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仕事のモチベーションと金銭的報酬の関係 work motivation

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2024年4月21日
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給与は仕事のモチベーションや成果と必ずしも相関しているわけではなく、むしろモチベーションや成果を下げることさえあります。最高のモチベーションは、給与を上げ続けることや従業員をコントロールすることで生まれるのではなく、従業員を支援することで生まれます。

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はじめに

前回の記事では、モチベーションについて広く説明しましたが、今回は「仕事の」モチベーションに特化して紹介します。とりわけ、給与や報酬に焦点を当て、それが従業員のモチベーションにどのような影響を及ぼすのか、お金と仕事のモチベーションの関係を詳細に見ていきます。

前回紹介したモチベーションに関する用語を今回も多く使っているため、それらの用語に不案内な方は、前回の記事こちらの記事をご覧ください。

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仕事のモチベーション:Work motivation

仕事のモチベーションには様々な要因が影響します。
従業員の個人的なニーズや期待、業務の特性、他の従業員との公平さや公正さ、管理者がどのようにコミュニケーションをとり、どのようなフィードバックを与えるかなどです。
管理者にとって、従業員のモチベーションを理解することは、パフォーマンスを高め、ビジネスを成功に導くために不可欠です。

しかし、仕事という概念そのものは、従業員が雇用主に時間や努力や成果を提供し、それが報酬と交換されることを意味しています。そのため、報酬抜きに仕事のモチベーションを語ることはできません。

報酬の効果は、単に従業員を職に引き付けるだけでなく、質の高いパフォーマンスを引き出すかどうかが問われます。しかし、給与を上げれば、従業員はもっと頑張るだろうという古い考え方は、単純すぎます。報酬額と仕事の成果は必ずしも相関しているわけではなく、むしろ報酬がモチベーションや成果を下げることさえあるのです。

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仕事のタイプと報酬の設定

仕事は大きく次の2つの種類に分けることができます。

タイプ1:業務のやり方が明確で、管理者は、従業員にそのやり方を理解させ、確実かつ、もっと早くもっと多くおこなうように指導、管理する
タイプ2:業務のやり方が明確でなく、管理者は、従業員に主体性を与え、目的を達成するために、複雑な課題に対して情報を分析し創造的に考え行動し、成果につなげることを支援する

タイプ1は、産業革命以来主流であった仕事のあり方で、現代においてはタイプ2の仕事が占める割合が拡大してきています。タイプ1の仕事は、成果を明確な数字で表しやすく、成果と報酬を連動させるのは比較的容易ですが、タイプ2は報酬を適切に設定することが難しくなります。むしろ報酬を間違った行動と結びつけてしまうケースもあります。

それぞれのタイプの仕事に対して、報酬のみならず、効果的な管理手法も異なりますが、いまだにそれを理解せず、画一的で間違った手法を押し付ける会社や管理者が多数を占めています。

従業員側から見れば、どのタイプの仕事であれ、多くの人たちにとって、仕事が人生の大きな割合を占めることに変わりないため、仕事が生きるための収入源となる単なる労働力提供の場や、耐え忍ぶべき時間であるよりは、それ自体が自己実現や充実感、個人的な満足や社会とのつながりをもらたすような意味あるものであることを望みます。

研究によれば、どちらのタイプの従業員でも、管理職が従業員の自主性を支援することで、従業員は仕事への取り組みの価値を内面化し、より自律的に動機付けられ、コミットメントやエンゲージメントが高まり、その結果、成果が上がり、仕事への満足度や幸福感が高まることが示されています。
つまり、従業員の欲求を支援する環境を提供することは、雇用者、被雇用者双方にとって有益です。

従来型の外発的動機づけ制御型のインセンティブを前提としたモチベーション戦略は、必ずしもこのニーズを満たすものではなく、正反対の考え方に取って代わりつつあります。

最高のモチベーションは、従業員をコントロールするのではなく、支援することで生まれます。
成功している企業では、職種や組織の大小を問わず、飴と鞭で人をコントロールしようとするものから、内発的動機づけ、つまり、より自律的な仕事のモチベーションを醸成し、仕事へのコミットメントにつなげるようなスタイルへと変化しつつあります。

