自信と野心はリーダーに登りつめるための素質の1つです。しかし、それらは組織の階段を登るにつれて、リーダーとして持つべきではない過信、慢心へと変わっていきます。つまり、エゴは「リーダー」になるために必要となることがあるものの、「良いリーダー」になるためには毒になるという、リーダーシップの大きなパラドックスがあるのです。
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エゴにかられたリーダーたち
素晴らしいリーダーは、明確なビジョンを掲げ、人に共感する力を持ち、人の話を聞き、人を鼓舞し、謙虚でありながら、リスクを取る際の大胆さと慎重さのバランスに優れています。
しかし、残念ながら、そのようなリーダーは世の中に多くは存在しません。
むしろ、伝統的な組織では、不健全なエゴにかられ、政治力で組織の階段を登ってきた高慢なリーダーが多く存在します。そのような人たちは、出世して地位を上げ、より多くの力を手に入れるほど、自らのエゴを肥大化させてきました。
組織の階段を登っていくと、周囲の人たちの多くが自分の言うことに耳を傾けるようになり、何を言っても支持してくれたり、自分を喜ばせようとしてくれるようになります。これらはすべて、私たちのエゴをくすぐるものです。エゴはくすぐられると、さらに膨らんでいきます。そして、私たちはその増長したエゴに麻痺していきます。
権力におぼれ、エゴに麻痺すると、人は、自分をよく見せることにエネルギーを費やし、自分が手に入れたものを防御しようと躍起になり、それを妨げる存在やリスクを出来るだけ排除しようとします。
その結果、多くのリーダーは、虚栄のプライドと過信に支配され、勘違いして思い上がり、人の話を聞かずして人を見下し、言動に一貫性がないだけでなく、時に、顧客との接点を失ってでも、自分を正当化し、衝動的で破壊的な言動さえ取るのです。
エゴとは奇妙なもので、持っている人自身を爽快にしてはくれるのですが、その人以外の多くの人にとっては害となり、人を不快にしたり、人に危害を加えたりします。
エゴがもたらす影響は組織にとどまらず、私たちの身の回りや、政治の舞台や、社会全体でも広くみられます。世界に大きな対立と損害をもたらすエゴの破壊力の大きさを、私たちはニュースメディアで毎日のようにまざまざと見せつけられています。
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暴走するエゴ
自らのエゴに自分を支配されたリーダーには、以下のような致命的な欠点があります。(1)(2)(3)
1.自分がすべてを知っていると思っている、または知っているふりをする
エゴに支配されたリーダーたちは、自分がすべてを知っていると思うか、あるいは、知ったふりをします。自分には知識と経験があり、その秀でた才能を強く信じていて、自分は常に正しく、周囲にもそれを認めてもらいたいと思っています。
自分が一番であろうとするため、部下の才能を必要以上に引き出すことはせず、周囲の人たちが自分よりも優秀にならないように注意を払います。
一方で、真のリーダーは「自分が正しいこと」を知りたいのではなく、「正しいこと」を知りたがります。そのため、優れたリーダーたちは人の話によく耳を傾けます。知ったかぶりすることは決してありません。リーダーの仕事は、自分がすべて知っていることではなく、知らないことを知り、知っているたちを最大限利用することです。
エゴにおぼれた弱いリーダーは、自信がなくても、すべてを知っているかのような顔をしますが、強いリーダーは、自分の無知や疑問を正直に表現することで、周囲の人たちがより良い議論や解決策につなげてくれると信じているのです。
2.声を上げて吠えるだけで行動しない。行動するのは他の人間の仕事だと思っている
あなたの職場には、口先だけ達者で行動が伴わないリーダーがいませんか?
