あなたが現在見ているのは アセットベースのコミュニティー作り:ストリートを人々が集う場所へと変える

アセットベースのコミュニティー作り:ストリートを人々が集う場所へと変える

  • 投稿カテゴリー:社会が変わる
  • 投稿の最終変更日:2025年5月8日
  • 読むのにかかる時間:読了まで6分

ABCDは、「ない」ものや「問題」に目を向けるのではなく、「ある」ものや「可能性」に光を当て、地域に既にあるアセット(資産)をベースにして、持続可能なコミュニティーを築き上げる方法です。シャニー・グラハムは、隣人たちとの繋がりを通して、家の前の「通り」を、住民が集い、毎年何千人もの人々が集まる「場所」へと変えて行きます。

~ ~ ~ ~ ~

はじめに

今回は以前紹介したアセット・ベースド・コミュニティ・デベロップメント(ABCD : Asset Based Community Development)の事例をさらに紹介します。
ABCDは、「ない」ものや「問題」に目を向けるのではなく、「ある」ものや「可能性」に光を当てるもので、地域に既にあるアセット(資産)をベースにして、持続可能なコミュニティーを築き上げるものです。

~ ~ ~ ~ ~

オーストラリア、サウス・フリーマントル、ハルバート・ストリートの事例(1)(2)(3)

多くの人が、住んでいる場所でコミュニティー意識を持ちたいと思っています。しかし、隣人とのつながりをゼロから築くのは簡単ではありません。

シャニー・グラハム(Shani Graham)はカナダ育ちで、父親は学校のカウンセラーをしており、母親は小さな農場を営んでいました。父親が学校に関わっていたこともあり、家族は大きなコミュニティーの一員のようでした。

家族共々カナダを離れ、オーストラリアのサウス・フリーマントル、ハルバート・ストリート(Hulbert street)に移り住んだとき、新しい隣人たちとのつながりはなく、彼女は本当に寂しいと思いました。しかし、隣人たちに声をかけて話を聞いたところ、コミュニティーの人たちと交わりたいと切望しているのは自分だけではないことが分かります。

彼女は、自分たちのコミュニティーのために何かしようと決意しました。

ハルバート・ストリートの端には古く大きな水タンクがあります。
シャニーは近所の子どもたちやその親たちに呼びかけて、みんなで集まって小さなモザイクの魚を作り、その水タンクにきれいに飾りつけました。
そして、当日水タンクに集まってくれた人たちに、次の集まりにも参加してくれるように呼びかけました。

その次の集会にも子供や大人たちが集まりました。そこで、シャニーは「みんな、ハルバート・ストリートをどういう風にしたいと思う?」と問いかけます。

大人たちは、ガレージセール、午後の紅茶会、ストリート・ガーデニングなどと答え、子どもたちは、サッカーやクリケットをしたいと答えます。

そんな中、「スケートボードのランプを設置したい」と言う子供がいました。その時は、誰もが最もありえないと思いましたが、その最もありえないと思えた10歳の住民の提案が真っ先に実現しました。通りに面した2台分の駐車スペースにスケートボード用の小さなハーフパイプが作られたのです。

ストリートは人々が集う場所へと変わっていきます。

市有地を利用してゲリラガーデニングを始める人たちがでてきます。また、移動式のピザ釜やコーヒースタンドを共有して、椅子を持ち寄り映画鑑賞会を開いたり、本の交換所が設置されます。

更に、コミュニティーで「やぎ」を飼い始めます。

そしてそのやぎがのびのびと庭から庭へと散歩できるように、家と家の間にあった垣根まで取り払うのです。
今では、他の地域のコミュニティーのためにストリート・サステナビリティ・フィエスタを開催するにまで至り、毎年何千人もの人々がハルバート・ストリートに集まってきます。

※下のTEDxPerthのYoutubeは残念ながら日本語の字幕はありませんが、英語の字幕は付ける事ができます。素晴らしいスピーチなので、英語が分かる方は是非ご覧下さい。また、取り組みの詳細は、「ecoburbia」と題された彼女たちのホームページでも見る事ができます。

ハルバート・ストリートのコミュニティーでは、それぞれのメンバーが自分が持つスキルやリソースの情報を共有します。つまり、何か困った事があったら、それが得意な人、必要な設備や道具を持っている人をみんな知っていて、その人に相談すればよいのです。
それによって、向かいの紳士が、素晴らしいオリーブオイルのレシピを知っている事や、近所のおじさんの家の裏に、見たこともなかった大きな野菜畑があるということまで知るのです。

図:コミュニティーのスキルやアセットの共有例

~ ~ ~ ~ ~

専門家に頼ったり、他の地域の「成功のレシピ」をコピペしない

ある子どもはシャニーに「僕が大きくなったら、この通りに住んできたことを誇りに思うよ」と言います。
また別の子は「学校にいる間も早く通りに戻って来たくてウズウズして、勉強に集中できなかった」と言います。

