2025年には、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が、開示基準や適用基準を公表しています。
そして2026年には、金融庁が、一定規模以上のプライム市場上場企業に対してSSBJ基準によるサステナビリティ情報開示を段階的に義務化する制度整備を行い、平均時価総額1兆円以上の企業については、原則として2027年3月期から適用される予定です。

今後は数値やロジックの開示が求められ、単なる「寄せ集めの書類づくり」を超えて、具体的な新しい活動や経営の成果が求められるため、「見せかけの対応」を続けることはだんだん難しくなるはずです。

また、グリーンウォッシュに関しても、以前本サイトの記事で海外規制を紹介しましたが、日本でもようやく規制化の動きが見られます。

2026年3月、環境省は「環境表示ガイドライン」の13年ぶりとなる全面改定を行いました。

日本の企業広告にあふれる「地球に優しい」「持続可能」の安易な表記や、根拠を添えずに「エコ」「サステナブル」などと大々的に謳うことが一律禁止されたり、安易なカーボンオフセットによって環境保護に貢献していると主張することも制限されるようになります。

このような基準の強化によって、企業には今後「言われたからやる」という受動的ではなく、積極的な対応へと転換していくことを期待します。

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SDGsは「運動」ではなく「宣伝」だった

企業はただ単にトレンドに対応するだけではなく、それを収益につなげようとします。

賢い企業では、「社会を変えるためのSDGs」→「SDGsに取り組んでいることを示す」という形で、SDGsを単なるコンプラ対策として「取り組みやすい課題」にするだけでなく、売り上げ拡大のための「マーケティングのツール」に変換していきました。

取り組みそのものよりも「SDGsという言葉やイメージをビジネスのために利用すること」「SDGsという看板を前面に出したマーケティング活動」が広まったのです。

消費者向けの商品やサービスを提供する企業では、「この商品を買うことで、SDGsに貢献しよう」というメッセージで、買い物そのものを社会貢献に結び付けるマーケティングが増えました。

先ほども指摘した通り、SDGsは広範囲な課題を包括するため、消費者に商品やサービスを買ってもらうための企業努力を17項目のいずれかに紐付けることはそれほど難しくありませんでした。

しかし、究極的にSDGsに貢献するのであれば、そもそも商品を消費者にさらに買ってもらうよりも、買い控えてもらう方がよいはずですよね。企業が売上金の一部を寄付するということであれば話は違いますが。

以前本サイトの記事で、アウトドアブランドのパタゴニアが「このジャケットを買わないでください(Don’t buy this jacket)」という広告を掲載し、「よく考えて、本当に必要な商品以外は買わないでください」と消費者に物を買うことに対して再考を促す、反消費主義の広告を流した例を紹介しましたが、このような取り組みを他の営利企業で見ることはありません。

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消費者側の都合

企業が「持続可能な消費をしましょう」 というメッセージを消費者に送る一方で、実は、消費者側にも同様の思惑があって、そのような商品を買っていれば、「私はSGDsに貢献している」と錯覚したり、自己正当化することができるという裏表の関係があります。

消費社会そのものを問い直すのではなく、「新しい商品を買うことによって、持続可能な社会を実現する」という発想は正しいのでしょうか?

SDGsを本気で考えると、特に先進国に住む私たちが現在の生活をそのまま維持することは困難になります。そして、「私たちは何を減らすのか?」「何を途上国や恵まれない人たちに分配するのか?」という議論になります。

エネルギー消費、車での移動、食、住宅、消費、物流、旅行、趣味、資源利用。。。

しかし、ここまで踏み込むと、企業にも消費者にも政治家にも痛みが生じます。

そのため、「再生可能エネルギーを増やしましょう」「リサイクルしましょう」「サステナブルな商品を買いましょう」「SDGsについて学びましょう」という、比較的抵抗の少ない活動に置き換えられるのです。

結果として、「変革」ではなく、せいぜい「善行」として取り組める程度の数項目に収まるのです。

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さいごに

さて、今回(いつも?汗)かなり批判的に書きましたが、環境に積極的に取り組んでいる企業はもちろん存在します。

例えば、花王、リコーといった企業は、SDGsや開示基準が法制化される何年も、あるいは何十年も前から、自主的にサステナビリティ活動へ投資してきました。

ソニーには、SDGs以前から続いている「Road to Zero」という環境計画があります。そして2022年には、さらに踏み込み、当初、2050年にバリューチェーン全体ネットゼロだった目標を2040年へ10年前倒しし、自社事業所の再エネ100%も2040年から2030年へ前倒ししました

彼らはSDGsが流行ったから、制度ができたから、活動を始めた企業ではありません。

ただし、このように主体的に取り組む企業が増えることを単に期待することは現実的ではありません。ほとんどの経営者は、例え大企業の経営者であれ、それほどの社会的な志は持っていません。そのため、厳格な制度化によって、追随する「フォロワー企業」の底上げに頼らざるを得ません。

さいごに、形式的に対応する企業と、本当に実践する企業には、次のような分かりやすい違いがあります。皆さんもこのような厳しい目を持って企業の取り組みを見てみてはいかがでしょうか。 
 

形式的な企業本当に実践する企業
SDGsバッジを付ける材料・工場・店舗・サプライヤーが変わる
SDGsイベントを開催する設備を入れ替える、製品設計を変える
SDGs研修を行う社員の評価・判断基準が変わる
サステナビリティ報告書を作る古い製品・事業をやめる
「環境に配慮」と広告する商品の仕様や数字の変化や成果で示す
既存業務の何がSDGsに当たるか従業員に考えさせる経営方針を末端まで浸透させる
再エネを「購入」したと説明するエネルギー消費そのものを減らす
CSR部門やサステナ部が担当するCEO・事業部門が担当する
コンサルが主導する経営者が主導する
良いことばかり話す業績とのトレードオフを説明する
「美談」で済ます未達や不都合な数字も公表する

 

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