そのようなリーダーは、これから会社でなされなければならないことをとうとうと話すのが大好きですが、自分でそれを実行に移そうとは思っていません。そのような人たちは、自分の仕事は考えたり話したりすることだけで、それを実行に移すのは他人の仕事だと思っているからです。行動することは自分の仕事でないと信じ切っている経営者さえいるほどですが、彼らは、仮に、従業員の努力で成功を成し遂げたときには「ほら、私の言った通りだったでしょ」と手柄を自分のものにするのです。
3.自分がミスすることはあり得ず、失敗は人のせいにし、責任をとらない
真のリーダーは、自分のパフォーマンスについて決して言い訳をしません。自分の役割に強い責任をもっているからです。
リーダーに限らず、人として成功する人たちは、失敗を糧に成長し、不平や不満を自らの行動に変えます。しかし、そうでない人たちは、不平不満ばかりです。人に対する要求は高いが、自分自身に対する要求は低い人たちです。
強いリーダーは、時に間違うことを承知で適切なタイミングで重要な決断を下します。一方で、エゴに支配された弱いリーダーは、自分のプライドを傷つける可能性がある状況を作り出すことを避けます。ミスができないため、決断に手間取り、不確実性を排除しようとするあまり、チャンスを逃します。しかし、議論の堂々巡りを繰り返すことで、何となくやった感だけは演出するのです。
エゴにかられたリーダーは、自分が失敗することを受け入れることができず、負けることができないため、もし勝つことができないと思った場面では、少なくとも引き分けにしておこうと思います。つまり、勝つことが危ういゲームには自分では手を出さず、静観したり、人に振っておくのです。ゲームに参加しなければ、少なくても負けることはない、面目は保たれると考えるからです。
4.会社を引き上げるのではなく、自分を会社の中で引き上げ、そこに留まるのが目的
強いリーダーは、自分がいなくなっても組織が回るように努力し、部下の成長と自立を助けます。そうすることで、組織は、より大きな課題に取り組むことができ、全体として成長できるのです。
しかし、エゴにかられた弱いリーダーは、会社を成長させることではなく、自分が組織の頂点に登りつめ、そこに長く君臨することが真の目的です。会社の理念を達成しようとか、社会に貢献しようという気持ちはさらさらありません。個人の目的を達成するために、コントロールと意思決定に固執します。それは自分の地位の安定をもたらすかもしれませんが、組織の成長を大きく制限するものです。
5.自分が会社で一番大切な人間、自分が会社の中心だと思っている
エゴにかられたリーダーは組織の舵を取らず、自分のイメージを保つことに全力を注ぎます。エゴにかられたリーダーにとって、ビジネスチャンスは自分にとってはリスクとなります。そのため、チャンスに果敢に挑戦するよりも、チャンスを避けたり、見て見ぬふりをして、保身に走るのです。
- 私ほど組織で重要な人間はいない。
- 私のやり方に従わなければならない。
- 私が人に合わせるのではない、人が私に合わせるのだ。
優れたリーダーは、このようなエゴの罠にはまりません。エゴは、己の実力や自信を高めるために必要なこともありますが、人と接し、人を導くためのリーダーシップのツールとしてはふさわしくないと知っているからです。
強いリーダーは、自分より賢く優秀な人たちに囲まれる必要があることを知っています。一方で、弱いリーダーは、自分を中心におき、自分がコントロールできる人たちを周囲に配置していくのです。
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エゴにかられたリーダーたちへのアドバイス
エゴ、プライド、傲慢に脳を支配された頭でっかちのリーダーのみなさまへ。
膨れ上がったエゴから脱却するには、無私の心、内省、そして勇気が必要です。
自分ばかりが発言していないか、または自分が発言すべき時に他の人に振っていないか、細心の注意を払いましょう。
リーダーの仕事は指示することではありません。自ら動くことです。自ら汗をかけばかくほど、下の人間はついてきます。
リーダーは自分に与えられた力と特権をよく理解する必要があります。その特権の中には、あなたが仕事を効果的にこなせるようにするものもありますが、単にエゴを増長するに過ぎないものもあります。そのような特権は手放さなければなりません。
人をサポートし、育て、一緒に働きましょう。自分の意見に反する意見を与えてくれる人たちを周囲においてください。
完璧なリーダーはいません。どんな人でも何度もエゴの罠にはまりそうになるでしょう。メンバーからのフィードバックに耳を傾けること、自分の言動を観察し、客観的なアドバイスをくれる人たちをそばにおきましょう。強いリーダーは、自分が罠にはまったことに気づき、素早くそこから抜け出せるように準備しておくのです。
謙虚さと感謝は、無私の精神の基礎となるものです。1日の終わりに、1日を振り返る時間を持つ習慣をつけましょう。そうすることで、自分だけが成功の立役者ではないことを知り、その日の自分を成功に導いてくれたすべての人たちに感謝し、謙虚な気持ちを養うことができます。
リーダーに必要なのは、自己意識、人への貢献、感謝、謙虚さです。
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アドバイスに耳をふさぐリーダーたち
