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適応型リーダーシップと変革型リーダーシップ:Adaptive leader & Transformational leader

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年4月2日
  • Reading time:6 mins read

様々なリーダーシップ理論の中から、変革のリーダーシップモデルを2つ取り上げて紹介します。1つ目の「適応型リーダーシップ」は、環境の変化に適応して自らを変化させるリーダー、2つ目の「変革型リーダーシップ」は、リーダーとメンバー(フォロワー)の関係に重きをおいた変革のリーダーのモデルです。

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はじめに

20世紀初頭から、多くのリーダーシップ論やリーダーのモデルが紹介されてきました。当初は、リーダーの特性や性格、行動、スタイルに焦点をあてたものが多く、その後、組織の集団との関わりを含め、様々な視点から論じられてきました。膨大な研究を総合すると、一般に紹介されるようなリーダーシップに関する単純化された見方よりも、はるかに複雑な全体像が浮かび上がってきます。

今回は、変革のリーダーシップモデルを2つ、比較的新しいリーダーシップのモデルである「アダプティブ・リーダーシップ(適応型リーダーシップ、adaptive leadership)」と、「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(変革型リーダーシップ、Transformational leadership)」を紹介します。

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アダプティブ・リーダーシップ(適応型リーダーシップ、adaptive leadership)(1)

アダプティブ・リーダーシップ(適応型リーダーシップ、adaptive leadership)は、日本でも以前メディアで紹介されたリーダーシップの専門家ハーバード大学のロナルド・ハイフェッツ(Ronald Heifetz)とマーティ・リンスキー(Marty Linsky)が、2009年発刊の共著「The Practice of Adaptive Leadership(邦題)最難関のリーダーシップ ― 変革をやり遂げる意志とスキル」で提唱したリーダーシップのモデルです。

技術的な問題 vs. 適応的な問題

適応型リーダーシップは、前例の少ない困難な問題に対処し成果を上げるために必要なリーダーシップですが、まずその前に、問題には「技術的な問題」と「適応的な問題」の2種類あることを認識する必要があります。

「技術的な問題」は、解決するための実績のある対応策やノウハウが既にあり、その専門家もいて、それらを利用して解決できる問題です。一方で、「適応的な問題」には、確立された解決策や専門家が存在しません。問題の定義自体も曖昧で、多くの場合、その問題の定義さえ間違えています。

適応的な問題の解決には、技術的な問題を解決してきた既存の知識やノウハウ、過去の経験をそのまま適用することはできず、「自らの変化」と「新しい学習」が必要になります。
最も典型的な失敗例は「適応的な問題」を「技術的な問題」であるかのように取り扱うことです。「技術的な問題」の解決方法しか知らない多くのリーダーが、問題はすべて「技術的な問題」の対処方法で解決できると思い込み、「新しい学習」に必要な「自らの変化」、今まで築き上げた経験やノウハウから離れること、勝手知ったる現状から確証の持てないやり方に移行するのを嫌ったりするからです。

多くの場合「適応的な問題」は外的環境の変化によって生まれる問題ですが、たとえ外的環境の変化への対応であっても、問題は組織の中の「人」にあり、解決策も「人」にあります。
「適応的な問題」の解決には、アダプティブ・リーダーが必要です。適応型リーダーはその環境の変化に応じたビジョンを掲げ、成果が出ないのに今までのやり方に固執してメンバーの時間とエネルギーを浪費させるのではなく、ビジョンの達成に焦点を向けさせることで既存の考えややり方からメンバーを切り離すのです。

私たちはしばしば、リーダーシップを「権力」や「権威」と混同してしまいますが、アダプティブ・リーダーシップは、「権力」や「権威」ではなく、「新しい行動」や「プロセスの変化」として考えた方がよいでしょう。

図:「技術的な問題」と「適応的な問題」の対応
adapted from Figure 2-3, “Leadership from a position of authority” (1)

アダプティブ・リーダーシップ(適応型リーダーシップ)の特徴

以下、アダプティブ・リーダーシップの特徴です。

  • リーダーシップが「権力」や「権威」ではなく、自身の「行動」と「チームワーク」であることを知っている。
  • 組織のキャパシティ(能力)を向上させる変化をもたらす。
  • 挑戦的、実験的なマインドセットを持ち、新しいチャレンジを試み、新しい知識を発見し、吸収する。
  • 上級職の知恵への依存度を減らし、組織の多様性への依存度を高め、その集合知を組織のために生かす環境を作る。
  • 人々の意見を聞き、受け入れられているという気持ちをメンバーに芽生えさせ、誠実な関係と文化を育む。
  • 過去の成功や長く築き上げたレガシーを手放すことへのメンバーの精神的なロスや抵抗に対処できるエモーショナル・インテリジェンス(自分自身と他者の感情を認識する能力、感情知能:EQ)があり、メンバーと信頼関係を築くことができる。
  • 過去からの脱却のため、組織に意図的に不均衡をもたらすが、変化が痛みを伴うプロセスであることを理解しており、過度なストレスを与えないように変化のレベルをコントロールする。
  • 新しいことを学ぶ。もし、導入した新しい手法が望ましい結果をもたらさないのであれば、その手法を手放す。間違いを認め、非生産的な戦略を変更または放棄できる。繰り返し試みることで成長しゴールに近づく。
  • 組織の変化を、関係するステークホルダーの主な価値観、能力、夢と結びつけることができる。
  • 大規模な変革は徐々に進行し、時間を要するものであり、そのためには粘り強さが必要であることを理解している。また、そのプレッシャーに耐えることができる。