しかし、そのような自律性サポートの原則を受け入れている会社はまだ多くはありません。いまだ大多数が昔と変わらない対応を取ります。管理者も業績に対する強いプレッシャーに直面しているため、飴と鞭のような近道を選択しがちです。その結果、従業員はやる気をそがれて、不本意ながら、仕事から満足度や幸福感を得ることを諦めて、給与を得ることしか考えなくなります。そして、これが相乗効果となって負のスパイラルに陥っていきます。

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報酬がモチベーションに及ぼす様々な影響

先ほど述べたように、報酬額は仕事のモチベーションや成果と必ずしも相関しているわけではなく、むしろ報酬がモチベーションや成果を下げることさえあります。

例を挙げましょう。

日本の大企業の中には、いまだに、波風を立てず、ゆえに大きな成功もしないが失敗もしない従業員を、勤続年数をベースに年功序列的に昇給させたり、昇格させる会社が多くあります。
このような給与設定の会社では、当然のことながら、従業員にも「波風を立てず、ゆえに大きな成功もしないが大きな失敗もせず、長く居続けることを目指す」動機が生まれます。
ちょっと難しい言葉を使うと、これを報酬の機能的意義(functional significance)と言います。
会社がそのような従業員を待遇面で評価するので、従業員がそのように志向するのは当然なのです。そして、長くそのような環境にいると、従業員の方もそれが当たり前のように感じるようになります。
これを外発的動機の内面化(internalization)と言います。

このような人たちが中核をなす会社では、自律的、主体的に仕事をする従業員や、リスクを冒してチャレンジする従業員は評価されないため、そのような行動は見られなくなります。そのような会社で、成果主義型の報酬制度を取り入れている所もありますが、形式上取り入れているに過ぎないため効果は上がりません。

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外発的動機は内発的動機を損なう

研究者たちは、ガソリンスタンドや金融機関まで様々な職種を対象にした研究で、従業員の外発的動機(すなわち、お金のために働くという制御型動機)と内発的動機(すなわち、意義や楽しみのために働く)が負の相関関係にあることを発見しました。(1)

人はもともと内発的動機をもっておこなっていた自主的な行動に、外発的に動機づけされることを嫌います。例えば、無償でおこなっている自発的な善意に対して「これからはきちんとお代をお支払いしますので、ぜひ今後も続けてくださいね」と言われると、むしろやる気をなくすのです。
このように外発的動機が内発的動機を損なうことを、クラウディング・アウト効果(crowding out effect)と呼びます。

別の研究で、ある工場で従業員に対して導入した勤怠表彰プログラムの結果を分析したものがあります。(2)
導入された表彰プログラムは、勤怠の成績によって報酬を与えるもので、それまで遅刻など問題の多かった従業員に対しては短期的にはプラスの効果をもたらしました。しかし、その効果は長続きせず、勤怠改善を定着化させるまでには至りませんでした。

問題だったのは、表彰プログラムという外発的報酬が、それまで真面目に出勤していた従業員の内発的動機を押し殺し、彼らの時間厳守率は向上するどころか8%も悪化したのです。
問題のある従業員がごく当たり前のことを守るだけで追加の報酬を受け取れるようになったため、それまで真面目に取り組んできた労働者が不公平感を持ったり、正当に認められていないとばかばかしく感じ、彼らの内発的なモチベーションが下がってしまったのです。
このような、外発的報酬がもたらす負の波及効果を、モチベーションの漏出効果(motivational spillovers)と呼びます。

