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私たちは会社と自分を重ねすぎている:Detach Yourself from Your Work

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年8月6日
  • Reading time:8 mins read

問題に感情的に近づきすぎていると、問題に巻き込まれてしまいます。問題を理解することも解決することもできません。私たちは、会社や仕事に自分を重ねすぎています。そのため、問題を理解できません。ある程度の距離をおく必要があります。それが良い意思決定につながります。

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はじめに

みなさんには次のような経験はないでしょうか?

  •  自分の成果を否定されると、自分という人間が否定されているように感じる
  • 仕事がうまくいかないと、自分の人生がうまくいっていないかのように落ち込む
  • 会社や上司が自分の意見を認めてくれず、フラストレーションがたまる
  • 上司や同僚の理不尽な言動や煮え切らない態度にいつもイライラさせられる
  • 仕事が終わった後も、仕事のことばかり考えていて感情が収まらない

会社と私たちは、雇う側と雇われる側という関係にあり、私たちは会社から与えられた役割を果たしたり、求められる成果を上げることで、報酬を受け取るという契約的な関係にあります。

基本的にはそれ以上でもそれ以下でもありません。

しかし、私たちは、長く深く仕事に携わることで、自分という人間を必要以上に会社や仕事と重ね合わせるようになります。
仕事に感情を重ねること自体は決して悪いことではありません。やる気や高い生産性を生み出したり、達成感や充実感をもたらしたりする数多くのメリットがあります。それがクリエイティブな仕事だったり、仕事の目的と個人の目的がリンクしている場合はなおさらでしょう。

しかし、感情的になりすぎると逆効果になりかねません。危険なのは、会社や仕事に執着しすぎて、人生の大部分を占めるようになったり、自分のアイデンティティの中心をなすようになることです。そうすると、会社での「成果、パフォーマンス、生産性」を、自分の「人間としての価値」と結びつけてしまうようになるからです。
その結果、例えば、上司に自分の新しいアイデアを却下されたときや、クライアントに提案を受け入れられなかったときに、まるで自分という人間が否定されたかのように感じます。極端な例では、仕事を失った時に、まるで人生のすべてを失ったかのような気分にさえなります。

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なぜ私たちは仕事と自分をこんなにも重ねるのか?

私たちが今暮らしている社会は資本主義で成り立っており、基本的には、私たちは働かなければ生活できません。しかし一方で、私たちは仕事をするために生まれてきたのではなく、人生は仕事とイコールでもありません。それなのに、どうして私たちは仕事と自分、会社と自分をこんなにも強く結びつけるのでしょうか?

なぜなら、それが楽だからです。

自分自身で人生の目的を探究し、切り開いていくのはとても大変です。それに比べて、勤め先を見つけて、その会社に自分の人生の糧や目的を委ねるのはとても簡単です。
しかし、勤め先の会社に自分の人生を重ねすぎると、会社に対して様々な不満やストレスを感じることになります。私たちが自分の人生をいくら委ねようが、勤め先の会社を自分が思うように自在にコントロールできるようにはならないからです。
会社は、自分の人生をかけるほどの価値を提供してくれなかったり、自分の目的意識や人生観と反する決断をしたり、倫理観に反する行動を取ったりします。そして、私たちは会社の不平不満を並べ、気に食わないことの多くを会社のせいにします。会社は私たちの人生の目的をかなえるために存在しているのではないのにです。

そのようなストレスや憤りや悩みを会社に対して抱える一方で、私たちは、会社という組織、集団の中にいることで、安心感を得てもいます。毎月給料を払ってくれますし、様々な便利な仕組みを整えたり、生活上の支援をしてくれることで、私たちは比較的安定した生活を送ることできます。私たちは会社が決めたルールに従っていれば、それなりに生きていけるのです。