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トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(変革型リーダーシップ、Transformational leadership)(2)

では、次にトランスフォーメーショナル・リーダーシップ(変革型リーダーシップ)を紹介しましょう。

変革型リーダーシップは、アメリカの歴史家・政治学者・リーダーシップ研究の権威であるジェームス・マクレガー・バーンズ(James MacGregor Burns)が1978年に発刊した書籍「Leadership」から広まり、1985年、リーダーシップ・組織行動学者のバーナード・モリス・バス(Bernard M. Bass)によって更に発展したものです。
「最新」のモデルではありませんが、変革型リーダーシップは今日に完全に通じます。変革型リーダーシップの原理は時代によって変わるものではなく、それを適用する環境が変化するだけだからです。

変革型リーダーは、さまざまな環境に適応し、必要な変化を特定し、変化を導くためのビジョンを作り、そのビジョンと情熱、自己の利益を超えた共通の目標を共有することで組織をまとめ、メンバーの期待、認識、動機の変化をもたらします。

変革型リーダーとの対比として紹介される従来型のリーダーのスタイルが、トランザクショナル・リーダーシップ(取引型リーダーシップ、Transactional leadership)です。取引型リーダーシップは、産業革命で生まれた、効率化、合理化、成果の最大化に主眼に置く監督型・指示型のモデルで、報酬と懲罰の両方を使って、メンバーからのコンプライアンスや服従を引き出します。
バーンズは、取引型リーダーシップを「価値のある物との交換を目的として、ある人が他人と接触しようとする場合に発生するリーダーシップのスタイル」と説明しています。このタイプのリーダーシップが効果的なのは、既に明確に決まっている手順に沿って作業を行う場合や、危機的状況、緊急事態発生時などです。

トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(変革型リーダーシップ)の特徴

以下、変革型リーダーシップの特徴です。

  • 変革型リーダーは、自らメンバーにとっての理想的なロールモデルとなって献身的に行動し、自分がチームに求める資質を有言実行することで、メンバーの信頼、尊敬を獲得し、動機付けの影響力を与えます。
  • 変革型リーダーは、明確で説得力のあるビジョンを持ち、その将来像にたどり着くために期待される行動を平易な言葉やイメージで分かりやすく示すことで、メンバーに使命感と行動をもたらし、集合的なアイデンティティを築きます。
  • 変革型リーダーは、メンバー1人1人のニーズや感情に寄り添います。メンバーの強さと弱さを理解し、目的達成のために足りないスキルや気持ちを見出し、サポートをする個人的な配慮があります
  • メンバーに、現状や既存の前提、思い込みを疑い、問題を定義しなおすことを促し、創造的に考え、自律的に行動することを動機づけます。またそのために必要な意思決定をする権限を与えます。

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最後に

アダプティブ・リーダーシップ(適応型リーダーシップ)が、環境の変化に応じて自らを変化させる点によりフォーカスがある一方、トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(変革型リーダーシップ)は、組織に変化をもたらすリーダーとメンバー(フォロワー)の関係によりフォーカスがあるという着目点の違いはありますが、その見方の違いこそあれ、多くの特徴が共通するのを理解できるかと思います。
変革のリーダーには、従来型の問題解決やメンバーとの関係(技術型、取引型)から抜け出し、メンバーの感情を理解して、信頼に基づく関係を構築し、分かりやすく共感できるビジョンを掲げ、メンバーには権限を与え自律的な行動を引き出すとともに、自らも率先して行動し、みんなで学習しながら成長することが求められます。

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参考文献
(1) Ronald Heifetz, Alexander Grashow, Marty Linsky, “The Practice of Adaptive Leadership: Tools and Tactics for Changing Your Organization and the World”, Harvard Business Press, 1st edition, 2009/5.
(2) Bernard M. Bass, Ronald E. Riggio, “Transformational Leadership, 2nd edition”, Psychology Press, 2005/10.
(3) Peter G. Northouse, “Leadership: Theory and Practice, 8th edition”, SAGE Publications, Inc., 2018/3.

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