私自身にも似たような経験があります。
本サイトのプロフィールにあるように、私はTOEICで990点を取っていますが、当時、勤務先で満点を取った従業員は初めてだったため、会社から表彰され、わずかながらの報奨金を頂きました。
しかし、周りの人たちから「いいな~」とか「そういうお金はみんなを飲みに連れていって使い切るものだ」などと言われて、嫌な思いをしたことがあります。
報奨金は、私が英語学習のために自己投資してきた金額の数パーセントに過ぎず、こんなわずかな報酬で恩着せがましく何か言われるなら、もらわない方がよっぽど良かったと思ったほどで、マイナスの効果しかありませんでした。

さらに別の研究結果を紹介しましょう。(3)
ノルウェーの保険会社における報酬制度です。
この会社では、販売成績に左右されない基本給プランと、販売成績に従って各四半期末または年度末にボーナスが与えられる成果報酬プランのどちらかを従業員が選ぶことができました。
データの分析により、販売成績に依存しない給与は自律的動機を高め、販売成績に対するインセンティブを与えたプランは制御的動機を高め、自律的動機を低下させることが分かりました。
また、自律的動機を持つ従業員は、仕事を辞めたいという願望が低く、制御的動機を持つ従業員は仕事を辞めたいという願望が高いことも分かりました。つまり、従業員の自律性ではなく従業員に対する制御を高めたことで、離職率が高まったのです。

従業員のみならず、経営者も同じです。
最近はアメリカのみならず日本でも経営者へのストックオプションを与える会社が増えてきましたが、経営者が株価を上げる近道を取ろうとするため、長期的には会社に損害を与えることは数多くの研究で指摘されていますし、倫理上の問題を引き起こし、実際に会社を倒産させたケースもあります。

ストックオプションの悪い点は、株主の利益しか見ていないこと、そして、成果主義(performance-focused rewards)よりもさらに悪い、彼らの仕事とは直接的な関係の薄い様々なマクロ要因が影響する結果主義(outcome-focused rewards)であることです。

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すべての外発的動機が内発的動機や自律性を損なうわけではない

このように金銭などの外発的動機が内発的動機を損なうことはその他数多くの研究で示されていますが、すべての外発的動機が内発的動機や自律性を損なうということではありません。

例えば、金銭や物質的報酬などの有形の報酬を条件を付けない形で提供する場合や、予期せぬ形で与える場合、あるいは目立たない形で報酬を与える場合、内発的動機は損なわれません。

むしろ、自律性を支援するような文脈の中で、業績に応じた有形の報酬を「よく頑張った」とか「ありがとう」と伝えて与える場合は、報酬もフィードバックもない場合に比べ、内発的動機をさらに高める効果があります。
しかし、それが従業員をコントロールしようという意図を持つ場合、内発的動機や自律的動機を損なってしまいます。

従業員の自律性や主体性を評価したり、感謝など肯定的なフィードバックのメッセージを伝えながら報酬を与えることと、相手をコントロールしようとしたり、何らかの影響を及ぼす意図をもって与えることは、従業員の内発的動機に真逆の影響を及ぼすのです。

これには、先ほど紹介した報酬の機能的意義が関わっています。
つまり、報酬を与える側は、意図する、しないにかかわらず、何らかの機能的意義を報酬に付け加えるのです。条件付きでない報酬や、サプライズの報酬、目立たない報酬は、概して、制御的な機能的意義をもたず、内発的動機づけを損ないません。
一方で制御的な報酬は、せっかく報酬を与えているのにもかかわらず、その効果を打ち消す機能的意義を持ってしまうのです。

以前も紹介しましたが、私たちは生活のためにお金を稼がなければなりませんから、無償で仕事をすることはできません。給与は必要です。しかし、給与は会社が従業員に仕事をさせる上で最低限必要な条件にすぎず、金銭などの外発的動機がもたらす効果には限界があるのです。ある程度以上に外発的な報酬を与えても、エゴを膨らませるだけで、仕事への効果は薄くなります。むしろ、報酬がある程度以上高くなると、その高くなった給与を保とうと現状維持を強化します。