時に文句を言いながらも、会社という集団の中に身も心もおいておくのは楽なのです。

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仕事と自分を重ねすぎることは生産的でない

しかし、会社に身も心もどっぷり浸かっている人たちの中には、やがて会社が存在する目的とは異なる目的のために行動し始める人がでてきます。
会社が掲げる目的のためではなく、個人的な思惑のために動き出すのです。
そして、会社からできるだけ多くを得ようとしたり、グループの中での自分の立ち位置を確保したり守ろうとするために、会社という集団の中でどう立ち振る舞うかにフォーカスしていきます。
その駆け引きや社内政治に費やされる時間やエネルギーは膨大ですが、その時間とエネルギーは、本来会社が目的とすることを達成するためには寄与しません。会社とは、その目的からかけ離れた様々な思惑や集団作用が渦巻く「るつぼ」なのです。

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会社から自分の感情を切り離す

「自分の感情を仕事から切り離す」と聞くと、ネガティブに聞こえるかもしれません。
しかし、仕事から感情を切り離すことが、ストレスの多い状況下で成功するために重要だという数多くの証拠があります。

まず、仕事から自分の気持ちを適度に切り離すことで、理不尽な人たちに振り回されたり、怒りや、苛立ち、悲しみといった感情に飲み込まれたり、ストレスを抱えることなく、客観的に物事を認識できるようになります。最終的には、自分の感情に振り回されなくなるだけでなく、組織の中の人たちがどのような動機をもって行動しているかがよく見えるようになり、他人の感情に振り回されることも少なくなります。

また、感情的になりすぎると、たとえ仕事がうまくいっているときでも、有益なフィードバックや批判を受け入れにくくなります。冷静になれば、今まで執着しすぎて見えていなかったものが見えてくることも多いです。客観的になることで、自分の仕事もありのままに見ることができます。
会社から自分の感情を切り離すことができれば、自分という人間を社内でアピールすることに力を注ぐ必要もなくなるので、本来やるべきことに注力できます。言い換えれば、客観性は従業員としてより良いパフォーマンスを発揮するのに役立つのです。

さらには、仕事から距離をおくことで、人生で大切な仕事以外のこととの有益なバランスを生み出すことができます。
以前の記事で、私個人は、自分の人生を大きく、家族、自分、社会、仕事の4つに分けていて、その4つのバランスを取るように心がけていると紹介しました。これは今でも変わりありません。時間的にはどうしても仕事に取られる割合が多くなってしまいますが、実際に、私の中では、仕事に対する比重は全体の4分の1程度の感覚です。

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会社から感情を切り離すことは会社のためにもなる

パラドックスのように聞こえるかもしれませんが、仕事から自分の感情を切り離すことは、従業員個人にメリットがあるだけでなく、会社にもメリットがあります。仕事から自分の感情を切り離すことで、仕事の生産性が上がるからです。

2014年、ドイツのユストゥス・リービッヒ大学の研究者たちが、感情が被験者の問題解決の課題にどのように影響するかをテストしました。その結果、感情がパフォーマンスに与える影響は明らかでした。ネガティブな気分の参加者は、ポジティブな気分の参加者よりも成績が悪くなりました。しかし、そのどちらのグループよりも、中立的な気分の参加者の方が成績が良かったのです。(1)

別の研究では、同じくドイツのマンハイム大学の組織心理学教授であるサビーネ・ゾンネンターク(Sabine Sonnentag)が、心理的に仕事から離れていること(心理的離隔:psychological detachment)と心理的ウェルビーイングの関連性を調査しました。彼女は、心理的離隔のレベルが高い人は、心身に不調をきたすことなく、過酷な仕事や仕事量に耐えられることを発見しました。一方で、心理的離隔のレベルが低い人、言い換えれば、仕事に過度に執着している人は、精神疲労、心機能の問題、睡眠障害などの心身症的な影響を受けやすいことが分かりました。(2)