「誰もがつながっていたいと思っているのだから、それをどう実現するかはコミュニティー次第です」とシャニーは言います。
多くの人が「コミュニティーに参加したい」と思いながら、いざとなると参加しないことはよくあります。

意図的にコミュニティーを形成しようと人々が集まると、お互いの違い、対立点に目を向けてしまったり、声の大きい人や「専門家」が場をコントロールしがちです。そのような場は声の小さい人たちには決して居心地の良い場所ではなく、楽しい場所でもありません。

シャニーは、共通の土台、なによりも心から楽しいと思えることを見つけるという点に焦点を当てます。周りの人たちと共通点があるとは思わない前提で、共通点がないことにがっかりするのではなく、共通点を見つけたら喜ぶのです。

しかし、彼女は、ハルバート・ストリートの成功事例を別の場所で再現しようとすることには注意を促します。

地域開発に取り組もうとする多くの人たちは、他の地域での成功事例、つまり、「成功のレシピ」=「ベストプラクティス」を探し求めていて、それが見つかると、それをその通りに再現しようとします。しかし、それではうまくいきません。

ハルバート・ストリートの住民たちは、他人の真似をしたのではなく、自分たちがすでに持っているスキルや創造性を活かして、自分たちが心から楽しいと思ってやりたいことを実現させたのです。同じように、それぞれの地域が、それぞれ独自の強み・楽しみを見出す必要があります。

シャニーは、とにかく住民が一緒にできること、一緒にしたいことから始めることを勧めています。
ストリート・パーティーだろうが何だろうが、参加したくない人を巻き込む必要はありません。やりたくてムズムズするようなことを数名から始めるのです。
そうすることで自分たちのアイデンティティを身につけ、自分自身で生活を変えることできるという自信を持って、影響の輪を広げることができるのです。

~ ~ ~ ~ ~

「間違ったもの」や「問題」に焦点を当てる取り組みの4つの害悪

コーマック・ラッセル(Cormac Russell)は、シカゴのデポール大学(DePaul)の アセット・ベースド・コミュニティ・デベロップメント・インスティチュート(Asset-Based Community Development (ABCD) Institute)の教授で、ABCD Institute のヨーロッパのパートナーであるNurture Developmentのマネージング・ディレクターであり、世界中の国々で、ABCDやその他のコミュニティー主体のアプローチについて、地域のコミュニティー、国際機関、NGO、政府を指導してきました。

彼は言います。

コミュニティー開発の最初のきっかけは、例えば、少年犯罪や破壊行為などに対する懸念かもしれません。
しかし、「少年犯罪について何ができるか」は、問題に焦点を当てた否定的で誤ったテーマです。
テーマはポジティブであるべきです。例えば、「青少年:私たちの地域の未来にとって重要な財産」という、成長と可能性を感じさせるポジティブなテーマです。
何が悪いかではなく、何が強いかに焦点を当てましょう。

人やその地域にそもそも備わっている能力を損なわない方法で助ける方法を考えなければなりません。
そのためには、そこにいる人たちやコミュニティーの中にある強いものから始めるのが最善であり、間違っているものから始めるべきではありません。

そこにいる人々に焦点を当て、地域社会にすでに存在する能力から始めるのがよいという何千もの証拠があるにもかかわらず、政府や非政府のプログラムでは、人々の中にある間違ったもの、「貧困」、「過疎化」、「問題」、「ないもの」、「壊れたもの」、「病的なもの」に焦点を当て、それに執着する傾向があります。

悲しいことに、この焦点のずれが、世界中の何百万人もの人々、特に貧しい人々や地域社会に大きな害を及ぼしています。
コーマック・ラッセルは、その4つの害悪を挙げています。

1つ目は、助けようとする人たちを、その才能や可能性によってではなく、その人の欠点や問題によって定義してしまうことです。

2つ目は、トップダウンで問題にお金で対処しようとすると、助けを必要としている人に行くはずのお金が、実際には、その人たちにサービスを提供する人たちに行くということです。

3つ目は、積極的な住民の力、つまり草の根レベルで行動し対応する力が、ますます増大するプロフェッショナルと専門知識、その意識の高い人たちの力の前に後退してしまうことです。

そして最後は、欠陥があると定義された地域全体、コミュニティー全体が、自分たちにとって何かが変わる唯一の方法は、「正しいプログラムと専門家、潤沢な資金を持った外部団体が自分たちを救うためにやってくること」だと信じ込んでしまうことです。

~ ~ ~ ~ ~

参考文献
(1) Kari McGregor , “Changemaker Profile: Shanti Graham“, SHIFT, 2015/11/17
(2) Graeme Stuart, “Hulbert Street – building community in a street“, Sustaining Community, 2013/10/24
(3)  Emma Wynne, “Learning to get to know your neighbours and build a sense of community in your street“, ABC Radio Perth, 2018/3/8
(4) Rita Agdal, Inger Helen Midtgard, Cormac Russell, “Asset Based Community Development: How to Get Started“, Abundant Community, 2020/2/21

コメントを残す

CAPTCHA