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「私たちの仲間」と「そうでない人」:有害なグループ化を克服する方法

  • 投稿カテゴリー:Social Change
  • 投稿の最終変更日:2022年8月17日
  • Reading time:7 mins read

私たちは、他の人たちを「自分たちの仲間」と「そうでない人」に分けようとします。大昔であれば有効だったグループ化ですが、現代では有害な場合も多いです。今回はグループ化の無意識と意識的な作用と、有害なグループ化を克服する8つの方法を紹介します。

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はじめに

私たちは、他の人たちを「自分たちの仲間」と「そうでない人」に分けようとします。グループ化は人を含む動物たちが生き延びるために長い時間をかけて身に付けてきた能力ですが、現代社会ではそれが悪い影響をもたらすことも多く、多くの社会問題の原因にもなっています。
しかし、そのようなグループ分けの多くは、私たちの脳が無意識のうちに行っているのです。

今回は私たちに害をもたらす「自分たちの仲間」と「そうでない人」というグループ分けと、その対処方法を、スタンフォード大学の生物学・神経学・脳神経外科学の教授であるロバート・サポルスキー(Robert Sapolsky)の書籍「Behave(行動):The Biology of Humans at Our Best and Worst」からの引用を中心に紹介していきます。なお、現時点(2022/4)で本書籍の邦訳版は発刊されていません。

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無意識は意識よりも早い

私たちの脳の「扁桃体(へんとうたい:Amygdala)」は、恐怖、心配、敵意などの情動反応を処理します。私たち人間の脳は、自分たちの仲間ではない異種の人たちの顔をわずか0.1秒間見ただけで見分けることができます。そして、その違いに対して、0.2秒程度の時間で反応します。人種だけでなく、人の性別や社会的地位によるグループ分けも、瞬間的に、相手の顔を見た瞬間に行われます。
また、薬物中毒者やホームレスなどを目にした場合は、扁桃体ではなく、不快感(味覚的、倫理的、視覚的な不快感)を扱う「島皮質(とうひしつ:Insula)」が活性化します。

つまり、私たちの脳の認知や計画や意思決定をつかさどる部分(前頭前皮質(PFC)、特に前頭前皮質背外側部(dl-PFC))が意識的に認知するよりも早く、扁桃体や島皮質が勝手に自動的に反応して、グループ外の人たちに対して、敵意、脅威、不信感、むかつきなどを生み出すのです。

人は3~4才になるまでに、育った環境に応じて性別や人種で人をグループ化し、8才になるまでに同じ人種と他の人種を区別できるようになります。違う人種の表情は読み取りにくい一方で、同じ人種の人たちに対してはその表情から感情を読み取ることもできるようになります。

人が世界を自由に移動し始めたのはごく最近で、それまでの行動範囲はとても限られていました。私たちの先祖は人生に渡って、ごくわずかな人種の変化しか経験したことがありませんでした。大昔であれば、そのような異質な人との対峙は身の危険につながることもありました。危険に瞬時に対応しなければ、命を落とす可能性がありましたから、小さな違いにもすぐに対応する必要があったのです。例えば、対立する部族やトラや熊と出会って、時間をかけて意識的にすべて処理しようとしていては、その間に相手に襲われてしまう可能性がありました。

しかし、私たちは現在、先祖が全く対峙したことがない様々な人種の人たちと日常的に接している一方で、その人たちから命を奪われたり危害を加えられる可能性がとても小さい環境で生活しています。

図:無意識と意識的な認識のスピード差(イメージ図)

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グループ好きな私たち

私たちは、人種や性別などだけでなく、意識的にも様々なグループを作り、グループの中で協力関係や信頼を築こうとします。
例えば、趣味、お気に入りのスポーツチーム、出身県、出身大学、性善説派/性悪説派、アップル派/アンドロイド派、ミ-ちゃん派/ケイちゃん派(古すぎ。。)、納豆が好き/嫌い、などなど、どんな些細な事でもグループを作りたがります。