会社と感情を切り離すことができれば、会社の目的達成のため何をすべきかにフォーカスすることができます。会社という集団と感情的に距離感を保つことで、不必要な政治的な圧力から解放され、ストレスやイライラが少なくなるだけでなく、感情的に振り回されることなく、冷静に周囲からの有益なフィードバックを受け取ることができたり、会社の真の目的のために、冷静に判断し行動できるようになります。つまり、会社から心を離すことで、会社の中のその他多くの人たちよりも真剣に会社の目的に向き合うことができるようになるのです。

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会社から感情を切り離すことは、仕事に無関心になることではない(3)(4)

ここで気を付けなければならないのは、「距離をおくこと」は「逃げること」ではないことです。会社から心理的に距離をおくことは、責任回避を意味するものではなく、仕事を雑にこなしたり、無責任、無関心になることと同じではありません。

その逆で、状況から一歩身を引き、距離をとり、感情を切り離すことで、集団にどっぷり浸かっていたときには見えなかった現実が、よりはっきりと見えるようになり、本来果たすべき責任も明確に見えてくるのです。無駄な雑念や時間の浪費がなくなるので、仕事そのものにもっと集中でき、より合理的、生産的になれるのです。

会社から心理的に距離をとることで、「職場の人たちが認めてくれるような成果を出す」ことや「自分が正しいことを会社に証明する」ことに全力を注ぐのではなく、「世の中の問題解決や、顧客が本当に満足する成果を提供する」などの本来の仕事に目を向けられるようになるのです。

そうすることで、会社の中の一部の人たちにネチネチ言われることがあるかもしれませんが、不毛な人間関係に煩わされることがなくなり、それを気にする自分がいなくなるだけでなく、最終的にそれが自分にも会社にもプラスとなって跳ね返ってくるのです。

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さいごに

私たちは何に執着しているのでしょうか?
実は、私たちは会社や仕事そのものに執着しているのではありません。職場の人間関係や、地位や名誉や評価や報酬や世間体に執着しているのです。そして執着から離れるということは、会社はあなたのものではなく自分が思うようにはならないこと、他人やその行動を本当にコントロールすることはできないということ、変えられるのは自分の考えと行動であるということを根本的に受け入れることです。

客観的であることを意識しましょう。その道のりは容易ではありません。このサイトで何度も繰り返し書いてきたように、すべては「気が付くこと」、「意識すること」から始まります。自分自身の客観性の欠如や、会社と自分のメンタルモデルを特定するのです。問題を特定できれば、それに対処する作業に移ることができます。大事なのは、日々の問題に生産的に対処するためには、まずその問題の存在を認める必要があることです。

そして、自分という存在は仕事以上の存在であることを忘れないことです。仕事は自分の人生の一部であって、すべてではありません。

会社の組織図の中に自分をおいて見ることをやめましょう。それは会社がやるべきことです。そうではなく、自分の人生の一要素として会社を見るのです。自分が会社の一部なのではなく、会社が自分の一部なのです。

自分の人間としての価値や自尊心をすべて仕事に結び付けることもやめましょう。人間としての価値を会社においている限り、客観的に仕事を見ることさえも難しくなります。

人生における他の役割とバランスを取り、そこから価値を見出すことが重要です。仕事から感情を切り離すことで、生活も仕事もうまくいくようになるのです。

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参考文献
(1) Jung N, Wranke C, Hamburger K, Knauff M., ”How emotions affect logical reasoning: evidence from experiments with mood-manipulated participants, spider phobics, and people with exam anxiety”, Front Psychol., 2014/6/10.
(2) Sabine Sonnentag, Carmen Binnewies, Eva J. Mojza, “Staying Well and Engaged When Demands Are High: The Role of Psychological Detachment”, Journal of Applied Psychology , American Psychological Association, Vol. 95, No. 5, 965–976, 2010.
(3)”Healthy Detachment vs. Unhealthy Avoidance“, The Blanchard Institute
(4) “Healthy Detachment vs. Unhealthy Avoidance“, Carolina Center for Recovery, medically reviewed, 2020/7/31.
(5) Kristin Wong, “How to Detach Emotionally From Work”, THE CUT, 2017/11/20.

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