しかし、悲しいかな、多くの場合、このようなアドバイスは、エゴに既にコントロールされたリーダーの耳には届きません。
このブログを読むこともないでしょうし、読んでも自分のことだと気が付くこともないでしょう。エゴに自分が支配されていると自覚すらしていないからです。
また、エゴで組織を登りつめたリーダーは、膨れ上がったエゴとプライドを傷付けることへの恐怖心、長年築いてきたものが崩れ落ちて失うことへの恐怖で、そのような意見に耳を傾けることに頭が拒否反応し、自らを軌道修正することができなくなるのです。
真のリーダーに必要な素質の情報は、本でもインターネットでも世の中にあふれています。実際に、謙虚なリーダーは、傲慢なリーダーよりも優れているという数多くの証拠があります。それなのに、今日の多くのリーダーがいまだ傲慢で居続ける理由はここにあるのです。
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傲慢さとエゴは、リーダーシップの表と裏をなす:リーダーシップのパラドックス
傲慢さとエゴは、リーダーシップの表と裏をなします。
残念ながら、私たちの社会や多くの組織では、傲慢さやエゴを持ち合わせていなければ、上に登ることができない仕組みになっています。権力を求める者に必要なのは自信と野心です。自信と野心は過信につながり、傲慢さにつながります。しかし、傲慢さこそが、人を組織のリーダーに押し上げるために必要な特性でもあるのです。
つまり、エゴは、「リーダー」になるために必要な素質である場合があるものの、「良いリーダー」となるためには害毒であるという、リーダーシップの大きなパラドックスがあるのです。
組織の中には、真のリーダーとなるにふさわしい素質を備えた人たちがいます。しかし、その人たちが組織の階段を登りつめることは多くありません。その人たちが、組織の階段を登るために必要なスキルを有していないためであり、時にはむしろ、そのような人たちが持つ倫理感や道徳観が、組織のリーダーになるために必要なマインドセットやエゴと相反し、そのような行動をとることを拒絶するからです。
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あなたがリーダーのエゴに影響されて苦しんでいる場合
では、あなたが、組織において、そのようなエゴに毒されたリーダーのコントロール下にあり、その影響に苦しんでいる場合は、どうしたらいいでしょうか?
リーダーたちは、あなたのアイデアが機能しない理由を10個くらいならべたり、あなたの失敗を非難し、ことあるごとに、いかにあなたがだめで自分がすぐれているかを示すかもしれません。
エゴにかられたリーダーたちの言動に過剰に反応することをやめましょう。くじけることはありません。そのリーダーはリーダーとして機能していません。リーダー失格です。
組織全体の失敗の責任は組織のリーダーにあり、あなたにはありません。可能な限り、物理的、心理的に距離を置き、影響されすぎることを避けましょう。感情をリーダーから切り離して、丁寧かつ自信を持って自分が信じるメッセージを伝えるだけです。そして、自分の知識と経験を増やし、学び続け、アイデアをできるだけ磨くことに時間と労力を費やしましょう。
他人の心や行動を変えようと思う必要はありません。特に自分より権力がありエゴにかられたリーダーの心を下の人間が変えるのは至難の業です。自分がコントロールできないことから自分を切り離しましょう。
しかし、その際に1つだけチェックすべきことがあります。あなた自身はエゴに害されていないでしょうか?
自分が常に正しいというエゴを抑えることができれば、すぐにリーダーたちの意見に影響を与えることはできないかもしれませんが、彼らに興味を持ってもらうことができ、それが物事を成し遂げるための良い第一歩となることもあるかもしれません。
つまり、人を変えようと思っていては人を変えることはできず、自分にフォーカスすることで人が変わっていく可能性があるのです。
将来、あなたもリーダーになることがあるかもしれません。しかし、自己意識や謙虚さなどの真のリーダーに不可欠な特性はリーダーになってからでは身に付けることがとても難しいです。リーダーになる前にできるだけ備えておかなければなりません。
不平不満の矛先であるリーダーたちのように自分自身がなってはいませんか?鏡のように自分を映し見てください。
地位や権力を得てからでは遅いのです。地位や権力を得てからでは、あなたの中にあるエゴが変化を受け入れまいと必死に抵抗し、あなたはそれに打ち勝つことができなくなるからです。
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参考文献
(1) Bruce Eckfeldt, “The Biggest Challenge to Growing as a Leader Is Ego. Here’s How to Keep Yours in Check“, Inc., 2019/8.
(2) Alan Zimmerman, “Dealing With Ego-Inflated, Arrogant and Difficult People“, CompTIA, 2017/7.
(3) Rasmus Hougaard and Jacqueline Carter, “Ego Is the Enemy of Good Leadership”, Harvard Business Review, 2018/11.