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組織で見られるスキーマ。その弊害を乗り越える行動と支援と対話

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年4月30日
  • Reading time:6 mins read

スキーマとは、情報を後ですぐ思い出せるように単純化したり分類しておく私たちの知識構造です。情報を効率的に処理できるメリットがある一方で、いったん定着すると簡単には変わらない固定観念や先入観を生み出します。スキーマは組織にも弊害をもたらしますが、それを乗り越え、進化していくためには、リーダーの行動と支援と対話が必要です。

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スキーマ(schema)とは?

以前本サイトで紹介したように、私たちの脳の情報処理能力や情報保持能力は限られています。
限られた能力を使って、外部から入ってくる情報をできるだけ負荷なく、早く、効率的に処理しなければなりません。そのために、私たちの脳は、情報を単純化したり、分類したり、体系化しておきます。この知識構造を「スキーマ(schema)」と言います。スキーマは本サイトで以前も紹介しました。

例えば、洋食屋、蕎麦屋、寿司屋、回転ずし、フランス料理店、中華料理屋、割烹料理店、ファミレス、カフェ、これらは全て食べ物屋ですが、言葉を見たり聞いたりして瞬時に思い浮かべるイメージがそれぞれにありますね。スキーマがその手助けをしています。

また、ある種のスキーマは、決まった行動を開始するためのきっかけになります。この種類のスキーマは「スクリプト(script)」と呼ばれます。
今紹介した異なるジャンルのお店で、店に入ってから、席について、注文して、食事をして、支払いをすませて最後に店を出るまでの行動を思い浮かべてみてください。それぞれのお店で、少しづつ違いがありますよね。それぞれの店にスクリプトが紐づいているため、初めて入る店でさえ、どのような種類の店かさえ分かっていれば、店内に入ってから途方に暮れたり、店員にいちいちどうしたらいいか聞くことなく、ストレスなくスムーズに食事を楽しむことができます。
逆に下の図のように、店構えがスキーマと合致しないと、違和感を覚えたり、受け入れ難く感じたり、店に入ってからどうしたらよいのか事前に分からず、混乱したりします。

図:私たちのスキーマに合わないイメージ例

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私たちはスキーマを利用して、効率良く学習し、考え、行動することができます。私たちが今まで受けてきた教育では、例えば、数学の問題を繰り返し解いて、正しい解答にたどり着く解き方のパターンを覚えます。その解き方をいくつも覚えることで、様々な出題のパターンに対して特定のスキーマを適用させ、すばやく正確に答案用紙に書き出すことができます。この場合、スキーマは頭の中に叩きこんだ問題解法集やテンプレートとも言えるでしょう。私たちは既存のスキーマに合致する情報を、容易に理解し、処理し、適切な行動に移すことができます。

スキーマは、情報や経験にある意味を与える認知の枠組みであり、大まかに言って、以下の3つの特徴を備えています。(1)

  • 思考と行動のテンプレートで、それと一致する個人の経験、すでに獲得したスキルやプロセスと結びついている
  • スキーマの基になった事例と類似する新しい事例を素早く特定できる
  • 問題解決のための推論、予測、計画を導くベースとなる

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組織で見られるスキーマの弊害

スキーマは個人に限らず、職場や社会にもあります。職場では、日々の業務をパターン化したりマニュアル化することで、外部から次から次へと入ってくる情報に対して、その解釈に多くの時間を費やすことなく、誰もがすばやく正確に対応し、業務をこなすことができます。

しかし、スキーマはある種の固定観念もあり、先入観でもあり、バイアスでもあり、ステレオタイプ化でもあります。スキーマはいったん定着すると、変えるのがとても難しいので、私たちは、矛盾する情報に直面しても、その矛盾を深く考えることなく、既存のスキーマに沿って間違って判断し、行動してしまいます。
つまり、既存のスキーマに当てはまらない新しい情報に対して、新しいスキーマを生み出すのではなく、間違ったスキーマに当てはめて解釈したり、既にあるスキーマに適合するように情報を歪曲して解釈したり、スキーマに対する矛盾を例外事例として取り扱ったり、さらには理解できないため単に無視しておくこともあります。また、私たちは、自分が持っているスキーマに合うものにはすぐ気づいたり注意を向ける傾向がある一方で、スキーマに当てはまらない重要な新しい情報を軽視したり、それに全く気が付かないこともあります。