人間だけでなく、グループを形成する動物は他にも数多く存在しますが、信念や思想などでグループ化するのは人間だけで、また1人が数多くの異なるグループに属するのも人間だけです。

なぜグループ化するのかというと、メリットがあるからです。多くの動物が群れを成すのもメリットがあるからです。
ゲーム理論に「囚人のジレンマ(prisoners’ dilemma)」があります。「お互い協力する方が協力しないよりもよい結果になることが分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなる」というジレンマで、ゲームを1回行う場合はたしかに相手を裏切るのが合理的なのですが、ゲームを無限回繰り返す場合は(私たちの人生のように)、自分から裏切ることはせずに相手と協力した方が良い結果を生むのです。

「私たち」と「その他の人たち」のグループ化には弊害があります。
まず、自分たちのグループ(人種、音楽、アップルなど)の方が優れている、つまりその他のグループは自分たちより劣っているという偏見をもたらします。
また、グループ内の人たちをグループに同調するよう矯正したり、グループ内で義務や服従を強制しようとする一方、グループ外の人たちには否定的、対立的な姿勢を取ります。自分のグループが勝つことに喜ぶだけでなく、対立するグループが負けることにも喜びます。さらには、自分のグループ内の人たちは一人一人違う人だと見る一方、他のグループの人たちは、単純、均一なものとして同一視する傾向があります。
集団を作ることの弊害(グループシンク:集団思考)は以前も紹介しましたので、詳しくはこの記事を参照下さい。

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無意識を増強する力

Googleの「re: Work (Unconscious Bias:無意識の偏見に意識を向ける)」によると、もし私たちが意識的に処理できる情報が40ビットだとすると、私たちの心理的な情報処理の99.99996%は私たちの無意識が行っていることになります。

また、私たちには自分のグループ以外に対するネガティブステレオタイプがあり、グループ外の人たちを歪めて見ようとします。さらに、無意識を強化する確証バイアス(自分の信念を支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視したり集めようとしない傾向)の威力は強力です。

しかし、多くのグループ化が私たちの脳で自動的に処理されていて、そのバイアスの威力が強力でも、それに全く対応できないということではありません。

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有害なグループ化に対応する8つの方法

次に、「私たち」と「彼ら」を分けようとする有害なグループ化に対応する方法を8つ紹介します。

1.潜在的ステレオタイプ・潜在的バイアスを認め、明らかにする

「バイアスをなくそう!」「偏見はよくない!」「差別はやめよう!」と言うだけではほとんど効果がありません。
まず大切なのは、「誰にでも(自分にも)偏見がある、差別がある」と認めることです。私自身も「無意識の自分は差別的だ」と認めています。「あ、今無意識の自分が反応した!」と認められるから、次の対応ができるのです。
ステレオタイプやバイアスそのものは「無意識の自分」のものなので、それが差別的であっても「意識的な自分」を責める必要はありません。
あるものを無視したり、無い事にしようとしても、解決には結びつきません。無意識に反応する自分を認めるから、意識しコントロールできるのです。例えば、敵との戦いで相手を無視したり、見て見ぬふりをしても勝てないですよね?敵を認め相手をよく理解しないと勝つことはできません(無意識が敵という意味ではありませんが)。

2.プライミング(Priming)

プライミングとは、あらかじめある種の刺激(情報)を与えることによって、その後の行動に無意識に影響を与えることです。
先ほど、私たちにはネガティブステレオタイプがあって相手に無意識に悪いイメージを持ってしまうと説明しましたが、逆に意図的に良いイメージを関連付け、イメージの転換を図るのです。
ネガティブステレオタイプを感じる対象の人たちに対しては否定的なイメージを結び付けがちですが、例えば、意図的に楽しく買い物したり食事しているイメージ、自分と楽しく会話しているイメージ、自分が好きな物など、ポジティブなイメージや言葉を重ねるのです。
これをサブリミナルで行うことも効果があります。

3.相手のカテゴリーを変える、共通の特性を見出す(Recategorization, Shared attributes)