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金銭以外の報酬の選択

ここ数十年の間に、金銭でなく、様々な形で報酬を提供する会社が増えてきました。
例えば、給与を減らして休暇を増やすとか、健康保険を増やすとか、教育の機会を得るといった選択肢をとることができるようになりました。これらの選択肢が従業員にとって魅力的な場合は、従業員が望むものを与えるという意味だけでなく、従業員に仕事と生活に対する選択肢やコントロールの感覚、つまり主体性を与えることとなり、ポジティブな結果をもたらす可能性が高くなります。(4)

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さいごに ~ 自己決定理論(Self-Determination Theory)

以上、今回は給与や報酬がモチベーションに与える様々な影響を紹介しました。

今回紹介した内容は、主に、アメリカ、ロチェスター大学の心理学教授リチャード・M・ライアン(Richard M. Ryan)とエドワード・L・デシ(Edward L. Deci)の2017年の共著「Self-Determination Theory : Basic Psychological Needs in Motivation, Development, and Wellness」を参照しています。

本書は、1985年に2人が「Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior」を書いた後の、20年以上に及ぶ包括的な研究結果を追加し、最新の研究レビューを反映しています。内容がとても濃くかつ広範囲に及ぶ研究をまとめていて、とても参考になります。
英語版しかなく、また安くもありませんが(汗)、ご興味のある方はご覧ください。

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なお、以前も紹介した自己決定理論(Self-Determination Theory)は、そのデシとライアンが開発し、その後広く研究されている有名なモチベーション理論で、3 つの基本的な心理的ニーズを人間の普遍的なものとして捉えています。

その3つの基本的な心理的ニーズは、自律性(autonomy)有能性(competence)関連性(relatedness)です。

1 つ目の自律性は、自分の意志と行動が一致しており、統合されているという感覚に関連する心的状態で、自律的な行動は、その人の真の興味や価値観と一致しています。

2つ目の有能性(コンピテンス)とは、自分の能力の有効性と行動の効果を感じたいという基本的なニーズを指します。 人は、仕事やふだんの生活の中で自分は効果的に行動できる、あるいはできていると感じる必要があります。

3つ目の関連性は、社会とのつながりを感じることに関係しています。 人は、他人から気遣われていると感じたときに関連性を感じます。 しかし、関連性とは、帰属意識を持ち、自分が重要であると感じることでもあります。したがって、関連性にとって同様に重要なのは、他人に役立ったり、社会に貢献している自分を経験することです。

自己決定理論の研究では、この3つの基本的な心理的欲求の充足が、従業員のパフォーマンスにとっていかに重要であるかを示しています。内発的な価値観、そして目的意識を促進する組織は、従業員の欲求の充足、ひいてはコミットメントとエンゲージメントを高めます。
組織において、従業員のモチベーションをどうやって上げられるのかというのは尽きることのない課題ですが、外発的動機やインセンティブを与えるよりも、この3つの心理的ニーズを満たすための環境を整えることが重要です。

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参考文献
(1) Bård Kuvaas, “At the Forefront, Looking Ahead: Research-Based Answers to Contemporary Uncertainties of Management. Chapter 12: The Relative Efficiency of Extrinsic and Intrinsic Motivation“, Amir Sasson(ed.), Universitetsforlaget, 2018.
(2) Timothy Gubler, Ian Larkin, Lamar Pierce, “Motivational spillovers from awards: Crowding out in a multi-tasking environment“,  Organization Science, 27(2), 286–303., 2016.
(3) Bård Kuvaas, Robert Buch, Marylène Gagné, Anders Dysvik, Jacques Forest, “Do you get what you pay for? Sales incentives and implications for motivation and changes in turnover intention and work effort“, Motivation and Emotion, 40, 667–680., 2016.
(4) Arran Caza, Matthew W. McCarter, Gregory B. Northcraft, “Performance benefits of reward choice: A procedural justice perspective“, Human Resource Management Journal, 25(2), 184–199, 2015.

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