物事が急速に変化している社会で、私たちを助けてきたスキーマは障害になってしまうこともあるのです。

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以前本サイトで、私たちが直面する問題には「技術的な問題」と「適応的な問題」があると紹介しました。
「技術的な問題」は、実績がある解決法やノウハウが個人の頭や組織の中にすでにあるもの、つまり、既存の解決のスキーマがあるものです。
一方で、「適応的な問題」は、確立された解決策がない問題で、既存のスキーマをそのまま当てはめられない課題です。適応的な問題の解決には、「自身の変化」と「新しい学習」が必要になります。
私たちが犯す最も典型的な間違いは「適応的な問題」を「技術的な問題」であるかのように取り扱うことです。つまり新しい適応的な問題に対して、既存のスキーマを誤って当てはめて対処し、失敗してしまうことです。

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スキーマの弊害に対処し組織が変化していくために必要なもの

昨今、私たち個人や、私たちが働く組織では、新しい考え方やモデルを取り入れる変化が求められています。例えば、前回紹介したホラクラシーのような、従業員の参加型経営、従業員の意思決定への参加や権限移譲、エンパワーメントの強化などです。しかし、新しいモデルがなかなか導入できないのは、経営者と従業員の双方に、スキーマによる認知的な障壁があるためです。

人は変化に抵抗します。意識的に抵抗する場合もありますが、経営者や従業員の抵抗は、利己的、作為的なものというよりも、頭と体に染み込み長く定着したスキーマが足かせとなり、知らず知らず無意識のうちに適切でない処理をしている場合が多いのです。

これには、まず経営者側の問題があります。経営者自身が新しい意思決定のスキーマを明確に描けていない、またはコミットできていないという問題です。
つまり、口では立派なことを言っていても、経営者自身の思考や行動が古いスキーマを引きづっていて、自分の意識が変わっていないのです。従業員は、経営者の言動に矛盾を感じる場合、自ら率先して従来のスキーマから外れるようなことはせず、懐疑的に受け止めさえします。

経営者は、従業員に「宣言」したり「通知」するだけでは、変化は受け入れられないと理解しなければならず、それを予期しておく必要があります。たとえ変化が従業員が望むようなものだとしても、「宣言」や「通知」するだけで新しいスキーマが自動的に全員に受け入れられ、歓迎されるだろうと思い込むのは間違っています。一度定着したスキーマを変えるには、より多くの努力と時間が必要なのです。

組織変革の成功のためには、経営者の継続的な「行動」と「支援」の重要性をいくら強調しても、強調され過ぎることはありません。具体的には、以下の6点が必要です。(2)

1.まず、経営者は、変革の取り組みにおいて、それと相反する既存のスキーマが存在すること、そのスキーマは変化を妨げる自己強化サイクル機能を持っていること、従業員が変化の取り組みに対して矛盾した解釈を持つ可能性があることを理解する必要があります。抵抗を変化の必要なプロセスの一部として受け入れることができなければなりません。

2.このことを認識した上で、経営者は、従業員のさまざまな解釈とそれが生み出す感情について、従業員と「対話」する機会を設けなければなりません。一方的な「通知」だけでは変わることはできません。単に従業員の意見を聞くだけでも達成されません。威圧したり、強制したり、従業員を否定するような経営者の行動は論外で、従業員の古いスキーマを強化するだけです。

3.新しいスキーマへの移行には、経営者自身の行動変容が必要です。はっきりと目に見える形で、言動一致した誠実な行動を取るのです。従業員は、その行動を見ることで、新しいスキーマに対する信憑性を持つことができます。

4.経営者は、自らの行動がもたらす影響の大きさに敏感でなければなりません。会議中の何気ない一言や、一見些細な個人的な言動でさえ、意図せず古いスキーマを強化する働きをしてしまう可能性があることを常に意識しなければなりません。

5.新しいスキーマを定着させるためには、段階的かつ継続的な支援が必要です。この間、経営者は、言動一致した行動を取り続ける必要があります。もし、経営者と従業員の間に溝や不信感がある場合は、より一層大きな努力と時間が必要となることを覚悟しなければなりません。

.特に古いスキーマが強く長く定着している組織では、経営者が常に新しい意思決定のスキーマと整合性のある行動を取れるとは限りません。経営者は、従業員に対して権限を与えたいと望んでいても、それが何を意味するのか、どう行動すべきか、どのような仕組みを作ればよいのか、そもそも将来ありたい姿を完全に理解していないことさえあります。
その場合、それを従業員に正直に伝える必要があります。そして、これから共に学んでいこうと伝えるのです。

あらゆる面で正直で誠実な言動が必要なのです。

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参考文献
(1) Sandra P. Marshall, “Schema-Based Problem Solving”, Encyclopedia of the Sciences of Learning, Springer, Reference work, pp 2949–2950, 2012.
(2) Giuseppe Labianca, Barbara Gray, Daniel J. Brass, “A Grounded Model of Organizational Schema Change During Empowerment“, Organization Science, Vol. 11, No. 2, pp.235-257, March–April 2000.  

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