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「ナッジ理論」で、ヒジで軽く突くように組織改革

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年6月22日
  • Reading time:4 mins read

ナッジ理論は「相手に選択する権利を与えつつ、ヒジで軽く突くように、特定の選択肢に誘導させる」理論です。「Minimum Viable Change(MVC)」=小さな変革を実現する効果的なツールです。

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前回、組織改革は「Minimum Viable Change(MVC)」で実現するで、組織を大きな変革で一気に変えようとするのではなく、小さな変革を連続させて成功に導くと紹介しました。

今回は、その小さな改革をどう実現するか、更なるアイデアを与える「ナッジ理論」を紹介します。
ナッジ(nudge)」は直訳すると「ちょんと軽く突く」という意味です。
ナッジ理論は「相手に選択する主体性を与えつつ、ヒジで軽く突くように、特定の選択肢に誘導させる」理論です。強制するわけでなく選択するのは相手なので、抵抗なく合理的な⾏動を促す事ができます。

シカゴ大学の⾏動経済学者リチャード・H・セイラ―教授が、2017年にノーベル経済学賞を受賞したことから、同氏が提唱した「ナッジ理論」が世界中に広まりました。

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「ナッジ理論」の例を挙げます。
小さい男の子(「あきと君」としましょう)を、お爺ちゃんが散歩に連れ出そうとしています。

お爺ちゃん:「あきと君、散歩に行こうか?」
あきと君:「いやだ、行きたくない。」
お爺ちゃん:「あきと君、今日は天気が良くて気持ちいいよ。散歩に行こうか?」
あきと君:「いやだ、行きたくない。」。。。

あきと君、散歩には出掛けたくないようですね。お爺ちゃん作戦変更です。

お爺ちゃん:「あきと君、短い散歩と長い散歩ならどっちがいい?」
あきと君:「短い散歩がいい」
お爺ちゃん:「あきと君、歩いていくのと、自転車で行くのはどっちがいい?」
あきと君:「自転車がいい」
お爺ちゃん:「あきと君、この曲がり角は右に行くのと左に行くの、どっちがいいかな?」
あきと君:「右に行く!

このような感じで、あきと君、お爺ちゃんと結局長い散歩をしてしまうのでした。

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子供だけではありません。
例えば、寿司屋にランチにやって来たサラリーマン。メニューは松が2,500円、竹が1,500円、梅が1,000円。
お財布と相談すると梅を選びたいところですが、、、

女子店員:「ご注文をお伺いします!」
サラリーマン:「あ、竹でお願いします。。。」

メニューが3種類あると、半分以上の客が「真ん中の価格」を選んでしまうそうです。

あきと君のお爺ちゃんも寿司屋のおやじも、強制することなく相手に選択させているのに、自分の思い通りに相手を誘導できているわけです。

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このナッジ理論、各方面で取り入れられています。
イギリスやアメリカでは公共政策でも使われています。日本でも日本型ナッジ・ユニットという官民学・省庁横断のナッジの活用に向けた取組が2017年から始まっています。

最近では、手を洗う習慣がない海外の国々で、コロナ対策でいかに手を洗う習慣を広められるか、例えば効果的な標語やポスター、イラストの掲示や、トイレから手洗い場に誘導する矢印を床に付ける等、ナッジ理論を利用した検討もされています。

NHKの「みんなで筋肉体操」はご覧になった事はあるでしょうか?私、結構好きなんですが(笑)、各筋トレの終盤に「あと5秒しかできません! 」という声がけがあります。すると「あと5秒しかないから頑張ろう」という気持ちになります。これも人間の「損失回避」の性質を利用したナッジです。
「損失回避」は同じ金額であれば、得をするより損をする時の感情の方が大きいという人間の性質です。自動販売機に入れた100円が返ってこない場合の怒りと、おつり受けに100円を見つけた時の喜びを比べると、100円が返ってこない怒りの感情の方が大きいですね。

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部下に提案を求める割には、どんな提案でもケチをつける上司はいませんか?
「部下の仕事は取り合えずダメ出しする」スタイルが染み付いている上司です。

このような上司にあなたの最高のアイデアや渾身の改革案を「部長!これは絶対に当社でやるべきです!」なんて持って行っても、「そんなのうちの会社でやったことがないよ!」提案は即却下、話がそれ以上進む事もなく消滅。。。なんてことはよくあります。

そこで、ナッジ理論を利用して次のような提案の仕方はどうでしょうか?

あきと係長:「部長!良い案が2つ浮かんだので2案作ってきました。私はA案が〇〇の理由で良いかなと思うのですが、◇◇のデメリットもあって悩ましいです。どちらが良いと思いますか?」
部長:「どっちもひでーけど、むしろこっちのB案がまともかな」
あきと係長:「どうすれば、もっと良くなりますかね?」
部長:「おまえな、まずそもそも両方とも△△の視点が全然足りてないんだよ。。」

と、あきと係長、首の皮がつながるどころか部長からアドバイスまでもらうことができました。
この場合あきと係長は2案提示して、どちらに転んでも良い形に仕込んでおいて、部長に選択の意思決定を与えているのです。3案あると更に良いかもしれませんね。
人は自分が決定に参加した事に対する関心は、そうでない場合に対して大きく高まります。

よく考えると、部長の反応は予測可能です。全てダメ出しなのですから、むしろ無茶苦茶分かりやすいです(笑)。「また部長に却下されたよ。。。」を何回も繰り返すより、むしろそれを逆手にとってプランする視点も必要でしょう。複数案を用意する方法を少しアレンジして、ダメ出しされる前提の捨て案をまず持っていって、ダメ出しされた部分を解決する本命案を後から出す、ということも考えられます。

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チェンジマネジメントは人の行動の変化を実現し成果を上げる事が目的ですから、ナッジ理論はチェンジマネジメントにも応用できます。
例えばナッジ理論を利用して、意図的にオフィスのレイアウトを変更したり、社内アプリの設定変更等で、従業員の行動の変化を引き起こす事もできます。

ナッジ理論はチェンジマネジメントそのものに取って替わるものでは決してありませんが、抵抗を回避し、チェンジを後押しする、「Minimum Viable Change(MVC)」=小さな変革を実現するためのとても効果的な補完ツールです。

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