相手の分類を変えること(再分類)は難しいように感じるかもしれませんが、実は、私たちは実生活で意外に何気なく行っています。
例えば、それほど親密でなかった人たちとあるきっかけから(再分類し)、急に仲良くなったりします。いじめる側が急にいじめられる側に回されたり、人はこのような切り替えが簡単にできるのです。
「白人」「黒人」「黄色人種」ではなく、「動物」に対して「人間」という括りで見れば、どんな人種の人でもより緊密に感じられるかもしれません。
歴史的にも、戦争という究極の対立構造にある場合で、対立していた敵同士でも、ある出来事の後、急に味方同士になったり、川や橋を挟んで対峙する戦士同士がそのうちにお互いに親近感を共有することさえ歴史上あります。

4.パースペクティブ・テイキング(Perspective Taking)

パースペクティブ・テイキングとは、「相手の立場に立って物事を見たり考えること」です。数多くの科学的文献が、人間の成長にはパースペクティブ・テイキングが極めて重要であると示しています。以前紹介したエンパシーも同様の考えですね。
皆さんは「相手の立場になって考えて見なさい!」と小さい頃言われたでしょうか?パースペクティブ・テイキングは、他の多くの能力と同様に、年齢が低い子どもにはない能力で、成長に伴い身に付けていきます。

5.カウンター・ステレオタイピング(Counter Stereotyping)

カウンター・ステレオタイピングとは、バイアスによって抱くイメージと反対のイメージを強制的に結びつけることです。
例えば男性が持つ女性に対する偏見は、ひ弱さ、しなやかさ、優柔不断などから来るかもしれませんが、これらの逆のイメージ、例えば、力強くて先導力があるイメージを意識的に植え付けることでバイアスを弱められます。

6.カテゴリーやランクを変える(Changing the Rank Order)

例えば、「アジア人が箸と茶碗を持っている映像」は「アジア人」であることを強調させます。一方で、「アジア人がアメリカのヨセミテでロッククライミングをしているバックにヘビーメタルの音楽がかかっている」映像は「アジア人」のカテゴリーを意識させるのを弱めます。
別の例として、会社でうだつが上がらない万年係長(というカテゴリーがまだ存在するかは不明ですが。笑)に対してあなたが長年持つイメージも、その万年係長が実は日曜日の草野球チームで4番でエース、チームを勝利に結びつける活躍を目の当たりにしたら、全く違うイメージに置き換わるでしょう。
先ほど人は自分を様々にカテゴライズすると紹介しましたが、他人に対しても、違う分類や階層で相手の良い姿を強調させるのです。

7.接触(Contact)

相対するグループの人たちを、共通するとても狭いカテゴリーで接触させます。
例えば、様々な地域や人種の同年代の子どもたちをサマーキャンプに集め混合チームを作り、ある共通の目標を設定した後、共同作業にあたらせます。参加者全員が設定された目標に共感し納得できれば、目標達成の過程で参加者同士が打ち解けあう効果があります。

8.個別化・個性化(Individuation)

先ほど私たちは対立するチームの人たちを同一視すると説明しましたが、全体を見るのではなく、ひとりひとり個々の人として扱うことで、グループに対する単純化された見方を変えることができます。

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最後に

冒頭にも書いた通り、今回の内容の多くは、ロバート・サポルスキー(Robert Sapolsky)の書籍「Behave(行動):The Biology of Humans at Our Best and Worst」を参照しました。
とても中身の濃い本で、その内容に関しては折を見てまた紹介していきたいと思いますが、この本の厄介の所は、難解な単語の多さと、親しみやすくしようとして使っていると思われるスラングやくだけた表現が、非ネイティブにはむしろ理解を難しくするという、読み進めるのにとても骨が折れる点です。。。

世の中には2種類の人がいる。世界には2種類の人がいると信じている人と、そうでない人だ。

~ ロバート・ベンチリー

There are two kinds of people in the world, those who believe there are two kinds of people in the world and those who don’t.

~ Robert Benchley

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